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第三章
57 ヒロインと攻略対象者
しおりを挟む―― マリア・クスバート ――
あー、もう、上手くいかないっ。
やっぱり、元の国で自由にし過ぎてこっちの伯爵家に養女に出されちゃったせいかな。中等部から学園入学とか、設定から外れ過ぎてる。
だから、高難易度の攻略対象者は避けてチョロイ子狙いだったのに。
全員を攻略しないと私の推しである隠しキャラに会えないんだから、今回は一気に二人を攻略しようと思ったんだけど、全然上手くいかない。
やっぱり、攻略が楽な相手とはいえ、実際にゲームが始まる五年も前じゃ落とせないのかも?
前回失敗した王子は次回に頑張るとして。
ドSは高等部の先生だから、今は落とすチャンスはない。17歳のJKと教師だったらありだけど、12歳のJCと教師って言ったロリコン扱い必須でこっちでも犯罪だろうし、多分。
腹黒ショタは二つ年下だ。それを狙ったらこっちがヤバい人扱いになっちゃう。
脳筋は剣の腕を褒めれば簡単に落ちるはずだったのに、反応鈍かった。やっぱりまだ12歳のお子様だから、恋愛的な情緒が育ってないのかもしれないけどさ、私ほどの美少女に褒められたら喜べよ!剣なんて全然わからないけどお愛想言ってやったんだからさぁ!マジでムカつく。
ヤンデレは悪役令嬢の家に養子に入ってないせいで、攻略方法が不明なのも痛い。とりあえず印象付ける出会いは果たしたから、これから距離を詰めさせてもらう。
それにしても、隠しキャラに辿り着くまでが遠いな。
メインの攻略キャラって誰も推せないし。
ヘタレ・ドS・腹黒ショタ・脳筋・ヤンデレを通過しないと推しに会えないんだから仕方なく攻略してるのにさ、さっさと五人クリアして、そのあと勇者を落として、それでやっと出会えるんだから先は長い。何回死ねばいいんだか。
リスタートが死に戻りってトコでもう最悪なのに、攻略キャラも……。
メインキャラがこんな男ばっかりって、制作会社もよくこんなゲーム作ったね?いや、プレイした私が言うのもおかしいけどね?
キラキラ王子様と、頼りがいのある先生、可愛い年下の男の子、逞しい騎士志望の同級生、一途で甘く愛してくれる先輩――だったら王道なのに、どうしてそこを外してイヤンなキャラにするかなー、もう。
今回も攻略が上手くいかずに死に戻ったら、次はシナリオに沿ってあっちの国の王妃たちに虐められるしかないか。
待ってて、マティアーシュ様。あなたのルートに早く進めるように頑張るから!
―― レオナルド・シュタイン(子熊のミーシャ) ――
あの女、なんなんだろ。
「レオナルド様が剣を使ってらっしゃる姿、とても素敵です。将来は騎士を目指してらっしゃるんでしょう?きっと叶いますよ。だって、とっても強いんですもの」
いや、アンタにそんな事を言われても。
「私、強い方に憧れるタイプなんだなーって、レオナルド様を見て初めて知りました」
知らん。それに、レオナルドと呼ぶなって言っただろうが。親しくも無い女に名前呼びをされる意味が分からねーわっ。
レオナルドと呼んでほしい人はいつまでたっても俺の事をミーシャと呼ぶけどな!
そう、俺はまだ強くない。だから、強いと言われると「何も知らないくせに」と思ってしまう。
実際、あの女は剣の事なんかちっとも分かってねーだろうと思う。
お嬢と違って。
お嬢は凄い。力押しの俺をいなす滑らかな動きと、予想外の所から攻め込む型破りな剣筋。なのに、正統派の剣術の型も見事だ。いまだに俺は一勝も出来ていない。
悔しい気持ちももちろんあるが、それより俺は自分が成長していることを実感できるお嬢との訓練が好きだ。あの女以外でも剣の話を延々と出来るご令嬢ってのは、お嬢以外にいないと思う。
だから、あの女が俺を褒めるとむかつく。
何にも分かってねえくせにって思う。
あ、回れ道しよう。
遠目にあの女が見えた俺は、進行方向を変更する。
ご令嬢方ってーのはみんな同じに見えてたけど、あの女だけは遠くからでも一目で見分けがつくようになった。嬉しくないけど。
あ、もちろん、お嬢は別。何処に居たってどんなに遠くたって、お嬢なら一目で分かる。また、じいさまと一緒にファルナーゼに行く日が楽しみだ。
―― フィデリオ・アルカンタ ――
最近、中等部一学年の女性につきまとわれている。
「あの、この間はぶつかってしまって済みませんでした」
そう謝罪された時には何のことか分からなかったが、状況を説明されて思い出した。確か、あの時に問題ないと言った筈だったが――伝わっていなかったか?
「私、マリア・クスバートと申します。先輩はフィデリオ様……ですよね?不注意ででぶつかってしまったことを友人に話したとき、先輩の姿形を話したら、きっとフィデリオ様だろうって言われて」
「フィデリオ・アルカンタです、クスバート嬢。令嬢に言うべく事でもないが、親しくも無い、名を呼ぶ事を許されたわけでもない相手に不躾に過ぎます。向後は家名で呼ぶように。では、失礼」
そう言って去ったのはいつの事だったか。
私は物言いがきつい、無表情なので近寄りがたいとご令嬢方には思われているらしい。こちらからも特に近づこうとも思ってはいないし、煩わしい事は好まないので問題はない。
――だが、あのクスバート嬢は何を考えているのか、私が行く先々にたびたび現れては声をかけてくる。
正直、鬱陶しい。
友人たちは可愛い後輩に慕われてよかったな、などと埒も無い事を言う。なら、正直替わって欲しいと思う。
確かに見目は良いかもしれないが、あの厚かましさと不作法さは辟易する。
それに、何故か彼女を見ると、言いようのない苛立ちが沸いてくる。
これは、彼女の態度の問題ではなく、初めてその姿を見たときからだ。
関わって欲しくないのに、何故かやって来るクスバート嬢。
排除する方法は無いものか。
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