先生との1年間

スオン

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2年03月

2年03月 2

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 学校の3階のとある教室。
 ここが俺の、4月からの教室だ。
 高校最後の1年を過ごすことになる場所だ。
 その場所に、今、スーツ姿の先生と学ラン姿の俺が2人きり。
 空が茜に染まりかけた夕方の時間帯。
 夕日が窓から入り込んできて、教室の白い壁が赤くなっている。
 どの部活も活動時間を終えているのか、辺りからは何の音も聞こえてこないで、静かな夕方の教室だ。
 
「何でここなんだ・・・?」
「だって、先生は1年の担任になるんでしょ?だったら俺、先生の」
「まぁそうだが」
「授業も、俺世界史の授業取ってないからさ、先生の授業を受けることもないんだよね」
「そうか、それは良かった」
「よくないよ!せっかく最後の学年はって思って期待してたのにダメだったし・・・だからここでやろう!」
「はいはい、わかったわかった」

 にやにやしながら俺をあやす先生は、どこか楽しそうだ。
 
「じゃ、生徒役は俺1人だけだけど、先生、自己紹介からお願いしますね」
「うーん、お前の前でやるっていうと、やっぱ恥ずかしいな」
「まぁまぁ。そんなに気を負わずに」
「はいはい」

 俺は一番前の席に座り、教壇に立つ先生を見上げる。
 ごほん、と咳ばらいをする先生。
 腰辺りまで隠れる教卓があり、先生の背後には真っ黒の黒板がある。
 教室で先生と対面していることを意識してしまう。
 何だか、普段部活で接するときよりも先生が先生らしい。
 部活での先生しか知らなかったから、教室での先生を見るのはすごく新鮮だ。
 やっぱり、教師だったんだな、と当たり前のことを思ってしまう。

「今日から、担任をする世界史担当の立成だ。1年間よろしくな」
「先生、なんか硬くない?」
「・・・普通こんなもんだろ?」

 少しばかり緊張している様子の先生が俺を見下ろす。
 俺が立成先生が先生をしているところを見慣れていないように、先生は俺が生徒をしているところを見慣れていないからだろう。 
 それがわかると、俺にもいつもの調子が戻って来た。

「先生は何歳ですか?」
「なんだ急に?」
「ほら、あれだよ。新しい先生への質問タイム的な」
「・・・あぁ、先生は32歳だ。今年で33歳」
「結構若いんですね」
「どういう意味かな、筒井君」
「いえ、見た目より若いな~て」
「失礼だぞ、筒井君」
「あ、先生、これくらいで感情的になっちゃダメですよ」

 先生は笑いながらも少しイラっとした感じで返して来た。
 俺も笑いながら、すこしおちょくっちゃる。案外楽しいかもしれない、これ。

「先生は何部の顧問なんですか?」
「いや知ってるだろ」
「ダメですよ、先生。オリエンテーションの練習なんだから」
「弓道部の顧問をしている」
「あ、先生、ついでに弓道部の勧誘もちょっとしてほしいな」
「なるほどね・・・ごほん。俺は去年から弓道部の顧問をしている。興味のある奴は見学に来るといいぞ」
「あ、それいい感じです」

「そういえば、去年弓道部は全国行った人がいるんですよね。その人はどんな人ですか?」
「何言ってんだお前」
「もう、先生、ちゃんとやってくださいよぉ!」
「はっはっは、そうだな、すごくいい生徒だ。素晴らしい人間だ。君たちも見習うように」

 お互いに笑いながらだけれど、やっぱり少し照れ臭い。
 それからも何個か俺が質問し、先生が回答する。
 建前は明日のオリエンテーション練習なのだが、だんだんとおふざけモードの雰囲気になっている気がした。

「先生、彼女いますか~?」
「おい、筒井」
「このくらいの質問は普通に来ると思いますよ」
「・・・」
「先生~聞こえますか~」
「・・・今はいないな」
「へぇ、今は、ねぇ」

 俺は意味深に呟きながら、にやにやしながら先生を見ながら質問を続けた。
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