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第二章
33 私、死んだんだった!
しおりを挟む――死んだときの事を覚えていますか?って言ったよね。
私、生きてるよ?
問いかけようとした時、王子様が「そうそう」と言いながら両手の平に乗るくらいの箱を私に差し出してきた。
「見舞いの品をお渡しするのが遅くなりました。ファルナーゼ嬢が茶会の席で大変褒めて下さったと侍女から報告を受けております」
渡された箱を開けるように促され、中身を確認してみる。
「殿下、これは!」
茶葉だ!小瓶が三つ。乾燥果実が入っているものや花弁が入っているもの、茶葉のみのものと三種類。
「ええ、お茶会で出されたお茶です」
やったー!心残りだったんだ。
私は病弱なせいで王子妃候補には入らない事に決まった――ファルナーゼ家で勝手に決めただけだけど――し、どこで死亡フラグが立つのか分からないことと病弱設定に信憑性を持たせることの為に参内する事も出来るだけ避ける方向に方針が決まっている。
だから、飲む機会が訪れるかどうかも怪しいお茶会で飲み逃したお茶は、とても嬉しい!
思わず小躍りしそうになって、寸でのところで思いとどまる。
ここで踊り出したら「病弱」も「病み上がり」も嘘くさくなるではないか。嘘だけども。
ここは大人しくお礼を言うべきだと判断し、それを行動に移すことにする。
「いえ、喜んでいただけて良かった。――長居をして申し訳ない。ファルナーゼ嬢が思ったよりお元気そうで安心しました。母も気にしていたので伝えたらホッとするでしょう」
え、元気そう?それはナニか。婚約者候補から外れていないという事か?
それは拙い。ここは一発目眩の振りでも……って、スピネルに大根役者とディスられたのは記憶に新しい。わざとらしくない程度に体調が悪いですよアピールするには、どう振る舞うのが正解なのだ。
特に悩む必要はなかった。王子様は私の体を労わるお言葉を残して辞去していったから。
ふぅ。私の天才的演技が見れなくて残念だったな、王子様。
スミマセン、言ってみただけです。スピネルが冷たい目で見てます。冷えっ冷えで凍り付きそうです。
王子様が帰ったから踊ってもいい?
「意外!王子様いい人だった!話は長かったけど!」
病人の見舞いに来て一時間半も居座っていったもんなぁ。ま、お茶をくれたから不問にしておいてやろうじゃないか。
「……お嬢様、お菓子をくれると言われても付いて行っちゃいけませんよ?」
「信用無い!」
呆れたようにスピネルが言われたが、こちとら中身は17歳だ。幼児に言い聞かせるようなその台詞はないだろう。
「それにしても殿下も……かもしれませんね」
「何?」
スピネルと話しながらも目は茶葉に釘付けだ。それ見たスピネルが私から茶葉を取り上げる。
おーい、それは私の!一人占めなんてけち臭い事はしないから!スピネルにも分けてあげる――というか一緒に飲もうと思っているから奪わないでー。
ソファから立ち上がって取り返そうとするも、彼のほうが背が高いため頭上に持ち上げられると私がピョンピョン跳ねても届かない。くそう。
「奪ったりしませんから落ち着いてください。これが目の前にあるとお嬢様は会話に集中でき無さそうですから」
「取られてる今の方が落ち着かないよ!」
そう訴えたら、スピネルはため息を一つ零して瓶の入った箱を私の目の前までおろしてくれた。
「お茶を淹れます。どれがいいですか?」
「え!?スピネル、お茶を淹れられるの!?」
私についていてくれてはいるけれど、お茶を淹れてくれるのはいつもメイドだったので彼がお茶を淹れられるとは知らなかった。
「お嬢様はお茶を好まれますからね。側付きとしては必要な技術だと判断し、マーサ侍女長にご教授頂きました」
ほう、出来る男だね、スピネル。
友達だとは言っても、彼はこの屋敷に仕える身だ。必要とされる技術を培う事は必要な事だろう。そうやって身分の差をあからさまにされると、友達という関係は私が無理に強いているのだろうかと考えてしまう。
でも、ここで謝ったりすることは彼の矜持に傷を付ける気がして出来ない。
私がすべきことは彼の淹れてくれたお茶を飲んでお礼をいう事だ。
「美味しい……」
褒めると決めていたけど、そんな斟酌は要らなかった。素で”美味しい”と言う言葉がこぼれた。うぉう。剣術は前世の記憶があるぶん私にアドバンテージがある筈なのに、すでに追いつかれてしまっている。魔術は魔力量は私の方が多いと言われているのに、コントロールの下手さでスピネルの足元にも及ばない。
いや、私も大分上達したよ?
座学と並行して技術面でも教育を受けているし。
ただ、繊細さに欠けると言うか細かい作業は得意としないと言うか……ようは大きな魔法を行使することは得意でも、日常で使えるこまごまとした魔法は苦手なのだ。
夢は魔法剣士!なので、頑張るよ。まだ、習い始めたばかりだし乞うご期待、というところだ。
「お嬢様、殿下の事なのですが」
私がお茶を飲んで落ち着いたころ、スピネルが先ほどの話を再開した。
「うん」
「もしかしたら殿下もお嬢様と同じかもしれないと思われませんでしたか?」
「同じ?」
「死んだときの事を覚えているかと仰っていたでしょう?」
「ああ、それね。私、生きているのに何を言ってるんだろうと思った。あれかな、王族ジョークとか」
そんなものがあるかどうかは知らないけど。
「スピネル、どうしたの、崩れ落ちる程に王族ジョークが面白かった?」
何故かスピネルが膝を付いてしまっている。そんなに受けるほどか?
「お嬢様は転生なさっていますね?」
「うん」
「ならば、お嬢様は一度命を落とされたのではないですか?」
「………………あっ!」
そうだよ!私、今は生きているけど、前世があるんだから死んでるんだよ!全くこれっぽっちも思い至らなかった!
「”あっ”じゃないですよ、”あっ”じゃ……」
スピネルが呆れたように言うけど、これは流石に呆れられても仕方のない事案だと認めよう、うん。自分で自分に呆れる位だもの、聞いた人はもっと呆れるだろうさ。
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