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顧問2年目04月
顧問2年目04月 10
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月曜日。朝の職員室。
休日を終えたばかりの朝は、生徒だけではなく教師も憂鬱だ。
職員室の中も、アンニュイな空気が流れている。
早くも週末が来るのを待ち望んでいるかのようだ。
毎週月曜日に開かれている、定例の職員朝礼。
生徒たちはまだ教室に向かっている時間だ。
職員室にいる教師たちが全員起立する。
ホームルームが始まるまでの短い時間ではあるが、教頭と学年主任からの口頭で教師陣への周知事項が伝えられる。
週明けでもあるので、連絡事項が多い。
3年生の次回模試の日程。1年生の部活動加入日。5月の連休の生徒の過ごし方について。
ある程度は事前に耳にしている情報も多い。
深刻な内容の連絡はなかった。
教師たちは大人だというのに、みな惚けた顔で、聞くでもない顔をして聞いている。
チャイムの音。
登校時刻を告げる音だ。この時間までに生徒は登校しないといけない。
この5分後には各クラスで朝のホームルームが実施される。
無機質に流れるメロディにより、職員朝礼は閉会となった。
教員たちはやれやれようやく終わった、といった気配で、各自の席に着いたり、廊下に出て行ったりしている。
「ぐっ・・・」
自分の席の椅子に腰かけた瞬間、立成は思わず声を漏らしてしまった。
その声の原因は、当然、金曜日の夜の出来事。
筒井にひたすら尻を叩かれ続けた、あの名残。
夜の教室にて長時間されたスパンキングによるお仕置きの傷は、土日の2日間という時間ではまだ癒えていないのだ。
おかげで立成の週末は、ケツの痺れるような痛みを伴ったものだったのだ。
(うっ・・・やっぱ、まだ痛えな・・・)
自席の椅子に腰を下ろしたにも関わらず、立成は思わず顔をしかめてしまう。
軽く、ゆっくりと椅子に尻を下ろしたつもりだったが、それでもジンジンと痺れるような痛みが襲ってくる。
気を紛らわすために、思わず両足同士をスラックス越しにスリスリとすり合わせてしまう。
見た目はガタイの良い男らしい教師である立成がやると、何とも間抜けな行動だ。
「どうしました?立成先生?」
「えっ、あっ・・・吉沢先生!?」
気づいたら白衣を着た養護教師の吉沢が近くに立っていたのだ。
尻の痛みに気を取られていた立成は、驚きにより素っ頓狂な声で答えてしまった。
「何だか様子がいつもと違うようですけど」
「あ、いや、何でもないですよ、ははは・・・」
「そうですか?朝礼中もちょっと険しそうな顔をしてましたけど」
「え?俺そんな顔してました?いや~・・・ははは」
「何かありましたら、いつでも言ってくださいね。それじゃ」
「はい、ありがとうございます」
何気ない会話を切り上げた後に吉沢は職員室を出て、保健室へと向かって行った。
歩くたびに揺れる白衣の裾と美しい黒髪。
急に話しかけられたこともあり立成は思わずドキドキしながらその後姿を見つめていた。
小柄で愛嬌がある保健室の若い先生だ。
生徒たちからの人気も当然あるようだ。他の教職員からの評判も悪くない。
実は立成も、彼女に対しては悪くない感情を抱いていた。
とはいえ、それは恋とかそういうものではない。
それでも、魅力的な彼女に優しく声をかけられて立成は思わずデレデレとしてしまっていた。
(あ~、吉沢先生、可愛くて優しいんだよなぁ~)
吉沢が見えなくなった後も、立成はぼんやりと廊下を見つめながらさっきまでいた吉沢のことを考えてしまう。
そういえば、さっきはそこまで居たんだよなぁ。
あぁ、なんかいい匂いがまだ残っているような気がする。
こんな感じで俺にも話しかけてくれて、月曜日からいいことがあったなぁ。
元々の男らしい厳つい顔をだらしなく気が抜けたような顔つきに変えながら、立成はそんなことを考えていた。
学生時代もあまり女性との縁のなかったたため、30代になった今も、自身が指導している高校生たちよりも女性に免疫が少ない。
メンタルも高校生とあまり変わりないようなものだ。
だからこそ、この年齢になっても、かたくなに童貞を守ってしまっているのであるが・・・
ごほん、と咳払いの音が聞こえる。学年主任が発したようだ。
あからさまな仕草で立成を見てくる。
何だ?と思いながらも、その流れで職員室の時計を見る。
いけない、もうホームルームの時間になってしまっていた。
せっかく座った椅子から再度立ち上がった。
(ぐっ・・・)
急に身体を動かしたことで、それが尻への刺激となる。
痛む尻に、思わず顔をしかめてしまう。
(まずいなぁ。早く行かないと・・・)
相変わらずジンジンと痛む尻をスラックス越しにさすりながら、立成も自分の教室へと早足で向かって行った。
今日も一日が始まる。
教師として世界史の授業をする、単調だがやりがいのある生活。
もうすぐでゴールデンウィークだ。
昼休み。
貴重な休み時間だ。
この学校では、教職員もしっかりと休憩をとる文化がある。
授業を終えた教師たちも職員室で各々食事の時間を楽しんだり、学校の隠れ場所で昼寝したり。
この学校では比較的生徒も教師も自由度が高いから、ある程度の大丈夫なのだ。
そのあたりは他の学校よりも働きやすい環境だった。
立成はいつものように、昨夜の退勤時に買い込んでいたスーパーの半額弁当を食べながら考える。
(ちょっと・・・ケツがやばいか・・・?)
ツンツンと短く刈り上げた頭髪にジンワリと汗が滲む。
箸を持つ手が止まる。弁当の味もろくに味わえない。
元の体格がいいため、立成はそれなりに体重がある。椅子に座ると、その重力が一気に腫れあがっている尻に伝わり、椅子の座板でそれが圧迫される。
まさに尻地獄だった。
(座布団を持って来れば良かったかなぁ・・・いや、そんなことしたら目立つか・・・)
これ以上、尻が持ちそうな気がしなかった。
午後にも授業があるのだ。何か対策をしないと、マズイ予感がしている。
自席の机の引き出しを片っ端から開け、何か薬が無いか探してみる。
しかし、もともと身体が丈夫な立成だ。自席には薬の類など何も準備していない。
いくら教師にとっても自由度が高い校風とはいえ、勝手に校外に出て買い物をしに行くというのもリスキーだ。
さすがにそれは、生徒にも禁じている訳なのだから、教師がやってしまうと示しがつかない。
それに、学年主任にばれたときに何と言えばよいか言い訳を作るのも面倒だ。
(こんなんじゃ午後の授業も、耐えられるかどうか・・・こうなったら・・・)
食べかけの弁当に蓋をし、箸も袋に戻す。
立成は痛む尻を必死に耐えて立ち上がり、職員室から出ていった。
「えっ、塗り薬ですか?軟膏のようなやつ?ありますよ」
「ちょっといただいてよろしいですかね?」
「いいですよ。ちょっと待ってくださいね」
昼休みの保健室。
立成は吉沢のもとを訪れていた。
もう尻の痛みが限界だった立成は、
昼休みだからと赤いマグカップでコーヒーを飲んでくつろいでいた彼女に、塗り薬を所望してしまったのだ。
もちろん、叩かれて腫れあがった尻に塗るという目的は隠した上でだ。
てきぱきと戸棚の中を漁る吉沢。
そんな彼女の後姿を間近で見つめる立成。
「はい、ありました。丁度残り僅かなので、全部使ってしまって良いですよ」
「ありがとうございます。じゃあ」
「どこですか?」
「?」
「私、塗りますよ」
純真な瞳で見つめられながら言われた言葉に、立成はぽかんと間が抜けたように口を開いてしまう。
吉沢に唐突に言われ、意味が分からなかった。
本当に理解できなかったのだ。
数秒後、吉沢が自分が薬を塗ろうとしている部位を聞いているのだと理解した。
(よ、吉沢先生が薬を・・・って、それじゃ、俺のケツが吉沢先生に見られちまうってことじゃねぇか!!)
他に人がいない保健室。いるのは自分と吉沢の2人だ。
前から少しだけ、可愛いなと思っていた女性といるのだ。
密室にいる、男女2人。
そんな状況で、スラックスとボクサーブリーフをずり下げて、毛だらけで赤く染まった尻を向けている自分を想像してしまった。
一瞬にして立成の顔が真っ赤になった。
「あっ、いや、その、大丈夫です!大丈夫!自分で塗りますので!」
「そうですか?でも、痛いんですよね?」
「いや、その、それが、場所はあちこちなんで」
「えぇっ!?それなら猶更私が・・・」
赤面する立成を訝しく見ながらも、そんな立成に詰め寄るように近づく吉沢。
背の低い吉沢が立成を見上げるように顔をあげて問いただす。
そのくりっとした目にはからかいの様子は全くなく、心配している表情だ。
それもそうだ。まさか目の前の体躯の言い厳つい男が、まさか生徒に叩かれた尻の痛みに苦しんでいるとは思うはずもない。
(ど、どうする?どうしたらいい?吉沢先生に薬を塗ってもらうってなったら・・・)
頭が真っ白になりどぎまぎした立成は、思わず吉沢から目を逸らしてしまう。
その目に入ってくるのは保健室の風景。それらを目にしたことで、余計に尻を出す自分を具体的に想像してしまう。
保健室の机に手を突き、スラックスを下ろして尻を丸出しにする自分。
椅子の背に上体を載せて吉沢が観察しやすいように尻を見せている自分。
純白のベッドで四つん這いになり、尻を突き出している自分。
様々な状況で自分の吉沢に尻を晒している羞恥的シチュエーションをを思わず想像してしまっていた。
そして、そんな無様な自分の尻を、軽蔑するような眼で見ている吉沢の姿までも。
(俺がズボンを脱ぐから、パンツ見られちまうのか・・・今日俺、どんなパンツ履いてたったけ??って、そんな次元の話じゃねぇ!ケツも見られるんだ!ケツを見られちまったら、なんでこんなにケツが腫れているかって聞かれて、俺は・・・)
立成は昼休みの弛み切った脳内を必死に働かせた。
しかし、何も思いつかなかった。考えがまとまらない。
それでも、この場は何とか断らないといけない、その結論だけは変わらなかった。
「あ、その、俺、ちょっと、すみません、次の機会のときはお願いします!」
「は、はぁ」
「そ、それじゃ失礼します。」
立成は額も脇も変な汗で汗ばみながらも、何度も吉沢にお辞儀をして、スコスコと変な早歩きで保健室を出ていった。
(ちょっと変な断り方だったかなぁ?でもなぁ、さすがになぁ)
廊下を歩きながら立成は自問する。
あれ以上、吉沢にせがまれていたらどうなっていただろう。
立成はどこの部位に塗るかは言わなかった。だから、まずはその説明が必要だ。
(『実はケツが痛いんで、ケツに塗ってください』なんて言ったら、吉沢先生、どんな顔をするんだろ?赤くなっちゃうのかな・・・?)
そんな吉沢を考えて、やっぱりちょっと可愛いと思ってしまう。
あの可愛い顔が、男の尻に薬を塗ることを考えて恥ずかしがったら、それはもう、・・・可愛いなぁ。
しかし、真面目な吉沢のことだ。もしかしたら、それでも自分が塗ると言い張るのかもしれない。
そうなったら・・・
(吉沢先生が俺に『早くケツを見せろ』なんて言って・・・そしたら・・・そんな・・・吉沢先生に俺のケツを見せるなんて・・・)
それは嫌だった。吉沢のような可愛いい女性に、自分のケツ毛だらけの尻を見せている自分。
想像しただけでさっきも赤面してしまった。嫌な汗をかいてしまった。
(そんなの、俺は絶対嫌だ・・・吉沢先生にケツを見られるなんて、は、恥ずかしい・・・)
普通の成人男性だったら、相手が女性とはいえ己の尻を見せることなど何ともない行為なのかもしれない。
しかし、性体験の無い童貞の立成だ。女性と性行為がないどころか、交際した経験すらない。
自分の裸体を女性に見せることにはかなり抵抗があり、羞恥してしまう。
おまけに、吉沢は少なからず好意のある女性なのだ。そんな相手に、自分のコンプレックスである毛だらけのデカ尻を見せるだなんて、想像するだけで頭がくらくらとしてしまう。
その想像で思わず股間が硬くなりそうになる。
勃起の予兆を感じた立成は、頭をブンブンと振って無理やり妄想を追い出す。
イカンイカン!ここは学校なんだ!仕事中なんだ!
保健室でしてしまった想像が頭をよぎってしまいそうになるが、危険だ。危険すぎる想像だ。
立成は指先に力を入れる。その手にあるのは吉沢から渡された軟膏薬だ。
吉沢には変な意図はなかったはずだ。
あれは彼女の善意によるもだ。彼女は優しいのだから。なんて言ったって養護教諭なのだし。
あらためてその薬を握り締めてみる。
なんだか、吉沢からプレゼントをもらったような気がして気分が昂ってしまう。
吉沢の体温が残っているような気もして、立成はちょっとだけ嬉しかった。
1人残った吉沢は、立成が飛び出していった保健室の扉を見つめている。
なぜ、立成は急に雰囲気を変えたのか。かたくなに薬の塗布を断ったのか。
そういえば赤面もしていたような。
そんなことを考えながらも、吉沢は席に戻りまたマグカップを手にしていた。
立成は「次の機会に」って言っていたっけ。
そんなことがあるのだろうか?
ぷっと吹き出してしまいそうになっていた。
そんなことを何とはなしに考えながら、昼休みを過ごしていた。
休日を終えたばかりの朝は、生徒だけではなく教師も憂鬱だ。
職員室の中も、アンニュイな空気が流れている。
早くも週末が来るのを待ち望んでいるかのようだ。
毎週月曜日に開かれている、定例の職員朝礼。
生徒たちはまだ教室に向かっている時間だ。
職員室にいる教師たちが全員起立する。
ホームルームが始まるまでの短い時間ではあるが、教頭と学年主任からの口頭で教師陣への周知事項が伝えられる。
週明けでもあるので、連絡事項が多い。
3年生の次回模試の日程。1年生の部活動加入日。5月の連休の生徒の過ごし方について。
ある程度は事前に耳にしている情報も多い。
深刻な内容の連絡はなかった。
教師たちは大人だというのに、みな惚けた顔で、聞くでもない顔をして聞いている。
チャイムの音。
登校時刻を告げる音だ。この時間までに生徒は登校しないといけない。
この5分後には各クラスで朝のホームルームが実施される。
無機質に流れるメロディにより、職員朝礼は閉会となった。
教員たちはやれやれようやく終わった、といった気配で、各自の席に着いたり、廊下に出て行ったりしている。
「ぐっ・・・」
自分の席の椅子に腰かけた瞬間、立成は思わず声を漏らしてしまった。
その声の原因は、当然、金曜日の夜の出来事。
筒井にひたすら尻を叩かれ続けた、あの名残。
夜の教室にて長時間されたスパンキングによるお仕置きの傷は、土日の2日間という時間ではまだ癒えていないのだ。
おかげで立成の週末は、ケツの痺れるような痛みを伴ったものだったのだ。
(うっ・・・やっぱ、まだ痛えな・・・)
自席の椅子に腰を下ろしたにも関わらず、立成は思わず顔をしかめてしまう。
軽く、ゆっくりと椅子に尻を下ろしたつもりだったが、それでもジンジンと痺れるような痛みが襲ってくる。
気を紛らわすために、思わず両足同士をスラックス越しにスリスリとすり合わせてしまう。
見た目はガタイの良い男らしい教師である立成がやると、何とも間抜けな行動だ。
「どうしました?立成先生?」
「えっ、あっ・・・吉沢先生!?」
気づいたら白衣を着た養護教師の吉沢が近くに立っていたのだ。
尻の痛みに気を取られていた立成は、驚きにより素っ頓狂な声で答えてしまった。
「何だか様子がいつもと違うようですけど」
「あ、いや、何でもないですよ、ははは・・・」
「そうですか?朝礼中もちょっと険しそうな顔をしてましたけど」
「え?俺そんな顔してました?いや~・・・ははは」
「何かありましたら、いつでも言ってくださいね。それじゃ」
「はい、ありがとうございます」
何気ない会話を切り上げた後に吉沢は職員室を出て、保健室へと向かって行った。
歩くたびに揺れる白衣の裾と美しい黒髪。
急に話しかけられたこともあり立成は思わずドキドキしながらその後姿を見つめていた。
小柄で愛嬌がある保健室の若い先生だ。
生徒たちからの人気も当然あるようだ。他の教職員からの評判も悪くない。
実は立成も、彼女に対しては悪くない感情を抱いていた。
とはいえ、それは恋とかそういうものではない。
それでも、魅力的な彼女に優しく声をかけられて立成は思わずデレデレとしてしまっていた。
(あ~、吉沢先生、可愛くて優しいんだよなぁ~)
吉沢が見えなくなった後も、立成はぼんやりと廊下を見つめながらさっきまでいた吉沢のことを考えてしまう。
そういえば、さっきはそこまで居たんだよなぁ。
あぁ、なんかいい匂いがまだ残っているような気がする。
こんな感じで俺にも話しかけてくれて、月曜日からいいことがあったなぁ。
元々の男らしい厳つい顔をだらしなく気が抜けたような顔つきに変えながら、立成はそんなことを考えていた。
学生時代もあまり女性との縁のなかったたため、30代になった今も、自身が指導している高校生たちよりも女性に免疫が少ない。
メンタルも高校生とあまり変わりないようなものだ。
だからこそ、この年齢になっても、かたくなに童貞を守ってしまっているのであるが・・・
ごほん、と咳払いの音が聞こえる。学年主任が発したようだ。
あからさまな仕草で立成を見てくる。
何だ?と思いながらも、その流れで職員室の時計を見る。
いけない、もうホームルームの時間になってしまっていた。
せっかく座った椅子から再度立ち上がった。
(ぐっ・・・)
急に身体を動かしたことで、それが尻への刺激となる。
痛む尻に、思わず顔をしかめてしまう。
(まずいなぁ。早く行かないと・・・)
相変わらずジンジンと痛む尻をスラックス越しにさすりながら、立成も自分の教室へと早足で向かって行った。
今日も一日が始まる。
教師として世界史の授業をする、単調だがやりがいのある生活。
もうすぐでゴールデンウィークだ。
昼休み。
貴重な休み時間だ。
この学校では、教職員もしっかりと休憩をとる文化がある。
授業を終えた教師たちも職員室で各々食事の時間を楽しんだり、学校の隠れ場所で昼寝したり。
この学校では比較的生徒も教師も自由度が高いから、ある程度の大丈夫なのだ。
そのあたりは他の学校よりも働きやすい環境だった。
立成はいつものように、昨夜の退勤時に買い込んでいたスーパーの半額弁当を食べながら考える。
(ちょっと・・・ケツがやばいか・・・?)
ツンツンと短く刈り上げた頭髪にジンワリと汗が滲む。
箸を持つ手が止まる。弁当の味もろくに味わえない。
元の体格がいいため、立成はそれなりに体重がある。椅子に座ると、その重力が一気に腫れあがっている尻に伝わり、椅子の座板でそれが圧迫される。
まさに尻地獄だった。
(座布団を持って来れば良かったかなぁ・・・いや、そんなことしたら目立つか・・・)
これ以上、尻が持ちそうな気がしなかった。
午後にも授業があるのだ。何か対策をしないと、マズイ予感がしている。
自席の机の引き出しを片っ端から開け、何か薬が無いか探してみる。
しかし、もともと身体が丈夫な立成だ。自席には薬の類など何も準備していない。
いくら教師にとっても自由度が高い校風とはいえ、勝手に校外に出て買い物をしに行くというのもリスキーだ。
さすがにそれは、生徒にも禁じている訳なのだから、教師がやってしまうと示しがつかない。
それに、学年主任にばれたときに何と言えばよいか言い訳を作るのも面倒だ。
(こんなんじゃ午後の授業も、耐えられるかどうか・・・こうなったら・・・)
食べかけの弁当に蓋をし、箸も袋に戻す。
立成は痛む尻を必死に耐えて立ち上がり、職員室から出ていった。
「えっ、塗り薬ですか?軟膏のようなやつ?ありますよ」
「ちょっといただいてよろしいですかね?」
「いいですよ。ちょっと待ってくださいね」
昼休みの保健室。
立成は吉沢のもとを訪れていた。
もう尻の痛みが限界だった立成は、
昼休みだからと赤いマグカップでコーヒーを飲んでくつろいでいた彼女に、塗り薬を所望してしまったのだ。
もちろん、叩かれて腫れあがった尻に塗るという目的は隠した上でだ。
てきぱきと戸棚の中を漁る吉沢。
そんな彼女の後姿を間近で見つめる立成。
「はい、ありました。丁度残り僅かなので、全部使ってしまって良いですよ」
「ありがとうございます。じゃあ」
「どこですか?」
「?」
「私、塗りますよ」
純真な瞳で見つめられながら言われた言葉に、立成はぽかんと間が抜けたように口を開いてしまう。
吉沢に唐突に言われ、意味が分からなかった。
本当に理解できなかったのだ。
数秒後、吉沢が自分が薬を塗ろうとしている部位を聞いているのだと理解した。
(よ、吉沢先生が薬を・・・って、それじゃ、俺のケツが吉沢先生に見られちまうってことじゃねぇか!!)
他に人がいない保健室。いるのは自分と吉沢の2人だ。
前から少しだけ、可愛いなと思っていた女性といるのだ。
密室にいる、男女2人。
そんな状況で、スラックスとボクサーブリーフをずり下げて、毛だらけで赤く染まった尻を向けている自分を想像してしまった。
一瞬にして立成の顔が真っ赤になった。
「あっ、いや、その、大丈夫です!大丈夫!自分で塗りますので!」
「そうですか?でも、痛いんですよね?」
「いや、その、それが、場所はあちこちなんで」
「えぇっ!?それなら猶更私が・・・」
赤面する立成を訝しく見ながらも、そんな立成に詰め寄るように近づく吉沢。
背の低い吉沢が立成を見上げるように顔をあげて問いただす。
そのくりっとした目にはからかいの様子は全くなく、心配している表情だ。
それもそうだ。まさか目の前の体躯の言い厳つい男が、まさか生徒に叩かれた尻の痛みに苦しんでいるとは思うはずもない。
(ど、どうする?どうしたらいい?吉沢先生に薬を塗ってもらうってなったら・・・)
頭が真っ白になりどぎまぎした立成は、思わず吉沢から目を逸らしてしまう。
その目に入ってくるのは保健室の風景。それらを目にしたことで、余計に尻を出す自分を具体的に想像してしまう。
保健室の机に手を突き、スラックスを下ろして尻を丸出しにする自分。
椅子の背に上体を載せて吉沢が観察しやすいように尻を見せている自分。
純白のベッドで四つん這いになり、尻を突き出している自分。
様々な状況で自分の吉沢に尻を晒している羞恥的シチュエーションをを思わず想像してしまっていた。
そして、そんな無様な自分の尻を、軽蔑するような眼で見ている吉沢の姿までも。
(俺がズボンを脱ぐから、パンツ見られちまうのか・・・今日俺、どんなパンツ履いてたったけ??って、そんな次元の話じゃねぇ!ケツも見られるんだ!ケツを見られちまったら、なんでこんなにケツが腫れているかって聞かれて、俺は・・・)
立成は昼休みの弛み切った脳内を必死に働かせた。
しかし、何も思いつかなかった。考えがまとまらない。
それでも、この場は何とか断らないといけない、その結論だけは変わらなかった。
「あ、その、俺、ちょっと、すみません、次の機会のときはお願いします!」
「は、はぁ」
「そ、それじゃ失礼します。」
立成は額も脇も変な汗で汗ばみながらも、何度も吉沢にお辞儀をして、スコスコと変な早歩きで保健室を出ていった。
(ちょっと変な断り方だったかなぁ?でもなぁ、さすがになぁ)
廊下を歩きながら立成は自問する。
あれ以上、吉沢にせがまれていたらどうなっていただろう。
立成はどこの部位に塗るかは言わなかった。だから、まずはその説明が必要だ。
(『実はケツが痛いんで、ケツに塗ってください』なんて言ったら、吉沢先生、どんな顔をするんだろ?赤くなっちゃうのかな・・・?)
そんな吉沢を考えて、やっぱりちょっと可愛いと思ってしまう。
あの可愛い顔が、男の尻に薬を塗ることを考えて恥ずかしがったら、それはもう、・・・可愛いなぁ。
しかし、真面目な吉沢のことだ。もしかしたら、それでも自分が塗ると言い張るのかもしれない。
そうなったら・・・
(吉沢先生が俺に『早くケツを見せろ』なんて言って・・・そしたら・・・そんな・・・吉沢先生に俺のケツを見せるなんて・・・)
それは嫌だった。吉沢のような可愛いい女性に、自分のケツ毛だらけの尻を見せている自分。
想像しただけでさっきも赤面してしまった。嫌な汗をかいてしまった。
(そんなの、俺は絶対嫌だ・・・吉沢先生にケツを見られるなんて、は、恥ずかしい・・・)
普通の成人男性だったら、相手が女性とはいえ己の尻を見せることなど何ともない行為なのかもしれない。
しかし、性体験の無い童貞の立成だ。女性と性行為がないどころか、交際した経験すらない。
自分の裸体を女性に見せることにはかなり抵抗があり、羞恥してしまう。
おまけに、吉沢は少なからず好意のある女性なのだ。そんな相手に、自分のコンプレックスである毛だらけのデカ尻を見せるだなんて、想像するだけで頭がくらくらとしてしまう。
その想像で思わず股間が硬くなりそうになる。
勃起の予兆を感じた立成は、頭をブンブンと振って無理やり妄想を追い出す。
イカンイカン!ここは学校なんだ!仕事中なんだ!
保健室でしてしまった想像が頭をよぎってしまいそうになるが、危険だ。危険すぎる想像だ。
立成は指先に力を入れる。その手にあるのは吉沢から渡された軟膏薬だ。
吉沢には変な意図はなかったはずだ。
あれは彼女の善意によるもだ。彼女は優しいのだから。なんて言ったって養護教諭なのだし。
あらためてその薬を握り締めてみる。
なんだか、吉沢からプレゼントをもらったような気がして気分が昂ってしまう。
吉沢の体温が残っているような気もして、立成はちょっとだけ嬉しかった。
1人残った吉沢は、立成が飛び出していった保健室の扉を見つめている。
なぜ、立成は急に雰囲気を変えたのか。かたくなに薬の塗布を断ったのか。
そういえば赤面もしていたような。
そんなことを考えながらも、吉沢は席に戻りまたマグカップを手にしていた。
立成は「次の機会に」って言っていたっけ。
そんなことがあるのだろうか?
ぷっと吹き出してしまいそうになっていた。
そんなことを何とはなしに考えながら、昼休みを過ごしていた。
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