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第二章
18 元の場所に帰してきなさい
しおりを挟む「私と友達に――って、いいの?」
スピネルが友達になってくれるのは嬉しい。
けど、彼と私の間には”匂いが怖い問題”があるし、彼は身分やら見た目やらで拒否をしていたんだから心情的に無理をかけていないかな。
「いいんです。公爵令嬢であるお嬢様とじゃ僕は釣り合いが取れなさすぎると辞退しましたけど、馬と友たちになろうというお嬢様相手に、何を遠慮していたのかと自分でも笑えます」
「いや、笑ってないよ、スピネル」
憮然とした顔で言われても。
『焼き餅かえ?笑えるのぅ』
黒い馬さんが、こっちは本当に笑いながら言った。
『うふふふふっ。可愛らしいこと』
白い馬さんも笑ってる。
「あはははは、嬉しいなっ。スピネルと友達になれたー」
私も笑う。
みんなで笑っていると、スピネルも諦めたようにため息を一つついてから笑顔になってくれた。
「改めて、お友達宜しく。一番最初のお友達はスピネルだけど、一気に3人……人?ま、いいか、3人も友達が出来て嬉しい。私はシシィ・ファルナーゼ。こっちはスピネルだよ」
「スピネルです。お嬢様の友だち仲間として宜しくお願いします」
みんなで笑い合って雰囲気が和やかになったところで、改めて自己紹介だ。
『そのモノも友達になってあげましょう』
『良いな。妾たちとそなたも友達じゃ』
「あ、いえ、それは結構です」
「なんでよ!?みんなでお友達!決定!」
スピネルはお馬さん達と友達は嫌?そんなわがままは許しません。
友達の友達はみな友達なのだ。だから、私の友だちのスピネルと、同じく友達のお馬さん達も友達に決まっているのだ。
スピネルは不承不承ながらも頷いたので良しとする。
「お名前はなんていうの?」
『名前……』
『名前、とな』
「無いの!?」
ビックリだ。お互いを呼ぶときにはどうするんだろう……って、女狐だのメスカマキリだの言ってたなぁ、そう言えば。けど、それは名前ではありません。
「お仲間には何て呼ばれているの?」
きっとお仲間のお馬さんはもっといるだろう。
『”長”じゃな。妾はバイコーン族の長ゆえ』
『あたくしは”女王”ですわね。ユニコーン族の女王ですもの』
偉い人(?)だった!種族のトップとは知らなかった。
「ユニコーンとバイコーン?」
「伝説の動物……ですね。幻獣とか神獣とか魔獣とか、いろいろな説のある」
『そのようなもの、人間が勝手につけた名称であろう。妾は妾。バイコーン族はバイコーン族じゃ』
「そっか」
『ええ、そうですとも。あたくしはあたくし。ユニコーン族はユニコーン族。小さい子――シシィはシシィでしょう?』
「うん、そうだね」
種族がどうとか区分がどうとか気にしない。けど、名前が無いのは不便だ。
『ならば、そなたが妾に名を付けてくれるかの?』
『まぁ、それはいい考えです事。お友達で名付け親になるんですわね、シシィ』
名付け親って年とか身分とかが上の人が付けるんじゃないかな?違うかな?あ、私、スピネルの名前付けたんだから名付け親だけど、スピネルよりも上の立場と言う訳ではないんだから、気にしなくてもいいか。
「……私、スピネルの名前付けるまでに五日かかったんだ」
付けるのはいいんだけど、すぐにパッと出てきてはくれない。
「でも付けたい。待ってくれる?」
『構わぬ』
『ええ、待ちましょう』
ずっと森にいる訳にもいかないので五日後に会う約束をして、念のためにファルナーゼの屋敷まで二頭を案内する。私が彼女たちを訪ねられればいいんだけど、裏側だの狭間だのいうところに行く方法が分からない。
「あれが私とスピネルが住んでいるところだよ」
見えてきた屋敷を指さして説明する。
そうだ、屋敷の皆にもお馬さん達を紹介しておけば、彼女たちが遊びに来た時に私が気が付かなくても報せてくれるだろう。紹介するにも「名前はまだない」状態だけど。
屋敷に着いたら、使用人が「ヒッ」と喉の奥から声を漏らしたかと思うと、お帰りなさいの言葉も無く中に駆け込んでいってしまった。
「どうしたんだろう?」
「さあ、どうしたんでしょうね」
そう答えたスピネルだけど、なんでそんな諦めの境地みたいな顔をしてるんだろうね。
白い馬さんと黒い馬さんに、ここに来てくれれば会えるから遊びに来てねと説明しているうちに、お父様が珍しくも青い顔をして屋敷から駆け出してきた。
いつも穏やかな微笑みを浮かべた身なりに隙の無いお父様なのに、髪も服もそこはかとなく乱れている。
「お父様、どうしたの?なにかあった?緊急事態?」
まさか、私が留守にしている間にお母様に何かあったとか!?
「シシィっ!」
「はいっ、お父様っ!」
憤懣やるかたないといった様子のお父様は、私が聞いたこともない大声で言った。
「なんでもかんでも拾ってくるんじゃないっ!元の場所に帰してきなさい!!」
なんでもかんでもは拾ってこないよ。私が拾ったのはスピネルだけだよ。
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