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第二章
11 自主練してみた
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大熊先生と子熊ちゃんとは、初日という事で挨拶とこれからの訓練日程などを打ち合わせて終わった。
やる気満々だったのに肩透かしだ。
大熊先生は教える相手を男の子だと思っていたそうで、女の子向けの訓練を考えるために少々時間が欲しいと言ったのでそれまでは自主練だ。
子熊ちゃんは最後まで「女が剣を習うなんて!」と言ってたけど、ま、それはどうでもいい。
先ずは体力、走り込み。
「シシィお嬢様ぁぁぁああああ。しゅ、淑女がそんなはしたない恰好ではいけません―――。走ってはなりません!お嬢様ぁぁぁあああ」
マナーの先生であるコーリン夫人の声が聞こえるけど気にしないったら気にしない。お父様の許可は得ているもんね。というか、淑女が大声出すのはいいのかなー、コーリン夫人?
庭師のおじーちゃんに強請って手に入れたのは、お孫さんのものだという使い込まれて体に馴染むチュニックと柔らかいズボン。公爵令嬢のする格好ではないとさんざん言われたが、お小言は聞き流して準備運動をする。
私が高熱を出して記憶を失ったせいなのか、それ以前からそうなのかは分からないけど、お父様もお母様も私がしたい事を止めることは殆どない。剣を習う事を許されるまでには時間がかかったけど、諦めなければ折れるのはお父様とお母様だ。
両親に感謝をしつつ走り始めたら……。
「お……おかしい……ぜぇ……はぁ……。体力……無いじゃん、私」
屋敷の周りを二周しただけでこの息切れは解せぬ。
クールダウンのストレッチをしていても、あちこちが痛む。剣をやっていても体力がないとか無いよ。
30分ほど休んでから、自作の木刀を握る。これも庭師のおじーちゃんが伐採したビワの木の枝を融通してもらい、こっそりと作った物だ。
木刀をお尻に当たるまで大きく振りかぶって、つま先の前まで振り下ろす。――それでふらつくのは何故だ。
もしかして、本当にお父様の言う通りで剣を習ってなかった?いやいや、苛められっ子を助けたとき、思うように体が動いたぞ?木刀が重すぎるのかな。竹刀が欲しいけど、私の説明が下手だったのかアーノルドが差し出してきたのは竹ぼうきだったんだよな。
竹ぼうきで素振りはいただけない。格好ワルイ。
まぁいい。やっていたのに体が鈍ったなら鍛錬で取り返す。やってなかったのに森であれだけ動けたなら、やっぱり私は才能があるって事で。物事にこだわらず前向きな姿勢なのは自分の長所だと思う。
ゆっくり体を作ろう。回数をこなすよりも基本姿勢を大事にゆっくりと素振りを繰り返す。肩甲骨が広がるのが気持ちいい。やわな手が痛みを訴えるが、それをおして体を動かすことは苦痛でなく快感をもたらす。
翌日、筋肉痛で起きられなくなったけど。
「シシィお嬢様、お体の調子が……?」
筋肉痛でのたうち回っている私を心配したメイドのジェシーの優しい声が切ない。ごめんなさい、ただの筋肉痛です。そう伝えるとジェシーの心配顔が呆れ顔になった。更に切ない。
「少々お待ちくださいませ、アーノルドさまをお呼びしてまいります」
何故に家令のアーノルドを?と問う間もなくジェシーが部屋を出て行き、私は引き止めることも追いかけることも出来ずに筋肉痛に向き合うのだった。
「シシィお嬢様……一体、何をなさってるんですか」
ジェシーに連れられてやってきたアーノルドが可哀想な子を見る目で私を見ている。
あれ?こんな顔、どこかで見たような……ああ!さっき、ジェシーもこんな顔をしていた、そう言えば。
「てへっ」
可愛くテヘペロしてみたけど、効果は無かったようだ。いや、アーノルドの顔が険しくなったので逆効果という結果になってしまったらしい。無念。仕方がないので真面目に説明する。
「昨日一日トレーニングした結果です!」
「ご令嬢がこんなになるまでトレーニングする必要はありません」
「いやいやいや、これはいわゆる”良い痛み”って奴で」
「痛みに良いも悪いもございません」
おーっと、これは聞き流せませんな。
「運動後の筋肉痛ってのはね、トレーニングが効いている証拠。体を動かして筋肉に負荷をかけ、筋肉繊維が壊れる。それを修復する。修復した部分はそれ以前より強くなる。筋肉繊維が壊れたら痛いのは仕方ない。でも、その後でもっと強い筋肉になるんだがら、これは”良い痛み”なのだ!」
アーノルドは全く納得していない様子だが、ジェシーは感銘を受けたようで口がOになり、私を見る目から”可哀想な子”の色が消えた。
「さすがお嬢様です!。記憶を失われてから方向性が変わってしまいましたけれど、8歳とは思えない豊富な知識と論理的な説明の仕方は、シシィお嬢様らしくございます!」
ほーほっほっほっ。もっと褒めてくれても宜しくてよ?
「今までは、珍しい植物の育て方ですとかレース編みの新しい技術ですとかお肌の保湿液が何からできているかですとか、こちらがご教授していただいて為になる事ばかりでしたけど、為にならない事に関してもお嬢様の知識は豊富でございますのね」
あれ?褒められてない、のか?いやいや、何であれ知識があるのは良い事だ。そういう事にしておこう。
やる気満々だったのに肩透かしだ。
大熊先生は教える相手を男の子だと思っていたそうで、女の子向けの訓練を考えるために少々時間が欲しいと言ったのでそれまでは自主練だ。
子熊ちゃんは最後まで「女が剣を習うなんて!」と言ってたけど、ま、それはどうでもいい。
先ずは体力、走り込み。
「シシィお嬢様ぁぁぁああああ。しゅ、淑女がそんなはしたない恰好ではいけません―――。走ってはなりません!お嬢様ぁぁぁあああ」
マナーの先生であるコーリン夫人の声が聞こえるけど気にしないったら気にしない。お父様の許可は得ているもんね。というか、淑女が大声出すのはいいのかなー、コーリン夫人?
庭師のおじーちゃんに強請って手に入れたのは、お孫さんのものだという使い込まれて体に馴染むチュニックと柔らかいズボン。公爵令嬢のする格好ではないとさんざん言われたが、お小言は聞き流して準備運動をする。
私が高熱を出して記憶を失ったせいなのか、それ以前からそうなのかは分からないけど、お父様もお母様も私がしたい事を止めることは殆どない。剣を習う事を許されるまでには時間がかかったけど、諦めなければ折れるのはお父様とお母様だ。
両親に感謝をしつつ走り始めたら……。
「お……おかしい……ぜぇ……はぁ……。体力……無いじゃん、私」
屋敷の周りを二周しただけでこの息切れは解せぬ。
クールダウンのストレッチをしていても、あちこちが痛む。剣をやっていても体力がないとか無いよ。
30分ほど休んでから、自作の木刀を握る。これも庭師のおじーちゃんが伐採したビワの木の枝を融通してもらい、こっそりと作った物だ。
木刀をお尻に当たるまで大きく振りかぶって、つま先の前まで振り下ろす。――それでふらつくのは何故だ。
もしかして、本当にお父様の言う通りで剣を習ってなかった?いやいや、苛められっ子を助けたとき、思うように体が動いたぞ?木刀が重すぎるのかな。竹刀が欲しいけど、私の説明が下手だったのかアーノルドが差し出してきたのは竹ぼうきだったんだよな。
竹ぼうきで素振りはいただけない。格好ワルイ。
まぁいい。やっていたのに体が鈍ったなら鍛錬で取り返す。やってなかったのに森であれだけ動けたなら、やっぱり私は才能があるって事で。物事にこだわらず前向きな姿勢なのは自分の長所だと思う。
ゆっくり体を作ろう。回数をこなすよりも基本姿勢を大事にゆっくりと素振りを繰り返す。肩甲骨が広がるのが気持ちいい。やわな手が痛みを訴えるが、それをおして体を動かすことは苦痛でなく快感をもたらす。
翌日、筋肉痛で起きられなくなったけど。
「シシィお嬢様、お体の調子が……?」
筋肉痛でのたうち回っている私を心配したメイドのジェシーの優しい声が切ない。ごめんなさい、ただの筋肉痛です。そう伝えるとジェシーの心配顔が呆れ顔になった。更に切ない。
「少々お待ちくださいませ、アーノルドさまをお呼びしてまいります」
何故に家令のアーノルドを?と問う間もなくジェシーが部屋を出て行き、私は引き止めることも追いかけることも出来ずに筋肉痛に向き合うのだった。
「シシィお嬢様……一体、何をなさってるんですか」
ジェシーに連れられてやってきたアーノルドが可哀想な子を見る目で私を見ている。
あれ?こんな顔、どこかで見たような……ああ!さっき、ジェシーもこんな顔をしていた、そう言えば。
「てへっ」
可愛くテヘペロしてみたけど、効果は無かったようだ。いや、アーノルドの顔が険しくなったので逆効果という結果になってしまったらしい。無念。仕方がないので真面目に説明する。
「昨日一日トレーニングした結果です!」
「ご令嬢がこんなになるまでトレーニングする必要はありません」
「いやいやいや、これはいわゆる”良い痛み”って奴で」
「痛みに良いも悪いもございません」
おーっと、これは聞き流せませんな。
「運動後の筋肉痛ってのはね、トレーニングが効いている証拠。体を動かして筋肉に負荷をかけ、筋肉繊維が壊れる。それを修復する。修復した部分はそれ以前より強くなる。筋肉繊維が壊れたら痛いのは仕方ない。でも、その後でもっと強い筋肉になるんだがら、これは”良い痛み”なのだ!」
アーノルドは全く納得していない様子だが、ジェシーは感銘を受けたようで口がOになり、私を見る目から”可哀想な子”の色が消えた。
「さすがお嬢様です!。記憶を失われてから方向性が変わってしまいましたけれど、8歳とは思えない豊富な知識と論理的な説明の仕方は、シシィお嬢様らしくございます!」
ほーほっほっほっ。もっと褒めてくれても宜しくてよ?
「今までは、珍しい植物の育て方ですとかレース編みの新しい技術ですとかお肌の保湿液が何からできているかですとか、こちらがご教授していただいて為になる事ばかりでしたけど、為にならない事に関してもお嬢様の知識は豊富でございますのね」
あれ?褒められてない、のか?いやいや、何であれ知識があるのは良い事だ。そういう事にしておこう。
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