生徒との1年間

スオン

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顧問2年目05月

顧問2年目05月 8

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 立成はうずくまった後、道場の床に腰を下ろし胡坐をかいてた。胸の痛みが引いた後も背中を丸めている。
 その広い背中の後ろから真っ白の胴着の中に手を入れられていた。入れられた手によりその胸を弄られていた。

「ごめんね、多分だけど、俺が写真とろうとしたから先生が・・・」
「い、いやいいんだ、俺が勝手に・・・」

 筒井は言葉では謝っているが、その手は止まらなかった。皮膚だけではなく、そこにしっかりと生えている体毛、控えめなサイズの乳頭、その周りの乳輪までも弄りだす。
 指の腹で。指先で。爪先で。
 青年から抜け出して中年が見えつつある立成の年齢の男らしく、かつては立派な胸筋があったであろう場所は確かに割れたままであるものの、その上に脂肪を蓄えたことで逞しさと豊満さを両立した胸部だ。そんな場所を背後にいる生徒に両手で触れられている。
 そんなこと、男として恥ずべき事であるはずであるなのだ。乳首へのいたずらは、筒井から何度か受けていた。その度に立成は少しこそばゆい感覚を味わされていた。しかし今の立成は違っていた。くすぐったい感覚はあるが、それ以外の感情が胸への、乳首への、乳輪への刺激により生まれてくる。立成はそもそも、胸に対するこんなにも長い愛撫は初めての経験だった。

「半分、先生の射形を撮って見せようと思ったからなんだ、ごめんなさい」

 筒井の言葉はいつものような暢気な感じではないようだった。かといって、これまでに立成を責めるときのような色気も出ていなかった。
 立成は待っていた。明らかにその後に何かの言葉が続きそうだったからだ。しかし、それ以降筒井は言葉を繋がない。沈黙を守ったまま、なお顧問の逞しい胸を触ることを止めなかった。

 静寂に包まれた道場。6人立ができる程度の広さがある。そんな和式の建物の中で、背後から生徒に抱きすくめられていた。逞しい筋肉とそれに少しだけ乗った脂肪により厚みのある立成の身体に密着させ、その両手で絡められている。胴着越しに筒井の体温を感じていた。その温度が、今、自分が人間に包まれているということを立成に感じさせていた。そう思うとより一層、弄られる己の胸から切ない快楽が脳内に伝達されてしまっていた。
 それでも身体が強張ってしまう。少し肩にも力が入っている。

(ぐっ、胸なんかを、そんないじんなよ・・・)

 立成は奥歯を噛みしめた。思わず声を漏らしそうになってしまうからだ。その声がどんな声になるのか、立成自身もわからない。引きつった笑い声か、それとも悦びの声か。いずれにしても、生徒には聞かせたくなかった。
 楽器を奏でるかのような生徒の指先により声を漏らしてしまうなんて、さすがに教師としてのプライドが許せなかった。抵抗しない時点で、立成がそれを拒否していないことが明白ではあるのだが。
 そんな沈黙の空間と喘いでしまいそうな自分を紛らわすために立成は会話を進める。

「もう半分は?」
「・・・先生のかっこいい姿を残したかったから」

 その言葉だけで立成の芯が熱くなった。からかっていると思った。いつもそうなのだ。筒井はそういう調子のよいことを言って、立成の心を惑わし、身体を蹂躙してくる。性的なことに未熟な立成はいつもそんな筒井の言動に振り回されてしまう。今回もそうなのだろうか。どうしたって立成には判断がつかなかった。

「なあ、もう胸は・・・」
「・・・ごめん、なんか、落ち着くから・・・」

 実にかぼそくい声色だった。そんな声で言われてしまうと、立成は何も言えなくなってしまう。
 そんな言葉で惑わされてどうする。第一、相手は男なのだ。自分も男なのだ。それだというのに、胸を触って、触られて。そんなスキンシップで昂らせるなんて。いくらこれまで身体の関係を持ってしまっているとはいえ。

 落ち着くと言われた。自分なんかの身体を触るだけで。
 自分が必要とされているのだろうか。
 筒井に必要とされているのだろうか。
 こんな、デカいだけの面白みのない身体を触らせているだけだというのに。

 そんな風なことを考えていても、どうしたって立成の身体にも変化が現れてしまう。頭ではわかっていても雄の本能には体が抗えなかった。

(やべぇ・・・) 

 朝の自慰行為。ささやかな好意を持った対象である吉沢の痴態の妄想。自分の恥ずべき部分を晒す妄想。それで射精寸前まで自分を追い込んでいた。
 そして、午前の大会更衣室での珍事。散々尻を視られ、いじられ、弄ばれた挙句のまさかの放置。
 どちらも立成の官能を疼かせるだけ疼かせて、肝心の放出には至っていなかった。その反動が今現れてしまっていた。

 これで終わらせるべきなのは分かっていた。しかし隠せるわけがなかった。とっくに理性が追い付いていなかった。

「なぁ、筒井」
「ん?」
「その・・・いいんだぞ」
「えっ」

 情けないくらいに声が震えていた。声量もびっくりするほど小さかった。
 本当はもっとしっかりと言ってやりたかった。年上としての貫禄というか、教師としての威厳というか、そんな包容力のようなものを筒井に示してやりたかった。そのつもりだった。
 そうだというのに、出てきた言葉は不器用すぎるものだった。あまりにも稚拙で、初心で、飾らなすぎるものだった。

(言ってしまった・・・)

 不安になり立成は頭だけ振り返った。
 筒井は目を丸くした驚いた表情をしている。それを見ただけで、自分が言ってしまったことを恥ずかしく感じた。紅顔を見せたくないため立成はプイと顔を戻した。

「いいの・・・?」
「・・・」

 立成は自分の精一杯として、真っ赤になったうなじと顔をコクリ、と垂らした。大柄な年上の男であるというのに、まるで幼児のような仕草だった。
 その頷きが何を意図しているか、立成も理解していた。何を自分が望んでいるのか。筒井に何をだからこそ、無言で頷くことしかできなかったのだ。

「ごめん、ありがとう」
「ひいっ」

 いきなり耳にヌルっとした感触を受けた。唐突に左の耳の穴を舐められた。
 すっとんきょうな声が漏れ恥ずかしくなる。

(こいつ、いきなりっ・・・!)

 かっとなり声を荒げそうになるが、先ほど自分から受け入れることを宣言してしまった手前、筒井には強く出られなかった。立成は無言のまま、筒井に後ろから抱き着かれた状態でなすがままにされていた。受け入れてしまっていた。
 舌の肉や唾液が耳孔を出入りする。唾液の粘液の“ピチャピチャ”という音がダイレクト鼓膜に届く。舌の熱感に悶えそうになってしまう。

 胴着の中に入れられた手は帯の中を通り過ぎ、袴の中の立成の下腹部にまで到達していた。
 がっしりとした腰、少したるみのある腹、どっしりとした尻、太く逞しい太股と、立成の身体を構成する各部位の存在を確かめるように撫でられる。手で触れられる範囲の広さに、改めて自分の身体の大きさを実感させられてしまう。

 そんな風に撫でられるだけで、いや筒井の手に触れられるだけでも、その以上の感覚が立成を襲ってくる。
 今、自分以外の人間に、自分の身体を触れられていることに悦びを覚えてしまう。
 他人に自分の身体を触れられ、委ねることに幸福を感じてしまう。

「あっ・・・もう興奮してくれてるんだ」
「う、うるせぇっ」

 いつの間にか竿にまで触れられていた。袴の中で、ボクサーブリーフの上から、膨らみのある箇所をその棒状の形に沿うように何度もその手が往復する。
 立成もわかっていた。その場所が怒張しているということを。
 筒井にその場所を触れられる前から、胸を弄られ、身体を弄られ、耳の穴まで舐められ、そんなことをされる度に立成の愚息は下着の中でグンとボリュームが増していき、臨戦態勢となってしまっていたのだ。
 まだ触っているだけだというのに既にいきり立ってしまっている局部が容赦なく弄られる。しごかれるのではなく、撫でられている。ただそれだけだというのに、立成はその大砲をビクンと震わせてしまう。恥ずかしさのあまり生徒の手を抑えてしまうのを必死に堪えていた。

「くっ、うっ・・・・」

 背後から弄られ続けたことにより、立成が身に着けていた胴着と袴は乱れきっている。帯はとうにずれにずれ、もはや腹に巻き付いているだけだった。
 感じたり、くすぐったかったり、恥ずかしかったり。立成の心は湧き上がってくる言葉にできない様々な感情でぐちゃぐちゃになり、鼻息までも荒くなっていた。
 
 もう、我慢できなかった。
 されたくてされたくてたまらなかった。

 熱にうなされたかのような感覚に陥っていた。額に汗が浮かんでいた。
 これまでに受けた筒井からの行為が走馬灯のように浮かんでは消えてしまう。
 
 もっと。
 もっと。
 もっと。

 考えるよりも先に体が動いていた。 
 立成は自分からその両手と両ひざを弓道場の床に突いた。
 自身の背後を、背中を、尻を、生物の弱点となりえる部位のほとんどを、生徒に捧げた姿だった。

「ど、どうしたの、先生」
「いいんだ、いいから・・・」

 突然の立成の行動に、またも驚く筒井。
 いつもの立成とは別人に思えるほどに、積極的に映った。おまけに乱れた胴着姿なのだ。普段のスーツやジャージの立成の姿よりも非日常で、それでいて官能的に見えたのだろう。そんな姿で、自分の目の前で四つん這いの恰好を自発的にとったのだ。
 肌脱ぎをしているため露出した左半身と、白い胴着に包まれた右半身。それらから伸びる太い腕を床に突いている。下半身は黒い袴に包まれていて、袴の先からはわずかに覗く長い毛の生えた生肢を大きく開いくことにより、その中央部にある教師の臀部がより強調された形になっていた。
 そんな姿で生徒におねだりをするかのように尻を突き出す教師の姿は、筒井にとっても艶美的で倒錯的な姿だった。

 立成も自分でもこんなことをしているのかわからなかった。
 自分が何をしているのか。自分のとった極端な行動に、今更ながら羞恥し厳つい顔を赤く染めた。

 こんな自分を筒井がどう思うだろうか。
 こんな自分を筒井がどう見ているだろうか。
 後ろを見て確認したいが、そんな勇気など立成にはなかった。

「あ・・・あぁ・・・」

 頭に湧き上がる考えや悩みは、袴の尻を撫で上げられただけで吹き飛んだ。
 それなりの厚みがある生地であるはずなのに、身体を触れられるその感覚だけで、筒井の手を確実に意識してしまう。情けない艶声が漏れ出てしまう。
 立成の臀部の感触は伝わっているようで、筒井の口からも感嘆の息が吐き出されているようだ。自分の尻越しに、筒井の鼻息までが聞こえてきそうだった。

(やってしまった・・・こんな、これじゃ本当に『淫乱』みたいだ・・・もう、俺は・・・)

 袴越しに自身のデカい尻を撫でられるだけで、立成はたまらない気持ちになっていた。
 尻に触れられる、尻を撫でられる。自分から尻を突き出して。
 もう、好きにしてくれという思いだった。
 この手で、筒井の手で。自分の尻を。

 そう思った立成だった。だが。

「まずは、綺麗にしないといけないですね、先生」
「・・・えっ?」
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