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顧問2年目06月
顧問2年目06月 13
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立成が清野に連れられてきた店、それは漫画喫茶だった。
インターネットカフェとも呼ばれている、全国展開されているチェーン店だ。
33歳の立成でも、その存在は知っている。学生時代にも何度か利用することはあった。もっとも、教職についてからは、めっきり利用することもなくなったが。
「まぁまぁ。一旦入っとこうよ!ここは俺がおごるからさ!」
「いや、もう夜の10時なんで、ここで漫画なんて読んでも・・・」
「大丈夫、そんなにいないよ!2時間位かな?」
「いや、十分長いですって!」
「そんなこと言うなよ~!じゃ、行くぞっ!」
透明なガラス板でできた自動ドアが開き、広がった道を意気揚々と歩いていく清野。
立成は呆然とその姿を見つめたまま立ち尽くしていた。
なぜこんなところへ?
夜の10時だというのに今から漫画を読むのか?
立成は思考を巡らせ、奇想天外すぎる清野の行動に呆れながらも、今やついて行くしかない立成は、ため息をつきながらも自動ドアをくぐり抜けていった。
・・・
「へぇ・・・漫画喫茶にもこんな広い部屋があるんですね、知らなかった」
「そうだろ?こういう部屋はグループで使うようになってんだ。だから、ほれ、このテーブルもこたつなんだ」
「本当だ・・・俺、最近来たことないんですけど、こんな部屋もあるんですね」
「なっ!最近の満喫はすごいんだからなぁ。この店はないみたいだけど、食いもんも無料で出してくれるところもあるぞ!」
「えっ、マジですか?」
「マジマジ。まぁ、ソフトクリームとか、食パンとかだけどな」
「へぇ、すごいんですね」
立成と清野は漫画喫茶のある部屋に案内されていた。
そこはファミリールームと呼ばれており、1人利用が一般的な漫画喫茶であるにも関わらず、1部屋を複数人のグループで利用できる部屋だ。
漫画喫茶の座席は当然1人での利用が想定されているため、各ブースはとても狭い。しかし、今立成と清野の2人がいる部屋は、4畳ほどの広さだ。他のブースと異なり、区画分けの壁も薄いものではあるが天井まで伸びており、プライベートも確保されている。部屋の中央には低いテーブルがあり、冬にはコタツになるようだ。壁際には大きなディスプレイとPCが備え付けてあり、ここでネットゲームの同時プレイも楽しめそうな環境となっている。
立成は少し感心していた。自分よりも年上の清野が、このような若者文化に詳しいのが意外だった。見た目は坊主に近い短髪で、いかにも堅そうな身体をした親父風の男であるというのに。
「清野先生はこういうのに詳しいんですね。意外です。・・・で、どうしてここに俺を連れて来たんですか?」
「まぁまぁ。とりあえず座ろうや」
「はぁ」
答えを濁す清野に促され、立成はとりあえず床に腰を下ろす。安物であるのだろうが、カーペットの柔らかさが気持ち良い。清野もテーブルの角を挟んだ隣に座った。1次会の酒もすっかりと抜けきっていた2人はとりあえず持ってきたドリンクバーの烏龍茶をなんはなしに口につけながらしばらくの時間を過ごした。
「あのね・・・ごほん。立成先生」
「えっ、はい」
「さっきのスナック・・・本当にすまんかった!」
「えぇっ!」
しばしの沈黙の後、唐突な清野の謝罪だった。
これまでの道中でも散々謝られていたが、今回は違った。普段の飄々とした清野からは考えられないくらいに苦渋に顔を歪ませながらもその丸い頭を下げている。
立成は対応に困窮した。先ほどまでのスナックでの受けた仕打ちを考えると清野に恨みが無いかというと嘘になるが、かといってここまで正攻法で謝罪されると、どうにも居心地が悪い。
「いや、その、まあいいですよ」
「さっきのスナック、俺、本当にやりすぎだったなって思った。ちょっと調子に乗り過ぎだった。そのせいで立成先生・・・本当にすまん!」
「そんな・・・」
「俺がふざけなださなかったら、多分楽しく終わってたと思うのに・・・・立成先生、気分悪くしたよな?当然だよな。だから・・・・本当、ごめんなさい!!」
とても真摯な対応だった。ふざけている様子が微塵もない。
中年に入りかけた男が頭を下げる様子は少し情けなく感じる。
声色に少し泣きそうになっている気配を感じながらも、清野の懺悔は続いている。立成は清野の口から漏れ出る言葉を聞くしかなかった。
「俺な、こうやって立成先生と馬鹿なこと話してんのが、すごく楽しいんだよね。年は少し離れてるけど、可愛い後輩っていうか。この年になって、新しい友達ができたっていう感じがしてな」
「それは・・・嬉しいですね」
「だから・・・その、なんだ、さっきのは水に流してもらえると嬉しいんだけど・・・」
「わかりましたよ、わかりました。さっきまでのことはもう忘れますんで、清野先生、顔をあげてください」
頭を下げ続ける清野に対して立成が嗜めるように声をかけることで、清野はようやく頭をあげた。
「そうか、ありがとう」
「いいえ。でも、清野先生がそんな風に俺のことを思ってくれてたとは知らなかったなぁ」
「ははっ、恥ずかしいことを言っちまったかな」
「そうですよ、こんなおじさんに好かれてもなぁ~」
「何ぃ~!?」
穏やかな空気が流れる。
立成は冷やかすように言ったが、内心ではまんざらでもなく、むしろ嬉しかった。
互いに学校という職場に繋がれてしまっている同じ職業同士。ある程度仕事に慣れてしまえば新たな刺激もなく、コミュニティも閉鎖的なものである。新しい友人などできることなどない。そんな中、立成としても、捉えがたいところはあるものの清野の人柄には良い印象であったのだ。それが、清野の方も、自分に対して同じ種類の感情を持ってもらっていたのだから、感激だった。
「それで、そんなことを言うためにここまで来たんですか?随分とまた盛大ですね」
「ん?いや、それだけじゃないんだけど」
「はい?」
あの悲痛だったはずの清野の顔が、いつの間にかニヤニヤとしたスケベ丸だしなオヤジの顔になっている。
何だか嫌な予感がした。さっきまで散々、スナックでふざけたことを謝罪したというのに、この顔はまるで、これから悪戯をしようとする顔そのものだったのだ。
「だからね、俺のさっきの謝罪と、これからもよろしく仲良くしてね、ってことで、ここで一緒に一発抜いていこうぜ!って気持ちで来たんだよね」
「は・・・?」
立成はぽかんとしていた。
自分の耳も疑った。これまでの話の流れから想像していたものと、かけ離れ過ぎているフレーズが聞こえたような気がしていた。聞こえた上に、その意味を理解することができなかった。
「こういう店はね、常に最新のエロ動画が充実してるんだよ~!ジャンルも幅広いしね!だから、立成先生も気にいるのがあるかなって!」
「いや、あの、清野先生」
「最初は個人ビデオボックスにしようと思ったんだけどさぁ、せっかく仲直りするんだし、だったら同じ部屋でできそうな方がいいかな~って思ってここにしたんだよ。あ、ここにティッシュあるからいっぱい使いなよ」
「ちょ、ちょっと」
「いやー、やっぱ部屋にいたまま次から次と動画を変えられるのが良いよね~。俺、アナログなエロ本とかもまぁ好きなんだけどさ、利便性はデジタルには叶わないよね。ほんと、テクノロジーには感謝しかないっていうか!あはは!」
「ま、待ってください!」
立成は大声で清野の調子づいた喋りを遮った。
言いたいことはいろいろある。いろいろだ。突っ込みどころがたくさんある。いや、突っ込みどころしかない。
というか、そもそもとして、今の話の大前提として。そこの確認が必要だ。
「あの、ここで、その・・・抜くって、言いました?抜くって、まさか、ここでオナニーするってことですか?」
「うん、そうだよ」
「えっと、誰が?」
「何言ってんの?俺と立成先生に決まってんじゃん」
清野はあっけらかんと肯定した。何が問題でも?とでも言いたげだった。
立成は座っているというのに、立ちくらみしそうになる。
何を言っているんだこの親父は?
「な、なんで」
「だってさ、立成先生・・・」
ずい、と清野が、座りながら立成に顔を近づける。
その厳ついおっさんの顔は下卑な考えを隠そうともしない、とたも教育者とは思えない表情だった。
「さっきの店でで、なんだかんだ興奮しちゃったんでしょ?」
「ひいっ!」
ぎゅっと立成の股間が、清野の手に押しつけられた。
「はははっ!ほら、まだまだ元気そうじゃない!?いいねぇ、若いね~!」
「ちょっやめ!」
「やめろだぁ!?ほらほら!すぐに硬くなりやがったぞ!ほれ、グリグリっと!」
「あぁっ!だめ!」
ちょうど亀頭の部分を掴まれた。
チノパン越しだからそこまでの刺激ではなかったはずだ。
それなのに、そこを撫でられ、軽く触れられただけだというのに、立成の一物はビクンと反応してしまっていた。
当然、全力で対抗した。したつもりだった。
しかし、一番男の弱い部分を掴まれてしまっては、立成も抗うことができず、清野のなすがままになってしまった。清野は立成の男としての一番の弱点の部分を刺激しながらも語り続ける。
「仕方ないよなぁ!あんな可愛い娘たちに遊ばれちゃったら、男は誰でも興奮しちゃうよなぁ!」
「そ、それは・・・ふぐっ!」
「だからさ、一発抜いていこうぜ!本当は抜き屋を奢るつもりだったんだけど、さっき立成先生、滅茶苦茶拒否するしなぁ」
「それは、当たり前・・・」
「今からホテル帰ってもなんか寂しいじゃん!俺もここ最近溜まっちゃってるから、もう今出しちゃいたいんだよね~!だからさ、俺に付き合ってよ!な、な、な!」
「ああああ!わ、わかりました!わかりました!わかりましたから、もう離して下さいっ!」
「本当だな?ようしわかった!許してやる!」
ようやく清野の手による股間への攻撃が終わると、立成ははぁはぁと息を荒げながら肩で息をしていた。そんな立成をみながらも、清野はどこか嬉しそうにしている。その笑顔はまるで、過去に立成に悪戯をしていたとき、そしてスナックで立成への辱めが過激になる前に見せていた笑顔そのものであった。
「ってことで、立成先生。好きなAVのジャンル教えてよ!絶対気にいるやつを探してあげるからさ!」
テーブルの上に置かれていたパソコン用キーボードに清野が手をかける。
ここで抜いていくのだから、そのためのネタが必要なのは当然なのだが、あまりにも唐突な話の連続に立成は羞恥よりも本当に頭が付いて行かなかった。
「いや、俺は、その、そういうのは」
「もう!今更気取んなって!男同士なんだからさ!」
「いや、やっぱここは、年の順てことで、清野先生の趣味でいいですよ・・・」
「そう?じゃ、遠慮なく・・・」
清野がカタカタとキーボードを叩く。
壁にある大きなディスプレイには表示されずなかった。清野の席の傍には小型のモバイルモニターがあり、清野の作業はそちらにしか表示されないようだった。
そんな清野を見ながら立成は、『今からここで清野と自慰をするのか?』と反芻していた。
なぜこうなるのか?
おかしいと思わないのか、このオヤジは?
「よしっ、これだっ!」
嬉しそうな清野の声とともに、巨大ディスプレイに動画が再生された。
OP風の画面が終わると、可愛らしい娘がインタビューされる場面に切り替わった。どうやら素人者のようだ。
「い、意外と普通のやつですね・・・」
「なんだよ意外って!失礼だなぁ!」
画面の中では、インタビューを終えた娘がお約束のように服を脱がされ、その裸の身体のありとあらゆる部位をカメラで撮影されていた。素人ものの体裁のためか、アダルトビデオであるにもかかわらず、なかなかに恥ずかしがっている。
「ははは、ねぇ、ねぇ見て」
「・・・・?」
「こんなんなっちゃった」
「ちょ、い、言わなくていいですよ!もう!」
いつしか立成の隣、かなり近くに清野が胡坐で座っていた。
ズボンはまだはいているが、その股間は明らかに起立しており、40手前のオヤジという男盛りの立派な魔羅であることが示されていた。
「立成先生は、どう?」
「どうって」
「あれ、まだまだって感じだね。もしかしてこういうジャンルは趣味じゃない?」
「そういうわけじゃ」
「うーん、でもなんかあまり興奮してなさそうだね。・・・よし、じゃあ俺が立成先生が好きそうなやつを選んでやるよ!」
別に興奮していないわけではなかった。
さっきは性器を刺激されたから硬くしてしまっていたが、
人前で自慰行為という、プライベートなことをすることに、純潔である立成はまだ心の準備ができていないのだ。
そもそも、なぜそんなことをしないといけないのか、ということについても納得していないのだが。
そんな立成の考えをよそに、清野はキーボードを見ながらうんうんと考えていた。そしてある瞬間、急に立成の方を見やると、またもあのいかにも助平そうなオヤジの助平笑顔を浮かべていた。
(なんだ、清野先生の今の顔は・・・)
立成は訝しむ。何だか、嫌な予感がしていた。
清野がああいう笑顔を浮かべるときは、いつも決まって・・・・
清野は満足そうな顔で数分ほどタイピングをした後、壁面に動画の再生がスタートした。
安っぽいBGMとともに、その動画のタイトルがデカデカと表示された。
『壮絶!清楚なJKが実はドS?初心で純朴な男教師は、生徒からのお仕置きでMの世界を教えられちゃう!』
インターネットカフェとも呼ばれている、全国展開されているチェーン店だ。
33歳の立成でも、その存在は知っている。学生時代にも何度か利用することはあった。もっとも、教職についてからは、めっきり利用することもなくなったが。
「まぁまぁ。一旦入っとこうよ!ここは俺がおごるからさ!」
「いや、もう夜の10時なんで、ここで漫画なんて読んでも・・・」
「大丈夫、そんなにいないよ!2時間位かな?」
「いや、十分長いですって!」
「そんなこと言うなよ~!じゃ、行くぞっ!」
透明なガラス板でできた自動ドアが開き、広がった道を意気揚々と歩いていく清野。
立成は呆然とその姿を見つめたまま立ち尽くしていた。
なぜこんなところへ?
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立成は思考を巡らせ、奇想天外すぎる清野の行動に呆れながらも、今やついて行くしかない立成は、ため息をつきながらも自動ドアをくぐり抜けていった。
・・・
「へぇ・・・漫画喫茶にもこんな広い部屋があるんですね、知らなかった」
「そうだろ?こういう部屋はグループで使うようになってんだ。だから、ほれ、このテーブルもこたつなんだ」
「本当だ・・・俺、最近来たことないんですけど、こんな部屋もあるんですね」
「なっ!最近の満喫はすごいんだからなぁ。この店はないみたいだけど、食いもんも無料で出してくれるところもあるぞ!」
「えっ、マジですか?」
「マジマジ。まぁ、ソフトクリームとか、食パンとかだけどな」
「へぇ、すごいんですね」
立成と清野は漫画喫茶のある部屋に案内されていた。
そこはファミリールームと呼ばれており、1人利用が一般的な漫画喫茶であるにも関わらず、1部屋を複数人のグループで利用できる部屋だ。
漫画喫茶の座席は当然1人での利用が想定されているため、各ブースはとても狭い。しかし、今立成と清野の2人がいる部屋は、4畳ほどの広さだ。他のブースと異なり、区画分けの壁も薄いものではあるが天井まで伸びており、プライベートも確保されている。部屋の中央には低いテーブルがあり、冬にはコタツになるようだ。壁際には大きなディスプレイとPCが備え付けてあり、ここでネットゲームの同時プレイも楽しめそうな環境となっている。
立成は少し感心していた。自分よりも年上の清野が、このような若者文化に詳しいのが意外だった。見た目は坊主に近い短髪で、いかにも堅そうな身体をした親父風の男であるというのに。
「清野先生はこういうのに詳しいんですね。意外です。・・・で、どうしてここに俺を連れて来たんですか?」
「まぁまぁ。とりあえず座ろうや」
「はぁ」
答えを濁す清野に促され、立成はとりあえず床に腰を下ろす。安物であるのだろうが、カーペットの柔らかさが気持ち良い。清野もテーブルの角を挟んだ隣に座った。1次会の酒もすっかりと抜けきっていた2人はとりあえず持ってきたドリンクバーの烏龍茶をなんはなしに口につけながらしばらくの時間を過ごした。
「あのね・・・ごほん。立成先生」
「えっ、はい」
「さっきのスナック・・・本当にすまんかった!」
「えぇっ!」
しばしの沈黙の後、唐突な清野の謝罪だった。
これまでの道中でも散々謝られていたが、今回は違った。普段の飄々とした清野からは考えられないくらいに苦渋に顔を歪ませながらもその丸い頭を下げている。
立成は対応に困窮した。先ほどまでのスナックでの受けた仕打ちを考えると清野に恨みが無いかというと嘘になるが、かといってここまで正攻法で謝罪されると、どうにも居心地が悪い。
「いや、その、まあいいですよ」
「さっきのスナック、俺、本当にやりすぎだったなって思った。ちょっと調子に乗り過ぎだった。そのせいで立成先生・・・本当にすまん!」
「そんな・・・」
「俺がふざけなださなかったら、多分楽しく終わってたと思うのに・・・・立成先生、気分悪くしたよな?当然だよな。だから・・・・本当、ごめんなさい!!」
とても真摯な対応だった。ふざけている様子が微塵もない。
中年に入りかけた男が頭を下げる様子は少し情けなく感じる。
声色に少し泣きそうになっている気配を感じながらも、清野の懺悔は続いている。立成は清野の口から漏れ出る言葉を聞くしかなかった。
「俺な、こうやって立成先生と馬鹿なこと話してんのが、すごく楽しいんだよね。年は少し離れてるけど、可愛い後輩っていうか。この年になって、新しい友達ができたっていう感じがしてな」
「それは・・・嬉しいですね」
「だから・・・その、なんだ、さっきのは水に流してもらえると嬉しいんだけど・・・」
「わかりましたよ、わかりました。さっきまでのことはもう忘れますんで、清野先生、顔をあげてください」
頭を下げ続ける清野に対して立成が嗜めるように声をかけることで、清野はようやく頭をあげた。
「そうか、ありがとう」
「いいえ。でも、清野先生がそんな風に俺のことを思ってくれてたとは知らなかったなぁ」
「ははっ、恥ずかしいことを言っちまったかな」
「そうですよ、こんなおじさんに好かれてもなぁ~」
「何ぃ~!?」
穏やかな空気が流れる。
立成は冷やかすように言ったが、内心ではまんざらでもなく、むしろ嬉しかった。
互いに学校という職場に繋がれてしまっている同じ職業同士。ある程度仕事に慣れてしまえば新たな刺激もなく、コミュニティも閉鎖的なものである。新しい友人などできることなどない。そんな中、立成としても、捉えがたいところはあるものの清野の人柄には良い印象であったのだ。それが、清野の方も、自分に対して同じ種類の感情を持ってもらっていたのだから、感激だった。
「それで、そんなことを言うためにここまで来たんですか?随分とまた盛大ですね」
「ん?いや、それだけじゃないんだけど」
「はい?」
あの悲痛だったはずの清野の顔が、いつの間にかニヤニヤとしたスケベ丸だしなオヤジの顔になっている。
何だか嫌な予感がした。さっきまで散々、スナックでふざけたことを謝罪したというのに、この顔はまるで、これから悪戯をしようとする顔そのものだったのだ。
「だからね、俺のさっきの謝罪と、これからもよろしく仲良くしてね、ってことで、ここで一緒に一発抜いていこうぜ!って気持ちで来たんだよね」
「は・・・?」
立成はぽかんとしていた。
自分の耳も疑った。これまでの話の流れから想像していたものと、かけ離れ過ぎているフレーズが聞こえたような気がしていた。聞こえた上に、その意味を理解することができなかった。
「こういう店はね、常に最新のエロ動画が充実してるんだよ~!ジャンルも幅広いしね!だから、立成先生も気にいるのがあるかなって!」
「いや、あの、清野先生」
「最初は個人ビデオボックスにしようと思ったんだけどさぁ、せっかく仲直りするんだし、だったら同じ部屋でできそうな方がいいかな~って思ってここにしたんだよ。あ、ここにティッシュあるからいっぱい使いなよ」
「ちょ、ちょっと」
「いやー、やっぱ部屋にいたまま次から次と動画を変えられるのが良いよね~。俺、アナログなエロ本とかもまぁ好きなんだけどさ、利便性はデジタルには叶わないよね。ほんと、テクノロジーには感謝しかないっていうか!あはは!」
「ま、待ってください!」
立成は大声で清野の調子づいた喋りを遮った。
言いたいことはいろいろある。いろいろだ。突っ込みどころがたくさんある。いや、突っ込みどころしかない。
というか、そもそもとして、今の話の大前提として。そこの確認が必要だ。
「あの、ここで、その・・・抜くって、言いました?抜くって、まさか、ここでオナニーするってことですか?」
「うん、そうだよ」
「えっと、誰が?」
「何言ってんの?俺と立成先生に決まってんじゃん」
清野はあっけらかんと肯定した。何が問題でも?とでも言いたげだった。
立成は座っているというのに、立ちくらみしそうになる。
何を言っているんだこの親父は?
「な、なんで」
「だってさ、立成先生・・・」
ずい、と清野が、座りながら立成に顔を近づける。
その厳ついおっさんの顔は下卑な考えを隠そうともしない、とたも教育者とは思えない表情だった。
「さっきの店でで、なんだかんだ興奮しちゃったんでしょ?」
「ひいっ!」
ぎゅっと立成の股間が、清野の手に押しつけられた。
「はははっ!ほら、まだまだ元気そうじゃない!?いいねぇ、若いね~!」
「ちょっやめ!」
「やめろだぁ!?ほらほら!すぐに硬くなりやがったぞ!ほれ、グリグリっと!」
「あぁっ!だめ!」
ちょうど亀頭の部分を掴まれた。
チノパン越しだからそこまでの刺激ではなかったはずだ。
それなのに、そこを撫でられ、軽く触れられただけだというのに、立成の一物はビクンと反応してしまっていた。
当然、全力で対抗した。したつもりだった。
しかし、一番男の弱い部分を掴まれてしまっては、立成も抗うことができず、清野のなすがままになってしまった。清野は立成の男としての一番の弱点の部分を刺激しながらも語り続ける。
「仕方ないよなぁ!あんな可愛い娘たちに遊ばれちゃったら、男は誰でも興奮しちゃうよなぁ!」
「そ、それは・・・ふぐっ!」
「だからさ、一発抜いていこうぜ!本当は抜き屋を奢るつもりだったんだけど、さっき立成先生、滅茶苦茶拒否するしなぁ」
「それは、当たり前・・・」
「今からホテル帰ってもなんか寂しいじゃん!俺もここ最近溜まっちゃってるから、もう今出しちゃいたいんだよね~!だからさ、俺に付き合ってよ!な、な、な!」
「ああああ!わ、わかりました!わかりました!わかりましたから、もう離して下さいっ!」
「本当だな?ようしわかった!許してやる!」
ようやく清野の手による股間への攻撃が終わると、立成ははぁはぁと息を荒げながら肩で息をしていた。そんな立成をみながらも、清野はどこか嬉しそうにしている。その笑顔はまるで、過去に立成に悪戯をしていたとき、そしてスナックで立成への辱めが過激になる前に見せていた笑顔そのものであった。
「ってことで、立成先生。好きなAVのジャンル教えてよ!絶対気にいるやつを探してあげるからさ!」
テーブルの上に置かれていたパソコン用キーボードに清野が手をかける。
ここで抜いていくのだから、そのためのネタが必要なのは当然なのだが、あまりにも唐突な話の連続に立成は羞恥よりも本当に頭が付いて行かなかった。
「いや、俺は、その、そういうのは」
「もう!今更気取んなって!男同士なんだからさ!」
「いや、やっぱここは、年の順てことで、清野先生の趣味でいいですよ・・・」
「そう?じゃ、遠慮なく・・・」
清野がカタカタとキーボードを叩く。
壁にある大きなディスプレイには表示されずなかった。清野の席の傍には小型のモバイルモニターがあり、清野の作業はそちらにしか表示されないようだった。
そんな清野を見ながら立成は、『今からここで清野と自慰をするのか?』と反芻していた。
なぜこうなるのか?
おかしいと思わないのか、このオヤジは?
「よしっ、これだっ!」
嬉しそうな清野の声とともに、巨大ディスプレイに動画が再生された。
OP風の画面が終わると、可愛らしい娘がインタビューされる場面に切り替わった。どうやら素人者のようだ。
「い、意外と普通のやつですね・・・」
「なんだよ意外って!失礼だなぁ!」
画面の中では、インタビューを終えた娘がお約束のように服を脱がされ、その裸の身体のありとあらゆる部位をカメラで撮影されていた。素人ものの体裁のためか、アダルトビデオであるにもかかわらず、なかなかに恥ずかしがっている。
「ははは、ねぇ、ねぇ見て」
「・・・・?」
「こんなんなっちゃった」
「ちょ、い、言わなくていいですよ!もう!」
いつしか立成の隣、かなり近くに清野が胡坐で座っていた。
ズボンはまだはいているが、その股間は明らかに起立しており、40手前のオヤジという男盛りの立派な魔羅であることが示されていた。
「立成先生は、どう?」
「どうって」
「あれ、まだまだって感じだね。もしかしてこういうジャンルは趣味じゃない?」
「そういうわけじゃ」
「うーん、でもなんかあまり興奮してなさそうだね。・・・よし、じゃあ俺が立成先生が好きそうなやつを選んでやるよ!」
別に興奮していないわけではなかった。
さっきは性器を刺激されたから硬くしてしまっていたが、
人前で自慰行為という、プライベートなことをすることに、純潔である立成はまだ心の準備ができていないのだ。
そもそも、なぜそんなことをしないといけないのか、ということについても納得していないのだが。
そんな立成の考えをよそに、清野はキーボードを見ながらうんうんと考えていた。そしてある瞬間、急に立成の方を見やると、またもあのいかにも助平そうなオヤジの助平笑顔を浮かべていた。
(なんだ、清野先生の今の顔は・・・)
立成は訝しむ。何だか、嫌な予感がしていた。
清野がああいう笑顔を浮かべるときは、いつも決まって・・・・
清野は満足そうな顔で数分ほどタイピングをした後、壁面に動画の再生がスタートした。
安っぽいBGMとともに、その動画のタイトルがデカデカと表示された。
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