転生令嬢シシィ・ファルナーゼは死亡フラグをへし折りたい

柴 (柴犬から変更しました)

文字の大きさ
上 下
60 / 129
第三章

58 王子と公爵令嬢のお茶会

しおりを挟む
 王子様から招待状が来ちゃったよ。

 ”話の続き”とやらをしたいらしいけど、クソッたれ発言の続きってなんなんだろう。


 いろいろと考えてしまって食欲も落ち……なかった。夜も眠れない……こともなくぐっすり寝てる。自分のことながらながら神経の太さに呆れる。


 物思いにふける時間は長くなったと思うが、食事も睡眠もしっかり摂って、更には王子様からの招待状効果でメイドたちも張り切って私のメンテをしてくれていたので、その日を迎えたときには肌はぷりっぷり髪はつやっつやで、心とは裏腹に外見は人生最高のコンディションの私が出来上がっていた。


 そしてお呼び出しの当日。


「詫びるべき私がファルナーゼ家へと赴くべきなのだが、それにより要らぬ噂がたつとファルナーゼ嬢に迷惑をかけるため、こちらに足を運んでいただいた。申し訳ない」


 挨拶をした後、また詫びられた。

 この王子様、簡単に謝り過ぎじゃね?王子様だからってふんぞり返られるのも困るけど、臣下の娘としての反応をどうしていいか迷う。


「いえ、私のことを慮って下さった事を感謝いたします」


 わざわざお父様にも協力してもらって、王宮の父を訪ねた私と王子様が偶然出会いお茶をご一緒するという態を装ってるんだから、念の入った事だと思う。


 メイドさんがお茶を淹れてくれたあと、わざわざ人払いをした王子様が私の背後にいるスピネルに目をやった。

 彼も席を外させろってことだろうけど、それは私が嫌だ。扉を開けているとはいえ男女二人きりで一室にいるのも拙いし、なにより王子様と二人きりになりたくない。


「彼は大丈夫です。私が誰よりも信頼しているものですし、私のことを誰よりも理解しているものでもあります」


 だから、強権発動してスピネルを室外へ追いやったりしないで下さい。

 って、おい、スピネル君や。無表情をキープしてよ。その得意げな顔と誇らしげに張った胸を元に戻してよ。可愛くて困るから。


「ファルナーゼ嬢がそこまで言うのなら」


 王子様がOK出してくれた。なんだかわからないけど、王子様は私に謝りたいわけだからある程度こちらの希望を汲んでくれるんだろう。ホッとした。


「ファルナーゼ嬢……温室での事なんだが……」


 来た、不敬発言のクソッたれ問題。あれ、流してくれたと思ったけど、やっぱりお怒りだったんだろうか。思わず背筋がピンと伸びてしまった私を見て、王子様が視線を逸らした。


「前回の事は、申し開きのしようがない。君が望むならどんな罰でも受ける準備がある。この首をというのなら差し出そう。ただ――できれば、諸々の後始末が済むまで待ってもらいたい」


「くっ……首!?あ、あの第一王子殿下、何をおっしゃっているのです!?」


 こわっ。王子様こわっ。背後のスピネルも珍しく動揺している気配がする。そうだよね、王子様が首を差し出すとか、何言ってんだ、ワレ!!って思うよね!?私のクソッたれ発言からの王子様の謝罪だけでも訳わからないのに、どんな罰でも受ける・首を差し出すとか、意味不明過ぎてコワイ。


「冤罪からの断罪……実際には君は病で儚くなったが、それが無かったら毒杯をあおる事になっただろう。前回の――君が17歳の時」


 何を言っているか分かる?とスピネルに目をやると首を横に振られる。王子様、ちょっと精神的にアレな人?


 あ、でも、ちょっと待った。17歳、冤罪、断罪――って乙女ゲームの話と同じ。温室で私が叫んだ言葉だから、それを覚えているのかもしれない。けれど、誰があんな言葉を真に受けるだろうか。”何の世迷い言か”とか”寝言”としか思えないんじゃないの?


 それと、毒杯前に病で儚くなったという「前回」の話。


 思いつめた表情の王子様は視線を落としたままだ。


 あー、まつげも金髪なんだなー。なんて観察して現実逃避をしている場合じゃない。


「殿下は……”前回”から逆行なさったと理解してよろしいでしょうか?」


 答えは多分コレだ。背後のスピネルが纏う空気がひんやりとしている。スピネルにしてみたら訳の分からない事を私が言いだしたと思っているだろう。あとでちゃんと説明するから、この場では落ち着いてちょーだい。


 あの日――お茶会の後の王子様の不審な行動が腑に落ちる。


 倒れた私を見舞いに来てくれた時、王子様も転生者なのかなーと思ったけどそうじゃなく、今まで零れた言葉を拾い集めるに「乙女ゲームの王子ルートで悪役令嬢が断罪された後に冤罪だと判明」のバッドエンド。ヒロインのステータスが王子攻略の基準を満たしてなかった時に辿り着く終幕。


 逆行が起こった理由は分からない。

 それを言ったら転生だってそうだけど。


 理由はともあれ、王子様はシシィを断罪したものの、それが冤罪だったと知って「謝って許される事ではないが、それでも謝罪することだけは許してほしい」発言か。


 そりゃ謝るわ。いくらヒロインちゃんに攻略されたからと言って、9歳の頃からの婚約者の冤罪をまるっと信じて断罪しちゃったんだもん。でもって、処刑前に死んじゃったとは言え、シシィを殺そうとしたわけだし。


 けど、私はその記憶はない。


 うん、私に謝られても困るね。

 私は逆行してきたわけじゃないからさ。


 おずおずと視線を上げた王子様が、逆行してきたことを認め僅かに頷いた。


「私は殿下の仰る”前回”の記憶はございません。故に謝罪を受け入れることは出来ません」


 王子様が”前回”の記憶がないと言う言葉に衝撃を受けたか、謝罪を受け入れられなかった悲嘆でか真っ青になった。かすかに震えているように見える。


 申し訳ない気にさせられるけれど、その謝罪を私が受けちゃったら”前回”のシシィが可哀想だ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません

ゆうき
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。 そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。 婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。 どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。 実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。 それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。 これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。 ☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

処理中です...