20 / 129
第二章
19 拾ったのではなくお友達です
しおりを挟む
お父様の誤解を解くべく、私は森で遭遇した出来事について話をした。
二頭の馬が喧嘩をしていた事、原因が林檎だった事、おやつに持って行ったアップルパイで二頭が仲直りした事。
「そして!白い馬さんと黒い馬さんが友達になってくれたんです!拾って来たんじゃないよ?」
お父様に力説していると、スピネルがゴホンと咳をした。おや?と思ってそちらを見ると、彼は視線を合わせないままに「一番は僕です」と……わーっ、スピネル、可愛いねぇ。
自分が一番だと主張するスピネルが余りにもぷりちーなので、抱きつこうと両手を広げて近づいたら私が寄った分以上に後ずさられた。
うん、ごめん、匂いが怖いんだった。分かってるけど悲しい。
「お父様、一番最初のお友達はスピネルです!白いお馬さんと黒いお馬さんは、二番目と三番目のお友達」
私の言葉を聞いて口を尖らせつつも小さく頷くスピネル。あー、もー、かーわいいーなー。
『シシィ、どちらが二番だえ?』
「ん?それ大事?」
そういえば、スピネルも”一番”に拘っていた。デレたスピネルを思い出すと顔が緩んでしまう。
『あら、わたくしに決まっているでしょう?”白い馬と黒い馬””二番目と三番目”と言ってたのをメスカマキリは聞いてなかったかしら?』
『名を出した順に意味などないわ。妾が二番だろう。女狐より先に友になろうと言ったのは妾じゃしな』
『ほほほ。言ったもの勝ちだと言う訳かしら?そんな順番よりシシィの気持ちの方が大切じゃなくて?』
『なら、ますます妾が二番目の友と決まったようなものじゃな』
黒い馬さんが鼻で笑うと、白い馬さんが苛立ったか前足でカツカツと地面を蹴った。
あれれ。せっかく仲直りしたのにまた喧嘩すんのかな。さっきの喧嘩の原因は林檎だったし、今度は友達になった順番か。争いのトリガーになる物が小さすぎやしないだろうか。
「二人とも二番!同率二位!だから、次のお友達は四番。それでいいでしょ?喧嘩は無し」
お馬さん達は長だの女王だのと言っているから決して年若い訳じゃ無いと思うんだけど、こんな子どもの喧嘩してて周囲に呆れられているんじゃないだろうか。威厳とかなさそうだ。
あ、周りに見られないようにわざわざ裏側からこっちにやってきて喧嘩してたのかも。
私の仲裁で大人しくなった二頭を生暖かい目で見ていると、お父様が私と彼女たちとを見比べて首を傾げた。
「シシィ、お前は馬の言葉が分かるのか?」
はい?
「分かるも分からないもないよ。普通にお喋りしてるし」
スピネルを見て「そうだよね?」と聞けば、彼もうんうんと頷いた。まさか、お父様は彼女たちの言葉が分からないのだろうか。
疑問に思って訊ねると、お父様は彼女たちが嘶いているようにしか聞こえないという。お父様に付き従っていた使用人たちも、お父様に賛同している。
「そうなんだ?何でだろうね?お友達だからかな?」
「お嬢様、お友達になる前からお話しされておりました」
「あ、そうか。ねぇ、お馬さん達、なんで私とスピネルはお話しできるのに、お父様たちは出来ないの?」
考えても分からない事は聞くに限る。
『何故かのぅ。理由は分からぬが、以前も話の出来るものと出来ぬものはおったのぅ』
『でも、話の出来るものはとっても少なくてよ?』
ほうほう、お話しできる人間はレアなのか。私とスピネルだけじゃなく、探せばもっといるんだろう。
お父様たちにはお馬さん達の言葉が分からないので、聞く傍らから通訳する。
「以前とは?」
『以前とは以前じゃ。そうさの、妾たちが表に出なくなる前は、この国は戦をしておったの。妾もまだ長ではなく、遊びまわっていた覚えがあるわ』
お父様の質問に黒い馬さんが答える。お馬さん達の言葉は分かる人と分からない人がいるのに、人間の話す言葉はお馬さん達に通じるようだ。不思議だね。
「この国が戦争をしていた頃だって」
「はぁ!?」
お父様は声を上げた後、頭を抱えて座り込んだ。
こんなお父様の姿を見たのは初めてだ。いつもの穏やかで優しくて冷静なお父様は何処へ行ってしまったんだろう。
「シシィ。先の戦争はもう300年も前だ。この馬は……いや、シシィ、あの角はまさか本物ではないだろう?お前が遊びで付けたものだ、そうだろう?」
”うん”と言え!いや、言ってください!とばかりのお父様の懇願だが嘘は付けない。
「ううん、本物。白いお馬さんがユニコーンで、黒いお馬さんがバイコーンだって」
「ユニコーン……バイコーン……」
座り込んでいたお父様はとうとう膝をついて崩れ落ちてしまった。見れば使用人のみんなも尻もちをついたり膝を付いたりしている。なんだなんだ。よもや、流行り病に皆がかかって一斉に発病したとか?水当たりとか食当たりとか?
何も言わなくなってしまったお父様をどうしようかと思っていると、お馬さん達が自分たちを構えとばかりに鼻面を私に押し付けてきたので、思わずよろけた。
白いお馬さんも黒いお馬さんも、サイズの違いを考慮してほしい。私は、こんなにちっちゃいんだから、悪気が無くてもその巨体とそれに見合う力を持っているお馬さん達がじゃれついて来たら倒れちゃうよ。
『なにやら取り込みの様子じゃの。日を改めるとしよう』
『そうね。家の場所も覚えましたわ。また会いましょう、小さな子』
『それまでに良き名を考えておくのじゃぞ?』
『また会う時にはアップルパイを用意してくれると嬉しくてよ』
「うん、五日後にまた!ちゃんと名前を考えておくからね」
私が手を振ると、白い馬さんと黒い馬さんの姿が掻き消えた。まるで最初からそこにいなかったかのようだが、巨体につけられた足跡がそれを否定する。
「ほぉぉぉおおお。お馬さんたち凄い」
感心して拍手した私を、お父様が物申したげに見つめている。一緒に拍手したらいいのに。
二頭の馬が喧嘩をしていた事、原因が林檎だった事、おやつに持って行ったアップルパイで二頭が仲直りした事。
「そして!白い馬さんと黒い馬さんが友達になってくれたんです!拾って来たんじゃないよ?」
お父様に力説していると、スピネルがゴホンと咳をした。おや?と思ってそちらを見ると、彼は視線を合わせないままに「一番は僕です」と……わーっ、スピネル、可愛いねぇ。
自分が一番だと主張するスピネルが余りにもぷりちーなので、抱きつこうと両手を広げて近づいたら私が寄った分以上に後ずさられた。
うん、ごめん、匂いが怖いんだった。分かってるけど悲しい。
「お父様、一番最初のお友達はスピネルです!白いお馬さんと黒いお馬さんは、二番目と三番目のお友達」
私の言葉を聞いて口を尖らせつつも小さく頷くスピネル。あー、もー、かーわいいーなー。
『シシィ、どちらが二番だえ?』
「ん?それ大事?」
そういえば、スピネルも”一番”に拘っていた。デレたスピネルを思い出すと顔が緩んでしまう。
『あら、わたくしに決まっているでしょう?”白い馬と黒い馬””二番目と三番目”と言ってたのをメスカマキリは聞いてなかったかしら?』
『名を出した順に意味などないわ。妾が二番だろう。女狐より先に友になろうと言ったのは妾じゃしな』
『ほほほ。言ったもの勝ちだと言う訳かしら?そんな順番よりシシィの気持ちの方が大切じゃなくて?』
『なら、ますます妾が二番目の友と決まったようなものじゃな』
黒い馬さんが鼻で笑うと、白い馬さんが苛立ったか前足でカツカツと地面を蹴った。
あれれ。せっかく仲直りしたのにまた喧嘩すんのかな。さっきの喧嘩の原因は林檎だったし、今度は友達になった順番か。争いのトリガーになる物が小さすぎやしないだろうか。
「二人とも二番!同率二位!だから、次のお友達は四番。それでいいでしょ?喧嘩は無し」
お馬さん達は長だの女王だのと言っているから決して年若い訳じゃ無いと思うんだけど、こんな子どもの喧嘩してて周囲に呆れられているんじゃないだろうか。威厳とかなさそうだ。
あ、周りに見られないようにわざわざ裏側からこっちにやってきて喧嘩してたのかも。
私の仲裁で大人しくなった二頭を生暖かい目で見ていると、お父様が私と彼女たちとを見比べて首を傾げた。
「シシィ、お前は馬の言葉が分かるのか?」
はい?
「分かるも分からないもないよ。普通にお喋りしてるし」
スピネルを見て「そうだよね?」と聞けば、彼もうんうんと頷いた。まさか、お父様は彼女たちの言葉が分からないのだろうか。
疑問に思って訊ねると、お父様は彼女たちが嘶いているようにしか聞こえないという。お父様に付き従っていた使用人たちも、お父様に賛同している。
「そうなんだ?何でだろうね?お友達だからかな?」
「お嬢様、お友達になる前からお話しされておりました」
「あ、そうか。ねぇ、お馬さん達、なんで私とスピネルはお話しできるのに、お父様たちは出来ないの?」
考えても分からない事は聞くに限る。
『何故かのぅ。理由は分からぬが、以前も話の出来るものと出来ぬものはおったのぅ』
『でも、話の出来るものはとっても少なくてよ?』
ほうほう、お話しできる人間はレアなのか。私とスピネルだけじゃなく、探せばもっといるんだろう。
お父様たちにはお馬さん達の言葉が分からないので、聞く傍らから通訳する。
「以前とは?」
『以前とは以前じゃ。そうさの、妾たちが表に出なくなる前は、この国は戦をしておったの。妾もまだ長ではなく、遊びまわっていた覚えがあるわ』
お父様の質問に黒い馬さんが答える。お馬さん達の言葉は分かる人と分からない人がいるのに、人間の話す言葉はお馬さん達に通じるようだ。不思議だね。
「この国が戦争をしていた頃だって」
「はぁ!?」
お父様は声を上げた後、頭を抱えて座り込んだ。
こんなお父様の姿を見たのは初めてだ。いつもの穏やかで優しくて冷静なお父様は何処へ行ってしまったんだろう。
「シシィ。先の戦争はもう300年も前だ。この馬は……いや、シシィ、あの角はまさか本物ではないだろう?お前が遊びで付けたものだ、そうだろう?」
”うん”と言え!いや、言ってください!とばかりのお父様の懇願だが嘘は付けない。
「ううん、本物。白いお馬さんがユニコーンで、黒いお馬さんがバイコーンだって」
「ユニコーン……バイコーン……」
座り込んでいたお父様はとうとう膝をついて崩れ落ちてしまった。見れば使用人のみんなも尻もちをついたり膝を付いたりしている。なんだなんだ。よもや、流行り病に皆がかかって一斉に発病したとか?水当たりとか食当たりとか?
何も言わなくなってしまったお父様をどうしようかと思っていると、お馬さん達が自分たちを構えとばかりに鼻面を私に押し付けてきたので、思わずよろけた。
白いお馬さんも黒いお馬さんも、サイズの違いを考慮してほしい。私は、こんなにちっちゃいんだから、悪気が無くてもその巨体とそれに見合う力を持っているお馬さん達がじゃれついて来たら倒れちゃうよ。
『なにやら取り込みの様子じゃの。日を改めるとしよう』
『そうね。家の場所も覚えましたわ。また会いましょう、小さな子』
『それまでに良き名を考えておくのじゃぞ?』
『また会う時にはアップルパイを用意してくれると嬉しくてよ』
「うん、五日後にまた!ちゃんと名前を考えておくからね」
私が手を振ると、白い馬さんと黒い馬さんの姿が掻き消えた。まるで最初からそこにいなかったかのようだが、巨体につけられた足跡がそれを否定する。
「ほぉぉぉおおお。お馬さんたち凄い」
感心して拍手した私を、お父様が物申したげに見つめている。一緒に拍手したらいいのに。
0
お気に入りに追加
200
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。


まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ
曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。
婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。
美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。
そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……?
――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる