うちの店長レイプ犯!?

貝鳴みづす

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第三章『新と結衣』

第十九話「二人の出会い」

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 十三年前、夏。
 僕――小原新は十五歳。高校に入学してから最初の夏休みだった。
 父は複数の企業をもっている経営者で、一人息子である僕に跡を継がせるつもりでいた。
 僕はそんなものには全く興味がなく、どうしてこんな家に生まれてしまったのかと、父の顔を見る度に後悔していた。

 親に逆らえるほど、気が強い方でもない僕は、勉強をしないという、些細な反抗を続けていた。我ながらくだらない事をしていると思ったが、僕に出来る唯一の意思表示だったのだ。
 頭を尖らせて深夜の街を出歩くような、そんな気力もなく。思春期ではあったが、大人しい性格は変わりなくただ無気力に生きていた。

 もちろん勉強をしなかったから、高校受験は散々なもので。
 父も母も、試験の結果には大層機嫌を悪くしていた。
 エリート経営者の息子が、底辺高校へ行く。
 ざまあない。
 意味もなく勝ったような気でいた僕だったが、しかし夏休みに入ってから、父はこう言った。
「夏休みの間、この家から一歩も出るな。勉強だけしていろ」
 淡々と、それだけ伝えて背を向けた父親に僕は絶句した。

 友達が多いわけではなかったが、行きたい場所や、やりたいことは沢山あったのに。将来だけでなく、そこまでの道程までも、父親が用意したレールに載せられたようで、僕は酷く落ち込んだ。
 抜け出してやろうとも思ったが、監視の目が思ったよりも厳しく、一歩も外にでることができなかった。

 そんなある日、彼女に出会った。
 昼食後の一時間。自由に振る舞える休憩時間(といっても敷地内だけだが)僕はいつも庭にいた。
 木々や花がきちんと管理されており、ちょっとした公園くらいの大きさはある庭は、外界に触れる唯一の空間だった。

 いつも通り、庭のベンチに座ろうと思ったら、既に先客がいた。
 白いワンピースがよく似合う女の子、被っている麦わら帽子に隠れそうな小さな体が可憐さを際立たせる。
「きみ、どこから来たの?」
 声をかけると、少女はただ後ろの方を指さして、
「あっち!」
 と言った。どっち? どこから? そもそも、方角だけ言われても。
「あっちって……」
 そう呟きながら振り返ると、そこにはなんだか誇らしそうに、満天の笑顔を見せている少女がいた。
 僕はその様相を見て、思わず笑みがこぼれた。

「あはは。おもしろいね、きみ」
 久しぶりに笑った気がした。
「何年生? 名前はなんていうの?」
 普段他人なんて、ましてこんな年下の女の子になんて、声をかけたりしないのに。
 自分でも驚くくらいに、僕はその子に関心を持っていた。

「四年生! ゆい! あずみゆい!」
「四年生……?」
 にしては、――小さいような。
 僕の表情から何かを察したのか、少女は突然、頬を膨らませてから怒りだした。
「四年生なの! もうお姉さんなの!」
「あはは、そっか。ごめんごめん」
 なにこの子。可愛い。
 
 それからいろんな話をしたり、遊んだり。
 あっちとやらから侵入してきた少女と一時を過ごした。
 戻らないといけない時間になって、さよならを言うと、
「さよならはいや、また来てもいい?」
 僕の服を握って、涙目で訴えてきた。

「いいよ。同じ時間に、来てくれる?」
「うん!」
 そう言うと、少女は「またね!」と言って帰っていった。
 子供だし、言うだけ言ってもう来ないかな、なんて思ったけど。次の日も、そのまた次の日も、少女は僕に会いに来てくれた。

 気が付けば、僕は彼女に恋をしていた。もしかしたら、最初から。
 自分は高一で、相手は小学四年生。
 どう考えても周りに引かれるのは分かっていたが。まぁ、大人になれば五歳差なんて問題ないじゃないか。そう思うことにした。

 誰にも会えないはずだった夏休み。
 それが彼女――結衣のおかげで、一番楽しい夏休みになった。
 これが終われば結衣に会えるから。そう考えれば勉強も全く苦にならない。
 というよりなぜか、勉強しなくてはいけない。そう思うようになった。

 夏休みの終わり。
 あれから一ヶ月。夏休みの間、結衣は毎日遊びに来た。
 けれど、もう会えない。学校が始まるからというわけでなく、家が引っ越すことになったからだ。
 それを結衣に伝えると、彼女は泣きじゃくり「いやだ」と言った。

「さよならはっ……、いや……っ」
「結衣……」
 僕は思わず結衣を抱きしめた。彼女と同じ目線になるようにしゃがみこみ、その頭を撫でた。

「僕と一緒にいたい?」
「いっしょ、いたい……」
「死ぬまで一緒にいてくれる?」
「うん……いっしょ、いる……」

 頷く彼女を、もう一度強く抱きしめる。
 どれだけの時間、そうしていたかわからないくらい。このまま結衣を連れてどこかへ逃げ出してしまいたかった。
 ――だれど。
 自分にそんな力がないことはわかっていた。結衣を守るには、何をしないといけないか。この一ヶ月ではっきりと気付いていた。

「ねえ結衣、必ず、必ず迎えに来るから。そしたら、結婚しよう」
「結婚……?」
「いや?」
 僕がそう言うと、彼女は首を横に振る。
「……いや、じゃない。する、結婚する」
「じゃあ、約束」
「うん」

 そう言って、指切りをした。
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