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第三章『新と結衣』
第十五話「ウェディングドレス」
しおりを挟む外はもう陽が昇っていた。
結衣は市松に連れられ、車に乗る。
しぶしぶ着たウェディングドレスが、気になって仕方なかった。
とにかく露出度が高すぎでエロい。
ここまできたら裸のほうがエロくないかもしれない。
「ブーケもご用意しました」
後部座席から花束を取り出し、結衣に渡す市松。
結衣と違い、市松は黒スーツにポニーテールの、平常運転だった。
「私はこれからなにをしに行くの……」
ウェディングドレスと、高級車と、お付きの美人。
あまりの非日常に、結衣はしばし呆然とする。
「そんなの決まってるじゃないですか。嫁にいくのですよ」
「違います」
当然のように言う市松に、結衣は冷静にツッコミを入れた。
車に揺られて少しすると、目的地へはわりとすぐ着いた。
新の別荘のひとつ。
忘れるわけがない。彼に監禁された思い出の場所だ。
いざ新の家を目の前にすると、緊張してくる。
「一人だと襲われそうです。市松さん、一緒に来てくださ……」
玄関前で後ろを振り返る結衣だったが、誰もいない。ついさっきまで、そばにいたはずなのに。
「ちょっ、ちょっと! 一人にしないで下さい!」
叫びながら辺りを見渡していると、勢いよく玄関の扉が開いた。
「結衣くん!!」
「わ、わ……っ!」
いきなり目の前が真っ暗になる。
それがなんだか確かめずとも、すぐに理解できた。
――新だ。
「て、てんちょ……くるしいです……」
これでもかというほど強く抱きしめられて、息ができない。
必死に暴れていると、弾みでブーケが地面に落ちた。
「無事でよかった」
とりあえず安心したのか、新は落ちたブーケを拾う。
「あはは……」
(無事かと言われたら、無事じゃない気もするけど……)
なんとなく気まずい。
市松に襲われたこと。自分は悪くないはずなのに。なぜか後ろめたく感じた。
「ところで、これは?」
ブーケと結衣の姿を、交互に見る新。
「もしかして、嫁にき」
「まーーーったく関係ないです! 市松さんに無理矢理着せられただけです。衣装に! 意味は! 全く! ないです!!」
顔を真っ赤にして、結衣は叫んだ。
その必死の主張に、新は一瞬たじろぐ。
しかしすぐに、それ以前の問題に気づいた。
結衣の着ているそれが、薄着というレベルではないということに。
「とにかく、中に入って。その格好、寒いでしょ」
「い、いやです」
結衣は首を横に振る。
「私は少し話を聞きにきただけです。中には、入りません」
中に入ってしまったら、なにをされるかわらかない。
あくまで結衣は、市松に脅されて来ただけであって。新との関係を戻す気はなかった。
「話が終わったら、帰ります」
「結衣くん? 真冬の川に飛び降りたって聞いたたけど。今度は雪降ってる中そんな格好でお話するの?」
「うっ……」
全くもってその通りであり、言い返す言葉がない。
「うぅ、大丈夫です……へいき……くしゅっ」
強がりながらも、あまりの寒さに体を震わせる結衣。
「大丈夫なわけ、ないでしょ」
「あっ、やだ!」
新は嫌がる結衣を無理矢理抱き上げ、家の中へ入れた。
――まさか、結衣は気づかないだろう。
市松が超薄着のウェディングドレスを選んだ、もうひとつの理由。
結衣が『新の家に入らない』ということを、予想していたからだなんて。
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