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第四章『葵と結衣』
第五話「ペット禁止」
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「葵が言いたいことはわかった。――けれど、だったら尚の事、君が運転をするべきだと思うよ。何かあったとき、僕が運転しているのと、君が運転しているの、どちらが結衣を守れると思う?」
自分は運転が下手だという意味なのに、なぜか勝ち誇った顔をしている新。「たしかに」と葵は頷く。
葵は苦手なものが殆どない。
幼い頃から様々な訓練を受けていた。当然、車の運転も例外ではない。普段の安全運転は勿論、ドラマのような展開になっても、葵は切り抜ける自信があった。
「わかりました。では、引き続き運転は私が致します」
納得して軽く頭を下げる葵。
完全に和解したと、葵と話すのを止めて結衣の方を向く新。
「結衣」
「あっ……? は、はい?」
突然話しかけられて、結衣は驚く。
先程から蚊帳の外で、ぼんやりしていたようだ。
――こんな寒い中。外で話していないで、早く車に乗ればいいのに。
一人、運転席で待たされている葵はそう思いながら、エンジンをかける。
新は、結衣の目線に合わせて少しかがんだ。
急に距離が近くなったためか、結衣は緊張して朱に染まった顔を思わず伏せる。
「とりあえず籍を入れるのはまだだとしても、同棲はしてくれるよね?」
新の真剣な眼差し。
当然結衣は頷く――訳もなく、
「えっ」
なんのことかわからない、といった表情をする結衣に、溜め息をつく新。
「えっじゃないよ、えっ、じゃ」
さすがにこの流れは二度目なので、そうくると思っていた新は、あからさまに機嫌を悪くした。
「今回は拒否しても無駄。結衣の部屋は僕が責任を持って解約しておくから、引っ越し準備をするように」
「え、えええっ!? ちょっとま――」
新は、困惑する結衣を後部座席に押し込む。
彼女が借りている部屋は、新が手を回した物件だ。やろうと思えば彼女の意思と関係なく、解約することもできるはずだ。
それにしても無理矢理ではある。
新はよほど結衣と一緒に暮らしたいのだろう。
普段何事にも動じない新が、結衣に対してだけこんな風に感情的になるのだ。
その姿が可笑しくて、葵は笑いたくなるのを必死に堪えた。
車に乗せられて、このまま拉致されるのかと狼狽える結衣。
そんな結衣に構わず新は説明しはじめた。
「海辺の別荘の方。とりあえず仮で、そっちを住居にしよう」
「えっと……」
「ほら、二回えっちしたとこ」
「わーーっ! わかってます!! 昨日のとこですよね……!」
はっきり言う新に、結衣は顔を真っ赤にして答えた。
決して空いているとはいえない駐車場。
周りにはちらほらと人がいるのに、新は全く構う素振りはない。
おそらくこの新には結衣しか見えていないのだろう。
「僕の会社の近くにマンション借りているのだけど、ペット禁止だから無理だし。他は遠いし。家は、結婚するときにちゃんと考えよう」
「……ペットって、もしかして私のことを言ってます?」
「え、そうだけど??」
「私ペットじゃないんですけど!」
突然のペット扱いに、抗議の声を上げる結衣。
これには葵も笑って、結衣を追撃した。
「わんわんにゃんにゃん鳴くので、ペットに違いありません。よく鳴く個体なので、ペット禁止のマンションでは飼えないでしょう」
「そんなこと……う、うぅぅ……っ」
違うとは言い切れず、今にも泣き出しそうな結衣。
その表情が、さらに劣情を煽るというのに。
葵はもっと彼女を虐めたくて、興奮してしまう。
(あー、可愛い! なんなら今すぐここで、にゃんにゃん鳴かせたい!)
新も同じようなことを思っているのだろう。
しかしなんとか抑えたのか、コホンと咳払いをして、運転席の葵に目を遣った。
「僕は仕事があるから、タクシーで本社に行くよ。葵は一旦結衣と彼女の部屋に行って。最低限の荷物持って、うちに連れて行って」
「了解致しました」
「ちょ、ちょっと! 私まだ同棲するって言ってな――」
葵が頷いたのを確認して、新は車の扉を閉める。
結衣の言葉は全く聞いていない。
「では結衣様、出発しますね」
「……お願いします」
新と同じく全く話を聞く気がない葵は、結衣に笑顔を向けると彼女は全てを諦めたような表情をしていた。
こうなっては、何を言っても無駄なのを、経験上理解してしまっているのだろう。彼女はそれ以上、文句を言うことはなかった。
自分は運転が下手だという意味なのに、なぜか勝ち誇った顔をしている新。「たしかに」と葵は頷く。
葵は苦手なものが殆どない。
幼い頃から様々な訓練を受けていた。当然、車の運転も例外ではない。普段の安全運転は勿論、ドラマのような展開になっても、葵は切り抜ける自信があった。
「わかりました。では、引き続き運転は私が致します」
納得して軽く頭を下げる葵。
完全に和解したと、葵と話すのを止めて結衣の方を向く新。
「結衣」
「あっ……? は、はい?」
突然話しかけられて、結衣は驚く。
先程から蚊帳の外で、ぼんやりしていたようだ。
――こんな寒い中。外で話していないで、早く車に乗ればいいのに。
一人、運転席で待たされている葵はそう思いながら、エンジンをかける。
新は、結衣の目線に合わせて少しかがんだ。
急に距離が近くなったためか、結衣は緊張して朱に染まった顔を思わず伏せる。
「とりあえず籍を入れるのはまだだとしても、同棲はしてくれるよね?」
新の真剣な眼差し。
当然結衣は頷く――訳もなく、
「えっ」
なんのことかわからない、といった表情をする結衣に、溜め息をつく新。
「えっじゃないよ、えっ、じゃ」
さすがにこの流れは二度目なので、そうくると思っていた新は、あからさまに機嫌を悪くした。
「今回は拒否しても無駄。結衣の部屋は僕が責任を持って解約しておくから、引っ越し準備をするように」
「え、えええっ!? ちょっとま――」
新は、困惑する結衣を後部座席に押し込む。
彼女が借りている部屋は、新が手を回した物件だ。やろうと思えば彼女の意思と関係なく、解約することもできるはずだ。
それにしても無理矢理ではある。
新はよほど結衣と一緒に暮らしたいのだろう。
普段何事にも動じない新が、結衣に対してだけこんな風に感情的になるのだ。
その姿が可笑しくて、葵は笑いたくなるのを必死に堪えた。
車に乗せられて、このまま拉致されるのかと狼狽える結衣。
そんな結衣に構わず新は説明しはじめた。
「海辺の別荘の方。とりあえず仮で、そっちを住居にしよう」
「えっと……」
「ほら、二回えっちしたとこ」
「わーーっ! わかってます!! 昨日のとこですよね……!」
はっきり言う新に、結衣は顔を真っ赤にして答えた。
決して空いているとはいえない駐車場。
周りにはちらほらと人がいるのに、新は全く構う素振りはない。
おそらくこの新には結衣しか見えていないのだろう。
「僕の会社の近くにマンション借りているのだけど、ペット禁止だから無理だし。他は遠いし。家は、結婚するときにちゃんと考えよう」
「……ペットって、もしかして私のことを言ってます?」
「え、そうだけど??」
「私ペットじゃないんですけど!」
突然のペット扱いに、抗議の声を上げる結衣。
これには葵も笑って、結衣を追撃した。
「わんわんにゃんにゃん鳴くので、ペットに違いありません。よく鳴く個体なので、ペット禁止のマンションでは飼えないでしょう」
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違うとは言い切れず、今にも泣き出しそうな結衣。
その表情が、さらに劣情を煽るというのに。
葵はもっと彼女を虐めたくて、興奮してしまう。
(あー、可愛い! なんなら今すぐここで、にゃんにゃん鳴かせたい!)
新も同じようなことを思っているのだろう。
しかしなんとか抑えたのか、コホンと咳払いをして、運転席の葵に目を遣った。
「僕は仕事があるから、タクシーで本社に行くよ。葵は一旦結衣と彼女の部屋に行って。最低限の荷物持って、うちに連れて行って」
「了解致しました」
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葵が頷いたのを確認して、新は車の扉を閉める。
結衣の言葉は全く聞いていない。
「では結衣様、出発しますね」
「……お願いします」
新と同じく全く話を聞く気がない葵は、結衣に笑顔を向けると彼女は全てを諦めたような表情をしていた。
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