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第二章
09 令嬢は剣を習いたい
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「シシィ、お転婆も大概にしなさい」
少年の格好をして騎士団の訓練に紛れ込んだ私は、あっさりと騎士団の面々にバレて連行され、お父様に説教されている最中だったりする。
「原因不明の高熱で三日も意識が戻らずに心配したのは、つい半月前の事だと言うのに」
やれやれと首を振るお父様。
心配をかけてしまったのは本っ当に申し訳ないと思ってます、はい。しかも、その高熱のせいなのか何なのか、私は記憶を失ってしまってたときたもんだから、お父様やお母様の心配も当然のことだと思う。
目が覚めて最初に思ったのは「ここ、どこ?」ってこと。目が覚めた私に抱きついて泣いていた美女に対し「だれ?」と思って、更に「私は誰?」状態。
そりゃもうパニックになりましたよ、3時間くらい。
近寄る人がみんな知らない人で怖くて、自分がいる場所も全く見覚えすらなくて、とどめに自分の事すらわからない。怖がって当然だと思う。
私に抱きついて泣いた美女は「お母様」で夜になって帰宅したイケメンは「お父様」。その他にも私付きのメイドのラーラや家令のアーノルド、乳母や家庭教師や他のメイドやら執事やら従僕やら屋敷にいる使用人たちの誰に会っても知らない人ばっかりだったけど、みんな優しかった。
お医者様は一時的なものか恒久的なものかは分からないと言うが、言葉や生活習慣や今まで学んだことを覚えているので、とりあえず良しとした。私が。
家族の事を覚えていないのは悲しい事だけど、私はまだ8歳だ。これからの時間の方が長いんだから、申し訳ないけど一からお願いしますと言った時、お父様もお母様も複雑な顔をしていたけど、それしかないもんね?
私はあまり考えるのに向かないようだし、割り切りが早い。なので、元々大雑把……粗雑……おおらかな性格だと思う。
私が何か言う度に、周囲が驚いたり身を引いたりするのが解せないと言ったら、記憶を失う前の「シシィ・ファルナーゼ」と今の私とでは性格が全然違うのだと言われた。淑やかで思慮深く8歳らしからぬ落ち着きのある小さな淑女だったそうだ。
自分ではどうしようもない事だけど、お父様とお母様にごめんなさいと謝る。
「シシィが元気でいてくれればそれでいいんだよ」
「お淑やかだったシシィは、本当はこんなに元気な女の子だったのね」
と、お父様もお母様も落胆することなく私を抱きしめてくれたので、ホッとする。何の記憶も無い状態で「あなたは性格が変わった」と言われても困るし、「元のシシィに戻って」と言われたとて、どうにかしようにも記憶を取り戻す方法はお医者様にだって分からないと言われたんだもん。
「だって、お父様が剣術の先生を付けてくれないし。自力でどうにかしようかと思ってー」
「いや、お前は公爵令嬢だからね?剣術なんて手を出す必要ないんだよ?」
「いやいやいや、私、剣術の素質があると思うの」
そう言いきるには理由がある。
3日前に行われた我が家のお茶会に、私は不参加だった。まぁ、病み上がりですし。私が寝込んだままだったらお茶会は中止にしたんだろうけど、幸いな事に私は回復している。なら、倒れる以前に招待したお客様方に不義理をするわけにはいかないだろうと、お茶会は予定通りに敢行された。
で、暇だった私はみんなが忙しいのをいい事にこっそりと屋敷を抜け出して裏手の森に一人ピクニックに出掛けたのだ。お茶会に出られない私の為に用意されたお茶菓子を持ってルンルンと。
そこで出会ったのは、私と同じくらいの小さな子供一人を囲んで苛めている少年たち。
それを見たらやることは一つ!
落ちている手頃な枝をひっつかんで私は言った。
「苛め、カッコワルイ!」
それで反省するようなタイプなら最初から苛めなんかしないね、うん。
予想通りに少年たちは手に持っている棒を振りかぶって私に突進してきた。正面から三人とも来たのを見たときは、あいつらが阿呆なのか私が舐められてるのかどっちだろうと思ったけど、多分、両方ともなんだと思う。
棒を振りおろされたが、首と身をよじって相手の胴を打つ。
「ふっふっふっ。抜き胴、決まったぜ!」
そこらで拾った枝だったので簡単に折れてしまったし、相手の体にダメージも無さげ。精神的にはね、ダメージがあったと思う。年下の女の子にあっさりと胴を打たれたからね。
相手が落とした棒をさっと拾って、さてお次。やはり、まっこうから打ち下ろしてくるので、かつぎ小手で相手の手にダメージを与えてやる。さあ、三人目――と思ったら逃げちゃった。お仲間さん二人も、逃げ出した少年の後を追っていく。
捨て台詞の一つでも残して行くのがお約束だろうに、無言だ。
「大丈夫?」
虐められていた男の子は、私を見てちょっと怯えた様子。なぜだ。正義の味方っぽかったと思うんだけど。
正直、いつ習ったのかは覚えていないが、以前にもやっていたの違いない。覚えていないことだらけで、いまさら更に記憶にない事が一つ二つ増えても気にならない私は、その晩にお父様に剣の練習を再開したいと直談判。
「は?何を言っているんだ、シシィ。淑女に剣は不要だよ」
何言ってんだはこっちの台詞ー!ちくそう、きっと記憶をなくす前の私があまりにお転婆だったから、忘れたことをこれ幸いと剣を辞めさせるつもりだな、お父様めっ。
周りに言われた「淑やかで思慮深く、小さな淑女」だったというのも、そうなってくれという願いが込められているに違いない。
負けないぞー!
少年の格好をして騎士団の訓練に紛れ込んだ私は、あっさりと騎士団の面々にバレて連行され、お父様に説教されている最中だったりする。
「原因不明の高熱で三日も意識が戻らずに心配したのは、つい半月前の事だと言うのに」
やれやれと首を振るお父様。
心配をかけてしまったのは本っ当に申し訳ないと思ってます、はい。しかも、その高熱のせいなのか何なのか、私は記憶を失ってしまってたときたもんだから、お父様やお母様の心配も当然のことだと思う。
目が覚めて最初に思ったのは「ここ、どこ?」ってこと。目が覚めた私に抱きついて泣いていた美女に対し「だれ?」と思って、更に「私は誰?」状態。
そりゃもうパニックになりましたよ、3時間くらい。
近寄る人がみんな知らない人で怖くて、自分がいる場所も全く見覚えすらなくて、とどめに自分の事すらわからない。怖がって当然だと思う。
私に抱きついて泣いた美女は「お母様」で夜になって帰宅したイケメンは「お父様」。その他にも私付きのメイドのラーラや家令のアーノルド、乳母や家庭教師や他のメイドやら執事やら従僕やら屋敷にいる使用人たちの誰に会っても知らない人ばっかりだったけど、みんな優しかった。
お医者様は一時的なものか恒久的なものかは分からないと言うが、言葉や生活習慣や今まで学んだことを覚えているので、とりあえず良しとした。私が。
家族の事を覚えていないのは悲しい事だけど、私はまだ8歳だ。これからの時間の方が長いんだから、申し訳ないけど一からお願いしますと言った時、お父様もお母様も複雑な顔をしていたけど、それしかないもんね?
私はあまり考えるのに向かないようだし、割り切りが早い。なので、元々大雑把……粗雑……おおらかな性格だと思う。
私が何か言う度に、周囲が驚いたり身を引いたりするのが解せないと言ったら、記憶を失う前の「シシィ・ファルナーゼ」と今の私とでは性格が全然違うのだと言われた。淑やかで思慮深く8歳らしからぬ落ち着きのある小さな淑女だったそうだ。
自分ではどうしようもない事だけど、お父様とお母様にごめんなさいと謝る。
「シシィが元気でいてくれればそれでいいんだよ」
「お淑やかだったシシィは、本当はこんなに元気な女の子だったのね」
と、お父様もお母様も落胆することなく私を抱きしめてくれたので、ホッとする。何の記憶も無い状態で「あなたは性格が変わった」と言われても困るし、「元のシシィに戻って」と言われたとて、どうにかしようにも記憶を取り戻す方法はお医者様にだって分からないと言われたんだもん。
「だって、お父様が剣術の先生を付けてくれないし。自力でどうにかしようかと思ってー」
「いや、お前は公爵令嬢だからね?剣術なんて手を出す必要ないんだよ?」
「いやいやいや、私、剣術の素質があると思うの」
そう言いきるには理由がある。
3日前に行われた我が家のお茶会に、私は不参加だった。まぁ、病み上がりですし。私が寝込んだままだったらお茶会は中止にしたんだろうけど、幸いな事に私は回復している。なら、倒れる以前に招待したお客様方に不義理をするわけにはいかないだろうと、お茶会は予定通りに敢行された。
で、暇だった私はみんなが忙しいのをいい事にこっそりと屋敷を抜け出して裏手の森に一人ピクニックに出掛けたのだ。お茶会に出られない私の為に用意されたお茶菓子を持ってルンルンと。
そこで出会ったのは、私と同じくらいの小さな子供一人を囲んで苛めている少年たち。
それを見たらやることは一つ!
落ちている手頃な枝をひっつかんで私は言った。
「苛め、カッコワルイ!」
それで反省するようなタイプなら最初から苛めなんかしないね、うん。
予想通りに少年たちは手に持っている棒を振りかぶって私に突進してきた。正面から三人とも来たのを見たときは、あいつらが阿呆なのか私が舐められてるのかどっちだろうと思ったけど、多分、両方ともなんだと思う。
棒を振りおろされたが、首と身をよじって相手の胴を打つ。
「ふっふっふっ。抜き胴、決まったぜ!」
そこらで拾った枝だったので簡単に折れてしまったし、相手の体にダメージも無さげ。精神的にはね、ダメージがあったと思う。年下の女の子にあっさりと胴を打たれたからね。
相手が落とした棒をさっと拾って、さてお次。やはり、まっこうから打ち下ろしてくるので、かつぎ小手で相手の手にダメージを与えてやる。さあ、三人目――と思ったら逃げちゃった。お仲間さん二人も、逃げ出した少年の後を追っていく。
捨て台詞の一つでも残して行くのがお約束だろうに、無言だ。
「大丈夫?」
虐められていた男の子は、私を見てちょっと怯えた様子。なぜだ。正義の味方っぽかったと思うんだけど。
正直、いつ習ったのかは覚えていないが、以前にもやっていたの違いない。覚えていないことだらけで、いまさら更に記憶にない事が一つ二つ増えても気にならない私は、その晩にお父様に剣の練習を再開したいと直談判。
「は?何を言っているんだ、シシィ。淑女に剣は不要だよ」
何言ってんだはこっちの台詞ー!ちくそう、きっと記憶をなくす前の私があまりにお転婆だったから、忘れたことをこれ幸いと剣を辞めさせるつもりだな、お父様めっ。
周りに言われた「淑やかで思慮深く、小さな淑女」だったというのも、そうなってくれという願いが込められているに違いない。
負けないぞー!
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