上 下
4 / 22

「どちらかが調香師の設定で浮気と勘違いして喧嘩する」

しおりを挟む
 今日は久しぶりに仕事が定時で終わった。ルンルンと体を弾ませながら彼の待つ家にむかう。勝手知ったる彼の家とはいえ、申し訳程度の礼儀をもって玄関のチャイムをならす。数十秒しないうちにドアを開けて迎え入れてくれた。今、帰ってきていたのだろうか。脱ぎかけで肌蹴たワイシャツがまぶしい。いつ見ても格好良くて惚れ惚れしてしまう。
 久しぶりの逢瀬で高鳴る鼓動を押さえつつ彼に抱きつく。キスをねだるように頭を上に上げて、甘える仕草で彼を見つめる。近づいてきた唇に目を閉じようとした時、彼からふわりと香水の匂いがした。
 
 ホワイトムスクに強調された気品あふれるベンゾインにキャラメルがほどよく絡む。それはまさに唯一無二の印象をはなつ。彼の持っているものではなく明らかに女性の香水の香りだ。キスをする寸前で驚いてバッと体をはなしてしまう。

「どうした?」
「・・・・・・臭いがする。」
「え?」
「なんで女性物の香水の香りがするの?直人はこんな匂いじゃない。」
「あ?あー・・・・・・今日仕事であった人が香水くさい人だったから、匂いがうつったんじゃないか?」
確かに人と触れ合ってなくても香りが移ることは多々ある。しかしながら、バニラのように甘く濃密な香りが、彼からこれほどしているせいでまともに頭が働かなくなる。実は浮気をしてしまっているのではないのか?疑心暗鬼にかられる。

「疑ってるのか?」
「・・・・・・。」
「はぁ、せっかく久しぶりにあったってのに・・・・・・。」
ぷいっと彼の顔から背けてしまう。『おい』とか『誤解だって』といっているがわざとそっけない態度で彼を無視する。すると大きくため息をして力のない目を俺に向けてきた。その落胆とした表情はどこか諦めているようだ。彼は何を言うでもなくリビングにある、ソファへ脱力したように座る。

 離れてしまい彼の体温を感じられなくて、先ほどとは違う不安にかられてしまう。やりすぎてしまった・・・・・・。

彼の座っているソファに近づき、隣にそっと座る。彼は俺の様子に反応することなく前を向いている。彼の方に首を持たれかけ、ぐりぐりと頭を押しつける。女の匂いを消すかのようにひたすらに無言で体を押し続ける。彼からため息が出たと思うとぐいっと引っ張られた。次の瞬間、ソファへ反転するように抱きしめられる。

「落ち着いたか?」
「うん・・・・・・。」
「お前は香りに詳しいんだからわかるだろ?」
「ごめん。直人から知らない香りがして・・・・・・頭ではわかってたけど。」
彼の体温を感じて、ようやく心を落ち着かせることができた。

「フッ・・・・・・お前は本当に俺が好きなんだな。」
「ナッ!?・・・・・・そ、そんぅんッ!」
「なぁ、お前の香りで・・・・・・俺を満たしてくれるか??」
「ンッ・・・・・・しかたな、ない・・・・・・んっ。」
小鳥のように啄ばむキスを与えてくれる。彼の瞳が劣情をかき立てられたように濡れていた。そんな彼に見つめられると先ほどまでのどうしようもない気持ちがなくなってしまう。深くなっていくキスにうっとりと身をゆだねるように彼の首に腕を回した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

【 よくあるバイト 】完

霜月 雄之助
BL
若い時には 色んな稼ぎ方があった。 様々な男たちの物語。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

私立明進学園

おまめ
BL
私立明進学園(メイシン)。 そこは初等部から大学部まで存在し 中等部と高等部は全寮制なひとつの学園都市。 そんな世間とは少し隔絶された学園の中の 姿を見守る短編小説。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学園での彼らの恋愛を短編で描きます! 王道学園設定に近いけど 生徒たち、特に生徒会は王道生徒会とは離れてる人もいます 平和が好きなので転校生も良い子で書きたいと思ってます 1組目¦副会長×可愛いふわふわ男子 2組目¦構想中…

ひとりぼっちの180日

あこ
BL
付き合いだしたのは高校の時。 何かと不便な場所にあった、全寮制男子高校時代だ。 篠原茜は、その学園の想像を遥かに超えた風習に驚いたものの、順調な滑り出しで学園生活を始めた。 二年目からは学園生活を楽しみ始め、その矢先、田村ツトムから猛アピールを受け始める。 いつの間にか絆されて、二年次夏休みを前に二人は付き合い始めた。 ▷ よくある?王道全寮制男子校を卒業したキャラクターばっかり。 ▷ 綺麗系な受けは学園時代保健室の天使なんて言われてた。 ▷ 攻めはスポーツマン。 ▶︎ タグがネタバレ状態かもしれません。 ▶︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。

エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので

こじらせた処女
BL
 大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。  とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…

囚われた親友に

朝陽ヨル
BL
 35歳独身、柏木陵。一流会社勤めに勤めるイケメンサラリーマンである。彼の学生生活は唯一無二の親友との青春で満ちていた。その彼との楽しかった短い学生生活の一部始終を……。

処理中です...