転生令嬢シシィ・ファルナーゼは死亡フラグをへし折りたい

柴 (柴犬から変更しました)

文字の大きさ
上 下
11 / 129
第二章

10 拾ったのは私なので最後まで面倒見るよ!

しおりを挟む


 森で苛められた子は何も喋らないので、どうしていいか分からずに連れて帰ってきた。苛めっ子たちはおそらく近所の町の子だろうとお父様が言い、なぜ一人で森へ行ったのかと小一時間の説教を食らった。ぐぅ。


「この辺りの子じゃなさそうねぇ」


 お母様が、私が拾ってきた子を見て言う。


「褐色の肌も銀の髪の色も赤い瞳も、この国では見られないもの。外国の子なのだと思うのだけれど、どうして森にいたのかしらね?」

「分からない」


 私が聞いてもだんまりだった苛められっ子は、何故かお母様が訊ねると素直に答えた。納得いかない……いや、ヒーローのように颯爽と苛めっ子から救ったと思ったのは自分だけで、この子にとっては私も彼らと同じ乱暴者のくくりなのかも?怯えられた?ちょっと気が腐るぞ、おい。

 この気持ちを素直に口にしたら、お父様にそれ見たことかと言うような顔で剣の修練を禁止されること必須なので、お口にチャックだ。


「お名前は?年は幾つ?」


 首を振る苛められっ子。……名前も分からないなんて、もしや、この子も記憶喪失!?私と一緒?一緒だね?お仲間だー!


「お母様!この子を家で保護しましょう!色合いが変わっていては孤児院にやっても苛められてしまうもの。うちなら大丈夫でしょう?私が守ってあげるの!」

「あらあらまあまあ。お父様が何と仰るかしら」


 よし、お母様は反対しなさそうだ。


「お父様にお願いしてくるっ。待っててね……えーと、名前ないと困るね?私が付けてもいい?」

 私が苛められっ子に声を掛けると、彼は何故かお母様の後ろに隠れた。

 何故だ――っ!私、そんなに怖い!?やっぱり、初対面で暴れている姿を見せたのが良くなかったか。いやいや、私としては暴れている姿じゃなくて格好いい姿を見せたつもりではあるんだけど。


 お母様の後ろに隠れつつも、名前を付けようと言う私の提案に頷いてくれたので、ちょっとホッとした。一方的な仲間意識を持たれて迷惑だろうけど、それは飲み込んでもらおう、そうしよう。

 いや、本当に嫌がられてたら諦めるよ、仕方ないもん。でも、ちょこっとずつ慣れてくれたらうれしいな。


「あなたの名前は……」

 いや、思い付きで提案したので考えてなかった。

「……」

 あ、待たれてる。どうしよう。

「ちょっと考える時間ちょーだいませっ!」

 ちゃんと考えるから!ちょっと待ってて!

 苛められっ子は、残念な子を見るような目で私を見た。名前が必要→私が付けたいとパッと思いついて口にしてしまったけど、そういうのは付ける名前を考えてから発言すべきだった、どうしよう。

 あわあわとしている私を見て、苛められっ子は仕方ないなぁとでも言うように頷いてくれた。

「うんっ、待っててね!先ずはお父様にお願いしてくるっ」


 お父様の執務室に突入――ではなく、淑女らしくお伺いしておねだりしておねだりしておねだりして了承してもらいました。やったー。やせっぽちな苛められっ子くんは、まず医師の診察を受け、栄養不足と指摘されたために療養することになった。


 その後、本人の希望を聞いて庭師なり厩番なりの下働きに付けると言われたが、これは私が独断でお断り。私の目の届かないところへやるつもりは無いのだ。守るって決めたんだからさ。

 素性の知れぬものを傍に置くのは――と難色を示したお父様に、私が拾った子なんだから最後まで私が面倒を見るのだと駄々をこね、監視を兼ねて常に屋敷の者一人を傍に付けることを条件にやっと認めて貰えた。


 そして、再度お願いした剣術の訓練は認めてもらえなかった……チッ。一つ認めて貰えた勢いで何とかなると思ったのに。

 と、いう事で、こっそりと騎士団の訓練所に変装して潜り込んだのだけど、何故かあっさりと見つかってお父様の所に連行されたのである。


「何故か……ってお嬢様、大体において子供は訓練に参加していません」


 おお、それは盲点だった!

 しかし、こっそりと騎士団に潜り込まれるくらいならとお父様が剣術の先生を手配してくれたので、結果オーライである。




 大熊と小熊……。


 お父様が呼んでくれた剣術の先生は、控えめに言って熊だった。縦横厚み全てが今まで見たこともないほどに規格外。――まぁ、記憶喪失なもんで屋敷の中の人と騎士団の人しか知らないんだけど、騎士団の人たちだって屋敷の中にいる人と比べたらすっごく逞しい。その逞しい騎士達よりも二回りくらい大きな先生は、頭髪こそやや寂しい感じだけど髭もじゃで袖をまくり上げたせいで見える腕も毛がボーボーだった。きっとすね毛も胸毛も凄いに違いない。

 先生が連れていた子熊ちゃんはお孫ちゃんだそうで、孫のお守りも兼ねて剣術の指南をしているのだという。同じ年だからということで連れてきたそうな。子熊ちゃんも同じ年とは思えない位に大きい。毛もじゃではないけれど。


「おっ、女が何で剣を習うんだよっ!」


 子熊ちゃんは挨拶もせずに開口一番こういった。


「わしも、女の子だとは聞いていなかったなぁ」


 女の子が剣を習っちゃダメですか……私、多分だけど剣を習ってたと思うんだけど。

 しゅんとした私を見て、大熊先生が「まぁ、ファルナーゼのご令嬢なら身を守る手段は持っていて損は無いだろうがなぁ」と言ってくれたので食い気味にうんうんと頷いたら、子熊ちゃんの口がへの字になった。

 むむぅ。女子供はすっこんでろとか言うタイプか、お前も子供だけどな!

 それとも、女は守るものだと言う騎士道精神か?騎士になるとしてもずっと先だろうけどな!


 とりあえず、大熊先生が了承してくれたのでほっとした。


 あとでお父様に聞いたら、大熊先生は王国騎士団の一つ、黒翼騎士団の団長さんだったそうだ。

 今はもう引退しているけれど、強さと教え上手は類を見ないとの事。


 ちなみにうちの騎士団は家名のまんまのファルナーゼ騎士団。貴族が抱える騎士団は家名を付けることになっている。今いる屋敷は王都にあるので少数だけど、領に戻ればいっぱいいるらしい。


 私がお願いしておいてなんだけど……。

 お父様、8歳の女の子の剣術修行の為に、そんな大御所を連れてくることはないと思うの。


 どうせ習うなら一流に――というお父様の気持ちは有難いので、大熊先生おねしゃーっすっ。


 ずっと後に、大熊先生を選んだのは「見た目が怖いから恐れをなして諦めるかと思った」「教え上手だが厳しさにも定評がある御仁だから、途中で投げ出すと思った」という理由が主だったという事を、すっかり剣術に嵌まった時に聞いたので「お父様、甘いですわ!おほほほほー」と令嬢っぽく高笑いしたのだが、この時の私はまだお父様の思惑なんてこれっぽっちも気付いてなかったよ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません

ゆうき
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。 そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。 婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。 どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。 実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。 それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。 これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。 ☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...