転生令嬢シシィ・ファルナーゼは死亡フラグをへし折りたい

柴 (柴犬から変更しました)

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第二章

12 令嬢は魔法も習いたい

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 アーノルドは呆れたような顔のまま、ベッドに横たわっているシシィに右手をかざすと何やら呟いた。するとびっくり!筋肉痛が跡形もなく消え去った。


「アーノルド!」

「楽になられましたか、シシィお嬢様」

「なった!凄く楽になった!というか、もう、どこも痛くない。アーノルド今の何?凄い、アーノルド!」


 腹筋だけで起き上がろうとして失敗し、素直に手を使って置き上がった私にアーノルドはにっこりと笑って「治癒魔法にございます」と言った。


 ま・ほ・う!


 いや、知ってた。あるのは知っていたけれど、見たのは(多分)初めてだわアーノルドの特技に驚くわで興奮するのは許してほしい。コーリン夫人がここにいたらお小言必須だけどいないから大丈夫。

 あ、ジェシーもアーノルドも秘密にしておいて?


「アーノルドが魔法が使えるの知らなかったよ、凄い!格好いい!羨ましい!」

「……今までシシィお嬢様が怪我をなさることも、ましてや筋肉痛になるほど体を動かすこともございませんでしたからね」


 嫌味か?嫌味だな?ま、それはいい。嫌味の一つや二つ気にしないから。


「私も魔法使える?」


 問題はこっちだ。使いたい、是非。今の私に魔法の知識がないのは、記憶喪失のせいなのか魔法の素養が無くて習っていないのか、どちらだろう。願わくば前者でありますように。忘れたなら、また、覚え直せばいいだけだし。


「お使いになられたいのですか?」


 アーノルドが驚いたように言う。ん?そこ、びっくりするとこ?


「お使いになりたいですっ」


 使いたいよね、普通。だって、魔法だよ!?剣も練習もがっつりして魔法の練習も頑張って魔法剣とか使えたら格好イイに決まってる。やっぱ炎とか氷とかそういうのを使った魔法剣に憧れるぅ。


 勢い込んで前のめりで言った私に、アーノルドは目を眇めて首を振る。


「剣を習い始めるのでしょう?」

「うん。でも、魔法も習いたい」

「一度に二つも習い事を増やすのは賛成出来かねます。しかも、剣と魔法など。ご令嬢がなさるのならば楽器や声楽、絵画などは如何ですか?」


 アーノルドが言うには、そもそも貴族は高い魔力を備えていることを是とする割に魔法を使う事は少ないらしい。

 次男や三男で家から離れて身を立てるものならともかく、嫡男や令嬢方は使わずに一生を終える者も少なくないとか。では、なぜ高い魔力を持つことを求められているのか。それはただのステイタスだそうだ。富んだ領地や美しい外見、高い教養や卒のない社交術と同じで”持っている事”事態に価値がある――いや、勿体なくね?あるなら使おうよ。楽しそうだし。


「……と申し上げてもシシィお嬢様は取り合ってくださいませんね。旦那様に申し上げておきます。ですが、治癒魔法に適性があるかどうかは私には判断が出来かねます」

 反対してまた剣の時のように見えない場所で危ない事をするよりは、きちんと教師を付けて把握した方がマシです、などど言いたい放題だったアーノルドだけど、お父様に話を通してくれるなら何を言っても無問題。


「記憶を失われてから性格が変わったと思っておりましたけれど、そういう所は変わりませんねぇ、シシィお嬢様」

「そういうところ?」

「ええ、知識をどん欲に吸収しようとするところ、興味を持ったことは手を出さずにいられないところですよ」

「そう?」


 ジェシーにそう言われても、私には分からない。だって、記憶喪失だから。

 私が分からないを前面に押し出しているからだろう、ジェシーが笑って肩をすくめる。


「そうですとも、ねぇ、アーノルドさま?」

「……表面的にはそうですね」


 なんか、奥歯に物の挟まったような言い方だ。意味するところを聞こうとアーノルドを見ると、彼は目を逸らした。


「深い意味はございません。では、私は旦那様の所へ参りますので――」

「ちょーっと待ったぁ!」


 部屋を出て行こうとするアーノルドを慌てて止める。


「ねぇねぇねぇねぇ。アーノルドのその魔法でス……じゃない、私が拾ってきた子も治せないの?」

 治せるものなら治してほしい。

 苛められっ子くんは、何故か私に怯えるので見舞いにすらいけないまま放置しているのだ。衰弱している子を更に負担をかける訳にもいかないので我慢しているけど、早く元気になってもらいたいし、そして仲良くもしたい。


「無理です」

「え―――」

「あの子どもは栄養不足と疲労の蓄積で弱っておりますので、ゆっくりと安静にしてしっかりと食事を摂らせるしかございません。私の治癒魔法では力及ばず申し訳ない事です」

「あ、いやいやいや、申し訳ないとか思わないで下さいっ」


 私のわがままで謝らせてしまった。此方こそ申し訳ないとベッドの上で頭を下げる。


「お嬢様、使用人に頭を下げないでください」

「え、いや、でも、悪い事をしたらゴメンナサイだし」


 私は真っ当な事を言ったのに、アーノルドもジェシーも渋面で首を横に振る。


「頭を下げないでください」


 重ねて言われて口を尖らせた私は悪くない。

 悪くないったら悪くないー!



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