先生との1年間

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2年05月

2年05月 2

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 今日は弓道の昇段試験の日だ。

 隣の市まで、筒井は3年生たちと来ている。立成も来ていた。

 昇段試験は個人での受験であり、部活としての活動ではない。このため、顧問がすることもなく、立成が来る必要性はなかった。

 しかし、「一度は行ってみておかないとな」とのことで、立成も来ることになったのだ。


 先月の道場での更衣室の出来事以降、筒井と立成の間には、打ち解けた空気が醸し出されていた。

 やったことといえば、筒井のいたずらで、筒井の目の前で立成を脱衣させただけ。


 ただそれだけなのだが、筒井は今や立成に対して、ため口が混ざることが多くなっていた。

 部活のときで、2人のときだけだが。

「弓道場って、こんなところにあるんだな。知らなかった」

「身近じゃないもんね」

「大会もここでやるのか?」

「大会はもっと広くないと・・・県内の高校が集まるわけですし。あ、来月の総体は隣の市だよ」

「おお!もうすぐ総体だな!インターハイの予選なんだから、がんばれよ!」

「もう、今は昇段試験に集中しないと!」

 筒井はうんざりした表情を見せる。しかし、本心ではないようだ。

「はっはっは!まぁな。しかし、1日でたった2本しか矢を射れないんだな。厳しいな」


 弓道の昇段試験は、筆記と実技がある。実技では、一人につき矢を2本しか射ることができない。


「俺が受けるのは初段なんだけど、先輩たちが言うには1本も当たらなかくても、初段になる人もいるみたいだよ」

「え、当たらなくてもいいのか?」

「射形がきれいだったらいいんだと思う」

 3年生たちは、今、二段の受験で道場に待機している。

 初段受験の筒井は、時間つぶしと称し、特にすることもない立成と道場の周りをプラプラしと見学している。

 5月にもなると、木々の緑は深まっていて、枝たちも風の流れに揺れている。心地いい時期だ。


「初段の試験は、午前は筆記試験があるんだろ?勉強しないのか?」

「初段の筆記は、すごく基本的なものしかないって、柳さんが言ってたから、たぶん大丈夫だろって」

「ずいぶん強気だな。そんなもんなのかね」

「それよりさ、先生の方こそ、射法八節覚えた?この前約束したよね?」

「ん?あ、あぁ、もちろん完璧だ」

「本当かなぁ。今日は試験があるから、今度の部活のときチェックするね」

「まかせろ!」


 優しい風が流れる。

 立成との会話。

 これまでの部活では、筒井は先輩たちとしか話していなかった。

 他の体育会系の部活のような、厳しい上下関係のある部活ではない。

 弓道部の先輩たちはフレンドリーというか、のんびりした人が多い。

 だから、特段気を遣うということもなかった。先輩たちとの会話は、いつでも楽しいと感じていた。

 
 しかし、筒井は、立成との会話に、先輩たちとする会話とはまた違った心地よさを感じる。

 話していると、楽しい気持ちにもなるし、安らぐ気もする。

 筒井は、それは、きっと同学年と話している気分で、先輩たちよりも、もっと気安く話しているから、その解放感によるものだと思っていた。

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