先生との1年間

スオン

文字の大きさ
上 下
52 / 71
2年02月

2年02月 2

しおりを挟む
 先生の家は冬になっても相変わらずだった。
 散らかっている感じではないけれど、きれいでもない、そんな感じだ
 それは、まぁ、当たり前なんだけど。

「お邪魔しま~す」

 俺はいつになく、改まった感じで部屋に入る。
 初めてこの部屋に入ったときには、本当に緊張していた。
 今では、なんというか、別の意味で緊張している。

 先生は、ちゃぶ台の上に、お惣菜や飲み物を広げている。
 先生の家に来る途中でひと通り買い揃えたものだ。

 "今日は俺の部屋でメシを食っていけよ。"

 部活の居残り練習のとき、唐突に先生にそう言われた俺は、頭が真っ白になってけど、承諾した。
 先生の考えがよくわからなかった。あんなことをした生徒を、また部屋に呼び出すとは・・・
 一体、何を考えているんだろう。

「なぁ、筒井。今日のお前は変な感じだったぞ。どうしたんだ?」

 晩ご飯の最中、先生は、何でもないかのように聞いてきた。
 表情を見ても、いかにもいつも通りって感じだ。
 俺との関係が、生徒と教師であるだけ、というような。

 あぁ、どうすればいいんだろう。
 もう、ここで、切り出してしまいたい。先月の道場での、先生との行為・・・
 それから、もうあんなことはしないと言って懺悔したい。
 でも、あのことをぶり返してもいいものかどうかわからない。
 今でも俺は先生が好きだし、やっぱりエロい目で見てしまう。
 それが先生には、おかしな様子に見えてしまったのかもしれない。

「あのね、先生。俺将来どうしよっかなって」

 あれ、俺何言ってるんだ?
 唐突に口から出た言葉に、俺自身が驚いてしまった。
 全部が嘘ってわけではないのだけれど、考えていったわけでもない。
 まぁ、将来についての悩みがあるのは本当だけど。
 この場で言うべきことを考えているうちに、無意識に出ていた台詞だ。

 多分、あの時の道場でのことは、お互いに口に出さないようにしている、というのを、本能的に感じたんだと思う。
 先生は、俺の発した言葉に、うんうんとうなずきながら、その後も俺の話を聞いてくれた。
 それからは、先生との会話は、俺と先生の間柄としては、とても健全なものだった。

 先生の高校時代の話。
 部活のこと。
 学校の裏の噂話。
 スマホゲームアプリ。
 貯金。

 今までに話した内容の繰り返しのものもあった。

 なんとなく、沈黙のときの空気を恐れた俺は、矢継ぎ早に会話のネタを切り替えていった。

 楽しい夜だった。
 
 何度か先生の部屋に来たけれど、一番会話できたんじゃないかと思った。

 先生のことをもっと知れたような気がする。

 普段よりも喉を使って頭を使って、会話を回して。

 気づいたら甘いジュースをたくさん飲んでしまっていた。

 先生もそんな俺に合わせるように、缶ビールを何本も消費していた。

 
「先生、おトイレかりま~す」

「おう」


 用を足して手を洗いながら、考える。
 大丈夫。上手くできている。と思う。
 顧問の部屋に来ているのは変かもしれないけれど、今の俺と先生の雰囲気は、全然おかしくないはずだ。
 どこにでもいる、顧問と生徒のように見えるはずだ。

 濡れた両手で両頬を叩いて気合を入れる。
 かといって、必要以上に意識しすぎるのも変だ。
 先生が、これまでと同じような感じで接してくれるんだから、俺もそれに応じないと。
 よし。いける。俺、できる!
 そうやって考えながら、トイレの扉を開けた。

「あれぇ・・・」

 トイレをを出て部屋に戻ったら、気の抜けた声を出してしまった。
 先生は横になっていたのだ。
 フローリングの床の上で、デカい身体を大の字にしている。
 完全に眠ってしまっているようだ。寝息とともに、うっすらとしたいびきまで聞こえている。

 酒のせいで顔が赤みを帯びている。
 また飲み過ぎたのだろうか。
 相変わらず、酒の量の調節ができない人のようだ。
 まぁ、明日は学校も部活も休みだし、問題ないだろう。

 とはいえ、俺はどうすればいいんだろう。
 家主が眠ってしまった部屋というのも、どうも居心地が良くない。

 とりあえず、今日の晩御飯の片づけでもしておこうか。
 その間に、先生が目を覚ますかもしれないし。

 しかし。勝手に部屋のモノを使ってもいいのだろうか・・・?
 できる範囲で、ゴミをゴミ箱っぽいところに入れて、食器はシンクに戻して。ちゃぶ台を拭いて。
 簡単に終わってしまった。
 まだ先生は寝ているようだ。

 やれやれ。
 呆れて座りなおしながら、改めて寝ている先生を見つめてみる。

 厳つい雄臭い顔なのだが、寝顔になると気が抜けた感じで可愛いのだ。
 閉じているけど、目が可愛い感じで、太い眉毛も少し垂れぎみになるし、ほっぺも緩んだ感じになるし。
 ほんわかした気分で眺めていた。
 おっさんぽさもあるし、青年ぽさもあるし。
 どっちにも見えるよなぁ。どっちかと言ったら、うーん、おっさんよりかな?
 がっしとした顎に生えているまばらに髭が生えているし。
 多分、朝は剃ったんだと思うけれど、夜になってまた生えてきたんだろうな・・・

 まずい。
 先生の雄味を意識してしまった。 

 ゴクリ。
 思わず喉を鳴らしてしまった。

 我ながらわかりやすいと呆れてしまう。

 さっき、俺は何を決意していたんだっけ?

 しかし、その決意なんて、簡単に折れてしまい、俺の身体はさっと寝ている先生のそばに移動してしまっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の部屋においでよ

梅丘 かなた
BL
僕は、竜太に片思いをしていた。 ある日、竜太を僕の部屋に招くことになったが……。 ※R15の作品です。ご注意ください。 ※「pixiv」「カクヨム」にも掲載しています。

思春期のボーイズラブ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:幼馴染の二人の男の子に愛が芽生える  

土方の性処理

熊次郎
BL
土方オヤジの緒方龍次はある日青年と出会い、ゲイSEXに目醒める。臭いにおいを嗅がせてケツを掘ると金をくれる青年をいいように利用した。ある日まで性処理道具は青年だった、、、

食われノンケの野球部員

熊次郎
BL
大学野球部の副主将の荒木は人望も厚く、部内で頼りにされている存在だ。 しかし、荒木には人には言えない秘密があった。

ハメられたサラリーマン

熊次郎
BL
中村将太は名門の社会人クラブチーム所属のアメフト選手た。サラリーマンとしても選手としても活躍している。だが、ある出来事で人生が狂い始める。

【 よくあるバイト 】完

霜月 雄之助
BL
若い時には 色んな稼ぎ方があった。 様々な男たちの物語。

水球部顧問の体育教師

熊次郎
BL
スポーツで有名な公明学園高等部。新人体育教師の谷口健太は水球部の顧問だ。水球部の生徒と先輩教師の間で、谷口は違う顔を見せる。

処理中です...