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第二章
10 拾ったのは私なので最後まで面倒見るよ!
しおりを挟む森で苛められた子は何も喋らないので、どうしていいか分からずに連れて帰ってきた。苛めっ子たちはおそらく近所の町の子だろうとお父様が言い、なぜ一人で森へ行ったのかと小一時間の説教を食らった。ぐぅ。
「この辺りの子じゃなさそうねぇ」
お母様が、私が拾ってきた子を見て言う。
「褐色の肌も銀の髪の色も赤い瞳も、この国では見られないもの。外国の子なのだと思うのだけれど、どうして森にいたのかしらね?」
「分からない」
私が聞いてもだんまりだった苛められっ子は、何故かお母様が訊ねると素直に答えた。納得いかない……いや、ヒーローのように颯爽と苛めっ子から救ったと思ったのは自分だけで、この子にとっては私も彼らと同じ乱暴者のくくりなのかも?怯えられた?ちょっと気が腐るぞ、おい。
この気持ちを素直に口にしたら、お父様にそれ見たことかと言うような顔で剣の修練を禁止されること必須なので、お口にチャックだ。
「お名前は?年は幾つ?」
首を振る苛められっ子。……名前も分からないなんて、もしや、この子も記憶喪失!?私と一緒?一緒だね?お仲間だー!
「お母様!この子を家で保護しましょう!色合いが変わっていては孤児院にやっても苛められてしまうもの。うちなら大丈夫でしょう?私が守ってあげるの!」
「あらあらまあまあ。お父様が何と仰るかしら」
よし、お母様は反対しなさそうだ。
「お父様にお願いしてくるっ。待っててね……えーと、名前ないと困るね?私が付けてもいい?」
私が苛められっ子に声を掛けると、彼は何故かお母様の後ろに隠れた。
何故だ――っ!私、そんなに怖い!?やっぱり、初対面で暴れている姿を見せたのが良くなかったか。いやいや、私としては暴れている姿じゃなくて格好いい姿を見せたつもりではあるんだけど。
お母様の後ろに隠れつつも、名前を付けようと言う私の提案に頷いてくれたので、ちょっとホッとした。一方的な仲間意識を持たれて迷惑だろうけど、それは飲み込んでもらおう、そうしよう。
いや、本当に嫌がられてたら諦めるよ、仕方ないもん。でも、ちょこっとずつ慣れてくれたらうれしいな。
「あなたの名前は……」
いや、思い付きで提案したので考えてなかった。
「……」
あ、待たれてる。どうしよう。
「ちょっと考える時間ちょーだいませっ!」
ちゃんと考えるから!ちょっと待ってて!
苛められっ子は、残念な子を見るような目で私を見た。名前が必要→私が付けたいとパッと思いついて口にしてしまったけど、そういうのは付ける名前を考えてから発言すべきだった、どうしよう。
あわあわとしている私を見て、苛められっ子は仕方ないなぁとでも言うように頷いてくれた。
「うんっ、待っててね!先ずはお父様にお願いしてくるっ」
お父様の執務室に突入――ではなく、淑女らしくお伺いしておねだりしておねだりしておねだりして了承してもらいました。やったー。やせっぽちな苛められっ子くんは、まず医師の診察を受け、栄養不足と指摘されたために療養することになった。
その後、本人の希望を聞いて庭師なり厩番なりの下働きに付けると言われたが、これは私が独断でお断り。私の目の届かないところへやるつもりは無いのだ。守るって決めたんだからさ。
素性の知れぬものを傍に置くのは――と難色を示したお父様に、私が拾った子なんだから最後まで私が面倒を見るのだと駄々をこね、監視を兼ねて常に屋敷の者一人を傍に付けることを条件にやっと認めて貰えた。
そして、再度お願いした剣術の訓練は認めてもらえなかった……チッ。一つ認めて貰えた勢いで何とかなると思ったのに。
と、いう事で、こっそりと騎士団の訓練所に変装して潜り込んだのだけど、何故かあっさりと見つかってお父様の所に連行されたのである。
「何故か……ってお嬢様、大体において子供は訓練に参加していません」
おお、それは盲点だった!
しかし、こっそりと騎士団に潜り込まれるくらいならとお父様が剣術の先生を手配してくれたので、結果オーライである。
大熊と小熊……。
お父様が呼んでくれた剣術の先生は、控えめに言って熊だった。縦横厚み全てが今まで見たこともないほどに規格外。――まぁ、記憶喪失なもんで屋敷の中の人と騎士団の人しか知らないんだけど、騎士団の人たちだって屋敷の中にいる人と比べたらすっごく逞しい。その逞しい騎士達よりも二回りくらい大きな先生は、頭髪こそやや寂しい感じだけど髭もじゃで袖をまくり上げたせいで見える腕も毛がボーボーだった。きっとすね毛も胸毛も凄いに違いない。
先生が連れていた子熊ちゃんはお孫ちゃんだそうで、孫のお守りも兼ねて剣術の指南をしているのだという。同じ年だからということで連れてきたそうな。子熊ちゃんも同じ年とは思えない位に大きい。毛もじゃではないけれど。
「おっ、女が何で剣を習うんだよっ!」
子熊ちゃんは挨拶もせずに開口一番こういった。
「わしも、女の子だとは聞いていなかったなぁ」
女の子が剣を習っちゃダメですか……私、多分だけど剣を習ってたと思うんだけど。
しゅんとした私を見て、大熊先生が「まぁ、ファルナーゼのご令嬢なら身を守る手段は持っていて損は無いだろうがなぁ」と言ってくれたので食い気味にうんうんと頷いたら、子熊ちゃんの口がへの字になった。
むむぅ。女子供はすっこんでろとか言うタイプか、お前も子供だけどな!
それとも、女は守るものだと言う騎士道精神か?騎士になるとしてもずっと先だろうけどな!
とりあえず、大熊先生が了承してくれたのでほっとした。
あとでお父様に聞いたら、大熊先生は王国騎士団の一つ、黒翼騎士団の団長さんだったそうだ。
今はもう引退しているけれど、強さと教え上手は類を見ないとの事。
ちなみにうちの騎士団は家名のまんまのファルナーゼ騎士団。貴族が抱える騎士団は家名を付けることになっている。今いる屋敷は王都にあるので少数だけど、領に戻ればいっぱいいるらしい。
私がお願いしておいてなんだけど……。
お父様、8歳の女の子の剣術修行の為に、そんな大御所を連れてくることはないと思うの。
どうせ習うなら一流に――というお父様の気持ちは有難いので、大熊先生おねしゃーっすっ。
ずっと後に、大熊先生を選んだのは「見た目が怖いから恐れをなして諦めるかと思った」「教え上手だが厳しさにも定評がある御仁だから、途中で投げ出すと思った」という理由が主だったという事を、すっかり剣術に嵌まった時に聞いたので「お父様、甘いですわ!おほほほほー」と令嬢っぽく高笑いしたのだが、この時の私はまだお父様の思惑なんてこれっぽっちも気付いてなかったよ。
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