19 / 129
第二章
18 元の場所に帰してきなさい
しおりを挟む「私と友達に――って、いいの?」
スピネルが友達になってくれるのは嬉しい。
けど、彼と私の間には”匂いが怖い問題”があるし、彼は身分やら見た目やらで拒否をしていたんだから心情的に無理をかけていないかな。
「いいんです。公爵令嬢であるお嬢様とじゃ僕は釣り合いが取れなさすぎると辞退しましたけど、馬と友たちになろうというお嬢様相手に、何を遠慮していたのかと自分でも笑えます」
「いや、笑ってないよ、スピネル」
憮然とした顔で言われても。
『焼き餅かえ?笑えるのぅ』
黒い馬さんが、こっちは本当に笑いながら言った。
『うふふふふっ。可愛らしいこと』
白い馬さんも笑ってる。
「あはははは、嬉しいなっ。スピネルと友達になれたー」
私も笑う。
みんなで笑っていると、スピネルも諦めたようにため息を一つついてから笑顔になってくれた。
「改めて、お友達宜しく。一番最初のお友達はスピネルだけど、一気に3人……人?ま、いいか、3人も友達が出来て嬉しい。私はシシィ・ファルナーゼ。こっちはスピネルだよ」
「スピネルです。お嬢様の友だち仲間として宜しくお願いします」
みんなで笑い合って雰囲気が和やかになったところで、改めて自己紹介だ。
『そのモノも友達になってあげましょう』
『良いな。妾たちとそなたも友達じゃ』
「あ、いえ、それは結構です」
「なんでよ!?みんなでお友達!決定!」
スピネルはお馬さん達と友達は嫌?そんなわがままは許しません。
友達の友達はみな友達なのだ。だから、私の友だちのスピネルと、同じく友達のお馬さん達も友達に決まっているのだ。
スピネルは不承不承ながらも頷いたので良しとする。
「お名前はなんていうの?」
『名前……』
『名前、とな』
「無いの!?」
ビックリだ。お互いを呼ぶときにはどうするんだろう……って、女狐だのメスカマキリだの言ってたなぁ、そう言えば。けど、それは名前ではありません。
「お仲間には何て呼ばれているの?」
きっとお仲間のお馬さんはもっといるだろう。
『”長”じゃな。妾はバイコーン族の長ゆえ』
『あたくしは”女王”ですわね。ユニコーン族の女王ですもの』
偉い人(?)だった!種族のトップとは知らなかった。
「ユニコーンとバイコーン?」
「伝説の動物……ですね。幻獣とか神獣とか魔獣とか、いろいろな説のある」
『そのようなもの、人間が勝手につけた名称であろう。妾は妾。バイコーン族はバイコーン族じゃ』
「そっか」
『ええ、そうですとも。あたくしはあたくし。ユニコーン族はユニコーン族。小さい子――シシィはシシィでしょう?』
「うん、そうだね」
種族がどうとか区分がどうとか気にしない。けど、名前が無いのは不便だ。
『ならば、そなたが妾に名を付けてくれるかの?』
『まぁ、それはいい考えです事。お友達で名付け親になるんですわね、シシィ』
名付け親って年とか身分とかが上の人が付けるんじゃないかな?違うかな?あ、私、スピネルの名前付けたんだから名付け親だけど、スピネルよりも上の立場と言う訳ではないんだから、気にしなくてもいいか。
「……私、スピネルの名前付けるまでに五日かかったんだ」
付けるのはいいんだけど、すぐにパッと出てきてはくれない。
「でも付けたい。待ってくれる?」
『構わぬ』
『ええ、待ちましょう』
ずっと森にいる訳にもいかないので五日後に会う約束をして、念のためにファルナーゼの屋敷まで二頭を案内する。私が彼女たちを訪ねられればいいんだけど、裏側だの狭間だのいうところに行く方法が分からない。
「あれが私とスピネルが住んでいるところだよ」
見えてきた屋敷を指さして説明する。
そうだ、屋敷の皆にもお馬さん達を紹介しておけば、彼女たちが遊びに来た時に私が気が付かなくても報せてくれるだろう。紹介するにも「名前はまだない」状態だけど。
屋敷に着いたら、使用人が「ヒッ」と喉の奥から声を漏らしたかと思うと、お帰りなさいの言葉も無く中に駆け込んでいってしまった。
「どうしたんだろう?」
「さあ、どうしたんでしょうね」
そう答えたスピネルだけど、なんでそんな諦めの境地みたいな顔をしてるんだろうね。
白い馬さんと黒い馬さんに、ここに来てくれれば会えるから遊びに来てねと説明しているうちに、お父様が珍しくも青い顔をして屋敷から駆け出してきた。
いつも穏やかな微笑みを浮かべた身なりに隙の無いお父様なのに、髪も服もそこはかとなく乱れている。
「お父様、どうしたの?なにかあった?緊急事態?」
まさか、私が留守にしている間にお母様に何かあったとか!?
「シシィっ!」
「はいっ、お父様っ!」
憤懣やるかたないといった様子のお父様は、私が聞いたこともない大声で言った。
「なんでもかんでも拾ってくるんじゃないっ!元の場所に帰してきなさい!!」
なんでもかんでもは拾ってこないよ。私が拾ったのはスピネルだけだよ。
1
お気に入りに追加
200
あなたにおすすめの小説

婚約破棄されなかった者たち
ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。
令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。
第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。
公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。
一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。
その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。
ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です>
【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】
今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

【コミカライズ決定】契約結婚初夜に「一度しか言わないからよく聞け」と言ってきた旦那様にその後溺愛されています
氷雨そら
恋愛
義母と義妹から虐げられていたアリアーナは、平民の資産家と結婚することになる。
それは、絵に描いたような契約結婚だった。
しかし、契約書に記された内容は……。
ヒロインが成り上がりヒーローに溺愛される、契約結婚から始まる物語。
小説家になろう日間総合表紙入りの短編からの長編化作品です。
短編読了済みの方もぜひお楽しみください!
もちろんハッピーエンドはお約束です♪
小説家になろうでも投稿中です。
完結しました!! 応援ありがとうございます✨️
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる