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第三章『新と結衣』
第六話「謎の女性」
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事務所を去って、しばらく闇雲に走ったあと、結衣は立ち止まった。
乱れた息が、冷たい空気に白く揺れる。
気づけば人通りのない、路地裏に入っていたようだ。
乱雑に積み重なったゴミ袋を、野良猫が漁っている。
闇に溶け込みそうな黒色の猫。やせ細って、ボサボサに荒れたその姿がなんだか自分のようで、結衣は自嘲するように笑った。
「……おいで、にゃんこさん」
その場にしゃがみこんで、黒猫を手招きする。
警戒しつつも、その手に近寄ろうとする猫。
しかし、突然なにかに驚いたように耳を伏せると、黒猫はそっぽを向き、暗闇に去っていった。
「?」
不思議に思って、後ろを振り向く。
灯りに照らされていた結衣に、大きな影が覆いかぶさる。
いつからいたのか、ガラの悪い男たちが結衣を見下ろしていた。
暗くて数がわからない、五人――いや、もっとか。
「なにか用ですか」
警戒しながら立ち上がると、男たちは楽しそうに笑った。
「なにって、そりゃお前、なあ?」
「こんなところに可愛いお嬢さんがいたら、なあ?」
「食べて差し上げなきゃ、失礼ってもんだろ? なあ?」
バカみたいに語尾を揃えて、ニヤニヤと下品に笑う男たち。
「……はぁ」
なんでいつも自分ばかりこんな目にあうのだと、悲しみを通り越して頭にくる。
「なんだぁ、抵抗しねぇのかぁ?」
男が笑いながら結衣の肩に触れた。
その時だった。
「汚い手で結衣様に触るなっ!」
バゴッ!
「ぐぁっ!」
「な、なんだ?!」
重い打撃音。吹き飛んでいく男。
思わず目を伏せる結衣と、どよめく男たち。
「お怪我はありませんか、結衣様」
落ち着いた女性の声だった。
恐る恐る目を開けると、そこには黒いスーツを身に纏った長身の女の人がいた。怯む男たちを尻目に、鋭い、しかし優しい眼差しで、結衣を心配している。
「あ、ありがとうございます、大丈夫です」
誰この人、カッコイイ。
内心ドキドキしながら、結衣は答えた。
「おい女ぁ! 一人ぶっ飛ばしたくらいで調子に乗ってんじゃねぇぞ」
「おいおい、よく見りゃ、激レア級のべっぴんさんじゃねぇか。オレこっちもらうわ」
コキコキと指を鳴らしながら、後ろで眺めていた男たちが好き勝手言っている。
「……少々お待ち下さい。すぐ片付けます」
黒スーツの女はそう言って、男たちの方へ向いた。
「ハッ、舐めてんじゃね……えぐぁッ?!」
一人。気づくと腹を拳で打ち抜かれていた。
――速い。
とても女とは思えない力で、男はそのまま壁に飛ばされ、動かなくなった。
「な、なんなんだ?! この女!」
まるで動きが見えない。
「怯むな! っていうかどこいった?!」
動揺しながら辺りを見渡すが、どこにもいない。
「さては逃げ――」
ドゴッ!
二人。言葉も終わらぬうちに、背後から回し蹴りをくらって倒れる。
目の前に倒れられて、怯む男。
「ひ、冗談じゃねぇ、逃げ……」
バキッ!
三人。倒れた男の後ろにいたはずなのに、振り返ると目の前に女がいて、驚く間もなく意識を飛ばされる。もはや何をされたのかもわからない。
「さあ、あと何人だ」
息ひとつ乱すことなく、女は立っていた。
その右手には、ナイフのような刃物が光っている。
「ひっ、ひぃ、勘弁してくれ!」
残った男たちは、必死に叫びながら逃げていった。
乱れた息が、冷たい空気に白く揺れる。
気づけば人通りのない、路地裏に入っていたようだ。
乱雑に積み重なったゴミ袋を、野良猫が漁っている。
闇に溶け込みそうな黒色の猫。やせ細って、ボサボサに荒れたその姿がなんだか自分のようで、結衣は自嘲するように笑った。
「……おいで、にゃんこさん」
その場にしゃがみこんで、黒猫を手招きする。
警戒しつつも、その手に近寄ろうとする猫。
しかし、突然なにかに驚いたように耳を伏せると、黒猫はそっぽを向き、暗闇に去っていった。
「?」
不思議に思って、後ろを振り向く。
灯りに照らされていた結衣に、大きな影が覆いかぶさる。
いつからいたのか、ガラの悪い男たちが結衣を見下ろしていた。
暗くて数がわからない、五人――いや、もっとか。
「なにか用ですか」
警戒しながら立ち上がると、男たちは楽しそうに笑った。
「なにって、そりゃお前、なあ?」
「こんなところに可愛いお嬢さんがいたら、なあ?」
「食べて差し上げなきゃ、失礼ってもんだろ? なあ?」
バカみたいに語尾を揃えて、ニヤニヤと下品に笑う男たち。
「……はぁ」
なんでいつも自分ばかりこんな目にあうのだと、悲しみを通り越して頭にくる。
「なんだぁ、抵抗しねぇのかぁ?」
男が笑いながら結衣の肩に触れた。
その時だった。
「汚い手で結衣様に触るなっ!」
バゴッ!
「ぐぁっ!」
「な、なんだ?!」
重い打撃音。吹き飛んでいく男。
思わず目を伏せる結衣と、どよめく男たち。
「お怪我はありませんか、結衣様」
落ち着いた女性の声だった。
恐る恐る目を開けると、そこには黒いスーツを身に纏った長身の女の人がいた。怯む男たちを尻目に、鋭い、しかし優しい眼差しで、結衣を心配している。
「あ、ありがとうございます、大丈夫です」
誰この人、カッコイイ。
内心ドキドキしながら、結衣は答えた。
「おい女ぁ! 一人ぶっ飛ばしたくらいで調子に乗ってんじゃねぇぞ」
「おいおい、よく見りゃ、激レア級のべっぴんさんじゃねぇか。オレこっちもらうわ」
コキコキと指を鳴らしながら、後ろで眺めていた男たちが好き勝手言っている。
「……少々お待ち下さい。すぐ片付けます」
黒スーツの女はそう言って、男たちの方へ向いた。
「ハッ、舐めてんじゃね……えぐぁッ?!」
一人。気づくと腹を拳で打ち抜かれていた。
――速い。
とても女とは思えない力で、男はそのまま壁に飛ばされ、動かなくなった。
「な、なんなんだ?! この女!」
まるで動きが見えない。
「怯むな! っていうかどこいった?!」
動揺しながら辺りを見渡すが、どこにもいない。
「さては逃げ――」
ドゴッ!
二人。言葉も終わらぬうちに、背後から回し蹴りをくらって倒れる。
目の前に倒れられて、怯む男。
「ひ、冗談じゃねぇ、逃げ……」
バキッ!
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「さあ、あと何人だ」
息ひとつ乱すことなく、女は立っていた。
その右手には、ナイフのような刃物が光っている。
「ひっ、ひぃ、勘弁してくれ!」
残った男たちは、必死に叫びながら逃げていった。
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