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第四章
98 事件の顛末
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スピネルがこの家に討ち入る前に、通りすがりの人に金銭で頼んでファルナーゼ家に連絡を飛ばしたおかげで、お父様は既に人員を動かしていてくれ、ファルナーゼ騎士団の面々がこのあとの始末をしてくれると言う。
お言葉に甘えて――というより、私たちがいては却って邪魔になるだろうから早々に監禁現場を後にする事にした。
帰り道、私とヴィヴィアナ様、スピネルとお兄さんという組み合わせで、いっちゃんそうちゃんに乗って行こうと提案したが、スピネルに却下された。
私と乗りたいし、異母兄と同乗するのは嫌だと我儘言われても、ヴィヴィアナ様とお兄さんを一緒に乗せる訳にはいかないじゃないか。
仕方ないので、いっちゃんそうちゃんと並んで私たち四人も徒歩で帰ることとする。ドエス先生はお父様の所に連行……同行してもらうようスピネルが手配した。私のせいで心折れている様子だけど、念には念を入れてお父様からも脅し……言い聞かせてもらうのだ。
ヴィヴィアナ様を脅したことでムカついているけど、実際に罪を犯したわけじゃないので罰を与えることは出来ない。お父様に諫められた先生の更生に期待するのみである。
「ヴィヴィアナ様、大丈夫ですか?ヴィヴィアナ様だけでもいっちゃんかそうちゃんに乗りません?」
「申し訳ありません、シシィ様。私は不調法で一人で馬に乗るなんてとてもとても……。それに体に問題はございませんから歩くことに支障もありませんわ」
「でも、疲れてるでしょう?こんな騒動に巻き込んじゃってごめんなさい」
「いえ、シシィ様に責はございません。悪いのは誘拐犯たちです」
そりゃそうなんだけどさー。目当てが私っぽかったから責任感じるよ。
「それに、こうして終わったから言えることですけれど、ちょっと楽しかったですわ。暴れん坊なシシィ様、凛々しいシシィ様、あの男たちを相手に一歩も引かずに立ち向かう格好良いシシィ様、私を庇ってアレキサンドエス先生に抗議する毅然としたシシィ様――学園では見ることの出来ない色々なシシィ様を拝見することが出来ましたし、まるでお芝居のような非日常的な出来事に身を置くことなんて考えられませんでしたもの」
それでも誘拐されるなんて経験は二度は要りませんけど……というヴィヴィアナ様は笑顔ではある。けれど、心の傷は外からは分からないし、その影響は本人が想像もしていないときに表面化することもあるだろう。メンタルケアってどうしたらいいんだろうな。PTSDだっけ?トラウマになったりしないといいんだけど。
◇◇◇
「コウドレイ侯爵?」
「正確には元侯爵だがな」
誘拐事件から一カ月。実行犯はその場で捕縛されたが、その裏にいた主犯がようやく取り押さえられたという事でお父様が顛末を話してくれた。
なんと、私を誘拐したのは、三年前にたまたま少女略取現場を目撃した事を発端として私とスピネルとで捕まえた犯人の裏にいたというコウドレイだったのか。
実行犯たちは、市井でやりたい放題、誘拐から人身売買まで手広く犯罪に手を染めていたが、裏にいたコウドレイは自らを宰相であるファルナーゼ公爵と名乗り、組織のトップをシシィ・ファルナーゼとしていた。
お父様と私の名を騙り好き勝手していたのだ。
政敵であるファルナーゼの名を地に貶めて自分が宰相の地位を得ようとしていたらしいけど、そんなの上手くいくわけないじゃんねぇ?
「つまり、逆恨みだな」
お父様が面白くも無さそうに言う。
「なるほど」
「コウドレイ家は侯爵から子爵に爵位を落とし、領地の2/3は国が没収され、家督は息子に相続。当の本人は病気療養という名の押し込めという状態だった筈なんだが」
正直ぬるくね?と思った。ゲームでは悪役令嬢シシィ・ファルナーゼが同じような事をやって毒杯とかいう話も出てたのに。これが政治的配慮というヤツなんだろうが納得いかん。
私が納得いこうがいくまいが国の裁定に異を唱えられる訳でもないけどさ。
「だから私が”貴族だが目の前で誰かが脅かされれば助けようとする”人間だと知っていた訳ですか」
これに関しては戻ってからお父様とお母様に説教された。
先ず自身の安全を図れ。民を思う気持ちは大事だが、全てを助けられると思っているなら傲慢だと。
反論したかった。目の前で子どもの命が散らされようとしているときに、自分の安全を最優先は出来ない。全てを助けられるなんて思っていないけど、自分の目の届く範囲、手を伸ばせば掴める命を見捨てる選択は出来ないと。
けど、涙目のお母様と憔悴しているお父様にはそれを言えなかった。「善処します」とだけ言った私に、半分あきらめたような父が「頼む」とスピネルに言ったので、私の行いが変わらない事を観念したように思う。
心配をかけないように自分の行いを正そうとは思っているけれど、さて、どこまでやれるもんだろうか。
「これでコウドレイ家は取り潰しだな。前回の件でコウドレイ派は瓦解しているし、さすがに二度目となればこれまでの功績も温情のよすがにはなるまい」
当の本人は収監されており、その処遇はまだ決まっていないもののお天道様の下に戻ることはまずないという事なので、こんな騒動が繰り返される危険性はほぼなくなったと言ってもいいだろう。
それだけは安心の材料だ。
お言葉に甘えて――というより、私たちがいては却って邪魔になるだろうから早々に監禁現場を後にする事にした。
帰り道、私とヴィヴィアナ様、スピネルとお兄さんという組み合わせで、いっちゃんそうちゃんに乗って行こうと提案したが、スピネルに却下された。
私と乗りたいし、異母兄と同乗するのは嫌だと我儘言われても、ヴィヴィアナ様とお兄さんを一緒に乗せる訳にはいかないじゃないか。
仕方ないので、いっちゃんそうちゃんと並んで私たち四人も徒歩で帰ることとする。ドエス先生はお父様の所に連行……同行してもらうようスピネルが手配した。私のせいで心折れている様子だけど、念には念を入れてお父様からも脅し……言い聞かせてもらうのだ。
ヴィヴィアナ様を脅したことでムカついているけど、実際に罪を犯したわけじゃないので罰を与えることは出来ない。お父様に諫められた先生の更生に期待するのみである。
「ヴィヴィアナ様、大丈夫ですか?ヴィヴィアナ様だけでもいっちゃんかそうちゃんに乗りません?」
「申し訳ありません、シシィ様。私は不調法で一人で馬に乗るなんてとてもとても……。それに体に問題はございませんから歩くことに支障もありませんわ」
「でも、疲れてるでしょう?こんな騒動に巻き込んじゃってごめんなさい」
「いえ、シシィ様に責はございません。悪いのは誘拐犯たちです」
そりゃそうなんだけどさー。目当てが私っぽかったから責任感じるよ。
「それに、こうして終わったから言えることですけれど、ちょっと楽しかったですわ。暴れん坊なシシィ様、凛々しいシシィ様、あの男たちを相手に一歩も引かずに立ち向かう格好良いシシィ様、私を庇ってアレキサンドエス先生に抗議する毅然としたシシィ様――学園では見ることの出来ない色々なシシィ様を拝見することが出来ましたし、まるでお芝居のような非日常的な出来事に身を置くことなんて考えられませんでしたもの」
それでも誘拐されるなんて経験は二度は要りませんけど……というヴィヴィアナ様は笑顔ではある。けれど、心の傷は外からは分からないし、その影響は本人が想像もしていないときに表面化することもあるだろう。メンタルケアってどうしたらいいんだろうな。PTSDだっけ?トラウマになったりしないといいんだけど。
◇◇◇
「コウドレイ侯爵?」
「正確には元侯爵だがな」
誘拐事件から一カ月。実行犯はその場で捕縛されたが、その裏にいた主犯がようやく取り押さえられたという事でお父様が顛末を話してくれた。
なんと、私を誘拐したのは、三年前にたまたま少女略取現場を目撃した事を発端として私とスピネルとで捕まえた犯人の裏にいたというコウドレイだったのか。
実行犯たちは、市井でやりたい放題、誘拐から人身売買まで手広く犯罪に手を染めていたが、裏にいたコウドレイは自らを宰相であるファルナーゼ公爵と名乗り、組織のトップをシシィ・ファルナーゼとしていた。
お父様と私の名を騙り好き勝手していたのだ。
政敵であるファルナーゼの名を地に貶めて自分が宰相の地位を得ようとしていたらしいけど、そんなの上手くいくわけないじゃんねぇ?
「つまり、逆恨みだな」
お父様が面白くも無さそうに言う。
「なるほど」
「コウドレイ家は侯爵から子爵に爵位を落とし、領地の2/3は国が没収され、家督は息子に相続。当の本人は病気療養という名の押し込めという状態だった筈なんだが」
正直ぬるくね?と思った。ゲームでは悪役令嬢シシィ・ファルナーゼが同じような事をやって毒杯とかいう話も出てたのに。これが政治的配慮というヤツなんだろうが納得いかん。
私が納得いこうがいくまいが国の裁定に異を唱えられる訳でもないけどさ。
「だから私が”貴族だが目の前で誰かが脅かされれば助けようとする”人間だと知っていた訳ですか」
これに関しては戻ってからお父様とお母様に説教された。
先ず自身の安全を図れ。民を思う気持ちは大事だが、全てを助けられると思っているなら傲慢だと。
反論したかった。目の前で子どもの命が散らされようとしているときに、自分の安全を最優先は出来ない。全てを助けられるなんて思っていないけど、自分の目の届く範囲、手を伸ばせば掴める命を見捨てる選択は出来ないと。
けど、涙目のお母様と憔悴しているお父様にはそれを言えなかった。「善処します」とだけ言った私に、半分あきらめたような父が「頼む」とスピネルに言ったので、私の行いが変わらない事を観念したように思う。
心配をかけないように自分の行いを正そうとは思っているけれど、さて、どこまでやれるもんだろうか。
「これでコウドレイ家は取り潰しだな。前回の件でコウドレイ派は瓦解しているし、さすがに二度目となればこれまでの功績も温情のよすがにはなるまい」
当の本人は収監されており、その処遇はまだ決まっていないもののお天道様の下に戻ることはまずないという事なので、こんな騒動が繰り返される危険性はほぼなくなったと言ってもいいだろう。
それだけは安心の材料だ。
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