転生令嬢シシィ・ファルナーゼは死亡フラグをへし折りたい

柴 (柴犬から変更しました)

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第三章

53 心の整理が付きません

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「もしかしたら、一学期終業日のアレが関わってるんじゃないでしょうか?」


 私の耳元でスピネルが囁いたが、誘拐犯捕縛が地下組織との誼になるか?いや、噂ってのはそういうモノかもしれないけども。


 前世で言われていたことだけど「噂は人を陥れ人を殺す事も出来る」というのは真理だと思う。特に貴族階級は醜聞を嫌うのだから。

 しかし、それを言ったら、根も葉もないうわさを撒いたもの勝ちにならないか?


 もちろん、みんながみんな下らない噂話を信じる訳じゃ無いだろうし、調査の結果で裏付けも証拠も無い荒唐無稽な流言だと判明したら、噂を流した側が非難され居場所を失うだろう。


 噂の浸透度を確認すると言ってスピネルが私から離れたので、レナータ様に席を外すことを謝罪し、一人になれる場所を探すことにした。


 レナータ様もモンターニャ様もそっとしておこうと思ってくれたようで、何かあったら言ってほしい、手助けできる事があればするからと言ってくれて引き留めるようなことはしなかった。昼休みが終わる前には戻ってきてくださいませというレナータ様の言葉に頷いて教室を出る。


 心配してくれているクラスメートには申し訳ないが、私が衝撃を受けた理由は噂のせいではない。あ、いや、噂のせいではあるのだけど、犯罪者と共謀していると言う噂に怒ったり悔しがったりしている訳ではなく、もしや、これが乙女ゲームの死亡フラグである冤罪の一部なのではないかという事だ。


 気持ちの整理をして今後を考えるために、一人になりたい。


 昼休みという事で図書館へ行くほどの時間はない。


 人気のなさそうな方向へ歩いていくと、打ち捨てられた温室が目に入った。この温室はかなり昔の魔道具を使っていたために新式の魔道具を使った温室にとってかわられたと聞いている。

 取り壊しをしないのは、その旧式の魔道具が隣国のものでこの国には無い術式を組んでいるために、それを研究をしている人がいるからとか。


 幸い、その研究者は昼休みにはここに来ることがないのだろう。覗いてみたら人影は無かった。


「中身は空っぽなんだ」


 温室用魔道具の研究の為だけにとってあると言うだけあって、温室内では植物は無くがらんどうだ。今は花を愛でているだけの余裕がないからいいんだけど、空虚な空間は何かが間違っているような、身の置き所の無いといった居心地の悪さを感じさせる。


 あまり奥へ行くのも憚られ、入口を越えてすぐに温室の壁に背を預けて座り込んだ。


 乙女ゲームの強制力?とやらだったとしても、17歳で断罪されるのに12歳の今の時点で断罪の最大の理由である誘拐・人身売買グループの組成が冤罪で降りかかってきた場合、私はどうする?逃げる?


 スピネルはついてきてくれるかな。いっちゃんとそうちゃんは、うちの裏の森じゃなくても大丈夫?


 ん?スピネルといっちゃんとそうちゃんがいれば、冒険者として結構いい感じのパーティっぽくない?

 お父様とお母様から離れるのは嫌だけど、冤罪吹っ掛けられてお家が取り潰しになるよりもちょっと早い自立ということで出奔してもいいのかも。

 ほとぼりが冷めたら変装して訪ねるとか、手紙をやり取りして何処かで会うとか出来るかもだし。


 最初から決めていたじゃないか。


 もしも冤罪をかけられて断罪されるような事態になったら逃げるって。


 お父様とお母様がどこまで本気に取っているかは分からないけれど、ちゃんといざとなった時は逃げると伝えてある。公爵家継嗣として本当に申し訳ないけれど、死ぬよりはましだと思ってもらいたい。


 そもそも、さっき聞いた噂がそのまま信じられて私が罪に問われるなんてことはないと思いたい。


 でも、前世で私はなんて言った?


 マフィアのボスの娘でもあるまいし、いいトコのお嬢さんがそんな罪を犯せるわけないって言った。それに対しまっつんは「ゲームだから」とあっさり返してきた。


「でも、私は現実に生きてるし」


 良く知りもしないゲームに振り回されていることが馬鹿みたいだ。けど、生き死にに関わる事だから考えることを放棄する訳にもいかない。得意の棚上げをしている間に死亡フラグが立ったらたまらないからなぁ。


「大体、婚約もしていないのに冤罪からの断罪への道筋立つのおかしくないか!?そもそも、冤罪発生が早すぎないか!?アレは17歳の時の筈でしょーがっ。私はまだ12歳だっつーのっ!王子のクソッたれーっ!」


 王子は何もしていないんだから八つ当たりだと思いつつも怒りに任せて叫んだ時、出入り口に人の気配を感じて背筋に冷たいものが走る。

 ひえっ。誰もいないと思って馬鹿な事を叫んでしまった。


「ファルナーゼ嬢……、いや、シシィ。君も覚えていたんだな、私が君を死に追いやったことを――」


 悲壮って言葉を人の顔に模したらこんな顔だろうって位に絶望的な表情の王子様が、潤んだ瞳で私のことを見ていることを確認したときに思った。


 ――私、オワタ。


 気が付いたら崩れ落ちた私は温室の地面ににへたり込んでいた……。



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