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第三章
60 王子と公爵令嬢のお茶会 3
しおりを挟む「僭越ながら、私の考えを申し上げさせて頂いても宜しいでしょうか?」
王子様の頂けない発言はスルーしちゃダメなヤツ。
「あ、ああ。率直に意見を言ってくれ」
「先ず、前回のシシィと今の私は別だと認識して頂きたく存じます」
「もちろんだ」
王子様は真剣な顔で頷いてくれているけど、それはどうかなーと穿ってみてしまう。
王子様の前回を考えれば、確かに悲惨な結末だっただろう。ヒロインちゃんに傾倒しちゃったのは仕方ないけれど、無実の婚約者を死に追いやってしまったんだから、さぞ心に傷が残っているだろう。だから、今度こそシシィを守りたいと言う気持ちは分からないでもない。
でも、勘違いしちゃぁいけない。
ここで、私を罪に問わないと言い切ってしまうのは、前回とやらでヒロインちゃんの言うがままに婚約者を断罪したときの王子様と変わりがないだろう?
「盲目になってはいけません」
「盲目?」
問答無用に私を信じちゃダメ、王子様として。
「殿下の仰る前回の件で後悔なさっていることは重々承知で申し上げますが、誰か――或いは何かを無条件で信じることの危うさを、殿下はもっと重く考えるべきです。前回のシシィの罪は冤罪だった、それはいい。けど、今回の私が罪を犯さないなんて誰が保証できる?私を信じていいのは私を知っている人だけ。婚約者を信じられなかったのは、王子様が彼女を見ていなかったからでしょ?その無念を、ただ同じガワがあるだけの私に贖罪として与えようとするのは逃げでしかない。スピネルやお父様、お母様が私を信じると言ってくれるのは、それだけ私のことを知っているから。なんで、まともに話すのは今回初めての王子様に無条件の信頼を受けなきゃいけないのか分からない」
前回から成長していないんじゃないか、この王子様。8歳に負けた17歳が言うのもなんだけど。
「それでまた裏切られたら悲劇の主人公気取って悲しみに暮れる気?あり得ない、それ」
いつの間にか勢い込んでいたようで、私はテーブルの中ほどまで身を乗り出していた。そして王子様は、私が怖いのが身を引きすぎてソファの背にもたれている。どちらもマナーの先生に怒らせる姿勢だ。
あれ?淑女として駄目じゃないか?そう思った時、背後からスピネルの咳払いが聞こえた。
「お嬢様、お言葉遣いが……暴れん坊モードに入っております。淑女の仮面が木っ端みじんです」
おー……。
興奮して素が出ていたようだ。
なんか、ムカついちゃったんだよな。シシィを断罪したのはヒロインちゃんのせい。騙されてしまった自分が可哀想って感じが鼻について。
怒りに関しては、前世の記憶に引き摺られた感はある。まっつんに悪役令嬢の悲惨さを聞いて「見切りつければいい」という感想が出る位には、王子様にそそられない。
ヒロインを信じて起こった前回の冤罪騒動を思えば、私相手に全幅の信頼を寄せるような発言はすべきではない。それをして痛い目に遭ったんだろうに、その姿勢を改善しようと思わないのか?
前回の私は、婚約者であったこの王子様のこと、好きだったんだろうか?今の私からすると好意を抱く要素が欠片も無い。私が元々王子様属性に興味がないせいかもしれないが、世のご令嬢方はこういうタイプが好きなの?
確かにスピネルと同じくらいにイケメンだけど。
男は顔じゃないんで。
「大変失礼を致しました」
立ち上がって頭を下げると、王子様は軽く手を振って「気にすることはない」と言ってくれた。
率直にとは言われたけど、それは不敬を働いていいって事じゃないからなぁ。吐いたつばは飲めんとはいえ、ちょっと言い過ぎた気もして背中がスースーする。クソッたれ発言よりは不敬度は低いだろうから、お咎めは無いと思いたい。
「君のいう事は尤もだ。私の不見識を正そうとしてくれてありがとう」
お礼を言われちゃったよ。この王子様、謝ったりお礼を言ったりが頻りとあるけれど、王族としての威厳とか大丈夫かな。その位にシシィに負い目があるんだろうけど、前回の記憶がない私は困ってしまう。
だが、それでいいと言ってくれるんなら、この機会に言わせてもらおう。
なにせ、相手は王子様だ。本人がいいと言ったって周囲の目もあるし、今後またこういう機会があるとも限らない。
改めて座らせてもらい、木っ端みじんになった令嬢の仮面を修復して被る。
「お立場をお考えになられませ。相手が誰であろうと罪は罪。情で判断を誤られれば国の先は暗澹たるものとなりましょう。父は私を愛してくれていますが、私が事を起こした場合、罪科を見過ごすような真似は、公爵として、宰相として決してしないと信じております。情を持つななどと申しているのではありません。それは人でなくなれと言うようなものでございますから。ですが、市井の民ならば情を優先しても許されても、貴族には――ましてや王族であらせられる殿下には情よりも優先すべきものがあると存じます」
王子様は情に棹さして足元掬われちゃった経験があるんだから、失敗から学べ、是非。
優しいだけの王様ってのものは、何事もない平和な治世の中であっても問題があるだろうと思うぞ。
王子様は私の言葉を遮ることなく最後まで真摯に聞いてくれ、頷いてくれた。ちょっと言い過ぎたかとも思ったけど、上を諫めるのも臣下の務め。諫言を聞いてくれるだけの度量があった事に感謝だ。
「ファルナーゼ嬢――君は、とても興味深い女性だ」
王子様が満面の笑みで言った。
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