転生令嬢シシィ・ファルナーゼは死亡フラグをへし折りたい

柴 (柴犬から変更しました)

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最終章

121 いざ教会 4

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「そちは教会を脅す気かっ」


 猊下が激昂して椅子から立ち上がった。さすがにゴージャスな椅子で相当重いのだろう、パイプ椅子なら蹴倒すくらいの勢いだったのにびくともしない。


「脅すなんてとんでもございません。事実を述べただけですわ。ファルナーゼ家とその一門は身を慎みます、と」


「ふんっ。強がりも大概にいたせ。そちは公爵夫妻に疎まれておったはず。ファルナーゼ一門どころか、親すらもそちの為に動くはずもない」


 いや、だから身を慎むから動かない――教会の為には――って言ってんじゃんか。って、あれ?私が疎まれているってどこ情報?私はかなり愛されている自覚がありますが。


「そ、そうだ。ファルナーゼ家は嫡子であるそなたがいるにもかかわらず、以前から養子を取って跡継ぎにしようと目論んでいた。何もなくとも近いうちに放逐されたであろうよ」

「さようさよう。不要な娘の為にファルナーゼ家が動くはずもない」


 猊下に追従するように、広間のあちこちから声が上がった。しかし、私が声の方を見ると一様に視線を逸らすのだ。ヘタレか。自分の発言には責任を持とうよ。


 それにしても。


 お父様とお母様が私以外の跡継ぎ候補を見繕っているだろうと想像はしていた。というより、なにせ私は死亡フラグ持ちだったんで、回避するために動きつつもファルナーゼ公爵家当主という立場のお父様なら、絶対に公爵家の今後の為にセーフティを作らない筈がないと確信していた。


 そのせいで、私が疎まれていると思われていたのかぁ。


 ま、そう思っているんならそれでもいいか。後になってそれが誤りだったと分かっても私には関係ないし。


「猊下がそうお考えになりましても、私としては一向に差し支えございません。いずれそれが事実かどうかは明らかになりますもの。それよりも、私を召喚した理由をまだお伺いしておりませんが、まさか、先ほどの”頭を下げれば許してやろう”というお言葉がご用件でございますか?」


 ぐっと詰まった所を見ると、本当にそうだったんだろうな。で、私が謝って?慈悲をこうて?で、聖女になると思ってた?有り得ん。奴らの思考回路が意味不明。


「それがご用件でしたら、ご遠慮させていただきますとしか申し上げられませんわ」


 隣にいるスピネルの腕に手をかけにっこりと笑って、もう、用は無いとばかりに丁寧に礼を取る。


「そうそう、私は聖女でないとは申し上げましたけれど、神託にあった”聖なる乙女”であることまでは否定しておりません」


 神様のねつ造だけどね。


「もしも、また神託が降りる事があったとして、聖なる乙女と定められた私を破門した教会を神はどう思うでしょうね?そして、王家は?」


 うっかり神様がまた勇者と連絡が取る事があって、その際に私のクレームが神様に届いたとしても、私に為に神託を降ろしてくれることは先ずないだろうけど、牽制くらいにはなっただろう。


 あからさまに身を強張らせた聖職者たち。ほんっとうに今まで自分たちが思う通りにならなかったことがないんだろうな。だから、こんな計画とも言えない杜撰なやりくちで私が下ると思ってたんだろう。

 政教分離とは言え、教会の権威で好き勝手してたコイツ等を野放しにしてたのは国としても失点だと思う。これから大鉈が振るわれることを祈ろう。――え、祈るって神様に?あのうっかり神様に?いやいやいや、それは無いな。


 よし、お天道様に祈っておこう。


「きっ……貴様は聖女などではないっ」

「一貫して私もそう主張してまいりましたが」


 いまさら何を言ってるんだろうね、このちょび髭は。


「……ま、魔女だ!そう、貴様は魔女だ!皆の者、この魔女を捕えよ!磔にして火あぶりにするのだ!」


 ちょび髭は苦し紛れも著しい事に、私を魔女として処分してしまえば後はどうにかなると判断したようだ。なる訳ないのに。


「暗黒竜を手懐け、魔獣二頭を引き連れていい気になっていたのだろうが、教会に来たのが貴様の運の尽き。教皇である我の目は誤魔化せぬ。魔女を殺せ!魔女を……」


「ああ˝?誰が魔女だって!?」


 あらま、スピネルさんがお怒りのようです。私はちょび髭の苦し紛れの言いがかりなんて、何とも思って無いよー、と、スピネルの袖をツンツンと引いたが、その手を慰めるように撫でられて、こんな場面なのに気持ちがふわんとした。


「お前が魔獣と言った二頭は、300年前までこの世界に存在していたことを記されている幻獣のユニコーンとバイコーン。そして、暗黒竜は浄化されたと神託にあっただろう。神の僕である教会の頂点にいるお前が、神の言葉を否定するか!?ならば、即刻還俗し石持て追われるがよい!私のシシィに何の言い掛かりをつけるつもりだ」


 そう言うと、スピネルは私をひょいと片手で抱きあげ、そのままちょび髭猊下の元まで進んで行く。周りに人がいっぱいいるのに誰も止めないのは何故だ。ちょび髭を守らなくていいのか?

 そして、私はスピネルが歩きだしたらちゃんと付いて行くのに、なぜ抱っこされているんだろう?聞ける雰囲気でも無いので、如何にもこれが当たり前なんです!と言う顔をして笑っておくけどさ。





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