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第四章
105 諸悪の根源と言われても
しおりを挟むダミアンって誰やねん――そう突っ込む前に、マリア様は私の悪行(?)を滔々と語り始める。
「今の話は聞かせてもらったわ。やっぱりアンタが諸悪の根源だった!悪役令嬢とはいえ、そういう方向じゃないでしょ!?」
いや、そんな理不尽な。
堂々と盗み聞きしたと言うマリア様に呆気に取られてというのもあるけど、この人には何を言っても通じないと言うお手上げ感もあり私は黙っていたが、マリア様はそんな事を気にしない。
「ダミアンの姉を助けるなんて、なんて酷いことすんのよっ。そのせいでダミアンが病まなかったじゃんっ」
なるほど、ダミアンというのは二個下だという攻略対象者ということか。レナからは魔術省第二席の嫡男の”シスコン腹黒ショタ”という属性は聞いたけど、名前はそう言えば知らなかった。
でもって、私が助けたという事はダミアンのお姉さんはミシェル様だと。
「行方不明だった姉がやっと見つかったと思ったら、攫われてボロボロにされて廃人状態。それでも姉を守ろうとして魔術の腕を上げて、中等部だっていうのに学園一の魔力量と技量をもつって設定だったのに、随分とのほほんとした性格だからどういう事かと思ったら、アンタが姉を助けたせいだったなんて!廃人状態の姉を何とか治そうとして、でも治せずに病んでいく筈だったダミアンを返してよっ」
いや、ミシェル様が酷い目に遭わず、弟君のダミアンも病まずに済んだなら、私ってば褒められてもいい筈。違うか?あー、マリア様の話聞いているとムカムカしてくる。自分が知っている通りのシナリオじゃないから攻略できないとかいうけどさー、そもそも前回にも失敗してんだよね?マリア様の言うシナリオ通りだったはずなのにさ。
乙女ゲームにどんだけ夢見てんのか知らんけど、いい加減に現実を見てくんないかな。
乙女ゲームが好きだったならきっと、レナみたいにそっち系のラノベとかネット小説とかも読んでたでしょ、きっと。
私は詳しくはないけど、レナから聞いた話だと転生者がいることでシナリオ通りにいかないヒロインざまぁ系とかあったっていうし、自分だってシナリオぶち壊しておいて悪役令嬢のせいだって責任転嫁されても知らんとしか言いようがない。
「アルノルドが婚約していないのもアンタの差し金でしょ!?フィデリオが公爵家に入っていないのも、レオナルドがゴツくなってるのもアレキサンドエスが性癖変わってんのもダミアンが病まないのも、ぜーんぶアンタのせいなんだからっ」
もう面倒くさい。いいよ、全部私のせいで。
「もう、リセットかけるっ」
え、それって死ぬって事?
「待ってくださいませ!」
「待たないっ。もう、こんなのやってらんない。次はアンタじゃなくて前回のシシィと変わっておいてっ」
それは無理。前回のシシィの魂の修復が間に合うかどうかというより――
「もう、落命しても巻き戻りはおきませんのよ。どうか、落ち着いてくださいませ、マリア様」
巻き戻りは神の御業で一回こっきり。マリア様が死んでも世界は進み続ける。
正直、神託を聞いて絶望するマリア様を見たくないと言ったら嘘になる。私だけでなく、沢山の人が迷惑しているし、後悔してもざまあみろと笑って指させる位にはマリア様の事は嫌いだ。
でも流石に、死ねばいいのにとまでは思っていない。
ここで短慮を起こしたら、本当にただの無駄死になんだ。
「やっぱりアンタはロズマリ知ってんだ?残念だけどさ、私は身をもって死に戻りをしてるから、リセット方法は知ってんの。こんなにぐちゃぐちゃになったゲームはリセットするしかないんだから、邪魔しないでよね。ああ、アンタ、自分が消えちゃうからってそんな事を言ってんでしょ?私にはそんなの関係ないし」
うん、分かってたけど信じてもらえない。
「……今すぐに、と言う訳ではございませんでしょう?」
となると、私に出来るのは時間稼ぎしかない。
「はぁ?アンタに関係ないし」
「……近々、神託が降ります」
「なんでアンタがそんなこと知ってんの?で、それが何?」
「その神託で、マリア様にとってもとても重大なお告げがございます。それを待っていただきたく存じます」
神託が降りれば、私の言葉に嘘が無かったと分かってもらえるだろう。そこからどうするかはマリア様次第だけど。
「アンタが何を言ってんだか分かんない」
「今はご理解いただけなくても構いません。ですからどうか――」
マリア様はしかめ面で私を見た後に肩をすくめて言った。
「気が向いたらね。――とにかく、次は邪魔しないでよね」
「ええ、絶対に”次”は邪魔など致しません」
次はないけどね。でもって、今回だって邪魔をしたつもりは毛頭ないのだ。
言質を取ったからにはもう用はないとばかりに踵を返したマリア様の背に祈る。
死んで花実が咲くものか。もう色々やらかしちゃってるから、ここからどうやって挽回できるのかも分からないけど、とりあえず先は長いんだから生きてればなんとでもなる――かもしれないし、せっかちに”死に戻り”を選んだりしないでね。
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