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顧問2年目07月
顧問2年目07月 3
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7月某日。
込み入った道のりの先に建てられた少し古めかしい大きな旅館。
そんな旅館の入り口前に止められたタクシーから降りた2人の男2人の少年が、トランクから荷物を取り出している。
「いや、でもまさかまたここに来るとは思わなかったなぁ」
「同じ会場だからな。せっかくだから一緒に泊った方が楽しいだろ?」
「清野先生、ありがとうございます」
「森田、それ取ってー」
「はいはい」
明日からは夏の地方大会だ。各県の県大会を勝ち抜いてきた猛者の高校生たちが、弓道場で相まみえる。
当然、県大会で2位となった筒井も参加する。そして、1位となった森田も。
今日は前日練習のみで、本番は明日からだ。明日が予選、それに通過すれば、本選になるのだ。
そして、ここは昨年の秋の地方大会にて、清野の知り合いが経営しているというこの旅館に宿泊した旅館だった。
今年の夏の地方大会でも、同様に泊まりに来たのだった。
今日の前日練習は一律で夕方に終了したものの、試合会場からは少し距離があるため、この旅館に到着した今は夜と言える時間になってしまっている。
相変わらず、歴史を感じさせるような旅館だ。全体的に木造を思わせるような建築ではあるものの、コンクリート壁はしっかりと修繕もされており、古さによる残念さは全くないのだ。
おまけに広い。たった今タクシーから降り立ったこのエントランスの前の広場だって、大きな市の総合病院かのようにしっかりと整備されたロータリーとなっているのだ。
高校教師という、職業の安定性と引き換えにそこまでの高級ではないという一介の公務員が易々と泊まることができないようなものに感じてしまうほどだった。
エントランスのガラス扉の向こうに見える、デカデカと掲げられた『歓迎』の看板には、数々の名が刻まれている。おそらく本日の宿泊客なのだろうが、どうやら個人客は少ないようで、そのほとんどは団体名を冠したものとなっている。旅行ツアー名やサークル名のようなもの、さらには企業名や課名までも書かれている。これだけ規模のある旅館なのだから、研修や慰安旅行でも厚意にされているのだろう。
「本当、すごく大きいところだよね」
「清野先生、どういう知り合いなんですか」
「ははは、まぁ、昔の友人だよ」
「は~、いいなぁ~。すごいなぁ~」
浮かれたような筒井の声が耳に入る。声に出さずとも、その気持ちは立成も同様だ。
今回、立成と筒井がこの旅館に宿泊することになったのも、きっかけはまたも清野からの誘いだった。
開催地も会場も前回と同じなのだから、もう一度行かないか、と。
立成としては断る理由が無かった。筒井も快くOKした。
当然だ。立成の学校の予算内で手配するホテルよりも格段に快適な宿泊先になるのだから。
唯一の懸念があるとすれば、それは・・・
「先生、行くよー」
「あ、ああ」
生徒の声に呼びかけられ、立成は両手に荷物を抱えながら建物の入り口へと入っていった。
・・・
「よくぞおいでくださいました。お疲れでしょう。お食事の準備が整っておりますので」
迎え入れてくれた若女将が、フロントで手続きを終えた立成たち4人を館内へと案内する。
外観に負けず劣らず、内装も豪奢な旅館だ。
眩しいほどにきらびやか、というわけではないのだが、歴史を感じさせつつも古臭さがない、見事なバランスだ。
以前宿泊したときから、まだ半年ほどしか経っていないというのに、ずいぶんと懐かしい気分になる。
しかし、前回と違うことはというと・・・
「はい、こちらが柿の間です」
「じゃ、先生たち、俺らはこっちだから」
「浴衣に着替えたらすぐにご飯に向かいますね」
そういって生徒である筒井と森田だけが、柿の間へと入っていく。残りの大人2人はというと、その部屋には入らずに若女将の後を付いて行き。
「こちらが栗の間でございます」
若女将が先導して室内に入っていく。
座卓や座布団が並ぶ畳の間。
美しくそして繊細な掛け軸が飾られた床の間。
大きな窓とその手前に広がる広緑。
旅館といえばこういうものだ、というものが並んでいる。
決して狭すぎず、かといって居心地が悪くなるほど広くもない、丁度良く落ち着きのある部屋だ。
ここが立成と清野に割り当てられた部屋だ。
前回からの変更点としては部屋割りを生徒同士で1部屋、教師同士で1部屋としたことだった。
これも清野からの提案だったのだ。
他校とはいえ、生徒同士、そして顧問同士、かなり関係性ができているため、悪い話ではないように思われる。
決して、教師と生徒の関係が悪いわけではない。清野と森田についても、実情は分からないものの、傍から見ている分には良好な関係が形成されているように思える。
もっとも、立成と筒井の関係については、そういう次元で語ることができるものには収まっていないのではあるが。
「なぁんだ。せっかく先生と旅行に行ける気分になると思ったのになぁ」
「おい・・・」
「ふふふ、でも森田と泊まるのも楽しみだし。いいよ」
清野からの提案を話したときには、筒井は少し残念がっていた。それでもふざけた口調で納得はしていたようだった。
そして。
(うっ・・・・)
夜になっているからだろう。奥にある襖を開いた先には、布団が2組、既に敷かれていた。
和風な寝室という、清潔でとても素晴らしいものだ。
しかし、立成はどうしても意識してしまっていた。
「・・・万一のときの防災道具はこちらの棚にあります。また、こちらが当館の避難経路ですので、事前にご確認願います。お食事の準備もできておりますので、ご都合がつき次第いらっしゃってください。それでは」
若女将の丁寧な案内も耳を透き通ってしまう。
正直、立成は今日、清野と顔を合わせる瞬間から緊張していた。
どうしても先月のことを思い出してしまうのだ。
漫画喫茶での、男同士でのあの出来事。
忘れることの方が無理な話だった。
「おいっ!何ぼーっとしてんだよ、立成先生っ!!早く着替えて飯行こーぜ!」
「わっ、は、はいっ!」
しかしながら、清野は至って普通の様子だった。
ごつい風貌ではあるものの、これまでと同様に人好きのするような笑顔と軽快な語り口で、立成たち3人をリードしてくれている。
かつての清野との関係程度であれば、この旅館の泊まりは全く問題ないと思っていた。
しかし、今、目の前にいる男の本心はわかりかねていた。
(俺、意識し過ぎなのかなぁ・・・・)
身に着けていたワイシャツを脱ぎながら、立成は一人、悶々と考え続けていた。
・・・・
丁寧に添えられた漬物、新鮮な魚介による刺身、固形燃料で熱せられる牛肉のステーキ、炊き立ての白米、山の幸による和え物。昨年と同様に豪華で色とりどりなお膳を前に、相変わらずの食事会だった。
久しぶりの4人の会食だからだろう。
4人とも浴衣に着替え、美味い料理を味わいながらも、清野を始めとして、筒井と森田も砕けた会話が止まらない。
立成はそんな会話を聞きながらも、楽しげに頷き、そして笑い、ビールを飲み続けていた。
その部屋には立成たち以外は誰もいなかった。夕食としては少し時間が遅いというのもあるが、おそらく今日は個人客が少なく、団体客はよその大広間に分けられているのだろう。
「そういえば、去年は立成先生大変でしたよね」
「うん?」
「確か、今回は大丈夫でした?」
「・・・あっ」
ふいに森田発した言葉に、立成は心臓が飛び出しそうになる。
彼は・・・森田は、そんなことを覚えているのか。
そして、自分はそんなことも忘れてしまっていたのか。
必然的に、立成の脳裏に昨年の出来事が思い浮かんでしまう。
強打した腰の様子を見るからと清野に無理やり横にされ、浴衣を捲られ、下着も剥ぎ取られ、尻タブを全開まで開かれた上に、背後をとった清野の両脚で自分の陰茎を・・・
思わず他の2人の顔を見る。
筒井の顔。そして清野の顔。
自分の醜態を晒してしまったことを、彼らは覚えているのだろうか?
「おっ、どうした清野先生!顔が真っ赤だぞ!もう酔っちまったか?」
「い、いえ、そんな」
「ほらほら!せっかくの旅館の飯なんだから、飲め飲め!」
「は、はいっ!いただきますっ!!」
ガラスコップになみなみと注がれる麦酒を両手で支え、それを一気に飲み干す。
大学時代に培った体育会の作法と経験が自然とそうさせる。
(忘れたのか・・・?そうだといいんだが・・・・)
安堵と不安が入り混じる気持ちのせいか、それからも立成は、ひらすらコップを空け続けていた。
どこか落ち着かない気持ちを何とかしようとしたのかもしれない。
「・・・すんません、ちょっとトイレに」
膀胱の限界も簡単に来ていた。
ビールを飲み過ぎてしまったのか。
立成は立ちあがり、部屋を出ていく。
その際、少し身体がよろめいてしまう。
「うわっ」
「おい、立成先生大丈夫かっ」
「あっ、いや、大丈夫で~す」
「もう、先生飲み過ぎ!」
「トイレは結構離れたところですよ~」
「あ~い。ありがとな、森田くーん」
そう言いながら、立成は少し乱れた浴衣の裾をを直しながらも、食事の部屋の襖を閉じた。
・・・・・
「・・・便所はどこにあるんだっ?」
食事の間を出た立成だが、目的の場所は全く見つけられなかった。
広すぎるのだ。
ひととおり廊下を歩いたつもりだったが、トイレらしい場所も、その案内も見つけられなかった。
旅館の関係者がいれば場所を聞けるようなものだが、時間が遅いからだろうか。それらしい人間は全くいない。
「くそ・・・どうしよう、一旦ロビーまで戻るか・・・?」
そんなことを考えながら廊下を歩いていた立成だった。
「・・・・・・おや」
背後から何かの声が聞こえた。
最初は自分へ発せられたものだとは全く思わなかった。
「お久しぶりです、立成先生」
(・・・名前を呼ばれた・・・?)
思わず振り返る。
そこにいたのは、にっこりと微笑む初老の男だった。
その顔にはどこか見覚えがあった。
「お忘れですか。沼田ですよ。5月の武道館以来ですかな?」
「えっ?・・・・あぁっ!」
込み入った道のりの先に建てられた少し古めかしい大きな旅館。
そんな旅館の入り口前に止められたタクシーから降りた2人の男2人の少年が、トランクから荷物を取り出している。
「いや、でもまさかまたここに来るとは思わなかったなぁ」
「同じ会場だからな。せっかくだから一緒に泊った方が楽しいだろ?」
「清野先生、ありがとうございます」
「森田、それ取ってー」
「はいはい」
明日からは夏の地方大会だ。各県の県大会を勝ち抜いてきた猛者の高校生たちが、弓道場で相まみえる。
当然、県大会で2位となった筒井も参加する。そして、1位となった森田も。
今日は前日練習のみで、本番は明日からだ。明日が予選、それに通過すれば、本選になるのだ。
そして、ここは昨年の秋の地方大会にて、清野の知り合いが経営しているというこの旅館に宿泊した旅館だった。
今年の夏の地方大会でも、同様に泊まりに来たのだった。
今日の前日練習は一律で夕方に終了したものの、試合会場からは少し距離があるため、この旅館に到着した今は夜と言える時間になってしまっている。
相変わらず、歴史を感じさせるような旅館だ。全体的に木造を思わせるような建築ではあるものの、コンクリート壁はしっかりと修繕もされており、古さによる残念さは全くないのだ。
おまけに広い。たった今タクシーから降り立ったこのエントランスの前の広場だって、大きな市の総合病院かのようにしっかりと整備されたロータリーとなっているのだ。
高校教師という、職業の安定性と引き換えにそこまでの高級ではないという一介の公務員が易々と泊まることができないようなものに感じてしまうほどだった。
エントランスのガラス扉の向こうに見える、デカデカと掲げられた『歓迎』の看板には、数々の名が刻まれている。おそらく本日の宿泊客なのだろうが、どうやら個人客は少ないようで、そのほとんどは団体名を冠したものとなっている。旅行ツアー名やサークル名のようなもの、さらには企業名や課名までも書かれている。これだけ規模のある旅館なのだから、研修や慰安旅行でも厚意にされているのだろう。
「本当、すごく大きいところだよね」
「清野先生、どういう知り合いなんですか」
「ははは、まぁ、昔の友人だよ」
「は~、いいなぁ~。すごいなぁ~」
浮かれたような筒井の声が耳に入る。声に出さずとも、その気持ちは立成も同様だ。
今回、立成と筒井がこの旅館に宿泊することになったのも、きっかけはまたも清野からの誘いだった。
開催地も会場も前回と同じなのだから、もう一度行かないか、と。
立成としては断る理由が無かった。筒井も快くOKした。
当然だ。立成の学校の予算内で手配するホテルよりも格段に快適な宿泊先になるのだから。
唯一の懸念があるとすれば、それは・・・
「先生、行くよー」
「あ、ああ」
生徒の声に呼びかけられ、立成は両手に荷物を抱えながら建物の入り口へと入っていった。
・・・
「よくぞおいでくださいました。お疲れでしょう。お食事の準備が整っておりますので」
迎え入れてくれた若女将が、フロントで手続きを終えた立成たち4人を館内へと案内する。
外観に負けず劣らず、内装も豪奢な旅館だ。
眩しいほどにきらびやか、というわけではないのだが、歴史を感じさせつつも古臭さがない、見事なバランスだ。
以前宿泊したときから、まだ半年ほどしか経っていないというのに、ずいぶんと懐かしい気分になる。
しかし、前回と違うことはというと・・・
「はい、こちらが柿の間です」
「じゃ、先生たち、俺らはこっちだから」
「浴衣に着替えたらすぐにご飯に向かいますね」
そういって生徒である筒井と森田だけが、柿の間へと入っていく。残りの大人2人はというと、その部屋には入らずに若女将の後を付いて行き。
「こちらが栗の間でございます」
若女将が先導して室内に入っていく。
座卓や座布団が並ぶ畳の間。
美しくそして繊細な掛け軸が飾られた床の間。
大きな窓とその手前に広がる広緑。
旅館といえばこういうものだ、というものが並んでいる。
決して狭すぎず、かといって居心地が悪くなるほど広くもない、丁度良く落ち着きのある部屋だ。
ここが立成と清野に割り当てられた部屋だ。
前回からの変更点としては部屋割りを生徒同士で1部屋、教師同士で1部屋としたことだった。
これも清野からの提案だったのだ。
他校とはいえ、生徒同士、そして顧問同士、かなり関係性ができているため、悪い話ではないように思われる。
決して、教師と生徒の関係が悪いわけではない。清野と森田についても、実情は分からないものの、傍から見ている分には良好な関係が形成されているように思える。
もっとも、立成と筒井の関係については、そういう次元で語ることができるものには収まっていないのではあるが。
「なぁんだ。せっかく先生と旅行に行ける気分になると思ったのになぁ」
「おい・・・」
「ふふふ、でも森田と泊まるのも楽しみだし。いいよ」
清野からの提案を話したときには、筒井は少し残念がっていた。それでもふざけた口調で納得はしていたようだった。
そして。
(うっ・・・・)
夜になっているからだろう。奥にある襖を開いた先には、布団が2組、既に敷かれていた。
和風な寝室という、清潔でとても素晴らしいものだ。
しかし、立成はどうしても意識してしまっていた。
「・・・万一のときの防災道具はこちらの棚にあります。また、こちらが当館の避難経路ですので、事前にご確認願います。お食事の準備もできておりますので、ご都合がつき次第いらっしゃってください。それでは」
若女将の丁寧な案内も耳を透き通ってしまう。
正直、立成は今日、清野と顔を合わせる瞬間から緊張していた。
どうしても先月のことを思い出してしまうのだ。
漫画喫茶での、男同士でのあの出来事。
忘れることの方が無理な話だった。
「おいっ!何ぼーっとしてんだよ、立成先生っ!!早く着替えて飯行こーぜ!」
「わっ、は、はいっ!」
しかしながら、清野は至って普通の様子だった。
ごつい風貌ではあるものの、これまでと同様に人好きのするような笑顔と軽快な語り口で、立成たち3人をリードしてくれている。
かつての清野との関係程度であれば、この旅館の泊まりは全く問題ないと思っていた。
しかし、今、目の前にいる男の本心はわかりかねていた。
(俺、意識し過ぎなのかなぁ・・・・)
身に着けていたワイシャツを脱ぎながら、立成は一人、悶々と考え続けていた。
・・・・
丁寧に添えられた漬物、新鮮な魚介による刺身、固形燃料で熱せられる牛肉のステーキ、炊き立ての白米、山の幸による和え物。昨年と同様に豪華で色とりどりなお膳を前に、相変わらずの食事会だった。
久しぶりの4人の会食だからだろう。
4人とも浴衣に着替え、美味い料理を味わいながらも、清野を始めとして、筒井と森田も砕けた会話が止まらない。
立成はそんな会話を聞きながらも、楽しげに頷き、そして笑い、ビールを飲み続けていた。
その部屋には立成たち以外は誰もいなかった。夕食としては少し時間が遅いというのもあるが、おそらく今日は個人客が少なく、団体客はよその大広間に分けられているのだろう。
「そういえば、去年は立成先生大変でしたよね」
「うん?」
「確か、今回は大丈夫でした?」
「・・・あっ」
ふいに森田発した言葉に、立成は心臓が飛び出しそうになる。
彼は・・・森田は、そんなことを覚えているのか。
そして、自分はそんなことも忘れてしまっていたのか。
必然的に、立成の脳裏に昨年の出来事が思い浮かんでしまう。
強打した腰の様子を見るからと清野に無理やり横にされ、浴衣を捲られ、下着も剥ぎ取られ、尻タブを全開まで開かれた上に、背後をとった清野の両脚で自分の陰茎を・・・
思わず他の2人の顔を見る。
筒井の顔。そして清野の顔。
自分の醜態を晒してしまったことを、彼らは覚えているのだろうか?
「おっ、どうした清野先生!顔が真っ赤だぞ!もう酔っちまったか?」
「い、いえ、そんな」
「ほらほら!せっかくの旅館の飯なんだから、飲め飲め!」
「は、はいっ!いただきますっ!!」
ガラスコップになみなみと注がれる麦酒を両手で支え、それを一気に飲み干す。
大学時代に培った体育会の作法と経験が自然とそうさせる。
(忘れたのか・・・?そうだといいんだが・・・・)
安堵と不安が入り混じる気持ちのせいか、それからも立成は、ひらすらコップを空け続けていた。
どこか落ち着かない気持ちを何とかしようとしたのかもしれない。
「・・・すんません、ちょっとトイレに」
膀胱の限界も簡単に来ていた。
ビールを飲み過ぎてしまったのか。
立成は立ちあがり、部屋を出ていく。
その際、少し身体がよろめいてしまう。
「うわっ」
「おい、立成先生大丈夫かっ」
「あっ、いや、大丈夫で~す」
「もう、先生飲み過ぎ!」
「トイレは結構離れたところですよ~」
「あ~い。ありがとな、森田くーん」
そう言いながら、立成は少し乱れた浴衣の裾をを直しながらも、食事の部屋の襖を閉じた。
・・・・・
「・・・便所はどこにあるんだっ?」
食事の間を出た立成だが、目的の場所は全く見つけられなかった。
広すぎるのだ。
ひととおり廊下を歩いたつもりだったが、トイレらしい場所も、その案内も見つけられなかった。
旅館の関係者がいれば場所を聞けるようなものだが、時間が遅いからだろうか。それらしい人間は全くいない。
「くそ・・・どうしよう、一旦ロビーまで戻るか・・・?」
そんなことを考えながら廊下を歩いていた立成だった。
「・・・・・・おや」
背後から何かの声が聞こえた。
最初は自分へ発せられたものだとは全く思わなかった。
「お久しぶりです、立成先生」
(・・・名前を呼ばれた・・・?)
思わず振り返る。
そこにいたのは、にっこりと微笑む初老の男だった。
その顔にはどこか見覚えがあった。
「お忘れですか。沼田ですよ。5月の武道館以来ですかな?」
「えっ?・・・・あぁっ!」
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