転生令嬢シシィ・ファルナーゼは死亡フラグをへし折りたい

柴 (柴犬から変更しました)

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第三章

52 フラグが戻ってきました?

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 セバスチアーナ様は領地で初の魔獣狩り参加を果たし、それはもう嬉しそうだった。淑女としては余り喜ばしい事ではないと思うが日焼けをしている事も誇らしげだ。

 ヴィヴィアナ様は外国の珍しい風習や、こちらには無い食べ物の話などを面白おかしく語ってくれた。

 テレーザ様は終業日に言っていた通り、読書三昧だったという。


 みんな、何事もなく新学期に会えて嬉しい。これでマリア様問題がなければ万々歳の学園生活なんだけれども。



 始業日から半月ほどは特に問題も無く過ごせたのだが、今日、クラスの男子が聞き捨てならない噂を注進してくれた。




「ファルナーゼ嬢、ちょっといいか?」


「どうなさいました、モンターニャ様」


 レナータ様とお喋りをしている私に声を掛けてきたのはエドモンド・モンターニャ様。


 モンターニャ伯爵家の次男だった筈。12~13才の少年少女が在籍する中等部一学年は、基本的にまだ体の出来ていない細身で薄い体格の子が多いのだが、モンターニャ様はAクラス内で断トツに背が高く体に厚みがある。ミーシャの所と同じく騎士を輩出する家系だそうで、遺伝的に大柄な人が多いのだろう、良い筋肉をお持ちなのだ。まだ若い――と言うよりも幼いと言っていい位の年頃なので前世の兄たちに比べたら貧弱だけれど、この年でそこまで鍛えているのは素晴らしい!眼福眼福。


 モンターニャ様は席に付いている私の傍まで来ようとするも、間にスピネルが割って入った。


「エドモンド様、シシィお嬢様へのお話は私を通していただきたいのですが」


 これこれ、スピネル君。君は私の保護者ですか?うちのお父様だって、クラスメートに声をかけられた位でそこまでは言わないよ。――言わないよね?


「もちろん、お前にも聞いてほしいさ、スピネル」


 スピネルが当たり前だというように頷いているが、それはどうなの?モンターニャ様も当然のことだと受け入れているけれど、私のプライバシーとかは何処に行ったんだろう……。


「ファルナーゼ嬢が地下組織と縁が深いという噂が流れている」


「……は?お嬢様がですか?腹芸が出来なくて真っ正直でもう少し駆け引きを覚えて頂きたいと私が常々思っているお嬢様が裏家業と癒着ですか?」


 スピネルは私を庇っているのだろうか?とてもそうは思えないような私への評価は、プラスに取っていい事だとは思えない。


「分かっている。ファルナーゼ嬢は悪事を働こうものなら良心の呵責に耐えきれずに、自分で自分の首を絞めて落ちていくだろうし、そもそも平然と悪事を働けるような精神構造はしていないよな」


 これも……私は正直者だと評価されて喜ぶべきなのか、貴族としての素養が足りない令嬢だと思われていることに嘆けばいいのか分からない。大体、悪事を働いていて平気な12歳がいるとも思えない。

 モンターニャ様の表情からは、私を揶揄する意図は見受けられないが”ありがとー”と言える内容ではないよ。


 腹芸は貴族にとって必要不可欠の能力なのだ。


 いや、今はその話じゃない。私が謂れのない悪評を立てられているという事だ。


「まぁ……」


 レナータ様は言葉も無い様子。

 そうだよね、ビックリだよね。私もびっくりしたさ。


「そもそもさ、ファルナーゼ嬢の能力や性格云々の前に、12歳の女の子がどうやって地下組織と誼を得ることが出来るんだよな?そっからもう不可解。お父上のファルナーゼ公爵だったら、まだ根拠のない噂を立てられる立場だって事で話は分かるんだけどなぁ。噂の元は……いや、確証の無い事は言っちゃダメだな、うん」


 モンターニャ様が濁した言葉はここにいる誰もの頭によぎった人物の名前だろう。だが、彼女にそんな噂を流すメリットはないだろうし、流す意味も分からない。


「大丈夫、根も葉もない噂なんてすぐに忘れられるよ。ファルナーゼ嬢の麗しい顔が歪むのは見たくなかったけどさ、知らないままのヤバいだろ?お節介だとは思うけど、噂を知った上で毅然としているファルナーゼ嬢を周りに見せてほしいな、俺としては」


 うぉう。さらっと麗しいとか言っちゃったよ、この人。

 ミーシャと違って女性に対する礼儀をわきまえているジェントルな騎士様になるのだな。


「ありがとうございます、モンターニャ様。教えて頂けて良かったと思います。知らずにいて良い事だとは思えませんもの、お節介だなんて跳んでもありませんわ。感謝します」


「そうか、なら良かった。――って、スピネル、お前は何で俺を睨むんだよ?お前も知らなかったんだろ、噂の事。だったら感謝しろって」


「感謝しておりますとも。エドモンド様のご厚意は大変ありがたく思います。ですが、それが厚意では無く好意であったとしたらその芽は摘む必要があるかと思いまして」


「正直言うと美しいレディはみんな好きだ!」


 ジェントル取り消し。タラシ系か、モンターニャ様は。

 イケメンだしね。伯爵家の人だしね。今から将来の肉体美が約束されているような体型だしね。そりゃ、騎士になったらさぞモテるだろう。ってか、今からもう狙われてたりするんじゃないのかな?


「あっ――」


「どうなさいましたの、シシィ様」


「え、あ、いえ、ちょっと思い出した事があっただけですわ。なんでもありません。ご心配をおかけして申し訳ありません、レナータ様」


「まぁ、水臭い事をおっしゃらないで。私たちお友達でしょう?」


 そう言ってにっこり笑ってくれるレナータ様に、またもや抱きつきたくなったが我慢我慢。ほんと、レナータ様は私にはもったいないくらいの素敵なお友達だ。


 それはそれとして思い出した事。


 悪役令嬢のシシィ・ファルナーゼには、市井で見目の良い子を攫って売り飛ばしたっていう冤罪があった筈だ。


 王子様の婚約者でも何でもないのに、まだ中等部の一年生だと言うのに。


 消えたと思っていた乙女ゲームのフラグが戻ってきた……?


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