生徒との1年間

スオン

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顧問2年目07月

顧問2年目7月 6

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 先ほどの盛り上がりを見られていたのだろうか。立成と悠が宴会場を闊歩していると、2つ目の親父たちのグループに近づいてしまう。
 自然とその場にいた親父たちが、立成たちを下卑た言葉で歓迎し始めた。それはつまり、新たな観客たちへの披露が始まるということであると容易に想像がつくものだ。しかし、立成はそこまで気が回っていなかった。

「おう!お疲れさん!」
「聞こえてたぜ!先生よおっ!」
「な、何を・・・ですか・・・?」
「とぼけんなって!」
「ケツがでかいんだろ?」
「あっちのグループには散々見せつけてたじゃねえか!」
「俺らにも見せてみろよ!」
「俺も触りてぇな!おーし、どれどれ!」

 馬になった立成がグループの輪に近づくや否や、その場にいた親父たちは号令がかかったかのように馬の背後に回り腰を下ろし、下卑た言葉を投げ掛けてくる。

(こいつら・・・また、さっきの親父たちと同じようなことをやる気か・・・?クソッ)

 そんな立成の動揺も無視して、親父たちはその手を、その眼を、立成の尻へと向けてくる。親父たちにとっては、むさ苦しく厳つい男の尻を撫で回すという、酒のばにおけるただのおふざけにすぎないものであるのだが。
 先ほどまで散々とその尻を蹂躙され尽くされ、ようやく終わったと思っていた立成にとっては、まさに地獄の底が続いていたような気持だった。そんな立成の思いはよそに、またも数多の魔の手が、立成の剛健で肉厚な身体へと伸び、それを止めることなどできずにただ湿り気のある声を漏らしかなかったのだった。
 
「はぁっ・・・」
「おおっ!こりゃデカいわ!」
「プリップリっていうか、ブリッブリってかんじのケツだな!」
「すげーな!何食ったらここまでになるんだ!」
「さすが馬ってとこだな!
「はははっ!こりゃ本物の馬尻だ!」
「なに言ってんだ!」
「馬だけに馬のケツってか?」
「「「 ギャハハハ!! 」」」

 容赦がなかった。
 先程の1つ目のグループからの冷やかしよりも、よりストレートに、より辛辣な嘲りだった。ここにいる誰しもが、もっと面白く、もっと激しく、立成のことをからかってやろう。そんな雰囲気が漂っていた。
 それは言葉だけではない。浴衣の上から尻をまさぐる手付きも、太股や尻タブ表面に触れるような生易しいものではなく、あまつさえ尻の割れ目の中にまで指が食い込んでしまうほどに乱雑なものだった。

 そこには、尻の持ち主である立成の了承など必要ない。ただそこに、目の前に尻があるから手を出している。そう言わんばかりの親父たちからの激しいスキンシップが、これでもか、これでもか、と繰り出されながら、そのデカい尻を囃し立てていた。

 他人にされて良いことではない。大人がすることでもない。そうだというのに、立成はただ、耐えていた。今の自分の情けない状況を甘んじて受け入れていた。

 ひととおり、立成の尻へのからかいが済んだのだろう。一人の親父が、ボソッと他人事、口にした。

「この浴衣を捲ったら、このケツは中でどうなってるんだろうな?」

 何だと!?
 とんでもない言葉が立成の耳に聞こえて来た。あまりにも無慈悲で、横暴だ。

「なっ、ちょっ・・・!」
「はは」
「じゃ、見てみるか?この浴衣、スカートみたいにめくってやるか!」

 驚きながら首だけを後ろに向ける。先ほどまで穏便に済まそうとしていたというのに、思わずその顔も険しくなってしまう。その眼に見えるのは、5人ほどの酔っ払った赤ら顔の親父たちだ。無精ひげが生えだしている汚らしい口周をだらしなく歪ませ、猥褻な言葉を繰り返している。

「や、やめろっ!」
「ははは、先生が恥ずかしがってるぞ!」
「なんだなんだ!いっちょ前に!馬が恥ずかしがりやがって!」
「こんなケツしてんだ!見られても文句は言えねぇよな!」
「い、いい加減に・・・・!」

 立成の頭に血が昇った。さすがに怒りが湧き上がってくる。
 こちらが穏便に済ませようとしているのに、ここにいる親父たちはそれをいいことに図に乗って来やがるのだ。こうなったら、背中の悠もろとも吹き飛ばして起き上がってしまおうか、と考えたその一瞬、立成の下腹部に、一筋の爽やかな風が吹いた。明らかに、これまで存在していた布が消失していた。

「あっ・・・!」
「おいおい!見ろよ!」
「ははっ!何してんだよ!」
「教師のクセに派手なパンツ履きやがって!」

 唐突に浴衣を捲り上げられた。悠を背に乗せた状態では満足に抵抗することができない。立成の尻を覆っていた浴衣の布は、無抵抗の尻を守るにしては、あまりに軽すぎる。先程の言葉通り、簡単に親父たちによる侵略を許してしまった。
 酔っ払った親父たちの悪ふざけの魔の手に、されるがままの立成だ。そして、明らかにされてしまった、立成の下着。赤地に黒のチェック柄という今身に着けている下着のデザインを丸出しの状態にされてしまったのだ。その大胆な色合いと柄の下着が、肉厚すぎる尻肉にぴったりと張り付いているその様子が、広く明るすぎるこの宴会場にて暴かれてしまったのだった。その自分一人だけが惨めな格好となった事実を認識してしまい、立成は一気に赤面してしまった。

「や、やめてください!み、見るな!」
「何がやめてだ!見られたかったんだろ!そうだろ、こんなパンツ履きやがって!」
「違います!あ、駄目だって、そんな」
「だせぇパンツだな!」
「いかにも安物だな!教師って給料いいんじゃないのか?」
「生徒たちの方がいいパンツ履いてるんじゃねぇのか!?おいっ!」
「おっ!見ろよ!パンツ丸出しにされて、先生の顔、赤くなってるぞ!」
「本当だな!真っ赤じゃねぇか!」
「ははは!恥ずかしいのか、先生!どうなんだ!」
「なっ・・・当たり前・・・!」

 立成は動揺する気持ちをなんとか抑えながら、必死に親父たちに抵抗する。 
 親父たちのいうとおりなのだ。安物の下着を身に着けていること自体は、事実なのだから。
 ただ下着を見られただけだ。それは大したことではない。それを茶化されたとしても、どうってことはないはずなのだ。
 そうだというのに、酔っ払った親父たちの下卑た物言いに包まれてしまうと、自分が彼らよりも一層下位の生物に堕とされたような気分になる。自分がこの親父たちに捕食されてしまいそうな気持になる。だから、立成も必死になる。全力で逃げ出したくなってしまう。下着を見られている自分のこの状況を恥じてしまう。

「教師なんだからちゃんとしたパンツ履いとけよっ!おらっ!」

 パシーン!
 唐突な一撃だった。ボクサーブリーフに包まれた立成の尻に、平手の一撃が加えられたのだ。
 あまりにも急な出来事に、立成はその目を見開いてしまう。一瞬だけ瞳孔が小さくなり、白目になる。口は間抜けな半開きだ。

「ひっ!」
「おお、いい音だ!やっぱいいケツしてるな兄ちゃん!」
「ははは!野郎のケツ叩いて何が楽しいんだ!」
「でも、けっこういい音したな!どれ、俺も」
「ははっ!じゃあ俺も!」

パシーン!パシーン!パシーン!
 
 今この輪にいる5人の親父たちの手が、突き出された立成のデカ尻へと振り下ろされる。
 いきなり開始されたスパンキングパーティーに、立成は呆然としてしまう。
 何をしたというのだ。何もしていないのだ。
 ただ、履いている下着が野暮ったいデザインで、安物で、少し派手な色使いであるという、ただそれだけだというのに。それだというのに、なぜ尻を叩かれなくてはならないのか。
 
「あっ・・・なっ・・・はっ」
「ガハハ!」
「パンツ状態だと、ケツがでかいのもよくわかるな!」
「先生よ、本当に世界史教師なのか?本当は体育教師じゃねえのか?」
「デカすぎるからな!見ろよ、ケツがピッチピチになってるぜ!」
「いっ・・・くっ・・・・うっ・・・・」

パシーン!パシーン!パシーン!

 色々な意味で脂の乗った親父たちなのだ。
 あくまでおふざけでやっているのだろうが、それでも力強さをもった男たちなのだ。
 可愛がりの延長のような尻叩きであるはずだが、確実に立成の尻にはダメージが蓄積されていく。
 そして、尻を叩かれる度に感じる痛みが、少しずつ、少しずつ、ピリピリと電流のような何かとなって全身を巡り、徐々に立成の思考を鈍らせてしまっている。

 鳴り響き続ける打擲音。それらがまるで他人事であるかのように立成の耳に入ってくる。
 しかし、そうではない。叩かれている尻は、自分の尻なのだ。
 
 これまで散々、尻を叩かれてきた。
 筒井に。そして清野に。しかし、それはあくまで1対1のものだった。
 ある意味、秘密の行為だったと言える。
 だからこそ、立成は、こんなことはしてはいけない、と思っていても、それら行為を受け入れてしまっていたのだ。そして、その尻の痛みに、甘美な思いさえも抱いてしまっていることにも、罪悪感を感じながらも、ただその官能の渦に飛び込むことができたのだ。

 しかし、今の状況はなんだ。どういうことなのだ。何人もの素性を知らない親父立ちに取り囲まれ、自分は四つん這いなのだ。浴衣を捲られて、下着丸出しで突き出した尻を、叩かれ、叩かれ、叩かれ、叩かれ・・・・

 掌による平手の嵐。間髪のない尻への打擲。飛び交う嘲笑。

 なぜこんなことをされるのか。どうすればこんなことになってしまうのか。30を越えた大人の男がされる仕打ちとして、こんなことあり得るのだろうか。あってよいのだろうか。あまりにも非現実すぎる出来事に、立成は考えることができず、ただ口から脊髄反射のよう漏れ出る言葉を垂れ流すしかなかった。

「も、もうや、やめて・・・たのむ、やめて・・・」
「ははは!さすがにきつくなってきたか?」
「ギブアップにはまだ早いだろ」
「何言ってんだってんだ、なぁ。こんなデカ尻で丈夫なケツなんだ。何ともねぇだろ!」
「ケツもデカいが、これもデカいな!」
「ん?、何がだよ」
「これだよ、これ!お馬さんの玉袋!」

 たしかに、デカデカと張出した尻に目が行ってしまう。しかし、大きいのはそれだけではなかったのだ。
 立成の下腹部にぴっちりと張り付いているチェック柄のボクサーブリーフ。
 四つん這いの状態で突き出した尻。そのケツ肉の丁度間にある、下膨れの袋状のソレは、立成の陰嚢のシルエットを明確に現わしていたのだ。

「はははっ!何見てんだって、お前は!」
「ぷら~ん、って垂れてんな」
「ピッタリしたパンツだから、丸分かりだな!」
「すげぇな!ここも馬並みじゃねぇか」
「どれどれ・・・おおっ」
「ぎやああああっっっ!!」

 親父の1人の手が、立成の陰嚢に伸ばされた。
 あまりにも唐突な玉袋への手の接触。大した痛みなどない。いや、それどころか、少し指で触れただけなのだ。
 しかし、尻を殴打され、罵倒され、少しずつ全身が敏感になってしまっている立成には、余りにも強烈すぎる仕打ちだったのだ。

「ぎゃはははは!」
「どうした急に悲鳴上げやがって!」
「感じたか!感じちまったのか!」
「情けねぇ先生だなぁ!」

 素っ頓狂な声をあげた立成に、大喜びの親父たち。最早抵抗する気力もなくなるほど、立成は無気力感に苛まれた。

「はぁっ・・・はぁっ・・・」
「それ、最後まで頑張れよっ!」
 パシーン!
「んっ・・・!」

 これで最後だ、と言わんばかりの一発を尻にお見舞いされた。立成は声を上げぬよう必死に口を噛みしめながら、何かを堪えるかのように険しく瞳をギュッと閉じる。

 後ろの方から聞こえてくる、大声で笑い会う親父たちの声を後にして、立成は宴会場の歩を進めた。
 相変わらず背中に悠を乗せて、四つ足のまま。
 赤地に黒のチェック柄のボクサーブリーフに包まれたその尻を丸出し状態で横に揺らしながら、宴会場を練り歩く。

 もうすぐだ。もうすぐで終わる。
 あと少しで、宴会場を1周できる。そうすれば、悠も満足するだろう。

 スタート地点に戻る最中、また別の飲み会の輪が見えてきた。宴会場では3つのグループに別れていた。
 今ので2つ目のグループだ。つまり、これで最後なのだ。

 しかし、立成は躊躇する。
 きっと先程の馬鹿騒ぎは聞こえていたはずだ。
 だから、あの輪に近付けば、きっと・・・

 嫌だ。もう嫌だ。
 もう、このまま部屋に戻ってしまおうか。

 そう思いながらも、これで最後なんだと自分に言い聞かせながら、両手両足をを動かし続けた。
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