先生との1年間

スオン

文字の大きさ
上 下
4 / 71
2年04月

2年04月 2

しおりを挟む
 弓道場の玄関前で雑巾で矢を拭いているときだった。
「なぁ、筒井。部員がお前ひとりになったのってさ」
 筒井は、立成の顔が、少し神妙になっていることに気づいた。
 あぁ、気まずいことがあったのか、気にしているんだな。見た目は少し体育会系な感じではあるが、案外気を使うタイプなのかもしれない。それとも、今どきの教育手法としてはそういうものなのだろうか。 

「先生が気にするようなことはなかったよ。4月に俺入れて4人入ったんだけどさ。4月に1人が合わなくてやめて、1人は学業に専念するからってやめた。もう1人は親の都合で転校してっただけ。」
「そうか。でも、せっかくの高校の部活で同学年がいないってのは、寂しいだろう?」
「・・・まぁ、そうかもね。でも、先輩たちもいるし。」

 あまり考えていなかったことだ。1人で部活は寂しいのだろうか?あまりピンとこない。正直、1人だから気楽でやっている部分もある。

「でも、3年生は6月で引退だろう?まぁ、インターハイに出るかもしれないけど、それでも夏までだ。そのあとは1年生の指導もあるし、自分の練習だってあるんだぞ。」そうか、たしかにそうだ。
「うーん。でも、俺は1人でも楽しくやれるし。」
「そうか?あまり強がるなよ。先生なんて、弓道はやったことはないけどさ。筒井の力になりたいって思うぞ。まぁ、今はなんにもできないけどさ。」

 びっくりした。顧問1日目でそこまで生徒に関わってくるのか。
 俺は改めて先生を見る。見た目の印象は体育会系を思わせるが、そこまで強引な雰囲気を感じていなかった。だから、生徒との関係もがつがつ踏み込んでこないかと思いきや、ずばっと思ったことを言ってくる。
 
「そう?じゃあ、先生を頼りにさせてもらうかな。」
「おう。せっかくだからな。」
「じゃあ、先生、最初のお願い。先生って彼女いるの?」
「はぁ?何だいきなり?」
「協力してくれるっていうから」
「関係ないと思うのだが」
「いいじゃん。俺、同学年いないんだからさ、その代わりだと思って!俺、先生と仲良くなりたいしさ。こういうのって、お互いのことを知ることから始まるじゃん。」

 それは嘘ではなかった。自分でも驚くほど自然に言葉がでてくる。
 筒井はこれまで、自分の性的嗜好のこともあるが、そうでなくても、教師とは一定の距離を置いていた。教師は教師。授業をする職業。自分との関係は、特にない存在。ただ毎日顔を合わせるだけの存在。
 そうだというのに、立成との会話では、調子にのったようなタメ口が、自然と湧き出てくる。

「そういわれると、こっちからは何も言えんなぁ。」立成は苦笑いする。
「で、どうなの?あ、もしかしてもう結婚してる?でも指輪はしてないよね」
「華の独身だ。相手も募集中の身だ」
「そうなんだ。こんなに恰好いいのに」

 いかにも冗談ぽい言い方で、でも言葉は本心で筒井は言ってしまう。
 実際、立成は背が高い。体格もいい。顔は、まぁ、所謂イケメンとは違うけれど、不細工ってわけではない。一重だけど目は小さくないし、鼻や口もも変な形をしているわけではない。と思った。
 
「・・・馬鹿にしてるだろ」
「あはは。してないしてない!先生はかっこいいから!」
「くそっ。そういうお前はどうなんだよ。まぁ、男子校だから難しいか。」
「勝手に決めないでよ」
「へぇ、いるのか」
「ふふ。秘密」
「あぁ?なんじゃそりゃ。まぁ、うまくやれよ」
 立成はにやっと笑った。筒井も思わず笑う。
 立成が見せた笑顔は、初めて会ったときの笑顔と同じだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

処理中です...