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第三章『新と結衣』
第二十五話「全員集合」
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小さな事務所に、今日は四人も集まっていた。
新、結衣、市松、田中。
本当は四人揃うのが当然なのだが。結衣がこの会社に入ってからそれを見るのは、はじめてのことだった。
――なぜなら。
店長の新は、本来の職場である他の会社を見なくてはいけないので、あまり店には来ない。来たくても来れない。
市松は、その新の秘書兼ボディ―ガードなので、こちらも来れない。いや、実際のところよく来ていたのだが、姿を見せることはしなかった。
結衣は田中に「もう一人社員がいるのよ」と聞いていて。謎だなと思ってはいたが、実際市松に会ってみると、想像以上に謎の人物だった。
そして田中。唯一ほぼ毎日いる彼女は、結衣を和ませるために『わざとサボる』ことをしなくてはいけなかったので、とにかくよく散歩にでていた。
暇だし、仕事をくれないし、社員は不真面目で、店は大赤字。
それなのに店長の新はなぜか、お金持ち。
ずっとおかしいとは思っていたが、面倒なので考えないようにしていた。
――それが蓋を開けてみればこれである。
「なんかもう……私の為にホントごめんなさい、としか言えないです……」
ここにいる全員、結衣の過去を知っていて、彼女を元気付ける為に演技をしていたのだ。
申し訳ないやら、恥ずかしいやらで、結衣は下を向いている。
「お二人が無事にくっついて、私はとても嬉しいです」
市松は心底嬉しそうにしている。
実際、二人のことを誰よりも考えていて。新と結衣の為ならなんでもすると、命を懸けている市松だ。この日をどんなに待ち望んでいたことか。
「よかったわね、結衣ちゃん! わたしも毎日サボってきた甲斐があったってものだわ!」
「田中さん……」
いつもと変わらずバンバン肩を叩いてくる田中に、結衣は涙腺が緩みそうになる。――この人は仕事をサボっていたのではなく、仕事をサボる仕事をさせられていたのだ、私の為だけに、と。
「これで堂々といちゃいちゃできる~~」
「あっ、ちょっ、ちょっと!」
新がニヤけた顔で、後ろから結衣を抱きしめてくる。
それだけならまだしも、服の上から胸を触ってきたので、結衣は怒った。
「ひ、人が見ている前で、何するんですか……っ!」
しかしその言葉に、結衣以外の全員が笑う。
「……??? なんで笑うの」
新に抱かれた体勢のままで、結衣は固まる。
――なにか、いやな予感がする。
「人が見ているって、結衣、いつも見られてるよ?」
当然のことのように、新は言う。
「いくらなんでも、毎回タイミングよく散歩から帰ってくるのは難しいわね~? うふふ」
楽しそうに、田中が微笑む。
とどめとばかりに、市松がとびきりの笑顔を見せた。
「結衣様のことなら何でも知っております。よく使うオナニーのネタも、推しのBLカップルも。最近は」
「あああああーーーーーーーっっっ!!!!」
結衣は市松の言葉を遮るように、絶叫する。
田中に見られていたこともショックだったが。
それ以上に市松はなぜ、そういうことを知っているのか。
――あのとき橋の上で、そしてあの夜ベッドの上で、結衣のことを「何でも知っている」と言っていたのは本当だったのか。
「……私に! 私にっ! プライバシーっていうものはないんですかっ!?」
泣き出す結衣に、全員が口を揃えて「ない」と言った。
新、結衣、市松、田中。
本当は四人揃うのが当然なのだが。結衣がこの会社に入ってからそれを見るのは、はじめてのことだった。
――なぜなら。
店長の新は、本来の職場である他の会社を見なくてはいけないので、あまり店には来ない。来たくても来れない。
市松は、その新の秘書兼ボディ―ガードなので、こちらも来れない。いや、実際のところよく来ていたのだが、姿を見せることはしなかった。
結衣は田中に「もう一人社員がいるのよ」と聞いていて。謎だなと思ってはいたが、実際市松に会ってみると、想像以上に謎の人物だった。
そして田中。唯一ほぼ毎日いる彼女は、結衣を和ませるために『わざとサボる』ことをしなくてはいけなかったので、とにかくよく散歩にでていた。
暇だし、仕事をくれないし、社員は不真面目で、店は大赤字。
それなのに店長の新はなぜか、お金持ち。
ずっとおかしいとは思っていたが、面倒なので考えないようにしていた。
――それが蓋を開けてみればこれである。
「なんかもう……私の為にホントごめんなさい、としか言えないです……」
ここにいる全員、結衣の過去を知っていて、彼女を元気付ける為に演技をしていたのだ。
申し訳ないやら、恥ずかしいやらで、結衣は下を向いている。
「お二人が無事にくっついて、私はとても嬉しいです」
市松は心底嬉しそうにしている。
実際、二人のことを誰よりも考えていて。新と結衣の為ならなんでもすると、命を懸けている市松だ。この日をどんなに待ち望んでいたことか。
「よかったわね、結衣ちゃん! わたしも毎日サボってきた甲斐があったってものだわ!」
「田中さん……」
いつもと変わらずバンバン肩を叩いてくる田中に、結衣は涙腺が緩みそうになる。――この人は仕事をサボっていたのではなく、仕事をサボる仕事をさせられていたのだ、私の為だけに、と。
「これで堂々といちゃいちゃできる~~」
「あっ、ちょっ、ちょっと!」
新がニヤけた顔で、後ろから結衣を抱きしめてくる。
それだけならまだしも、服の上から胸を触ってきたので、結衣は怒った。
「ひ、人が見ている前で、何するんですか……っ!」
しかしその言葉に、結衣以外の全員が笑う。
「……??? なんで笑うの」
新に抱かれた体勢のままで、結衣は固まる。
――なにか、いやな予感がする。
「人が見ているって、結衣、いつも見られてるよ?」
当然のことのように、新は言う。
「いくらなんでも、毎回タイミングよく散歩から帰ってくるのは難しいわね~? うふふ」
楽しそうに、田中が微笑む。
とどめとばかりに、市松がとびきりの笑顔を見せた。
「結衣様のことなら何でも知っております。よく使うオナニーのネタも、推しのBLカップルも。最近は」
「あああああーーーーーーーっっっ!!!!」
結衣は市松の言葉を遮るように、絶叫する。
田中に見られていたこともショックだったが。
それ以上に市松はなぜ、そういうことを知っているのか。
――あのとき橋の上で、そしてあの夜ベッドの上で、結衣のことを「何でも知っている」と言っていたのは本当だったのか。
「……私に! 私にっ! プライバシーっていうものはないんですかっ!?」
泣き出す結衣に、全員が口を揃えて「ない」と言った。
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