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第三章
86 勇者と 3
しおりを挟む「あの……それはどういう意味でございましょうか」
勇者の能力ってナニ!?一目見ただけで――あ、いや、五度見していたけど――スピネルが闇落ちするはずだった竜だって分かるもんなのか!?
こわっ。勇者こわっ。
「え?言葉のまんまだけど?スピネルさんは”闇落ちを回避した竜”でしょう」
きょとんとしないでー。説明プリーズ。
スピネルはもう平常心に戻ったようで、内心どう考えているかは分からないけれどいつもの様子に戻っている。強いね、君も。
「分かんない?そか、分かんないよね。んーとね、俺、鑑定の上位互換になるスキルを持ってるんだ。神様から貰ったものだから、厳密には俺の能力って言っていいのか分からないけど、まあ、勇者の力ってことで」
結構軽いお兄さんである。鑑定スキル持ちだって、国に一人か二人いればいいという位のレアスキルなのに、さらに上のスキルを持っているなんて、めちゃすごいじゃないか。
もちろん、私もスピネルも鑑定スキルなんて持っていない。
「鑑定の上の看破、さらに上の心眼って言うスキルでね。あ、神様から貰ったのは鑑定スキルで、そこから鍛え上げて心眼まで持っていったから、もう、俺のスキルって言ってもいいのかもー?」
いいと思います。凄いな、勇者のにーさん。
「国王陛下は知っているんだけど、闇落ち竜を倒すためのパーティメンバーを集めるために、そのスキルを使ってるんだ。心眼を使えば、その人の今現在の能力、努力次第で開花させることの出来る素質、これからの伸びしろなんかも見える。あと、性癖とか称号とかも見えるし特記事項とかも」
前半はともかく、称号とか特記事項とかはなんぞや。
「称号はね、いいものもヤバいものもある。俺が気にするのはヤバい方。例えば――」
勇者のにーさんが実際に見たヤバい称号を教えてもらったけど、それは確かにどんなに他の能力が高くともその一点だけで仲間にすることが躊躇われるものだった。
「ええ……それは嫌だと私も思いますわ」
誰だって「口に蜜あり腹に剣あり」とか「幼女趣味」とか「裏切り常習」とか「強盗傷害:前科八犯」とかついてたら、安心して背中を預けられない。幼女趣味は勇者のにーさんに関係ないけど、パーティに加わったと噂の某国の皇女様の身がヤバい。
「スピネルさん、勝手に個人情報を見てスミマセン。ですが、このスキルを見て知ったことは今まで一度も第三者に他言したことはないです。仲間になる人を選んだ理由として有効的な力を持つ人にそれを伝えたことはありますが、ヤバい称号持ちだったからと言って、それを吹聴なんかしないんで。あと、勝手に人の個人情報を見るのはメンバー選出するときと、明らかに敵だって分かってる人相手の時だけで、乱用もしてないから!」
勇者がスピネルに頭を下げて謝罪をするが、スピネルはそれを制止した。
「いえ、問題ありません。話が手っ取り早くて助かります」
「手っ取り早い?」
そこで私たちは、情報ソースは言えないが――と前置きして、スピネルが本来歩んだであろう暗黒竜に至る道筋を話した。私というイレギュラーな存在のせいでその道は消滅し、この世界が脅かされる未来はやってこないだろうことも。
「あれま」
おい、勇者。感想が”あれま”とはどういうことだ。
「それは彼女さんの称号によるもの――かな」
「やはりシシィの事も見ていたんですね」
「そりゃ、まあ、メンバーの候補者だし。――って、スピネルさんは彼女さんがそうだって事も知ってる訳だ」
「もちろんです」
うん、それは想定内。
スピネルに「闇落ちを回避した竜」だという称号だか特記だかがあるなら、私を見て「転生者」だと分からない訳がない。
「前回はそんな事なかったんだから、今こうなってるのは俺と神様のせい――っていうか、神様のせい。諸悪の根源は今頃こっちのことなんか知らん顔で優雅に過ごしているかと思うと腹立つなーっ」
「……前回?」
「あっ」
勇者のにーさん「前回」って言ったよ。神様に対してあれこれ言ったてことは聞き流すとしても、そこはスルー出来ん。
やばって顔してもダメ。そこはスルー出来ない。するわけにはいかない事情がこちらにある。
「勇者様も”前回”の記憶があるという事で宜しいですね?」
にっこりと笑って勇者に問う。
我ながら、気迫のこもった笑顔だったと思う。勇者が思わず身を引いて両手の平を私に突き出してしまうくらいには。
私の隣でスピネルが「真剣な顔のシシィも可愛い」とか馬鹿な事を言うので台無しだなーとは思ったけど。
それでも、勇者が諦めたように頷いてくれたので、結果オーライ。
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