転生令嬢シシィ・ファルナーゼは死亡フラグをへし折りたい

柴 (柴犬から変更しました)

文字の大きさ
上 下
44 / 129
第三章

42 婚約事情

しおりを挟む


 学園に通い始めて一カ月。クラスの女子達とそこそこ仲良くなれたと思う。

 レナータ様は特別枠だけど、あとの4人の方々ともお友達に近い位の立ち位置にはなれた気がする。


 フリーニ辺境伯家のセバスチアーナ様。燃えるような赤い髪と緑の瞳。すらっとして背が高く、長剣を得意とする騎士を目指しているご令嬢。元の世界だったらお姉さまと呼ばれキャーキャー騒がれていただろうタイプだ。


 クスバート伯家のマリア様。黒髪と黒い瞳が前世の日本を彷彿とさせてちょっと郷愁を覚える。この国ではあまり見ない色彩だ。ちょっととっつきにくい所はあるけれど、いつも笑みを湛えているかなりの美人さん。


 アドルナード子爵家のテレーザ様。茶色い髪と茶色い瞳で眼鏡っ子。読書が好きそうだな――という外見のイメージに違わず乱読家なのだそう。ジャンル問わず読みあさるけれど、一番好むのは恋愛小説らしい。好きな物語を熱心に語る姿は、前世の友人であるまっつんを思わせて、懐かしくも嬉しい。


 ソルミ候家のヴィヴィアナ様。金髪で青い瞳。ちょっとキツ目の顔立ちでいかにも貴族令嬢!という感じなのかと思ったけど、話してみると気さくで穏やかな方だ。ソルミ侯爵家は子沢山で弟妹が4人もいる長女だそうで、面倒見もいい。


 Aクラス女子は、彼女たちに加えて私とレナータ様の六人。最近はこの六人で昼食を一緒にとっている。流石に女子六人の所にはスピネルも入ってこれないようで、クラスの男子と一緒に昼食を摂っている。チラチラとこちらに視線を送ってくるが、私は気が付かない事にしている。


 よし、計画通り。


 私が女友達を求めていたのは本当だけど、スピネルにも交友範囲を広げてほしかったからね。


「まぁ、では皆さま婚約者がお決まりではないのですね」


 そう言ったのはマリア様。彼女は他国の方で、お家騒動があって我が国に避難して来たそうだ。伯爵家の養女になったくらいだから、祖国でもそれなりのお家柄だったんだろう。

 きっと彼女の国では12歳にもなる貴族令嬢に婚約者がいることは当たり前で、私たちに婚約者がいない事に驚かれた様子だ。


「ええ、私たちの一つ上に第一王子殿下がいらっしゃるでしょう?殿下は18歳になるまで婚約者を決めないと仰っているので、ある程度の爵位があって年齢が近い娘を持つ家は、もしかしたら殿下の婚約者になるかもしれない――という思いがございますの」


 ヴィヴィアナ様がそう説明すると、マリア様は納得がいかないのか不思議そうな顔だ。


「いいのですか?王子殿下が婚約者を定めないなんて」


「あまり宜しくはございませんわね。国王陛下も王妃殿下もご納得はされていらっしゃらないようですが、王太后陛下が殿下の後押しをなさったそうよ。政から引かれたとはいえ、賢紀の名が高かった王太后陛下のお言葉もあって、国王陛下も強くは仰れなかったのですわ」


 レナータ様が仰る通り、王様と王妃様は王子様に早く婚約者を立てろとせっついていたみたいなんだよね。お父様から聞いた話だけど。


「私は身分的に殿下の婚約者とは成り得ませんけど、皆さまが婚約をされておりませんから家の者は様子見している感じなのです。出来れば家格の合う相手と物語のような恋がしたいので有難い風潮だと思っています」


 テレーザ様は子爵家の令嬢だからね。王子妃になるのは難しい。甘々な恋物語を呼んで恋愛や結婚に夢を見ていられる時間が確保されている今が彼女にとってはラッキーなんだろう。


「私は騎士を目指しているからね。家には跡取りの兄も婚約の決まった姉もいるし、政略的な結婚はしなくても構わないと両親に言ってもらっている」


 セバスチアーナ様は国の守りである辺境伯家を誇りに思っていて、自分もその一端を担いたいと幼い頃から思っていたと得意げに微笑んだ。

 恰好イイ人だと思う。けど、まだ12歳だからね。これからどんな出会いがあるか分からないし、恋はするものではなく落ちるものだというじゃないか。

 ――いや、そういう経験はないけども。

 騎士団なり軍なりに入って、同じ視点で国を見て共に戦える男性との結婚とかもアリだと思う。


 親世代としては家同士の契約である婚約を先延ばしにされる今の状況は有難い事ではないだろう。

 けど、乙女としてはねー。会ったこともない相手と、条件が合うってだけで自分の意見が全く入っていない婚約なんて、この年からしたくないよ。

 王子様が婚約者を定めていないのは、王家や貴族の親世代にとって頭が痛い事ではあっても、私たちの世代の女子にとってはラッキーだと思う。


「私も、元の家で事情があって婚約者はおりませんの。私を迎えてくれたクスバートの両親も急ぐことはないと言ってくれていますし、先ずは新しい生活に慣れてから、かしら?」


 そうだねー。国を越えてきたんだもん。元の家で騒動があったという位だから、精神的な安定は大事だし、この国の風習に慣れる時間も必要だ。


 他国のご令嬢だった過去があるにしても、その家が不穏ならば王子妃になるのは厳しいだろうけど、家格がそれほど高くない家相手ならばクスバート家を縁を結びたい家は幾らでもあるだろう。


 ともあれ、六人とも優先しなきゃいけない男がいる訳ではないので、女子同士できゃっきゃうふふと楽しみたいものである。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の旦那様に先立たれて~もう誰も愛せない~

岡暁舟
恋愛
私が愛した旦那様は病に倒れてしまいました。お父様は家の面子を保つため、新しい婚約者探しに明け暮れているのですが、もう誰も愛せません……。

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【コミカライズ決定】契約結婚初夜に「一度しか言わないからよく聞け」と言ってきた旦那様にその後溺愛されています

氷雨そら
恋愛
義母と義妹から虐げられていたアリアーナは、平民の資産家と結婚することになる。 それは、絵に描いたような契約結婚だった。 しかし、契約書に記された内容は……。 ヒロインが成り上がりヒーローに溺愛される、契約結婚から始まる物語。 小説家になろう日間総合表紙入りの短編からの長編化作品です。 短編読了済みの方もぜひお楽しみください! もちろんハッピーエンドはお約束です♪ 小説家になろうでも投稿中です。 完結しました!! 応援ありがとうございます✨️

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

処理中です...