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第三章
82 番
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「まぁぁぁぁぁ」
スピネルの求婚とプレゼン、そして豹変っぷりをレナに語ると、彼女は何故か目を潤ませ頬を紅潮させている。
「素敵ではありませんこと?一途に自分を想ってくれる殿方が、今は気持ちが無くても問題ない、全力で口説くから――なんて、これこそ乙女ゲームですわ」
そうなのか?乙女ゲームって、ヒロインちゃんがイケメンたちを攻略するゲームだとばかり思っていたけど、実はヒロインちゃんが攻略される側だったりするの?
いや、乙女ゲームの定義はともかく、私はヒロインちゃんじゃなくて悪役令嬢なんですが、そこんところはどーなってる。
スピネルはレナの言葉にうんうんと頷いているし、王子様は眉間を指で押さえて何かを堪えている状態だ。
ここは生徒会室。私たちは、生徒会の集まりが無い時にしょっちゅうここを使わせてもらっている。しょっちゅうと言っても、週にに一度か二週に一度程度だけど。
表向きは、17歳の壁(王子様にとっては18歳の壁)やマリア様対策の為ということになっているが、物事が動く様子もなく新たな議題が出ることもない現状で、私とレナが衆目を気にせずお喋りする会になっている。
最初はあーでもないこーでもないと議論を交わしていたけれど、結局のところ「スピネルは大人の姿をマリア嬢に見せない」「諸国を回っている勇者様が我が国に来たら、とりあえず古代竜の闇落ちはないかもよ?とそれとなーく伝えたい」の二点が決定しただけだ。
王子様がいないとこの部屋は使えないし、スピネルは私から離れない為、この二人は今はおまけのような状態で口を挟むこともあまりない。なので、私は二人の存在を気にせずにレナに話した。王子様はともかく、スピネルがいない場所でレナに話そうと思ったら、いつその機会が得られるかも分からないからだ。
「そっか……素敵か」
あまり納得はいっていないが、レナがそう言うのならそういうものなんだろうと自分に言い聞かせる。
そこから何故かレナとスピネルで私の攻略方法を熱く討論し始めたので、居たたまれない気持ちにさせられた。私の前でそれはないだろと思い目を逸らすと、王子様もどうやら身の置き所がない様子だ。
(困るよね?)(そうだな)と目で会話をし、もうこの二人は放っておこうという結論が一致して頷き合う。
メイン攻略者の前で、モブ令嬢と隠し攻略者が悪役令嬢の攻略法を練るなんて、乙女ゲーらしからぬ展開だぜ、レナさんよー。
「問題はマリア様の言う”死に戻り”に期限とか年齢制限とかがあるかどうかですよね」
「そうだな。最悪、長寿を全うして死んでもある時点に戻るという事なら、手の打ちようがない」
「ですよねぇ。レナが知っている乙女ゲームではヒロインちゃんが17歳でエンディングを迎えるらしいので、そこをクリアしたらもう戻らないって事であって欲しいですけど」
「検証のしようがないのが痛いな。次回があるとして、その時に私の記憶が残っているかどうかも分からないし」
「ですよねぇ。私なんて前回と今回とどっちの人格か分からないですし。それどころか、第三の人格の可能性も?」
そうなのだ。結局こうして話していても堂々巡りで結論など出ない。マリア様に聞く訳にもいかないし、詰んでる。しかし、私のこの口調は不敬なんじゃないかな。王子様が何も言わないのをいい事に、すっかり素に近くなっている。
王子様とお茶を飲みながら、既に検討ではなく愚痴となっているいつもの会話をしていると、いきなりスピネルが背後から私を抱きしめた。
おいおい、なにやってんだ。
王子様の御前だぞー?
「どうしたの、スピネル?」
王子様もやれやれみたいに苦笑しているだけで咎めることもない。
もうすっかりこの四人でいるときは無礼講となっているが、それも嫌そうには見えない。王子様なんて、お家がお城なんだし、プライベートなんてほとんどなさそうだから、こういう無礼者に囲まれているのも、常とは違って楽しいのかも?そうだといいな。
「違いますから」
「ん?何が?」
王子様と話していたので、レナとスピネルの話を聞いていなかったが、何か問題でもあったんだろうか。
「番だから好きなのではありません。好きだから番なのです」
はい?
「シシィ、ごめんなさいね?私のイメージしていた番とスピネル様の種族的な番とは意味が違っていたみたいですの」
はい?
話を聞くと、わりとどうでもいい――という感想しか出なかった。
レナが前世で読んだとあるラノベでは「番」というのは唯一無二で、本人(本竜?)の意思に関わらず、すでに定められたものであったらしい。番と出会う前に恋をして結婚までしたのに、相手に番が現れて「彼女が自分の本当の運命の人」だと言われ揉めたりするのだそうだ。
スピネルは、私を好きになったのは自分の意思だと、訳の分からないものに勝手に決められたのではなく、自分で好きになったのだから誤解してほしくないと言う。
「あー、うん、そうか。分かった分かった」
後ろから私に抱きついているスピネルの手をポンポンと叩いて宥める。
「私はレナの言うような番に対する知識?とか無かったし、スピネルがそう言うならそうだと納得するから、大丈夫。別の世界ではレナの言うような番システムがあるかもしれないけど、ちゃんと、ここにいるスピネルを見てるから。ね?」
とりあえず落ち着いてほしい。王子様視線が生温いのに何故か刺さってきて居心地が悪いから。
恋愛に関して目覚めていない私より、レナとの方がスピネルと合うんじゃね?と思ったけど、そう言えばレナはヘタレを調教……教育するのが好きなS系統の人間だったから無理か、と思い直した。
そんな事をもしも言ったらスピネルが拗ねて怒って大変な事になりそうだしな。
スピネルの求婚とプレゼン、そして豹変っぷりをレナに語ると、彼女は何故か目を潤ませ頬を紅潮させている。
「素敵ではありませんこと?一途に自分を想ってくれる殿方が、今は気持ちが無くても問題ない、全力で口説くから――なんて、これこそ乙女ゲームですわ」
そうなのか?乙女ゲームって、ヒロインちゃんがイケメンたちを攻略するゲームだとばかり思っていたけど、実はヒロインちゃんが攻略される側だったりするの?
いや、乙女ゲームの定義はともかく、私はヒロインちゃんじゃなくて悪役令嬢なんですが、そこんところはどーなってる。
スピネルはレナの言葉にうんうんと頷いているし、王子様は眉間を指で押さえて何かを堪えている状態だ。
ここは生徒会室。私たちは、生徒会の集まりが無い時にしょっちゅうここを使わせてもらっている。しょっちゅうと言っても、週にに一度か二週に一度程度だけど。
表向きは、17歳の壁(王子様にとっては18歳の壁)やマリア様対策の為ということになっているが、物事が動く様子もなく新たな議題が出ることもない現状で、私とレナが衆目を気にせずお喋りする会になっている。
最初はあーでもないこーでもないと議論を交わしていたけれど、結局のところ「スピネルは大人の姿をマリア嬢に見せない」「諸国を回っている勇者様が我が国に来たら、とりあえず古代竜の闇落ちはないかもよ?とそれとなーく伝えたい」の二点が決定しただけだ。
王子様がいないとこの部屋は使えないし、スピネルは私から離れない為、この二人は今はおまけのような状態で口を挟むこともあまりない。なので、私は二人の存在を気にせずにレナに話した。王子様はともかく、スピネルがいない場所でレナに話そうと思ったら、いつその機会が得られるかも分からないからだ。
「そっか……素敵か」
あまり納得はいっていないが、レナがそう言うのならそういうものなんだろうと自分に言い聞かせる。
そこから何故かレナとスピネルで私の攻略方法を熱く討論し始めたので、居たたまれない気持ちにさせられた。私の前でそれはないだろと思い目を逸らすと、王子様もどうやら身の置き所がない様子だ。
(困るよね?)(そうだな)と目で会話をし、もうこの二人は放っておこうという結論が一致して頷き合う。
メイン攻略者の前で、モブ令嬢と隠し攻略者が悪役令嬢の攻略法を練るなんて、乙女ゲーらしからぬ展開だぜ、レナさんよー。
「問題はマリア様の言う”死に戻り”に期限とか年齢制限とかがあるかどうかですよね」
「そうだな。最悪、長寿を全うして死んでもある時点に戻るという事なら、手の打ちようがない」
「ですよねぇ。レナが知っている乙女ゲームではヒロインちゃんが17歳でエンディングを迎えるらしいので、そこをクリアしたらもう戻らないって事であって欲しいですけど」
「検証のしようがないのが痛いな。次回があるとして、その時に私の記憶が残っているかどうかも分からないし」
「ですよねぇ。私なんて前回と今回とどっちの人格か分からないですし。それどころか、第三の人格の可能性も?」
そうなのだ。結局こうして話していても堂々巡りで結論など出ない。マリア様に聞く訳にもいかないし、詰んでる。しかし、私のこの口調は不敬なんじゃないかな。王子様が何も言わないのをいい事に、すっかり素に近くなっている。
王子様とお茶を飲みながら、既に検討ではなく愚痴となっているいつもの会話をしていると、いきなりスピネルが背後から私を抱きしめた。
おいおい、なにやってんだ。
王子様の御前だぞー?
「どうしたの、スピネル?」
王子様もやれやれみたいに苦笑しているだけで咎めることもない。
もうすっかりこの四人でいるときは無礼講となっているが、それも嫌そうには見えない。王子様なんて、お家がお城なんだし、プライベートなんてほとんどなさそうだから、こういう無礼者に囲まれているのも、常とは違って楽しいのかも?そうだといいな。
「違いますから」
「ん?何が?」
王子様と話していたので、レナとスピネルの話を聞いていなかったが、何か問題でもあったんだろうか。
「番だから好きなのではありません。好きだから番なのです」
はい?
「シシィ、ごめんなさいね?私のイメージしていた番とスピネル様の種族的な番とは意味が違っていたみたいですの」
はい?
話を聞くと、わりとどうでもいい――という感想しか出なかった。
レナが前世で読んだとあるラノベでは「番」というのは唯一無二で、本人(本竜?)の意思に関わらず、すでに定められたものであったらしい。番と出会う前に恋をして結婚までしたのに、相手に番が現れて「彼女が自分の本当の運命の人」だと言われ揉めたりするのだそうだ。
スピネルは、私を好きになったのは自分の意思だと、訳の分からないものに勝手に決められたのではなく、自分で好きになったのだから誤解してほしくないと言う。
「あー、うん、そうか。分かった分かった」
後ろから私に抱きついているスピネルの手をポンポンと叩いて宥める。
「私はレナの言うような番に対する知識?とか無かったし、スピネルがそう言うならそうだと納得するから、大丈夫。別の世界ではレナの言うような番システムがあるかもしれないけど、ちゃんと、ここにいるスピネルを見てるから。ね?」
とりあえず落ち着いてほしい。王子様視線が生温いのに何故か刺さってきて居心地が悪いから。
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