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第三章『新と結衣』
第三章最終話「ここからはじまる、不思議な関係」
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凍てつく空気に震える結衣。
その空気が読めないのか、読めるけどわざとやっているのか。
新はさらに続ける。
「『結衣ちゃん』はわかるけど、『葵ちゃん』はないでしょ。年齢的に」
「あーーーっ、あらた! ストップ、ストップ!! いくら長い付き合いだからって、女子に年齢の話題はなしなし! そ、そうだ! や……焼き肉が食べたいなぁ~……?」
葵をこれ以上怒らせたくない一心で、結衣は適当に思いついたことを言った。
「焼き肉?」
新が食いつく。
「そ、そうそう! 私、貧乏生活なので、まともなご飯を食べてないんです! 新の奢りで食べたいなぁ~……?」
少し甘えるように、新を見上げて言う。
とにかく必死だった。もしかしたら声が少し震えていたかもしれない。
「新様、結衣様の主食はコンビニの巨大おにぎりです」
結衣の話題に、どうにか葵も食べに来てくれた。
「特に夜は割引されていて狙い目です。ツナが売り切れていると落ち込みます」
よかった、完全に気をそらせた。ほっとする結衣。おにぎりの情報を流すのは余計だが。
「ちょ……結衣、そういうことは早く言って?」
結衣が貧乏なのは知っていたが、そこまで切り詰めていたとは思わなかった。しまった、もっと考えてあげるべきだった。後悔する新。
「田中さんも行きましょ、焼き肉。ってあれ」
今日は仕事を放置して(いつも放置しているが)、店の皆で焼き肉に行く流れになっていた。
しかし田中はいない。
いつの間にか消えていた。
「散歩じゃない?」
「散歩って、それキャラ設定ですよね。もう必要ないのに……」
サボるのが習慣化してしまったのだろうか。なんだかとても申し訳なくなる結衣だった。
事務所の戸締まりを終わらせて、三人は外に出る。
「あ、そうそう」と言って、なんでもないことのように振り返る新。
二人をゆっくり交互に見て、言った。
「――君ら、ヤったでしょ」
「――っ」
バレてた。
結衣は慌てる。やばい、怒られる。
「な、なんのこと」
はぐらかそうとする結衣だったが、それを葵が台無しにする。
「つまみ食い程度です。イかせてませんよ?」
「……なんで余計なこと言うんですか……」
怒られると思っていたら、新は意外にも全くそんな素振りはなく。
むしろ、とんでもないことを言い出す。
「まぁ別にいいよ。葵となら、寝ても」
「はっ……はあっ?!」
これにはさすがの結衣も声が裏返った。
「何言ってるんですか! 正気ですか!? そこは怒るところですよ!?」
怒られるのは怖かったが、許されるのはそれ以上に怖い。――だって。
「よかったです。これで堂々と食べれます」
「あああああっ! ほらあっ! 新のせいでっ! 今この瞬間、ボディガードが誰よりも危険人物になりましたよ!?」
☆
もちろん新も結衣を一人占めしたかったけれど。
新はいつでも彼女の側にいれるわけではないから。自分よりも結衣の側にいることになるであろう葵と、仲良くして欲しかったのだ。
おそらく、葵に結衣との距離を置かせたら、結衣はまた独りになる。
結衣を孤独にさせたらどうなる? ――考えるだけで恐ろしかった。
けれど寝ることを許せば、こんな風に結衣は明るい笑顔を見せてくれる。
――葵なら大丈夫。そう信じていた。
前提として女だし、なにより新が結衣のことを大事にしているのと同じくらい、葵も結衣を大事にしているのを知っている。
そして葵は結衣のことが大事だから、彼女を抱いている。
それはつまり、新が思っているのと同じで、結衣を一時でも「寂しい」という気持ちにさせないためだ。
当然、本当の意味で結衣を寝取ったりはしない。
新と葵で結衣を取り合う。
――ちょっと変な関係だけれど。
それで結衣が元気でいてくれるなら、構わない。
「さあ焼き肉いくよー。てか結衣、僕の嫁になるのに、毎日おにぎりとか許さないから。嫁お腹空かせるとか、夫失格だし」
「え、新がご飯作ってくれるの?」
「……結衣様、ご自分で作るという発想にはならないのですか?」
「まったくもう。お金は出すから、ちゃんと作るんだよ?」
「作る? 私が……料理を……? 料理ってなんだっけ……」
「……」
「……」
料理といわれて、何も浮かばないのか。
それはつまり、全く作ったことがないと言っているようなものである。
――これは、花嫁修業期間を設けて正解だったかもしれない。
確信した二人なのであった。
――第四章につづく――
その空気が読めないのか、読めるけどわざとやっているのか。
新はさらに続ける。
「『結衣ちゃん』はわかるけど、『葵ちゃん』はないでしょ。年齢的に」
「あーーーっ、あらた! ストップ、ストップ!! いくら長い付き合いだからって、女子に年齢の話題はなしなし! そ、そうだ! や……焼き肉が食べたいなぁ~……?」
葵をこれ以上怒らせたくない一心で、結衣は適当に思いついたことを言った。
「焼き肉?」
新が食いつく。
「そ、そうそう! 私、貧乏生活なので、まともなご飯を食べてないんです! 新の奢りで食べたいなぁ~……?」
少し甘えるように、新を見上げて言う。
とにかく必死だった。もしかしたら声が少し震えていたかもしれない。
「新様、結衣様の主食はコンビニの巨大おにぎりです」
結衣の話題に、どうにか葵も食べに来てくれた。
「特に夜は割引されていて狙い目です。ツナが売り切れていると落ち込みます」
よかった、完全に気をそらせた。ほっとする結衣。おにぎりの情報を流すのは余計だが。
「ちょ……結衣、そういうことは早く言って?」
結衣が貧乏なのは知っていたが、そこまで切り詰めていたとは思わなかった。しまった、もっと考えてあげるべきだった。後悔する新。
「田中さんも行きましょ、焼き肉。ってあれ」
今日は仕事を放置して(いつも放置しているが)、店の皆で焼き肉に行く流れになっていた。
しかし田中はいない。
いつの間にか消えていた。
「散歩じゃない?」
「散歩って、それキャラ設定ですよね。もう必要ないのに……」
サボるのが習慣化してしまったのだろうか。なんだかとても申し訳なくなる結衣だった。
事務所の戸締まりを終わらせて、三人は外に出る。
「あ、そうそう」と言って、なんでもないことのように振り返る新。
二人をゆっくり交互に見て、言った。
「――君ら、ヤったでしょ」
「――っ」
バレてた。
結衣は慌てる。やばい、怒られる。
「な、なんのこと」
はぐらかそうとする結衣だったが、それを葵が台無しにする。
「つまみ食い程度です。イかせてませんよ?」
「……なんで余計なこと言うんですか……」
怒られると思っていたら、新は意外にも全くそんな素振りはなく。
むしろ、とんでもないことを言い出す。
「まぁ別にいいよ。葵となら、寝ても」
「はっ……はあっ?!」
これにはさすがの結衣も声が裏返った。
「何言ってるんですか! 正気ですか!? そこは怒るところですよ!?」
怒られるのは怖かったが、許されるのはそれ以上に怖い。――だって。
「よかったです。これで堂々と食べれます」
「あああああっ! ほらあっ! 新のせいでっ! 今この瞬間、ボディガードが誰よりも危険人物になりましたよ!?」
☆
もちろん新も結衣を一人占めしたかったけれど。
新はいつでも彼女の側にいれるわけではないから。自分よりも結衣の側にいることになるであろう葵と、仲良くして欲しかったのだ。
おそらく、葵に結衣との距離を置かせたら、結衣はまた独りになる。
結衣を孤独にさせたらどうなる? ――考えるだけで恐ろしかった。
けれど寝ることを許せば、こんな風に結衣は明るい笑顔を見せてくれる。
――葵なら大丈夫。そう信じていた。
前提として女だし、なにより新が結衣のことを大事にしているのと同じくらい、葵も結衣を大事にしているのを知っている。
そして葵は結衣のことが大事だから、彼女を抱いている。
それはつまり、新が思っているのと同じで、結衣を一時でも「寂しい」という気持ちにさせないためだ。
当然、本当の意味で結衣を寝取ったりはしない。
新と葵で結衣を取り合う。
――ちょっと変な関係だけれど。
それで結衣が元気でいてくれるなら、構わない。
「さあ焼き肉いくよー。てか結衣、僕の嫁になるのに、毎日おにぎりとか許さないから。嫁お腹空かせるとか、夫失格だし」
「え、新がご飯作ってくれるの?」
「……結衣様、ご自分で作るという発想にはならないのですか?」
「まったくもう。お金は出すから、ちゃんと作るんだよ?」
「作る? 私が……料理を……? 料理ってなんだっけ……」
「……」
「……」
料理といわれて、何も浮かばないのか。
それはつまり、全く作ったことがないと言っているようなものである。
――これは、花嫁修業期間を設けて正解だったかもしれない。
確信した二人なのであった。
――第四章につづく――
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