上 下
7 / 16

第4話『仮面を被った王子様』前編

しおりを挟む

「…………はぁ」

 重い空気をさらに重くするため息。私は、体をベッドに投げ出して、天井をぼんやりと眺めた。

「最悪……こんなんだからいじめられるんだよ」

 自分の言葉が、どこか遠くに感じる。心と体が切り離されてしまったみたい。
 
 でも……悪いのは私をかまった茅野くんの方だ。私のことなんて放っておいてくれれば、私が茅野くんのファンのひとたちに目をつけられることもなかったし、茅野くんが責められることもなかったはずなのだから。

 そうだ。私は被害者なのだ。

 そう言い聞かせようとする自分自身に、さらに気分が沈んだ。
 クッションを抱き締めて背中を小さく丸める。

 ……どうしよう。明日から、どうしよう。またいじめられるのかな。
 また、中学のときみたいに……。

 荒波が押し寄せるように、中学の頃の記憶が私を呑み込んでいく……。


 * * *


 ――私は、ひととは違う容姿をしていた。

 銀青色の瞳に、白と緑が混ざったような色の髪。

 おばあちゃんがロシア人だった私は、日本の血よりもロシアの血の方が濃かったらしく、ハーフである母よりも人目を引く容姿をしていた。

 それが理由で、幼い頃からいじめられていた。
 特に酷くなったのは、中学三年生のときだ。

 クラスの中でも特に目立ってた女子が当時付き合っていた他クラスの男子が私を好きになったとかで、その子が振られたのが原因だった。

 私はその男子のことなど全然知らなかった。話したこともなかった。それなのに、彼氏を寝とられたとかいう根も葉もない噂を流されて、それはあっという間に学校中に拡散された。

 もともと私の容姿に反感を抱いていた子は多かったらしく、それが一気に爆発したようだった。そして、そうなったらもう、学校という場所で、私の居場所はなくなっていた。

『前々から気に入らなかったんだよね、あの子』
『いつも澄ましてる感じ、ウザイよね』
『人の男とるとか最悪じゃない?』
『性格ドブス』
『キモオタ女』
『ビッチ』

 私は、あっという間に孤立した。

 ……なんで? 私が悪いの? 私はなにもしてないのに。
 ……じゃあ、私はどうしたらよかったの?

 どこにいても、ひとりでいても、寝ていても、聞こえないはずの声がどこからか聞こえてくる気がして、たまらず耳を塞いだ。

 思い切り叫べば、自分の声でいっぱいになるかな。
 鼓膜を破れば、なにも聞こえなくなるかな。
 もういっそ、消えてしまえば……。

 当時、私は心の中でずっと叫んでいた。

『死ねよ』
『学校来んな』
『存在が邪魔なんだよ』

 クラス中、いや、学校中のさまざまな声が全部私に刺さってくるようだった。みんなが敵に思えた。

 忘れようとすればするほど、鮮明に思い出されてしまう。
 
「…………あぁ、もうやだ、やだ、やだ……」 

 コンタクトをとって、荒々しく前髪を後ろに流すと、偽りの黒髪がぱさりと床に落ちた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

M性に目覚めた若かりしころの思い出

なかたにりえ
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

坊主女子:学園青春短編集【短編集】

S.H.L
青春
坊主女子の学園もの青春ストーリーを集めた短編集です。

ジャグラック デリュージョン!

Life up+α
青春
陽気で自由奔放な咲凪(さなぎ)は唯一無二の幼馴染、親友マリアから長年の片想い気付かず、咲凪はあくまで彼女を男友達として扱っていた。 いつも通り縮まらない関係を続けていた二人だが、ある日突然マリアが行方不明になってしまう。 マリアを探しに向かったその先で、咲凪が手に入れたのは誰も持っていないような不思議な能力だった。 停滞していた咲凪の青春は、急速に動き出す。 「二人が死を分かっても、天国だろうが地獄だろうが、どこまでも一緒に行くぜマイハニー!」 自分勝手で楽しく生きていたいだけの少年は、常識も後悔もかなぐり捨てて、何度でも親友の背中を追いかける! もしよろしければ、とりあえず4~6話までお付き合い頂けたら嬉しいです…! ※ラブコメ要素が強いですが、シリアス展開もあります!※

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

坊主女子:スポーツ女子短編集[短編集]

S.H.L
青春
野球部以外の部活の女の子が坊主にする話をまとめました

滲んだドクロ

上野たすく
青春
エブリスタ様にて「友へ」の題名で投稿させていただいているお話です。 こちらはBLとして描いてはいませんが、後に同じキャラクターで投稿させていただく予定のお話はBLになります。 【主な登場人物】 佐伯 英治 (さえき えいじ)    広告代理店の社員   加藤 雄介 (かとう ゆうすけ)   バーの店員 幸島 庸輔 (こうじま ようすけ)  作家 【あらすじ】  佐伯は作家の夢を諦め、仕事に追われる毎日を送っていた。そんなとき、偶然、大学時代の知り合いである加藤に会う。彼は、夢を叶えた幸島のことを、希望だったと言い、佐伯は、自分たちの思っても見ない共通点を知る。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

処理中です...