転生令嬢シシィ・ファルナーゼは死亡フラグをへし折りたい

柴 (柴犬から変更しました)

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第一章

06 乙女ゲーム「ローズガーデンのマリア」

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「ま、いわゆるドアマットヒロインだね」

「どあまっとひろいん……?」


 私は頼まれてチュートリアルまでプレイした乙女ゲームの話をまっつんに聞かされている。


 あんまりゲームをする方じゃない、ましてや乙女ゲームに興味のない私がなぜチュートリアルまでとはいえ乙女ゲームに手を出したかというと、よくある”お友達を紹介して便利なアイテムを手に入れよう!”的なアレを頼まれたからだ。


 まっつんにはテスト前に大変お世話になっているので、乙女ゲームを少々プレイするくらいは何でもない。


 自他ともに認める脳筋で、空手で全国大会に行ける位には体を動かすのが得意な私だが、教科書を眺めると(読むと、ではない)睡魔が襲ってくるという厄介な病持ちである。

 対してまっつんは、某全国統一テストで常に上位一ケタ~二ケタの上の方に入る才女だ。なので、テスト前はほんとーにほんとーにお世話になりっぱなしなのだ。まっつんは、いちいちテスト前だからって特別にやりこむことはしないというし。


 勉強に向かない私でも入学できた女子高に、なぜまっつんのような秀才がいるかというと、彼女曰く「近場にある高校の中でここが一番制服が可愛かった」からだそうだ。

 勉強はどこででもできるが、この制服を着るためにはこの学校に入学するしかない!と力説された時には、頭がいい人って、やっぱどこか変わってんだなーと思った。


「そう!ドアマットヒロイン!ほら、シンデレラとか白雪姫とかそうだけど、苛められても挫けずに純粋な心を失わなかったお姫様が、王子様に見初められて幸せになりましたってやつよ」

「ほうほう」

「なので、ヒロインは幼少時には苛められないといけないのです!これぞ王道!」

「ふむふむ」


 良く分からない世界の話を、分からないなりに聞いて相槌を打つ。


「で、シシィが――」

「え?私!?」


 乙女ゲームの話で、なぜ私の名前が出てくるのだ。


「え?ああ、違う違う。獅子井じゃなくてシシィ」


 まっつんがアプリを起動したスマホを私に見せてくれた。ほうほう、獅子井じゃなくてシシィね。なるほど、乙女ゲーのヒロインか。

 ちなみに私の苗字は獅子井。画数が多くて好きじゃないので簡単な苗字の人と結婚したいと常々思っている。結婚できるかどうかは分からないけど。


「違うよー、悪役令嬢」

「アクヤクレイジョウ……」


 話を聞くと、シンデレラでいう継母や継姉の役どころをする令嬢らしい。攻略対象者?の婚約者だったり妹だったりして、イケメンに近づいてきたヒロインを排除しようと動くそうだ。


「いやいや、それはイケメン婚約者と、略奪しようとするヒロインが悪いでしょ。妹は、まぁ、ブラコン?かもだけどさ」


 それに、見せてくれたスチルはヒロインと勘違いしてもおかしくないほどに儚げで可愛らしい女の子だったのだ。虐げられても折れずにいるけど脆くなってしまったような美少女である。

 こんな可愛い子がヒロインを苛めたりするのかぁ?


 と思ったら、まっつんがズラズラと並べた罪状がエゲツナイ……。


「でもねー、ステ上げさぼってマリア……あ、ヒロインの名前ね?タイトルにもなってるから変更できないんだよー。そのマリアが王子攻略のためのステを満たしてないバッドエンドだと、シシィの冤罪が晴れてざまぁ返しをされるんだよ。シシィの義兄から」


 そこでひとしきり「ざまぁ」と「ざまぁ返し」の説明を受ける。


「ん?本人がやり返すんじゃなくて?」

「うんうん、本来はそういうもんなんだけど、冤罪が晴れるころにはシシィは処刑されてるから」


 ひでぇ。冤罪で処刑だなんて、それ、本当に乙女ゲームなのか!?


「普通に考えて、貴族のいいとこ嬢がそんな犯罪を犯せるわけないじゃん。マフィアのボスの娘じゃないんだからさー」


 貴族になった事が無いから分からないが、使用人に酷く当たるとかはできても人を売り飛ばすとか娼館に落とすとか、どうやったらお嬢様がそんなアンダーグラウンド系の伝手を持てるというのだ。


「そうなんだけどねー、ほら、ゲームだから」

「冤罪なんだよね?」

「バッドエンドではね。ハッピーエンドの時は言及されなかったから、どうなのかなぁ」


 可哀想なシシィ。いや、名前が似てるからという情だけじゃなく、こんなかわいい子が冤罪で処刑だなんて、あんまりだ。乙女ゲームって酷すぎる。


「いやいや、これはちょっとニッチな乙女ゲー、かな」


 すべての乙女ゲームがこんなんじゃないらしい。まっつんに頼まれない限りやることはないだろうから、私にとって乙女ゲームは”こんなん”だ。


 私が悪役令嬢に同情したのを感じたのか、まっつんが色々とスチルを見せてくれた。


 初めての出会いはお茶会で。まだ幼い王子とシシィがいい雰囲気である。

 シシィが学園に入学する。王子様は生徒会役員で壇上からシシィを見つけて微笑む。

 王城で。王妃様と王子様とシシィでお茶を飲む。


 ヒロイン登場。魅かれていく王子。悲しむシシィ。


「こんな王子、見切りつけりゃいいのに」

「王家と高位貴族の婚約だからなぁ……。本人の意思は関係ないんじゃない?」


 シシィが気の毒過ぎて、彼女が幸せになる道は無いのかと問えば


「シシィが悪役令嬢やるのは、王子かシシィの義兄のフィデリオを攻略しようとした時。他のキャラの時はモブ同然でちらっちらっとしか出てこないけど、王子とうまくいくんじゃない、かな?」


 そうまっつんは言う。

 うん。私は王子と義兄は狙わない。


 それ以前に、このゲームをする気も無いけども。


 この時は、まさかそのゲームの世界に転がり落ちることになるとは思って無かった。……てか思わないでしょ、普通。

 そうなると知っていたら、もっとまっつんに乙女ゲームの話を聞いておいたよ、マジで。


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