転生令嬢シシィ・ファルナーゼは死亡フラグをへし折りたい

柴 (柴犬から変更しました)

文字の大きさ
上 下
101 / 129
第四章

98 事件の顛末

しおりを挟む
 スピネルがこの家に討ち入る前に、通りすがりの人に金銭で頼んでファルナーゼ家に連絡を飛ばしたおかげで、お父様は既に人員を動かしていてくれ、ファルナーゼ騎士団の面々がこのあとの始末をしてくれると言う。


 お言葉に甘えて――というより、私たちがいては却って邪魔になるだろうから早々に監禁現場を後にする事にした。


 帰り道、私とヴィヴィアナ様、スピネルとお兄さんという組み合わせで、いっちゃんそうちゃんに乗って行こうと提案したが、スピネルに却下された。


 私と乗りたいし、異母兄と同乗するのは嫌だと我儘言われても、ヴィヴィアナ様とお兄さんを一緒に乗せる訳にはいかないじゃないか。


 仕方ないので、いっちゃんそうちゃんと並んで私たち四人も徒歩で帰ることとする。ドエス先生はお父様の所に連行……同行してもらうようスピネルが手配した。私のせいで心折れている様子だけど、念には念を入れてお父様からも脅し……言い聞かせてもらうのだ。

 ヴィヴィアナ様を脅したことでムカついているけど、実際に罪を犯したわけじゃないので罰を与えることは出来ない。お父様に諫められた先生の更生に期待するのみである。


「ヴィヴィアナ様、大丈夫ですか?ヴィヴィアナ様だけでもいっちゃんかそうちゃんに乗りません?」

「申し訳ありません、シシィ様。私は不調法で一人で馬に乗るなんてとてもとても……。それに体に問題はございませんから歩くことに支障もありませんわ」

「でも、疲れてるでしょう?こんな騒動に巻き込んじゃってごめんなさい」

「いえ、シシィ様に責はございません。悪いのは誘拐犯たちです」


 そりゃそうなんだけどさー。目当てが私っぽかったから責任感じるよ。


「それに、こうして終わったから言えることですけれど、ちょっと楽しかったですわ。暴れん坊なシシィ様、凛々しいシシィ様、あの男たちを相手に一歩も引かずに立ち向かう格好良いシシィ様、私を庇ってアレキサンドエス先生に抗議する毅然としたシシィ様――学園では見ることの出来ない色々なシシィ様を拝見することが出来ましたし、まるでお芝居のような非日常的な出来事に身を置くことなんて考えられませんでしたもの」


 それでも誘拐されるなんて経験は二度は要りませんけど……というヴィヴィアナ様は笑顔ではある。けれど、心の傷は外からは分からないし、その影響は本人が想像もしていないときに表面化することもあるだろう。メンタルケアってどうしたらいいんだろうな。PTSDだっけ?トラウマになったりしないといいんだけど。



  ◇◇◇


「コウドレイ侯爵?」

「正確には元侯爵だがな」


 誘拐事件から一カ月。実行犯はその場で捕縛されたが、その裏にいた主犯がようやく取り押さえられたという事でお父様が顛末を話してくれた。


 なんと、私を誘拐したのは、三年前にたまたま少女略取現場を目撃した事を発端として私とスピネルとで捕まえた犯人の裏にいたというコウドレイだったのか。

 実行犯たちは、市井でやりたい放題、誘拐から人身売買まで手広く犯罪に手を染めていたが、裏にいたコウドレイは自らを宰相であるファルナーゼ公爵と名乗り、組織のトップをシシィ・ファルナーゼとしていた。


 お父様と私の名を騙り好き勝手していたのだ。


 政敵であるファルナーゼの名を地に貶めて自分が宰相の地位を得ようとしていたらしいけど、そんなの上手くいくわけないじゃんねぇ?


「つまり、逆恨みだな」


 お父様が面白くも無さそうに言う。


「なるほど」

「コウドレイ家は侯爵から子爵に爵位を落とし、領地の2/3は国が没収され、家督は息子に相続。当の本人は病気療養という名の押し込めという状態だった筈なんだが」


 正直ぬるくね?と思った。ゲームでは悪役令嬢シシィ・ファルナーゼが同じような事をやって毒杯とかいう話も出てたのに。これが政治的配慮というヤツなんだろうが納得いかん。


 私が納得いこうがいくまいが国の裁定に異を唱えられる訳でもないけどさ。


「だから私が”貴族だが目の前で誰かが脅かされれば助けようとする”人間だと知っていた訳ですか」


 これに関しては戻ってからお父様とお母様に説教された。

 先ず自身の安全を図れ。民を思う気持ちは大事だが、全てを助けられると思っているなら傲慢だと。

 反論したかった。目の前で子どもの命が散らされようとしているときに、自分の安全を最優先は出来ない。全てを助けられるなんて思っていないけど、自分の目の届く範囲、手を伸ばせば掴める命を見捨てる選択は出来ないと。

 けど、涙目のお母様と憔悴しているお父様にはそれを言えなかった。「善処します」とだけ言った私に、半分あきらめたような父が「頼む」とスピネルに言ったので、私の行いが変わらない事を観念したように思う。


 心配をかけないように自分の行いを正そうとは思っているけれど、さて、どこまでやれるもんだろうか。


「これでコウドレイ家は取り潰しだな。前回の件でコウドレイ派は瓦解しているし、さすがに二度目となればこれまでの功績も温情のよすがにはなるまい」


 当の本人は収監されており、その処遇はまだ決まっていないもののお天道様の下に戻ることはまずないという事なので、こんな騒動が繰り返される危険性はほぼなくなったと言ってもいいだろう。


 それだけは安心の材料だ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...