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2年05月
2年05月 1
しおりを挟む新緑がまぶしい。
温かさもと少しの寒さが残る季節。
太陽の日差しが少しずつ強くなってくる。
4月に入学した新入生たちは新しい生活に慣れてくる。
社会科室で、筒井と立成は、それぞれ異なる表情で向かいあっている。
立成は神妙な表情をしている。筒井は苦笑していた。
「いや~、大収穫ですね!新入部員がこんなにたくさん入るなんて!」
「多すぎだ!2年はお前1人なのに、なんであんなに・・・」
「な~んにも、勧誘活動はしてないんですけどね!」
今日は新入生が入部する日だった。
各部ごとに割り当てられた教室があり、新入生は希望すル部活の教室に入っていく。
時間になったら、各部ごとにオリエンテーションを実施し、そのまま部活動へと移行する。
いま、弓道部でもそれが終わり、各自弓道場に向かっている最中だった。
弓道部にも新入部員が入ってきた。その数 11人・・・
3年生は驚いていた。
筒井も驚いていた。
立成は絶句していた。
「ま、まぁ、なんとかやるよ。先生。人数が多い方が賑やかになりそうじゃない?」
「なんとか、っていってもな・・・3年はもうすぐいなくなるんだぞ」
その言葉で、筒井は少しだけ感傷的な気分になる。
弓道部の先輩たちには、お世話になったと思う。
途中から1人になった自分に対して、気を使い過ぎず、ちょうどいい距離感で、でも構わないなんてこともなく・・・
本当に居心地がよかったのだ。
約1年、部活で毎日のように顔を合わせてきたんだ。
人との関係をあまり作らない筒井であっても、情を感じる部分がある。
“そうか、あと少ししか一緒にできないのか”
6月の総体が終われば、3年は引退。
入賞すれば、地方大会やインターハイに出場するため、引退はもう少し先になるかもしれないが。
「とにかく、いずれ筒井1人で、あいつら全員を指導しないといけなくなるんだからな!」
「まあそうですよね」
「わかってんのか?1人で4~5人の面倒見るだけでも大変なんだぞ。おまけに、絶対数が1対11なんだ。これがまずい」
「・・・どういうことですか?」
「単純に、1年の方が多数派になるんだ。あいつらに悪意があってもなくても、少数のお前がないがしろにされる可能性が高いんだ。」
「・・・まさか、そんな」
正直、気にしすぎではないか、と筒井は思った。
だが、いつでも多数派が少数派を支配するのがこの世の中だ。
1つの学年の違いなんて、あまり影響しないような気がする。
1年がどんなやつらなのかは、今は何もわからないが、もしちょっとした溝ができた場合、1対11の関係性は、ひどくいびつなものになる気もした。
「つっても、お前だけに背負わせるつもりもない。俺もちゃんとやるつもりだ。弓道はよくわかんないけどな」
「・・・本当ですか?」
「俺、毎日部活に出るからな。仕事終わんなくても、絶対顔だすから。お前だけの負担にはさせないからな」
「それって俺の助けになってます?」
「お前!1人より2人の方が、悩まなくて済むんだぞ!きっと!!きっとそうだ!!さて、そろそろ行くか、部活」
思わず少しだけとげのあるような言い方をしてしまってた。
しかし、立成はそれに対してあまり気にする様子もなく、相変わらずなにやっとした笑いを浮かべながら、社会科室を出ていこうとする。
「先生」
「ん?」
「ありがとね」
「・・・ああ」
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