うちの店長レイプ犯!?

貝鳴みづす

文字の大きさ
上 下
72 / 78
第四章『葵と結衣』

第十五話「私は彼女に、恋をします」●(少し暗い描写あります注意)■(挿絵あります注意)

しおりを挟む
「ゆいの髪は、『くせっけ』なの。ゆいもおねーさんみたいに、まっすぐなのがいいー」
「……あ…………」

 無邪気に笑う少女の台詞に、私は言葉を失ってしまった。
 ――私は、自分の髪を褒められるのだけは、だめなのだ。


『葵の髪は、とても綺麗ね――』

 頭の中に響く、忘れられない声。
 同時に数百の場面シーンが脳内で再生されるようにフラッシュバックする。

 ――私と同じ長い黒髪が、荒れて、白くなった姿。
 次第に冷たくなっていく空気。

 それまであったものが、なくなっていく。
 消える灯りと、毎夜被さる影。

 声をあげれば、なぜ、と責められる。
 知らない複数の影が、彼女と同じ、私の黒髪を痛めてくる。

 ――どうして。
 朝は痛い。昼は痛い。夜は痛い。


(……最悪だ…………)

 ひどい吐き気と頭痛がして、私は思わず頭を抑えた。
 あのとき傷んだ髪は、今はもう整っているけれど。
 ――ああ、呪いのようだ……。

「ねぇねぇ、髪ほどいてー!」
「…………いいですよ」

 少女は私の様子に気付いていない――しっかりしなくては。
 彼女の要望通りに、後ろで結んでいる髪を、そっと、ほどいてみせた。
 サラサラと流れていく黒い髪。

「わあああ! カーテンみたい!!」
 
 風になびく私の黒髪を見て、少女はキャッキャと、はしゃぐ。
 
「まっくろーーー!!」
「……黒、好きですか?」
「うんっ、おねーさんの、とってもきれいな黒色!!」
 
 きれいな黒色・・・・・・か。
 ――この子は、あのときの私の髪の色を見たら、どういう反応をするのだろう。
 思い出したくない過去に苛まれていると、少女が私の服の袖を掴んで、こちらを見上げてきた。

「ねぇ、おねーさん、あらたのおねーさんじゃなかったら、あらたのかのじょなの?」
「…………っく、……あはっ、違いますよ」

 少女の質問に思い切り吹き出しそうになるのを堪えきれず、少し笑ってしまった。
 ああ、子供の発想は面白いな。私が――いや、新様が私と付き合う訳がないでしょうが。
 天地がひっくり返ってもないと言える。
 だって彼が付き合いたいのは、ほかでもない、あなたなのだから。

「えー、じゃあ、あらたのなんなの?」
「……っく……」

 だめだ、笑い死にそうだ。
「あらたのなんなの?」ってなんだ。まるで自分の男に近寄る女に、嫉妬心丸出しの女子じゃないか。
 両思いか? 両思いなのか??

「ねー、なんなの~?」

 質問に答えずにいると、少女は何度も繰り返し聞いてきた。
 最初は面白かったが、必死に聞いてくる彼女を見ていると、なんだか笑いを通り越して苛々してきた。

「なんでもないですよ。家族でもないですし、ただここで働いているだけです」
「そうなの?」
「そうです」

 短く返す。
 ――あれ、私、どうしてこんなに苛々しているのだろう。

「じゃあ、おねーさんは、だれのかのじょなの?」
「え、ええ……?」

 少女の質問攻めに、私は困ってしまった。
 誰の彼女でもないんですけど――まあでも、誰かの彼女になるなら……。

 恋人にする相手を考えて――苛々の正体がわかった。二人が両思いなのが気に入らないのだ。
 私は、あろうことか、彼女に恋をしてしまった。
 新様が好いている、この子を好きになってしまった。

 考えてみれば、新様が結衣様に出会った日、私はすでに気付いていた。
 私がこれから守ることになるのは、彼女だと。
 『小原新が大切なもの』を守ることは、彼を守ることに等しい。
 新様が彼女を大切にするなら、私も彼女を大切にする。
 
 もしかしたらこの時点で私の心は彼の心と繋がっていて、好きな人まで共有していたのかもしれない。
 はあ、とため息をついて、私は結衣様に打ち明けた。

「付き合っている人はいませんが、好きな人ならいますよ」
「なんでつきあわないの?!」
「私が好きな人には、他に好きな人がいるからです。しかも両思いです」
「えーーー!!」
 
 私の話に、どんどん食いついてくる少女。
 本当に女の子は恋のお話が好きなんだなぁと、思わず感心してしまう。
 そして少女は、とんでもないことを言ってきた。
 
「うばっちゃえばいいんだよー!」
「え?」

 ……奪うって、新様から、あなたを?
 自分のことだと思っていないからって、よくもまあそんなことを言ってくれる。

「それはできません。その相手ライバルも、私にとって大切な人なのです」

 そうだ。彼から想い人を奪うなんて、到底できない。できる立場でもない。そもそも、それをすると根本から崩れる。意味がない。
 自分が、彼女のことを好きになった事実は認める。
 けれどそれだけの話で、それ以上はない。

「うーーーん」

 少女は長い間唸ってから、ポンと手を打った。

「ゆい、いいこと思いついた!」
「はい?」
「三人でなかよくすればいいんだよ!!」
「…………え?」

 名案とばかりに目を輝かせる少女に、私は固まった。
 ――いや、まって、それでいいの? これ、あなた達の話だけど。

「みんな大切なら、みんなでなかよく、つきあえばいいよっ!」
「いや、それはさすがに……」
「ゆいはそれがいい!」

 にこにこと笑顔を振りまく少女。
 なんの疑いもないその言葉に、さすがの私も笑ってしまった。
 三人でなかよく、か。まあそれなら、アリかもしれない。あくまで私は、の話だが。
 だいたい本人が、それがいいと言ったのだ。自分で言ったことには責任を取ってもらおう。

「その言葉、後悔なさらないで下さいね?」
「うん!」

 頷く少女。
 今この瞬間、自分が何を言っているのか、わかっていないのだろうけれど。
 そしてなにより新様がいないところで勝手に決めて、彼には本当に申し訳ないが――私はこのとき、彼女の言う通りにしようと決めた。
 「奪う」でも「諦める」でもなく、「三人でなかよくする」という選択肢。

「がんばってねえええ!」
「はい、頑張りますね」

 内心、「大変なのはあなたですよ」と笑いながら、私は小原家を後にする少女に手を振った。

 ――私は彼女に、恋をします。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

性欲の強すぎるヤクザに捕まった話

古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。 どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。 「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」 「たまには惣菜パンも悪くねぇ」 ……嘘でしょ。 2019/11/4 33話+2話で本編完結 2021/1/15 書籍出版されました 2021/1/22 続き頑張ります 半分くらいR18な話なので予告はしません。 強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。 誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。 当然の事ながら、この話はフィクションです。

完結【R―18】様々な情事 短編集

秋刀魚妹子
恋愛
 本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。  タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。  好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。  基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。  同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。  ※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。  ※ 更新は不定期です。  それでは、楽しんで頂けたら幸いです。

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

処理中です...