転生令嬢シシィ・ファルナーゼは死亡フラグをへし折りたい

柴 (柴犬から変更しました)

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第二章

28 両親に打ち明けます

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「分かった。王子殿下がいなくなればいいんだな?」


「え?何でそうなるの、お父様!?」


 私の話を真剣に聞いてくれたことは嬉しいけど、解決法が怖い。

 文官のお父様は前世の家族と違って脳筋では無い筈なのに!



 倒れたあと二日ほど強制的に静養させられた私は、お父様が時間をとれた日に告白と相談とお願いをした。

 メンバーはお父様とお母様、アーノルド、スピネル、私の五人だ。


 アーノルドには最初に獅子井桜の事を話しているし、スピネルには私のうっかり死亡フラグが口から零れちゃった案件でほぼ強制的に自白させられているのでこのメンツとなった。


 他聞を憚る話なので場所はお父様の執務室。他の使用人たちにはこの部屋に入らないようお父様が指示を出した。


 テーブルを挟んでお父様とお母様が座っているソファの対面に私が一人で座っている。

 お父様の背後にアーノルド、私の後ろにはスピネルが立っている。みんなで座って話そうと言ったら「そういう訳にはいかない」と、アーノルド・スピネル両名に秒で却下された。


 二人を立たせていては落ち着かない、というのは公爵家令嬢としてより日本の女子高校生だった生粋の庶民性質のせいだ。

 凄く年上のアーノルドとまだ子供のスピネルを立たせていることに罪悪感を覚えてしまう精神年齢17歳の気持ちも分かって欲しい――というのは無理か。


「お父様、お母様、今回は……今回も心配かけてごめんなさい。記憶が戻ったのでお話ししたい事があるの」


 そう言って、私はおよそ一年前に前世の記憶らしきものを思い出した事。その後に高熱を出して前世今世の記憶を失っていた事を話した。


 記憶が戻った切っ掛けである王子様との邂逅から、前世の乙女ゲームの話(これの説明が一番苦労した。なので分岐型の物語という事にした)、ルートによっては私は悪役令嬢として冤罪をかけられて死亡することを説明する。


 王子様と婚約してもそんな未来は来ないかもしれない。そもそもその世界と同じ運命が定められているとは限らない。そうも伝えた。

 自分では日本人の記憶を持っていると思っているけれど、もしかしたらそれは私が脳内で作り上げた妄想かもしれないとも。


「私の前世の記憶が本当だったとしても、私はその物語の中の事はほぼ知らない。友達からシシィという女の子が辿った悲惨な一生の部分を聞いただけなの。だから、確かめる術はほぼ無くて。えーと、知ってるのは、私が王子様の婚約者になるとこの家の跡継ぎがいなくなるから、他家から養子を迎えるんだけど、その人は私の一歳上でフィデリオという名前だった」


 義兄となった人の名前を出すと、お母様の顔が一瞬強張った。お父様は無表情のままだ。


「あと、これはずっと先にならないと分からないんだけど、高等部でマリアっていう黒髪と黒い目の女の子が他国から留学してくる。このマリアって子が王子様、或いはフィデリオと恋仲になると私は死ぬ……らしいデス」


 まっつん、ヘルプ!君ならきっと各ルートをやりこんだよね!?みんなに説明して欲しい、切実に。


「いきなりこんな話されても信じられないと思う。でも、お父様にお願いです。万が一の運命を回避するために、ぜーったいに王子様との婚約は阻止したい。……あ、いや、あのね?自分でも自意識過剰だとは思うんだ。なんでお茶会で倒れてご挨拶すらしてない私に婚約の話が来るという前提なんだよって」


 そう、婚約の打診が来るという前提での話なのだから、どんだけ自分に自信があるんだってことで、恥ずかしい事を言っている自覚はある。


 お父様もお母様も黙って私の話を聞いてくれた。遮ることも否定することもなく最後まで。



 そして冒頭の台詞に戻る。


「分かった。王子殿下がいなくなればいいんだな?」


 ノーーーーー―!


 婚約さえしなければ死亡フラグは立たないので穏便にお願いします。――ってかお父様


「信じてくれるの?」


 疑問を投げかければ、お父様は疑われることが心外だとでもいうように頷いてくれる。

 お母様を見れば、こちらもにっこりと微笑んでいる。


「だって……私、シシィの記憶は戻っても……心が前世の獅子井桜になっちゃってる。お父様とお母様のシシィの心が、この体からいなくなっちゃってる……」


「私たちはシシィを愛しているわ。シシィは違うの?」


 中身が私でも?そう考えると目が潤む。


「お父様とお母様が大好き。信じてくれなかったらどうしようかと思って……でも、信じて貰ったら――中身が前世の私になっちゃったら嫌われるかもしれないと思って……」


 涙腺決壊。滲んでいた涙がダーダーとこぼれ落ちる。


 そうだ。私はお父様とお母様が大好きだ。


 だから、嫌われるのが――厭われるのが怖かった。


「愛しているわシシィ」

「愛しているよ、シシィ」


 私は、獅子井桜込みで両親に愛されている。



 なんて幸せな事だろう。




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