転生令嬢シシィ・ファルナーゼは死亡フラグをへし折りたい

柴 (柴犬から変更しました)

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第三章

79 仕切り直し 1

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 レナの予想は的中した。

 スピネルが甘えたモードである。それこそ後追いする雛のように。


 昼食を一緒にとった後に我が家を辞去したレナだが、去り際のあの含み笑いの怪しかったことと言ったら!


 溺愛設定は何処に行った?いや、溺愛してほしい訳ではない。もしもスピネルに甘い台詞を吐かれたらゾワゾワしそうだ。


 レナから聞いたマティアーシュ様像とスピネルが全く重ならないけど、それは対象がヒロインちゃんじゃなくて私だからなんだろうか、やっぱり。

 ふっ……溺愛は、される側にも必要な器があるってことだ。そして、私にはそれがない、と。



 我が家で開発した新種の百合が咲いたと聞いたので、見に行く事にした。

 当然、スピネルも付いてくる。


「おおー……」


 新種の百合は薄桃色にオレンジのラインが入ったとても華やかなものだった。形は鉄砲百合のようなラッパ型ではなく、カサブランカのように煌びやかに広がったゴージャスタイプ。割と派手目だ。


「綺麗だねー、スピネル」

「あなたの方が綺麗です」


 おおっと。これが、あれか、溺愛モードか?甘えたモードはどうした。


「そりゃどーも。どうしたの、いきなり」


「後悔はしたくないんです。もしかしたら次回は私とお嬢様が巡り合わないかもしれないと思うと、ゆっくりと構えていられる時間はないので」


 レナと同じような事を言っている。


 マリア様が「死に戻り」を使ったとして、次回にシシィ・ファルナーゼが私である保証はないし、次回のシシィが前回のシシィと同一だったら、スピネルと会う可能性はほぼゼロだろう。


 スピネルの事は好きだけどなぁ、17歳で終わらなかったときの事を考えるとどうしても躊躇してしまう。


「あの時の仕切り直し、させてください」


 スピネルが私の前で片膝を付き、私の右手を掬い上げるようにして甲に額を付けた。


「シシィ・ファルナーゼ嬢。どうか、私の妻になって下さい。あなたを愛しています」


 直球で来た。これは、誤魔化したり茶化したりしちゃいけないだろう。


「ありがとう、スピネル。気持ちはすごく嬉しい。私は同じ熱量の想いを返せないかもしれないけど、それでもスピネルの事が好きだし一緒に居て楽しいとも思う。けど、種族差……というか、寿命の差とか老化速度の差とかを考えると、簡単にうんとは言えない」


 愛情の重さが違う事も、やはり気にはなる。一方的に貰うばかりでは関係はいずれ破たんするんじゃないだろうか。好きの意味合いが違っていたら、スピネルは疲れちゃうんじゃないかとも思う。


「いっそ、17歳で終わることが決定的だったら、うんって言えた。私からの気持ちが友情でも構わないとスピネルが思うのなら、だけど」


 残りあと5年だったら、面倒くさい事を抜きにして仲良しでいられるんじゃないかな。17歳で終わる可能性がある、終わらない可能性もある。それはマリア様次第なのだろうから、私では如何ともしがたい。


 スピネルには絶対に言えないけど、巻き戻しを起こさせない方法が一つだけ思い当たる。きっとレナも口にしないだけで考えついているだろう。


 マリア様が巻き戻しをつづけた先に求めるものは、推しとのハッピーエンド。彼女の推しはスピネル……マティアーシュ様だ。スピネルがマリア様を選べば、きっと巻き戻しを起こそうとはいないだろう。

 死に戻りって、しないで済むならしたくないだろう。回数を減らすために二人を同時攻略したいと言っていたくらいなのだから。


 私も、おそらくレナも他言することはない。乙女ゲーム事情を話した王子様やスピネル本人は或いは気付くかもしれないが、うわっつらを説明されただけなので、その可能性は低いと思っている。


 求婚してきた男性を前にこんな事を考えていて申し訳ない。けれど、巻き戻りは私にとっては「冤罪による死亡フラグ」と何ら変わらない死刑宣告のようなものだと思うのだ。


「寿命と老化速度、お嬢様が私に恋情を持っていない事、他に何かございますか?」


 私に手の甲に付けていた額を上げ、スピネルが真っすぐにこちらを見ている。真剣な赤い瞳は本当に宝石のようで、その美しさを身なれている私でもうっとりしてしまうほどだ。


 うんとは言えないと言ったけれど、その三点の改善は難しいので実質的に無理かも?という返事だったように思うのだけれど。


「私が人になってもいいですし、お嬢様が竜になるのもいいですね」


「なれるの!?」


 食い気味に聞くと、スピネルが頷いた。

 じゃ、なんでスピネルのお母さんは亡くなってんだろう。竜と人間の寿命の差はクリアできるんでしょ?


「母は人間として生き、人間として竜と恋に落ち、人間として死んでいきました。母は竜になれなかったのではなく、ならなかった。人であることを選んだのです。尤も、私が人になるか、お嬢様が竜になるかというのも、竜族の婚姻の儀で他種族の番――伴侶、ですね、その伴侶と添い遂げるために作られた典儀を執行しなくてはならないので、誰でも彼でも種族を移行できるわけではないです」


 レナ!ラノベあるあるがここにもあった!



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