うちの店長レイプ犯!?

貝鳴みづす

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第二章『どうして私と』

第三話「冷たくて、温かい」

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 車内はただ静かな音楽が流れるばかりで、大した会話もなく、時間はすぎていった。
 窓から映る景色は段々と暗くなって、それに従うように、緑が深くなる。
「一体どこへ連れていく気ですか、山奥に埋める気ですか」
「そんなまさか」
 意地悪っぽく笑う新を、横目で見る。
 凛としていて、頭が良さそうで、ミステリアス。
 対して自分はどうだろう。
 美人でもない、頭もよくない、なんの取り柄もない、根暗な女だ。
 ――釣り合わない。
 ただ遊ばれているのでは?
 気分が沈み始めてきた頃に、車はゆっくりと止まった。
「ほら、ついたよ」
 はっとしたら、すでに新は助手席の扉を開けていて、結衣は慌てて車を降りた。
 思わず言葉を失う。
 しんしんと雪が降っていた。
 広々とした駐車場を、雪化粧をした木々が囲んで、その木々の隙間に、どこへ誘うのだろう、長い長い、階段があった。
 看板のようなものはあったが、雪でよくみえない。
「なんの店です……? 一体こんなところで何を食べるんです?」
「まぁまぁ、行ったらわかるよ」
 そう言われるがまま、結衣は先々進む新から離れないよう、必死で歩いた。
 こんなところで迷子になったら、死ぬ。

 緩やかな長い階段を下りていくと、突然視界が広がった。
「わ……」
 小さく感嘆の声が漏れる。
 木の中に開かれた広い客席、池には大きな鯉がたくさん泳いでいて、そこはまるで異世界のような不思議な店だった。
 客席は百席以上ありそうだが、肝心の客は、ぽつりぽつりと数名いるだけだった。
 それもそのはず。
 四人座れる丸いテーブルの真ん中には、ドーナツ型の丸い容器に、クルクル水が流れていた。
「そうめん流し……?」
 そう、ここはそうめん流しのお店だったのだ。
 夏はこれだけあっても足りない席も、この時期はこの有様だ。
「ふ、冬にそうめん流しってやってるんですね」
「面白いでしょ? 癒されるでしょ?」
「ま、まぁ、面白いです」
 急にドヤ顔されたので若干動揺したが、結衣は素直に頷いた。
「温かいのもいいけど、せっかくだから冷たいそうめんと、鯉こく二つずつ」
 店員にそう告げると、すぐに料理は運ばれてきた。
 ざるにのったそうめんと、おにぎり、鯉こくがでてきた。
「鯉こくってなんですか、鯉ですか、鯉ってそこに泳いでるやつですか」
 目の前に出された料理と、池の鯉を交互に見ながら、結衣は混乱している。
 その池の鯉に、食べ残しをあげている客を見つけて、さらに混乱する。
「共食いしてるじゃないですか! え、それ食べるんですか」
「美味しいよ、あったかいし」
 くすくすと笑いながら、新は鯉こくをすすった。
 結衣も恐る恐るそれを口にする。
「あ、美味しい……」
 冷え切った体に、染み渡る温かさ。それがなにかなんて忘れて、思わず笑みが浮かんだ。その後ろで鯉が跳ねていたが、もう気にならなかった。
「そうめん、これに流すんですか。へぇ、くるくる回るんですね。普通、竹で流しますよね、高いとこから。やったことないですけど」
 目の前をくるくると回るそうめんを、興味深く眺める。
「それは流しそうめんだね、こっちはそうめん流し。地方によって呼び方違うらしいけど。こっちの方が、そうめん逃してもまた流れてくるから、いいでしょ」
 そう言いながら、箸を水の中に入れたが、言葉通りそうめんは逃れていった。
 新の箸を逃れたそうめんは、結衣の前を流れて、
「そうですね、次の人に取られなければ、ですけど」
 ――全て結衣の箸に奪われた。
「あーー、結衣くん、全部取っちゃだめでしょー、くるくる回るからそうめん流しなのに」
 怒りながらも笑顔の新を見て、結衣も笑った。
 クールな見た目に反して、こんなに子供なのだから。反則だ。

 冬のそうめんは、とても冷たくて、温かかった。
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