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「歌手とマネージャーの設定で両片想いから告白する」
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「はい、オッケーデース。Aoiさんありがとうございました。」
「お疲れ様です。こちらこそ、ありがとうございました。」
コントロールルームにいるスタッフから声がかかり、ヘッドホンを外す。今日は待ちに待った新曲のレコーディングの日だった。今回も自慢できる曲に仕上がったと頭の中でガッツポーズをつくる。
「いやぁ、今日もステキな歌声だったよ。さすがだね~。」
「そんなことないです。でも、こうやって全力で歌えているのはスタッフ皆様のおかげです。」
手もみしながら、大柄の男性が近づいてくる。彼はTVのディレクターである。今回の新曲が使われるドラマを担当しているらしく、曲がどんな感じかを知りたいと見学に来ていた。正直にいって、気を使うしほかのスタッフの邪魔にしかならなかったが、ドラマディレクターということもありあまり無碍にできない。
「いやぁ、そんなこと言ってくれるなんて嬉しいね。今夜、どうかなAoiちゃん?」
「すいません。実は別のお仕事がありまして・・・・・・。」
「い、いやいいんだよ。また今度暇なときにでも誘うから。」
「ありがとうございます。それでは急ぎますので。皆様お疲れ様でした。」
嫌らしい笑みを浮かべて、肩を抱き寄せようとする彼をさらりと交わす。申し訳なさそうにしながら平気で嘘をついて誘いを断る。残念そうな顔を浮かべているが無視を決めてスタジオを後にした。
「あ゛ぁああ、疲れた~。」
「Aoiさん、お疲れさまです。」
車に乗り込むと先ほどの疲れがどっと溢れてきた。車のシートに寄りかかりながら背伸びをする。マナーは悪いかもしれないが、靴も脱いシートの上で胡坐をかいている。そして運転席にはマネージャーの羽金 政宗が涼しい顔で運転している。厳つい顔の癖に柔らかな声でいたわりの言葉をかけてくれる。
――政宗、カッコイイ・・・・・・
横目で彼の顔をのぞき見る。トキメキながらも先ほどのデレクターの件を思い出してしまう。急にイライラした気持ちが湧いてきてしまい、彼に愚痴をこぼしてしまった。
「あのデレクターマジでキモイ。ベタベタ触ってくるし、なんかハァハァ息荒いし。第一、おめえの事なんか少しも感謝してねぇよ。後ろでふんぞり返ってるだけの癖にスタッフさんの邪魔なんじゃ!!!」
「言葉が汚いですよ。」
「はーい。気をつけまーす。」
車の中に俺専用の抱き枕がありそれを握りつぶしながら声をあげて怒鳴りまくる。そんな俺の様子を気にすることなく、彼は前を向いて運転を続けている。散々、文句を言ったおかげで少しだけ落ち着いた。車の窓から真っ暗な外を眺めているとおなかがぐぅ~となってしまった。レコーディングをしている間はご飯を食べないので終わった後はいつもこうなのだ。
「おなかすいた~。なんか食べたい。」
「コンビニにでもよりますか?」
「ヤダー、政宗の作ったご飯食べたい~。」
政宗のご飯を食べたいというのもあるが、本音をもっと彼と一緒にすごしたい。コンビニへ案内しようとする彼の言葉を遮るようにわがままを言う。
「やだと言われましても、また私の家ですか?」
「いいでしょ?ね、ね!今日レコーディングがんばったでしょ??おねがい!!」
彼の腕を掴んで上目遣いでねだる。ちらりとこちらを見てきた彼と目があう。ここぞとばかりに瞳を潤ませてお願いする。
「しょうがないですね。今日は何もないのであまり豪華な物はおだしできませんよ?」
「だいじょうぶ~。さぁ、帰ろう!!早く早く。」
そんな風に言っているが、恐らく家に行けば美味しい料理を作ってくれるだろう。そのことを思うと顔が自然とニマニマしてしまう。それを隠すように抱き枕に顔を押し付けた。
政宗の家についてご飯をいただく。思ったとおり彼の手料理はどれも美味しくてつい食べ過ぎてしまった。
「おにゃかいっぱいだ~。ご馳走様です!!」
「はい、お粗末様でした。さて送りますのでご準備してください。」
彼の部屋のソファに横たわって満足げにお腹をさする。彼が後片付けを終えて俺が横になっているソファまで近づいてきた。帰りの支度をしようと俺の荷物を整理している。
「・・・・・・やだ。」
「やだって。」
「今日はもう泊まる~。」
「何も準備もしてないですよね?というか最近私の家に泊まりすぎですよ。」
彼の言葉にぷいっと背を向ける。ソファの背もたれに向かい合うように横向きでねて彼の言葉を無視する。確かに彼のいうとおりこうやって彼の家に来てはそのまま泊まっていくというのが続いていたのはたしかだ。それもこれも彼が俺を意識していないのが悪い。
――おれはこんなに好きなのに。・・・・・・
「泊まる準備はしてあるもん!!いいでしょ~?ね?」
「・・・・・・明日一度Aoiさんの家に帰りますから少し早く起きてくださいね。」
「ワーイ、やったー!!政宗ありがと!!」
バッと体を追いつくと側に立っていた彼にすがりつく。甘えるように猫なで声をだす。こうなってしまえば彼がうんと言うまでわがままっぷりを発揮するしかない。28も超えた男がする態度ではないと頭では分かっているがしかたがないのだ。俺の懇願に骨が折れたのか、うなだれた様に頷くと了承の返事を返してくれた。
「風邪ひいちゃいますから、ちゃんと髪を乾かして下さい。」
「ねむい~。」
「はぁ、私が乾かしますから座ってください。」
「エヘヘ~。」
お風呂に入り、あらかじめ準備をしていたパジャマに着替える。美味しい物を食べ、暖かい湯船に浸かっていた俺の眠気は限界を超えていた。髪を乾かそうとしたが、眠気に勝てずソファまで戻ってきてしまった。彼の呆れた声が聞こえているが頭がうまく働かない。ウトウトしていると、耳元でドライアーの音が聞こえ髪に暖かい風があたる。彼の少し太めでがっしりした指が流れるように髪の毛に触れる。その感覚が気持ちいい。
「まさむね~。」
「はい、なんですか?」
「大好き~。」
「ふふ、ありがとうございますね。」
「むぅ、真剣に言ってるのに。政宗は?」
ウトウトとしながら政宗に告白をする。しかしながら、俺の告白を信じておらず軽く流してくる。頬を膨らませてふて腐れる。目を瞑りながら自分が好きかどうか彼に問いただす。彼の顔は見えていないが呆れているに違いないなぁと思う。
「私もAoiさんが好きですよ。」
「ブー。」
「なにかご不満ですか?」
「Aoiじゃない、葵。」
自分の名前は葵と書いてまもると読む。すこし珍しい読み方だ。普段はAoiでいいけど今このときだけは彼に自分の本当の名前で呼んで欲しい。
「ふふふ、葵さんが好きですよ。」
「エヘヘ。俺も好き~。」
もう限界だ。彼の声を聞いて満足してしまった俺はそのままソファに横たわるように眠ってしまった。なくなる意識の中で、彼が俺の頭をなでながら何か呟いていたみたいだった。けれども、何と呟いていたのか、すでに夢の中へ旅立っていた俺には聞こえなかった。
「葵さん・・・・・・愛していますよ。」
「お疲れ様です。こちらこそ、ありがとうございました。」
コントロールルームにいるスタッフから声がかかり、ヘッドホンを外す。今日は待ちに待った新曲のレコーディングの日だった。今回も自慢できる曲に仕上がったと頭の中でガッツポーズをつくる。
「いやぁ、今日もステキな歌声だったよ。さすがだね~。」
「そんなことないです。でも、こうやって全力で歌えているのはスタッフ皆様のおかげです。」
手もみしながら、大柄の男性が近づいてくる。彼はTVのディレクターである。今回の新曲が使われるドラマを担当しているらしく、曲がどんな感じかを知りたいと見学に来ていた。正直にいって、気を使うしほかのスタッフの邪魔にしかならなかったが、ドラマディレクターということもありあまり無碍にできない。
「いやぁ、そんなこと言ってくれるなんて嬉しいね。今夜、どうかなAoiちゃん?」
「すいません。実は別のお仕事がありまして・・・・・・。」
「い、いやいいんだよ。また今度暇なときにでも誘うから。」
「ありがとうございます。それでは急ぎますので。皆様お疲れ様でした。」
嫌らしい笑みを浮かべて、肩を抱き寄せようとする彼をさらりと交わす。申し訳なさそうにしながら平気で嘘をついて誘いを断る。残念そうな顔を浮かべているが無視を決めてスタジオを後にした。
「あ゛ぁああ、疲れた~。」
「Aoiさん、お疲れさまです。」
車に乗り込むと先ほどの疲れがどっと溢れてきた。車のシートに寄りかかりながら背伸びをする。マナーは悪いかもしれないが、靴も脱いシートの上で胡坐をかいている。そして運転席にはマネージャーの羽金 政宗が涼しい顔で運転している。厳つい顔の癖に柔らかな声でいたわりの言葉をかけてくれる。
――政宗、カッコイイ・・・・・・
横目で彼の顔をのぞき見る。トキメキながらも先ほどのデレクターの件を思い出してしまう。急にイライラした気持ちが湧いてきてしまい、彼に愚痴をこぼしてしまった。
「あのデレクターマジでキモイ。ベタベタ触ってくるし、なんかハァハァ息荒いし。第一、おめえの事なんか少しも感謝してねぇよ。後ろでふんぞり返ってるだけの癖にスタッフさんの邪魔なんじゃ!!!」
「言葉が汚いですよ。」
「はーい。気をつけまーす。」
車の中に俺専用の抱き枕がありそれを握りつぶしながら声をあげて怒鳴りまくる。そんな俺の様子を気にすることなく、彼は前を向いて運転を続けている。散々、文句を言ったおかげで少しだけ落ち着いた。車の窓から真っ暗な外を眺めているとおなかがぐぅ~となってしまった。レコーディングをしている間はご飯を食べないので終わった後はいつもこうなのだ。
「おなかすいた~。なんか食べたい。」
「コンビニにでもよりますか?」
「ヤダー、政宗の作ったご飯食べたい~。」
政宗のご飯を食べたいというのもあるが、本音をもっと彼と一緒にすごしたい。コンビニへ案内しようとする彼の言葉を遮るようにわがままを言う。
「やだと言われましても、また私の家ですか?」
「いいでしょ?ね、ね!今日レコーディングがんばったでしょ??おねがい!!」
彼の腕を掴んで上目遣いでねだる。ちらりとこちらを見てきた彼と目があう。ここぞとばかりに瞳を潤ませてお願いする。
「しょうがないですね。今日は何もないのであまり豪華な物はおだしできませんよ?」
「だいじょうぶ~。さぁ、帰ろう!!早く早く。」
そんな風に言っているが、恐らく家に行けば美味しい料理を作ってくれるだろう。そのことを思うと顔が自然とニマニマしてしまう。それを隠すように抱き枕に顔を押し付けた。
政宗の家についてご飯をいただく。思ったとおり彼の手料理はどれも美味しくてつい食べ過ぎてしまった。
「おにゃかいっぱいだ~。ご馳走様です!!」
「はい、お粗末様でした。さて送りますのでご準備してください。」
彼の部屋のソファに横たわって満足げにお腹をさする。彼が後片付けを終えて俺が横になっているソファまで近づいてきた。帰りの支度をしようと俺の荷物を整理している。
「・・・・・・やだ。」
「やだって。」
「今日はもう泊まる~。」
「何も準備もしてないですよね?というか最近私の家に泊まりすぎですよ。」
彼の言葉にぷいっと背を向ける。ソファの背もたれに向かい合うように横向きでねて彼の言葉を無視する。確かに彼のいうとおりこうやって彼の家に来てはそのまま泊まっていくというのが続いていたのはたしかだ。それもこれも彼が俺を意識していないのが悪い。
――おれはこんなに好きなのに。・・・・・・
「泊まる準備はしてあるもん!!いいでしょ~?ね?」
「・・・・・・明日一度Aoiさんの家に帰りますから少し早く起きてくださいね。」
「ワーイ、やったー!!政宗ありがと!!」
バッと体を追いつくと側に立っていた彼にすがりつく。甘えるように猫なで声をだす。こうなってしまえば彼がうんと言うまでわがままっぷりを発揮するしかない。28も超えた男がする態度ではないと頭では分かっているがしかたがないのだ。俺の懇願に骨が折れたのか、うなだれた様に頷くと了承の返事を返してくれた。
「風邪ひいちゃいますから、ちゃんと髪を乾かして下さい。」
「ねむい~。」
「はぁ、私が乾かしますから座ってください。」
「エヘヘ~。」
お風呂に入り、あらかじめ準備をしていたパジャマに着替える。美味しい物を食べ、暖かい湯船に浸かっていた俺の眠気は限界を超えていた。髪を乾かそうとしたが、眠気に勝てずソファまで戻ってきてしまった。彼の呆れた声が聞こえているが頭がうまく働かない。ウトウトしていると、耳元でドライアーの音が聞こえ髪に暖かい風があたる。彼の少し太めでがっしりした指が流れるように髪の毛に触れる。その感覚が気持ちいい。
「まさむね~。」
「はい、なんですか?」
「大好き~。」
「ふふ、ありがとうございますね。」
「むぅ、真剣に言ってるのに。政宗は?」
ウトウトとしながら政宗に告白をする。しかしながら、俺の告白を信じておらず軽く流してくる。頬を膨らませてふて腐れる。目を瞑りながら自分が好きかどうか彼に問いただす。彼の顔は見えていないが呆れているに違いないなぁと思う。
「私もAoiさんが好きですよ。」
「ブー。」
「なにかご不満ですか?」
「Aoiじゃない、葵。」
自分の名前は葵と書いてまもると読む。すこし珍しい読み方だ。普段はAoiでいいけど今このときだけは彼に自分の本当の名前で呼んで欲しい。
「ふふふ、葵さんが好きですよ。」
「エヘヘ。俺も好き~。」
もう限界だ。彼の声を聞いて満足してしまった俺はそのままソファに横たわるように眠ってしまった。なくなる意識の中で、彼が俺の頭をなでながら何か呟いていたみたいだった。けれども、何と呟いていたのか、すでに夢の中へ旅立っていた俺には聞こえなかった。
「葵さん・・・・・・愛していますよ。」
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