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137 聖女だった人
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「あ、ビーちゃん、お帰り―」
転移で華の部屋に戻ったハニー・ビーは、見回して部屋の主がいない事に気付いた。
「ハナねーさんは?」
「あー、今、来客があって玄関にいる」
言われてみれば、華の気配はすぐ近くにあった。家にあげないのは、翔馬や希がいるからとハニー・ビーがいつ帰ってくるかが分からなかったからだろう。
「無事に戻ってきたんなら良かった」
理論的に間違いは無い筈だったが、なにせ初めての送還だ。万が一のことでもあったのかとよぎった不安は杞憂だったようだ。
「あ、ビーちゃん、お帰り―」
客人は帰ったのだろう。華が玄関から戻ってきた。
「お客さん、ダイジョブ?」
「大丈夫。大学でビーちゃんを見たって人が、会わせてくれって押しかけてきただけ」
「それは……大丈夫じゃないんじゃない?」
「大丈夫ですよ、翔馬さん。ちゃーんと、お話して分かってもらいました。女の一人暮らしの部屋に押しかけて来る迷惑な男性は、警察に通報されても仕方ないって事を理解したら青い顔をして帰っていきましたよ」
ランティスに召喚される前の、他人に意義を挟めない頃の華だったらこうもはっきりと拒絶の意を示して追い返すことは出来なかっただろう。押しかけてきた男も、まさか華が強硬に断り通報も辞さないという態度をとるとは思わなかったに違いない。
逞しく成長した華を天晴れと思う翔馬と希であった。
「で、びーちゃん、早速ですけど鑑定お願いします」
「ん」
ハニー・ビーの手を取ってソファに座らせ、自分もその隣に腰かけた華が願った。
華は期待しつつも、万が一を考えて不安な表情だ。聖女の肩書が取れなかったら界を越えた引越しをする覚悟はあるが、出来れば日本で生きていたい。そう思ってランティスを出たのだから。
鑑定を終えたハニー・ビーは、真っすぐに華を見て微笑んだ。
「ビーちゃん?もしかして」
「ん、ダイジョブ。称号もスキルも消えたよ。ねーさんはもう聖女じゃない」
「ほんと?」
「ん」
「ビーちゃん……」
痛いほどに体を支配していた緊張が解け、華はハニー・ビーに抱きついた。
「ありがとう、ビーちゃん」
「ん。良かったね、ねーさん」
ハニー・ビーも華を抱きしめ返すと、翔馬と希が微笑まし気に二人を見つめる。
「華ちゃん、よかったね」
「ありがとう、希さん」
「これで安心して日本に住めるね」
「うん、翔馬さん、ありがとう」
皆から声を掛けられるたびに礼を言う華を、そんな言葉は必要ないからという三人。
聖女の華はもういない。
彼女は聖女だった女性で、これからは元のように普通の大学生に戻る。
華が得たのは、聖女の力だけではない。
だが、喪った力は聖女の力だけだ。今となっては、ランティスの一年が何ものにも代えがたく貴重なものであったと華は思う。
「希さんと翔馬さんのお片付けの時間を奪っちゃってごめんなさい。でも、とても助かりました。私もそちらのお手伝いしましょうか?」
純然たる好意での華の台詞だったが、希と翔馬は目を逸らした。
「私は、基本的にデータをどうにかすれば大丈夫だから……」
「パソコンとかスマホとか?」
「うん、スマホは持って行っちゃえばいいかなーと思ってる。こっちの時間が経過して失踪扱いになるんだよね、きっと。スマホは部屋に無くても問題ないし。パソコンはなー、リモートもあったから無いと不自然だし、他人様に見られたくないものだけ消すつもり」
会社員であるからには、連絡も無しに欠勤が続き自宅にその存在が無いとなると、行方不明として警察に捜索願が出されるだろう。その際に家宅捜索が行われるとしたら、パソコンの中身は調べられるに違いない。ただ、事件性が無いと判断されれば表立った捜査は無いであろうことも予想される。その場合、家族が彼女の家を調べるだろうか?手間を掛けさせたことに対して怒り、人を雇い金で解決するのではないかと希は思っている。
だが、万が一を考え、最低限見られたくないものは処分しておこうと決意していた。
「あー、俺の場合は紙媒体がメインだからなぁ……。いや、俺の中に中学二年生がいることは知られてたからいいんだけど、やっぱり、なんとなく恥ずかしい。でも、ま、手伝いはいいよ、華ちゃん。適当に処分するから」
あまりに片付いた部屋だと、やはり事件ではなく失踪扱いになるだろう。
しかし、別の世界で定住するのだから、こちらでどういう扱いになっても構わない。
家族を慮るつもりは毛頭ないという意見は、希と翔馬の間で一致していた。
「じゃ、予定通り三日でダイジョブ?」
「うん、私はおっけー」
「俺も」
華の問題は片付いた。
今後は華は自分の力でこの世界で生きていくだろう。
希はランティスで結婚するし、樋口は産婆業を再開させるために動くだろう。翔馬はヴェーリオスで冒険者として生きていく。
魔女はそのまま魔女であり続ける。
被召喚者仲間の五人は、それぞれの道へ進む準備が整ったと言えるだろう。
転移で華の部屋に戻ったハニー・ビーは、見回して部屋の主がいない事に気付いた。
「ハナねーさんは?」
「あー、今、来客があって玄関にいる」
言われてみれば、華の気配はすぐ近くにあった。家にあげないのは、翔馬や希がいるからとハニー・ビーがいつ帰ってくるかが分からなかったからだろう。
「無事に戻ってきたんなら良かった」
理論的に間違いは無い筈だったが、なにせ初めての送還だ。万が一のことでもあったのかとよぎった不安は杞憂だったようだ。
「あ、ビーちゃん、お帰り―」
客人は帰ったのだろう。華が玄関から戻ってきた。
「お客さん、ダイジョブ?」
「大丈夫。大学でビーちゃんを見たって人が、会わせてくれって押しかけてきただけ」
「それは……大丈夫じゃないんじゃない?」
「大丈夫ですよ、翔馬さん。ちゃーんと、お話して分かってもらいました。女の一人暮らしの部屋に押しかけて来る迷惑な男性は、警察に通報されても仕方ないって事を理解したら青い顔をして帰っていきましたよ」
ランティスに召喚される前の、他人に意義を挟めない頃の華だったらこうもはっきりと拒絶の意を示して追い返すことは出来なかっただろう。押しかけてきた男も、まさか華が強硬に断り通報も辞さないという態度をとるとは思わなかったに違いない。
逞しく成長した華を天晴れと思う翔馬と希であった。
「で、びーちゃん、早速ですけど鑑定お願いします」
「ん」
ハニー・ビーの手を取ってソファに座らせ、自分もその隣に腰かけた華が願った。
華は期待しつつも、万が一を考えて不安な表情だ。聖女の肩書が取れなかったら界を越えた引越しをする覚悟はあるが、出来れば日本で生きていたい。そう思ってランティスを出たのだから。
鑑定を終えたハニー・ビーは、真っすぐに華を見て微笑んだ。
「ビーちゃん?もしかして」
「ん、ダイジョブ。称号もスキルも消えたよ。ねーさんはもう聖女じゃない」
「ほんと?」
「ん」
「ビーちゃん……」
痛いほどに体を支配していた緊張が解け、華はハニー・ビーに抱きついた。
「ありがとう、ビーちゃん」
「ん。良かったね、ねーさん」
ハニー・ビーも華を抱きしめ返すと、翔馬と希が微笑まし気に二人を見つめる。
「華ちゃん、よかったね」
「ありがとう、希さん」
「これで安心して日本に住めるね」
「うん、翔馬さん、ありがとう」
皆から声を掛けられるたびに礼を言う華を、そんな言葉は必要ないからという三人。
聖女の華はもういない。
彼女は聖女だった女性で、これからは元のように普通の大学生に戻る。
華が得たのは、聖女の力だけではない。
だが、喪った力は聖女の力だけだ。今となっては、ランティスの一年が何ものにも代えがたく貴重なものであったと華は思う。
「希さんと翔馬さんのお片付けの時間を奪っちゃってごめんなさい。でも、とても助かりました。私もそちらのお手伝いしましょうか?」
純然たる好意での華の台詞だったが、希と翔馬は目を逸らした。
「私は、基本的にデータをどうにかすれば大丈夫だから……」
「パソコンとかスマホとか?」
「うん、スマホは持って行っちゃえばいいかなーと思ってる。こっちの時間が経過して失踪扱いになるんだよね、きっと。スマホは部屋に無くても問題ないし。パソコンはなー、リモートもあったから無いと不自然だし、他人様に見られたくないものだけ消すつもり」
会社員であるからには、連絡も無しに欠勤が続き自宅にその存在が無いとなると、行方不明として警察に捜索願が出されるだろう。その際に家宅捜索が行われるとしたら、パソコンの中身は調べられるに違いない。ただ、事件性が無いと判断されれば表立った捜査は無いであろうことも予想される。その場合、家族が彼女の家を調べるだろうか?手間を掛けさせたことに対して怒り、人を雇い金で解決するのではないかと希は思っている。
だが、万が一を考え、最低限見られたくないものは処分しておこうと決意していた。
「あー、俺の場合は紙媒体がメインだからなぁ……。いや、俺の中に中学二年生がいることは知られてたからいいんだけど、やっぱり、なんとなく恥ずかしい。でも、ま、手伝いはいいよ、華ちゃん。適当に処分するから」
あまりに片付いた部屋だと、やはり事件ではなく失踪扱いになるだろう。
しかし、別の世界で定住するのだから、こちらでどういう扱いになっても構わない。
家族を慮るつもりは毛頭ないという意見は、希と翔馬の間で一致していた。
「じゃ、予定通り三日でダイジョブ?」
「うん、私はおっけー」
「俺も」
華の問題は片付いた。
今後は華は自分の力でこの世界で生きていくだろう。
希はランティスで結婚するし、樋口は産婆業を再開させるために動くだろう。翔馬はヴェーリオスで冒険者として生きていく。
魔女はそのまま魔女であり続ける。
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