上 下
22 / 22

目ざとい女

しおりを挟む
 私の趣味は人間観察。人たちがどんな会話をしてどんな表情をしているかを見るのがすごく好き。日々の仕事のストレスと疲れを癒すため近くのコーヒーショップに来ていた。店内には落ち着いたBGMとコーヒーのいい香りが満ちていて驚くほど落ち着ける。いつもこのお店の窓際のカウンターに座り窓から外を眺めている。周りにばれないように本を片手に持つことも忘れず。ケンカしているカップルもいれば、手を繋いで仲睦なかむつまじく歩いている老夫婦もいる。窓から広がる街の風景は明るく賑やかなのになぜかリアルだとは思えなかった。店内こちらとは隔絶されたてしまった世界のように感じてしまう。まるで様々な登場人物で溢れかえった映画をスクリーン越しに見ている観客にでもなった感覚だ。
 ふと、一人の男の子が目に入った。恐らくは高校生くらいなのだろう。かなり身長が高くまわりから頭一つ分抜きん出ている。これだけでも目立つ要因なのだが、さらに彼が目を引くのがその容姿なのだろう。離れた場所からでも分かるほどに整っている。彼はしきりに携帯を触っている。誰かと待ち合わせなのだろうか?周りの女性は頬を染めて彼を見ているのに気づいているのかいないのか真剣な顔で画面を眺めている。すると彼に声をかける一人の女性が現れた。待ち合わせの人物なのだろうか?彼の隣に並んでも霞むことのなく華やかな女性はにこやかな笑みを浮かべて話しかけている。何を話しているのか分からないが二人の様子をつぶさに観察していれば初対面のそれだとわかる。おそらくは女性側からのナンパしているのだろう。彼が困った顔を見せながら手を振っている。その彼の対応に女性はどこか悔しそうな表情でその場から去っていく。ナンパが失敗に終わった女性を眺めて胸すっとした気持ちになる。100%自身の僻みになってしまうがそれでもあのような容姿に自信のある女性が惨めな姿を見るのは気分が晴れる。あぁ、こんなにも自分は性格が歪んでいるのだと少し落ち込みながらも本を閉じてコーヒーを持ち上げる。

 温くなってしまったコーヒーを口に含み飲み込む。ふぅっと息を漏らすと喉の奥から鼻へと伝わるようにコーヒーの香りが漂った。その余韻を楽しむように再び窓越しの風景を眺める。何気なく先ほどの彼を見つめる。先ほどと同じように携帯を眺めしきりに弄っているのが見えた。ふと、彼の背後からもう一人の男の子がやってくる。彼とは違いごく平均的な高校生だと思える男の子は彼の姿を見つけるとニヤニヤとしながらそっと近づいていく。何をするのだろうと固唾を呑んで彼らを見守る。いつものように本を片手に誤魔化す仕草すら忘れて見入ってしまう。ゆっくりと近づいた男の子が彼の背後から両手を上げて視界を隠そうと手を伸ばしているのだろう。身長差があるせいで踵を精一杯上げて背伸びをしている。しかしながらすんでの所で気づいた彼が後ろを振り返った。その急な動きに驚いてしまったのかそのまま体を彼に抱きつくように勢いよく倒れかかってしまう。彼に抱きつくような形になった子がそのまま笑って何かを喋っている。
 何を話しているかは当然のごとくここまで届かない。それでも親しい間柄であることはわかる。さらに言えば、彼の反応はそれ以上かもしれない。顔をリンゴのように赤らめさせて片手で顔を隠すようにごまかしている笑みがこぼれている。抱き着いてしまった子はそれに気づいているのかいないのか。続きが気になって仕方ない。もはや本などを持つ手はテーブルに置かれていてマジマジと彼らを見る私ははたから見れば不審者なのだろう。幸いにも彼らは気づくことなくそのままその場所から去っていった。


 先ほどの光景を目に焼き付けるように目の前にあるコーヒーの香りを覚えるように啜った。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

理香は俺のカノジョじゃねえ

中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

逃げるが勝ち

うりぼう
BL
美形強面×眼鏡地味 ひょんなことがきっかけで知り合った二人。 全力で追いかける強面春日と全力で逃げる地味眼鏡秋吉の攻防。

処理中です...