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綾乃とデート①

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「いい、ハルくん。ちゃんと綾乃ちゃんをエスコートしてあげるんだよ?」

「わ、わかったよ」

俺は今、何故か彼女から、彼女以外の女の子のエスコートを頼まれていた。なんだか複雑な気分である。

しかし、他ならぬ香織の頼みであれば致し方ない。最善を尽くすしかあるまい。

俺はいつものように、髪を整え、服はバイトでもらった物を香織にコーディネートしてもらった。よし、準備は完璧だ。あとは、俺がしっかり買い物に付き合えばいいってことか。

「じゃあ、行ってくるよ」

「うん、頑張って。・・・ハルくん」

「どうした?」

いつになく真面目な眼差しを向ける香織。
やっぱり、行かない方がいいのか?

「多少なら、彼女が増えたって、いいんだからね」

「えっ?だって、嫌がってただろ?」

「まぁね。でも、好きになってくれる人がいるって幸せなことだよ。誰でもいいって訳じゃないけど、もしハルくんを大切にしてくれる子が現れて、ハルくんも大切にしたいと思ったら、応えてあげてね」

この時は、いまいちピンときていなくて、うまく返事ができなかった。なぜ香織がそんなことを言うのか、なぜ俺を好きになってくれる人が現れると思うのか。

俺はふわふわした気持ちのまま、大塚さんとの待ち合わせの場所に向かった。


ーーーーーーーーーー

この辺で待ち合わせに使われるところは限られている。俺が香織と待ち合わせるのも、その中の一つ。

今回も、いつもの駅前で待ち合わせである。

この辺だと、ここが一番利便性がある。
ショッピングモールは近いし、電車、バス共にここで乗れるし、待ち合わせにはぴったりだ。

そもそも、家が隣同士なんだから、わざわざ待ち合わせるすこともないんじゃないだろうか。

そんなことを考えながら、待ち合わせ場所に向かうと、女の子が男性2人に絡まれている。

あのギャルっぽい格好はーーー。
間違いない、大塚さんだ。

俺は急いで大塚さんの元へ向かい、男性達のと間に割って入った。が、そこまでは良かったが、さてこの後どうしようか。

「あぁ?なんだよお前」

「邪魔すんじゃねぇよ!?」

うわぁ、目の前で見ると迫力あるな。
ドラマなんかでよく見るが、現実で体験することになるとは。

だが、俺は結構背丈があるため、俺より背が高い人はあまり会うことはない。そのせいか、この男性達もそこまで怖くは感じない。

「齋藤、無理しなくていいよ」

大塚さんは不安そうに俺を見る。
俺の服を引っ張る手は震えていた。

「すみません、この人は俺の連れなんです。先急ぎますんで、失礼しますね」

俺は、大塚さんを連れてこの場を去ろうとする。このまま何もなければ良かったが、現実はそう甘くない。

「おい、勝手に連れて行くんじゃねぇよ!」

はぁ、出来ればこのまま去りたかったんだが、仕方ない。俺が振り返ると、男性の1人が拳を振り上げ、俺に迫ってきた。

「齋藤、危ない!」

大塚さんが心配してくれるのは嬉しいが、この程度のパンチじゃ当たらない。

パシィッッッ!

俺は、男性の拳を片手で難なく受け止めた。まさか止められるとは思ってなかったのか、驚愕の表情を浮かべる男性。

父さんの拳に比べたら、遅すぎる。俺の父さんは、極真空手の元日本チャンピオン。今でも道場で沢山の弟子を抱えている。

そんな環境で育った俺にとって、喧嘩で負けることはない。というか、喧嘩したことなかったな。

「すみません。もう行ってもいいですかね?」

俺はそう言うと、男性の手を雑に振り払った。勢いがつきすぎたのか、体勢を崩す男性。

その後、特に追撃も無さそうなので、そのまま大塚さんを連れて歩き出す。スタートから大変な目にあったな。

「大丈夫、大塚さん?」

俺は、大塚さんに話しかけるが、返事がない。振り返るが、下を見ていて視線が合うこともない。

やはり怖かったのかな?

そりゃ、大塚さんみたいな女の子が、男性に囲まれれば恐怖を覚えるのも仕方のないことだ。しばらく、そっとしておこう。

「・・・がと」

「ん?なんか言った?」

何か言っていたようだが、声が小さく聞き取れなかった。

わずかに顔をあげた大塚さんは、少し視線を合わせると、ぷいっと横を向いてしまったが、今度はハッキリと聞こえた。

「さっきは、ありがと。格好良かった・・・よ」

「どういたしまして」

うん、なんとか大丈夫そうだな。このまま買い物に出かけよう。そういえば、まだ目的地を書いてなかったな。

「そういえば、今日は何を買いに行くの?」

「あ、えっと、ちょっと参考書買いに行こうと思って。それと勉強の気晴らしに少し遊べたらと思って」

「参考書ね、オッケー。じゃあ選び終わったら色々見て回ろうか?」

「うん、ありがと」

短めの感謝を述べると、大塚さんは俺の袖を摘んだ。

いきなりのことで驚いたが、俺は朝の香織の言葉を思い出していた。

『ちゃんと、綾乃ちゃんをエスコートしてあげるんだよ?』

そうか。そうだよな。

相手が誰であれ、今は楽しんでもらわないとな。

俺の袖を摘んだ手をどかすと、大塚さんは一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐに手を繋いであげると、表情はパァッと明るくなり今日初めて笑顔を見ることが出来た。

「やっぱり、大塚さんは笑顔が素敵だね」

「・・・」

また、大塚さんは黙り込んでしまったが、先程とは違いしっかりと視線は合う。それに顔が少し赤くなっていた。

その後、終始大塚さんは無言だったため、ショッピングモールまで、俺は一人で喋っていた。香織と出かける時はあまり無言になることがないので多少困った。それにエスコートで何をすればいいか、よくわからない。なので、香織といる時のように振る舞うことを意識した。

俺達は無言ながら雰囲気は悪くないまま、ショッピングモールに無事到着した。まず俺達は、本日の目的地である本屋さんへ向うことにした。
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