転生令嬢シシィ・ファルナーゼは死亡フラグをへし折りたい

柴 (柴犬から変更しました)

文字の大きさ
上 下
127 / 129
最終章

124 ご褒美が戴けるそうです

しおりを挟む


「ごめんね、俺の話ばっかりして」


 勇者が申し訳なさそうに言うと、まだ私の髪を弄っていたスピネルがうんうんと頷く。おいおい、お前は聞いてなかっただろうに。


「いえ、勇者様も大変でしたよね。でも、勇者様ならこれからきっと素敵な方と良い出会いがありますよ」


 なんせ”真っ当”な人だからね。ただ、そういう人は得てして恋愛対象にならない事もあるらしい。勇者がいい人止まりで終わらない事を祈る。


「勇者様は、その役目が無くなった今も神様と連絡がついたりします?」


 国を出て旅に出る前のご挨拶もあったけれど、もしもまだ神と連絡が取れるならと思ってここに来たのだ。


「ん?クソジジイ?」

「ええ、どうです?」

「十日にいっぺんくらい愚痴の聞き役にされてる」


 なんと!

 使命を与えておいた時にはうっかり続きで連絡を碌にしてこなかったと聞いているのに、今になって十日に一回――しかも愚痴とは、神って図々しいな。


「ああ、クソジジイからシシィ様に言伝があったんだ。こっちから訪ねていこうと思ってたところだから、丁度良かった」


 あれま。

 勇者から話は聞いているし、私が意図せずに暗黒竜に関して担った役割を知られてもいるだろうけど、まさか、私個人に神からの言葉があるとは思わなかった。


「今回のシシィ様の行動で暗黒竜による危機が未然に防がれた。だから、ご褒美に何かおねだりしていいって」

「ご褒美!」

「うん。クソジジイがそう言った時、お付きみたいな人にギャーギャー言われてたけど、シシィ様だったら後々問題になるような事をお願いしたりしないだろうしさ」

「問題とはどういう意味?」


 過保護スピネルは、私に関することに関しては子供を産んだばかりの母猫のように気が尖る。どうどう、勇者は”そんなことをしない”と言う前提で話してくれてるんだから。


「んー、例えば世界征服、とか?人類最強になりたい、とか?」


 世界征服なんて面倒くさいししたいと思ったこともない。最強になりたかったら自分を鍛えます。神に強請ってズルした世界最強なんて、絶対に詰まらない。そもそも、強く在りたいとは思っているけど、世界最強に憧れも無い。


 勇者の出した例え話を聞いて、スピネルは馬鹿にしたように鼻で笑った。


「ね、無いでしょ?」

「あり得ない」

「シシィ様だったら、他の人が聞いたら細やかだろうと思ったり、みんなの為になったりすることをお願いするんじゃないかなー。或いはスピネルさんの為になる事とか」


 か……買いかぶられても困る。

 神様がご褒美くれるって言うんで、私は、誰のためにもならない細やかではないお願いをしたいと心に決めてしまっているのだ。

 ゴメン、スピネル、期待したような目で見ないで。スピネルのことじゃない。


「あー、お願いの前に、神様から連絡があったら神託の件で滅茶苦茶迷惑を被ってると伝えてください。でっちあげの聖なる乙女が私だとバレたのはこっちの問題なんですが、そこから何故か聖女扱いされて屋敷の前は人だかり、一歩も外に出れないようになりまして」

「ありゃりゃ。勇者の俺でもそこまでじゃないのに」

「勇者様は、脅威が無ければ縋られないでしょうけど、私の場合、病を治してくれだの呪いを解いてくれだのって人たちが来ましてねー。そんな力ないって、私は聖女じゃないって、そう言っても聞いてくれやしない」

「ああ、ありそー」

「それはそれで、屋敷に二人で籠っていられるから問題は無かった」


 いや、あるよ、スピネル。問題だらけだよ。

 勇者も「いいなー、愛する人とお籠り。うっ……ラウラぁ……」とか呟かないで。あなたは”真っ当”属性なんだから、監禁したいヤンデレのような発言はダメだ。


「挙句に私を聖女にしたい、わが国の聖心教会から冤罪掛けられて破門までされて、呼び出し食らったから教会を壊して出奔したんですけど」

「え!?出奔するのに教会壊す必要ある!?」


 そこですか。その前に冤罪とか破門とか気にして下さい。

 実際に教会を壊したのは、スピネルといっちゃんとそうちゃんだけど、原因が私なんで責任は私にあるからなぁ。


「親御さんたちは大丈夫?こっちの国と違って、シシィ様の所は教会と拗れたら生活しにくくなるでしょう?」


 おお、さすが諸国を旅していた勇者。うちの国の事情にも詳しいのか。「国の在り方と宗教関係は知っておかないと話が拗れるから」と言われ、確かにそういうものなのだろうと思った。そして、さすが”真っ当”なだけあって、うちの親の心配までしてくれる。いい人だ。いい人止まりで終わりそうなくらいにいい人だ。


「両親は、ファルナーゼ家を敵に回せるもんなら回してみろ、くらいの勢いでした。国を出る事を考えていた時に背中を押してくれたのも両親です」

「素敵なご両親だね」

「ええ、自慢の親です。ですが、心配をかけて迷惑もかけてしまってますし、その原因はあの神託ですので、もしも神様と勇者様がお話する機会があったら、文句の一つでも言っておいてもらおうと思って」

「うん、了解。そんな目に遭えば、文句の一つや二つや三つ言いたいよね。俺からきっちり伝えとく」

「ありがとうございます。それで、ご褒美なんですが」

「あ、もう、そっちも決まった?」


 最初から神へのお願いありきで勇者を訪ねてきたので、決まったも何もないのだ。けど、スピネルが嫌がりそうなんだよなぁ。


「マリア様のことなのですが……」

「マリア様って……あのいっちゃってる感じの子、だよね?」


 マリア様の名前を出した瞬間に、スピネルから痛いほどの怒りが発せられたけど、無視無視。

 私はスピネルの方を見ずに、勇者に頷いて言葉を続ける。


「マリア様がだったのは、前世の方だかこの世界の方だかは分からないけど、神様によるミスだった……ってことはありませんか?前回のシシィ・ファルナーゼのように、必要な処置がされずに浄化されない状態だったとか」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?

ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。 一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?

【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜

早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

処理中です...