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2年06月
2年06月 1
しおりを挟む高校総体の最終日。隣の市で弓道の大会は開かれていた。
大会が開かれるだけあり、その弓道場は屋内で、施設も広いものだった。
筒井は道場ではなく、生徒控室からはずれた、奥にある非常階段の手前の椅子でうなだれていた。
立成は、そんな生徒の横に座り、ただじっと見守っていた。
筒井の高校は、必要的中を満たし予選を突破、続く準々決勝、準決勝を何とか勝利し、上位4チームに入り込んだ。
総体の決勝リーグ。
上位4高のリーグ戦。
筒井はその試合、3試合とも1中を出せなかった。
結果、4位。
入賞はしたものの、その結果は受け入れられるものではなかった。
突然の不調。
緊張はしていたが、それだけではなかった。
高校スポーツはメンタル重視というが、筒井は崩れた自分を立て直すことができなかったのだった。
自分が中てていれば・・・
決勝、いやあの試合、いやあと1本だけでも中てていれば・・・
何に泣いているのか、自分でもわからなかった。
自分への悔しさ。
3年への申し訳なさ。
決勝リーグで12射0中の恥。
何かを思っているのか、それら全部がごちゃ混ぜになっているのか、自分でも整理できず、整理する余裕がないまま、昂った気持ちで涙が止まらなかった。カラ元気を出すこともできなかった。
「大丈夫だ」
立成の手が筒井の胴着の上から背中をさする。
何もできなかった。
筒井はまだ動けそうになかった。
立成はずっと、そんな筒井のそばに居続けた。
背中に感じる立成の掌は、大きく、硬く、温かかった。
より、つらく感じた。
表彰式が終わり、バスで学校に戻る。
弓道場での最後の試合の反省会。
新部長の指名。当然筒井だった。
筒井の記憶はなかった。何を言ったかもわからない。
気づいたときには終礼を終え、3年とのお別れも終えていた。
心は大分落ち着いていた。だが、身体が追い付いていなかった。それでも、空元気で何とか対応した。
3年とともに帰ろうと思ったのだが、まだつらく頭がぼーっとしてしまった。
弓道場の更衣室で何かをするわけでもなく時間をつぶした。
さすがにもう帰らないと、というほどの時間になっていた。
更衣室を出る。夕焼けの茜が差し込む上座の床の間で、立成がうたた寝していた。
「先生・・・?」
「・・・ん、筒井、大丈夫なのか」
目をしぱしぱさせながら、ふあ~っと欠伸とともに伸びをする。
「だいぶ遅くなっちまったな」
「まだ、残ってたんだ。帰ってなかったんだ」
「ん、そりゃな」
立ち尽くす筒井を、立成は胡坐をかいて見上げる。
「新部長、頑張れよ。まぁ、もう十分頑張ってるけどな」
「うん・・・」
試合のことに触れないのが、ありがたかった。
わかったかのような言葉がないのが、
今、何か言われたら、また元に戻ってしまいそうだった。
自分がそこまで弱いだなんて、まったく考えてもいなかった。
沈黙の時間が流れた。
言いたいことはいろいろあった。
憎まれ口を言いたかった。軽口をたたきたかった。ふざけたかった。
顧問の心配をときたかった。
できなかった。
「今日だけだ」ふいに顧問が沈黙を破った。
「何・・・ですか」
「今日だけ、今日のことを考えろ。明日からは、明日からは、今日の出来事は考えないで、今日考えたことだけ覚えておくんだ」
「・・・はい」
素直にうなずいた。
顧問の言葉が身に染みた。それでも、まだ身体が駄目だった。
筒井は立っていられず、床の間に腰かけた。両手で顔を覆った。
立成はただ、横から筒井の肩を抱いた。
立成の体温が感じられた。
空は茜から闇に変わっていた。
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