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第三章『新と結衣』
第二十二話「約束」
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「――とまぁ、そんな感じ」
結婚の約束を思い出した結衣に、新は全てを話した。
結衣は言葉を失っている。
「約束のことを忘れているなら、言わなくていいと思った。初対面の男として、付き合えばいいって。――でも」
結衣を幸せにしたい一心でここまできたのに、そうできると思っていたのに。
いざ結衣を目の前にすると、どうしていいかわからなかった。
ほんの少しでも目を離すと消えてしまいそうな彼女を、笑わせる方法が思いつかなかった。
「人と距離を置こうとする君に告白したって、フラれるのは目に見えていたし……」
新は結衣を一ヶ月、そっとしておいた。
一日中、ぼーっとする仕事をさせた。
けれど彼女は一向に元気にはならず。もちろん、新と恋に発展することもなかった。
「もう無理矢理犯して、僕に抱かれることに夢中にさせれば、もしかしたら好きになってくれるかもって。そう思っていたけど……抱く度に、君は僕のことを疑うようになってしまって……」
そこまで言ってから、言葉に詰まる。
後悔していた。
もっと違うやり方があったのではないかと。結衣を傷つけずに、彼女と付き合う方法があったのではないか。
でも、焦燥感を止められなかった。
好きすぎて。少しでも早く、結衣が欲しくて。
そこまで黙って話を聞いていた結衣が、小さく口を開いた。
「私……そんな大切にされていたのに……それなのに、店長は十年も私のために頑張っていたのに、私は大事な約束も忘れて――」
自分は一人だと思っていた。
誰も味方などいないと思っていた。
「なんで好かれているか分からないって、遊んでいるだけだって、そんなヒドい、ことを、を言って……」
結衣の目から大粒の涙が、ぼろぼろと溢れ出てきた。
自分のことを、こんなにも、愛してくれている人がいたことが嬉しくて。
それなのに彼を裏切っていたことが、心の底から申し訳なくて。
ごちゃごちゃと絡まる感情が、結衣の涙腺を緩めてしまう。
「ごめっ、なさい……っ」
「結衣……‼」
新は結衣を強く抱きしめた。
結衣は抱かれるままに、目を閉じた。
いつの間にか呼び捨てで呼ばれていることに、恥ずかしさと、胸が苦しくなる思いを感じながら。
「ねえ結衣、約束、思い出したんだよね。十三年も経ってしまったけれど、僕は結衣を守れるくらい、頑張ったよ」
「……うん」
「約束通り、迎えに来たよ。結衣……僕と――結婚して下さい」
新の言葉をきっかけに、時が止まったようだった。
ただ、自分を包んでいる温かさだけが、世界の全てだと感じていた。
「……はい……」
結衣は泣きながら、震える声で答える。
「私なんかで、良ければ……」
「結衣がいいんだよ。結衣じゃなきゃだめ」
新はいっそう強く、結衣を抱きしめる。
「て、てんちょ……くるし……」
「名前」
「え」
「名前で呼んで」
「――あらた」
聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で、新の名前を囁いた。
それは新にとって、どんなに嬉しかったことか。
「~~~可愛すぎっ、もうだめ、犯すね」
「ひゃっ! ちょ、ちょっとっ、まっ……んっ!」
乱暴に結衣を押し倒してから、唇を奪う。
結婚の約束を思い出した結衣に、新は全てを話した。
結衣は言葉を失っている。
「約束のことを忘れているなら、言わなくていいと思った。初対面の男として、付き合えばいいって。――でも」
結衣を幸せにしたい一心でここまできたのに、そうできると思っていたのに。
いざ結衣を目の前にすると、どうしていいかわからなかった。
ほんの少しでも目を離すと消えてしまいそうな彼女を、笑わせる方法が思いつかなかった。
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新は結衣を一ヶ月、そっとしておいた。
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けれど彼女は一向に元気にはならず。もちろん、新と恋に発展することもなかった。
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そこまで言ってから、言葉に詰まる。
後悔していた。
もっと違うやり方があったのではないかと。結衣を傷つけずに、彼女と付き合う方法があったのではないか。
でも、焦燥感を止められなかった。
好きすぎて。少しでも早く、結衣が欲しくて。
そこまで黙って話を聞いていた結衣が、小さく口を開いた。
「私……そんな大切にされていたのに……それなのに、店長は十年も私のために頑張っていたのに、私は大事な約束も忘れて――」
自分は一人だと思っていた。
誰も味方などいないと思っていた。
「なんで好かれているか分からないって、遊んでいるだけだって、そんなヒドい、ことを、を言って……」
結衣の目から大粒の涙が、ぼろぼろと溢れ出てきた。
自分のことを、こんなにも、愛してくれている人がいたことが嬉しくて。
それなのに彼を裏切っていたことが、心の底から申し訳なくて。
ごちゃごちゃと絡まる感情が、結衣の涙腺を緩めてしまう。
「ごめっ、なさい……っ」
「結衣……‼」
新は結衣を強く抱きしめた。
結衣は抱かれるままに、目を閉じた。
いつの間にか呼び捨てで呼ばれていることに、恥ずかしさと、胸が苦しくなる思いを感じながら。
「ねえ結衣、約束、思い出したんだよね。十三年も経ってしまったけれど、僕は結衣を守れるくらい、頑張ったよ」
「……うん」
「約束通り、迎えに来たよ。結衣……僕と――結婚して下さい」
新の言葉をきっかけに、時が止まったようだった。
ただ、自分を包んでいる温かさだけが、世界の全てだと感じていた。
「……はい……」
結衣は泣きながら、震える声で答える。
「私なんかで、良ければ……」
「結衣がいいんだよ。結衣じゃなきゃだめ」
新はいっそう強く、結衣を抱きしめる。
「て、てんちょ……くるし……」
「名前」
「え」
「名前で呼んで」
「――あらた」
聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で、新の名前を囁いた。
それは新にとって、どんなに嬉しかったことか。
「~~~可愛すぎっ、もうだめ、犯すね」
「ひゃっ! ちょ、ちょっとっ、まっ……んっ!」
乱暴に結衣を押し倒してから、唇を奪う。
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