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#30 【おしらせ♡】
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僕はたまに、アルヴァマー帝国にいた頃の夢を見る。
「王様」である、まだ左目の紅いルイスと一緒に暮らした日々がふと浮かんでは消える。
王室には大切な人が沢山居る。
ゼリムさん、ゲルガーさん、ゼルダさん、そしてノアさんー。
エレベーターで下に降りるとマーガレットが居て、窓から見える栄えた城下町の中心には市場を切り盛りするバラードが見える。
温かくて幸せで、それでいて慣れていなくてもどかしい城での生活。
ふと目が覚めると、ここが王室だと一瞬寝ぼけ、勘違いをすることが度々ある。
でも、僕の視界に入る現実はその頃にも負けないくらい幸せだ。
ほのかに香る木の香り。
大きなベッドにはルイスも一緒に寝ていて、僕とルイスに挟まれるようにして寝ているのがエリカちゃん。
僕は上体を起こしエリカちゃんの頭をそっと撫でた。
彼女は、気の利く良い子だ。
家で一緒にいる時は必ず家事の手伝いをしてくれる。またにドジをするけど笑って許せる程度のものだ。……めっちゃいい子じゃん。
「ん…… …… おはよう、ウィル。」
「おはようございます、ルイス。」
相変わらず怖いくらい良い目覚めをするルイスをじとっと見つめる。
ルイスは欠伸をしながら呑気に、なにか私の顔についているか?などと言っている。
彼は本当に丸くなったと思う。
少し前までは当たり前のように感じられていた刺すような凍てつく視線を振りまくことも(ほとんど)無くなったし……。
「…… ……いえ、ただ貴方の目覚めが良すぎるなあ、なんて考えてました。ほんとに寝てるんですか?」
ルイスはまだ寝ぼけかかった目を手の甲で擦りながら、鼻で笑い微笑む。
「寝ているに決まっているだろう。しかしなんだかな、王室にいた時のクセがまだ抜けなくてな。」
「え……。」
まだいつもより起きるには早い時間なのにルイスはベッドから降りて着替えを始めた。
「今では考えられないが、毎晩奇襲に怯えて眠る日々もあったものだ。あれは今から7、8年ほど前の話になるがそんな事もあったのだよ。」
何故か懐かしむようにしみじみと話してみせた。
そんな過去があったから、あんなに早く目覚めることが出来たのか、と素直に納得できたしそれと同時にルイスの睡眠の質が心配になった。
僕も着替え終わり、二人でリビングへ向かう。
ルイスが先を歩くようにして階段を降りる。
「でも今はどこからも奇襲なんてされませんよ。ゆっくり寝て欲しいです。」
階段を降りきり、僕は軽くルイスの背中にトン、と当たってみせた。
「そうしたいのも山々なんだが、この様子じゃあこの癖は死ぬまで抜けそうにないな。……それに」
ははは、と冗談めかしく笑ったあとに、視線だけをこちらに向けてルイスは続けた。
「お前達の緊急事態には直ぐに対峙したい。その時に備えているのだよ。」
「……!!」
胸がきゅん、となった気がした。
今年で僕が19歳で、ルイスが25歳。
メガネもかけたということもあってなのか、ルイスの雰囲気はだいぶ変わった。
なんというか、(僕の少ない語彙力で言葉にするのは難しいけど)今までルイスに無かった品のある落ち着きがでて……王室にいた頃は『落ち着き』っていうか『貫禄』だったからなあ…… ……大人の色気……?みたいなのがました気がする。
それからルイスは昔に比べると、よく笑うようになった、と言ってももともとあまり笑わなかったせいか、エリカちゃんにいってもよく分からないと言った顔をしていたけど。
それになんだよ緊急事態って……!!可愛い!!!!
悶える声を押し殺して、もう、とルイスを小突いて僕はキッチンに立った。
彼はポストに新聞を取りに家を出た。
スープを作る為に鍋を出す。
水を汲んでから、昨日から寝かせておいたパンの生地をオーブンに入れて火をつける。
新聞を片手にルイスがドアを開け椅子に腰掛けた。
「時にウィル。」
「なんです?」
野菜を沸騰しかける鍋に流し込む。
部屋の中に、鍋がクツクツと煮える音とパンを焼く火がパチパチと燃える音と、それから僕達の話し声だけが聞こえる。
「エリカに、私たちの過去のことを言うのか?」
「…… …… …… た、確かに……!」
今まで考えたこともなかった!
きっとエリカちゃんはびっくりするぞ。
まさか、拾われた先の家の人達が元王族と正妻に昇格(自分でいうとやっぱり恥ずかしい)した側妻だったなんて……!!!!!
「でも、今言ってもきっと信じてくれませんよ。まだ幼いし。」
スープとパンの香ばしい香りが部屋に満たされていったの確認し、掛けてあった小さいフライパンを火にかけその上に3つ卵を割った。
ジュワッとした音と蒸気が放たれる。
「何も今すぐに、とは言っていない。そう焦るな。」
今出したまだ湯気の立つコーヒーに口付けながらルイスは楽しそうにそう言った。
「どんな反応するんですかね?」
「さあ……?エリカのことだ。きっと目眩を起こして倒れるのでは?」
それは言い過ぎでしょう!と言おうとしたけど……。
「…… …… ……い、いや……。僕の親に急にそんなこと言われたら倒れるじゃすみませんよ。」
そんなことを話していると、階段を降りるトントン、という音が聞こえてきた。
それから、ガチャっと廊下とリビングを繋ぐドアが開かれる。
「ルイス、ウィル、おはよう。」
袖と裾にレースを施された薄みずいろをベースにしたネグリジェに身を包んだエリカちゃんが降りてきた。
「エリカちゃん、おはよう!」
「おはよう、エリカ。」
3人の生活はまだまだこれから続く。
お互い知りえないことが沢山ある。
そんな中で僕らはさぐり合い生きていかなければならない。
新聞を粗方読み終えたルイスは歯を磨きジャケットを着た。
「ん、もう行くんですか?」
まだいつものルイスの出勤時間より20分ほど早い。
「ああ。今日ははやく家に帰ってきてゆっくりしたい。」
そう言いながらエリカちゃんの頭を撫でるルイスに会社用の皮のバッグを渡す。
「今日なにかありましたっけ?」
「いや、なにも?」
メガネ越しにキョトンとした目で僕を見つめる。
「今日はただ、家族とゆっくりした夜を過ごしたかっただけだ。」
付け足すようにルイスは、明日は有給だしな、と言った。
「そっか、じゃあ今日は早めに夕食の準備をしますね。」
「ああ。そうしてくれると助かる……じゃあ行ってくる。」
「いってらっしゃい、ルイス。」
「いってらっしゃーい!」
木の扉が、バタンと閉まった。
しばらくしてからエリカちゃんはごちそうさま!といってお皿を下げだした。
ちょっとゆっくりしようと、ルイスが読んでいた恋愛物語に手を伸ばす。
それは、幼なじみの男女が大人になり結婚するといった(まあまあ在り来りな)物語だった。
途中でライバルの女が現れたり、女を横取りする男が現れたり、結婚自体を親に反対されたり……と天真爛漫なストーリーの後晴れて彼らは結婚した。
ルイスが真面目にこんな内容の本を読んでいるなんて想像しただけでも……。
「……ふふっ」
「なに笑ってるの?」
エリカちゃんが僕の顔を覗き込むように大きな瞳をぱちぱちさせてそう言った。
「ううん、ちょっと思い出し笑いしちゃって。……ん?あれ?」
「ウィル、どうしたの?」
僕は目の前にちょこんと立つエリカちゃんの全身を何度も見直した。
「……? …… ……??」
エリカちゃんはちょっと不安そうにこちらを見ている。
「エリカちゃん、背ちょっと大きくなったんじゃない?」
「え?そう?」
両手をぱっと前に出して不思議そうに言った。
「うん、絶対伸びたよ!ワンピースの裾、ちょっとつんつるてんじゃん。」
自分の目で確かめるように、エリカちゃん鏡の前に立つとふにゃっとした笑顔で「ほんとだあ」とクスクス笑いだした。
「……そうだ!お買い物行こうよ。服、買いに行かない?」
「え?!新しい服?!」
「うん、要らない?」
僕が冗談っぽくびっくりしたように言うと、エリカちゃんはぴょんぴょんはねながら目を輝かせて、行く!!!と言った。
「よーし!じゃあ行くかあ!出発!」
出かける準備をして、靴を履いたら二人でドアを開けた。
差し込む太陽の恵み。
それを浴びたエリカちゃんの髪や肌はきめ細かく輝いた。
こんな未来、誰が想像していただろうか。
手の届かない存在であったはずのルイスと、平凡な生活を送っている。
それに、男同士で子供は出来ないはずなのに、僕らの間にはエリカちゃんがいる。
握っていた手にぎゅっと力が籠る。
ポタッー
「ウィル……?悲しいの?」
「…… ……え?」
「泣いてるから……。」
「悲しくは、無いよ。」
「??」
「ただ、幸せだなあ、って!」
「笑ってるのに泣いてる!ウィル、変なの~!」
ルイスが死んだと思って、悲しくて哀しくて流した涙が、今ではこんなに幸せで仕方なくて流しているなんて。
あんなに痩せて軽くて、ひとりで歩けなかったエリカちゃんが、今は元気に走り成長している。
「幸せだなぁ……。」
燦々と輝く太陽に向かってそう呟いた。
・・・
ルイスは予告通りいつもより早く帰ってきた。
今晩の夕食はロールキャベツと野菜の付け合せだ。
エリカちゃんもルイスと同様ロールキャベツが大好物らしい。
沢山作って振舞った。
「それにしてもエリカにはやっぱり薄く淡い色が似合うな。」
「そうですよね!僕もそう思いました。」
エリカちゃんと選んで買ったのは、淡い黄色のワンピース。
昼間の太陽のようだ。
朗らかで優しくて、のんびりとしているけど眩しい、そんな色だった。
夕食を食べ終え、お風呂などを済ませたらいつもエリカちゃんは僕らよりも先に寝る。
僕とルイスの2人きりの時間になる。
「んっ… … …はっ … …ぁん…」
キスをする時は、いつもルイスに少し屈んで貰う。僕はルイスの首の後ろに手を回す。
「… … …どうした?ウィル。…なにかあったか?」
僕らの口の間に銀色の糸が張って、すぐ切れる。
ルイスが両手で僕のことを抱き寄せてくれる。
「ルイス… …ありがとうございます。僕と、一緒に生きてくれて。」
平凡でいて、幸せ。
僕の願いを叶えてくれたのは、大好きなエリカちゃんと、
愛しいルイスだった。
✩.*˚【側妻になった男の僕。】【何故か正妻になった男の僕。】共に本編はこれにて終了です!(⌒▽⌒)読んでくれた方、お気に入り登録してくれた方、ありがとうございます!!!✩.*˚
✩.*˚両作品をベースにした平和オブ平和なショートストーリーと を投稿する予定なので、良ければそちらもご覧下さい!✩.*˚
「王様」である、まだ左目の紅いルイスと一緒に暮らした日々がふと浮かんでは消える。
王室には大切な人が沢山居る。
ゼリムさん、ゲルガーさん、ゼルダさん、そしてノアさんー。
エレベーターで下に降りるとマーガレットが居て、窓から見える栄えた城下町の中心には市場を切り盛りするバラードが見える。
温かくて幸せで、それでいて慣れていなくてもどかしい城での生活。
ふと目が覚めると、ここが王室だと一瞬寝ぼけ、勘違いをすることが度々ある。
でも、僕の視界に入る現実はその頃にも負けないくらい幸せだ。
ほのかに香る木の香り。
大きなベッドにはルイスも一緒に寝ていて、僕とルイスに挟まれるようにして寝ているのがエリカちゃん。
僕は上体を起こしエリカちゃんの頭をそっと撫でた。
彼女は、気の利く良い子だ。
家で一緒にいる時は必ず家事の手伝いをしてくれる。またにドジをするけど笑って許せる程度のものだ。……めっちゃいい子じゃん。
「ん…… …… おはよう、ウィル。」
「おはようございます、ルイス。」
相変わらず怖いくらい良い目覚めをするルイスをじとっと見つめる。
ルイスは欠伸をしながら呑気に、なにか私の顔についているか?などと言っている。
彼は本当に丸くなったと思う。
少し前までは当たり前のように感じられていた刺すような凍てつく視線を振りまくことも(ほとんど)無くなったし……。
「…… ……いえ、ただ貴方の目覚めが良すぎるなあ、なんて考えてました。ほんとに寝てるんですか?」
ルイスはまだ寝ぼけかかった目を手の甲で擦りながら、鼻で笑い微笑む。
「寝ているに決まっているだろう。しかしなんだかな、王室にいた時のクセがまだ抜けなくてな。」
「え……。」
まだいつもより起きるには早い時間なのにルイスはベッドから降りて着替えを始めた。
「今では考えられないが、毎晩奇襲に怯えて眠る日々もあったものだ。あれは今から7、8年ほど前の話になるがそんな事もあったのだよ。」
何故か懐かしむようにしみじみと話してみせた。
そんな過去があったから、あんなに早く目覚めることが出来たのか、と素直に納得できたしそれと同時にルイスの睡眠の質が心配になった。
僕も着替え終わり、二人でリビングへ向かう。
ルイスが先を歩くようにして階段を降りる。
「でも今はどこからも奇襲なんてされませんよ。ゆっくり寝て欲しいです。」
階段を降りきり、僕は軽くルイスの背中にトン、と当たってみせた。
「そうしたいのも山々なんだが、この様子じゃあこの癖は死ぬまで抜けそうにないな。……それに」
ははは、と冗談めかしく笑ったあとに、視線だけをこちらに向けてルイスは続けた。
「お前達の緊急事態には直ぐに対峙したい。その時に備えているのだよ。」
「……!!」
胸がきゅん、となった気がした。
今年で僕が19歳で、ルイスが25歳。
メガネもかけたということもあってなのか、ルイスの雰囲気はだいぶ変わった。
なんというか、(僕の少ない語彙力で言葉にするのは難しいけど)今までルイスに無かった品のある落ち着きがでて……王室にいた頃は『落ち着き』っていうか『貫禄』だったからなあ…… ……大人の色気……?みたいなのがました気がする。
それからルイスは昔に比べると、よく笑うようになった、と言ってももともとあまり笑わなかったせいか、エリカちゃんにいってもよく分からないと言った顔をしていたけど。
それになんだよ緊急事態って……!!可愛い!!!!
悶える声を押し殺して、もう、とルイスを小突いて僕はキッチンに立った。
彼はポストに新聞を取りに家を出た。
スープを作る為に鍋を出す。
水を汲んでから、昨日から寝かせておいたパンの生地をオーブンに入れて火をつける。
新聞を片手にルイスがドアを開け椅子に腰掛けた。
「時にウィル。」
「なんです?」
野菜を沸騰しかける鍋に流し込む。
部屋の中に、鍋がクツクツと煮える音とパンを焼く火がパチパチと燃える音と、それから僕達の話し声だけが聞こえる。
「エリカに、私たちの過去のことを言うのか?」
「…… …… …… た、確かに……!」
今まで考えたこともなかった!
きっとエリカちゃんはびっくりするぞ。
まさか、拾われた先の家の人達が元王族と正妻に昇格(自分でいうとやっぱり恥ずかしい)した側妻だったなんて……!!!!!
「でも、今言ってもきっと信じてくれませんよ。まだ幼いし。」
スープとパンの香ばしい香りが部屋に満たされていったの確認し、掛けてあった小さいフライパンを火にかけその上に3つ卵を割った。
ジュワッとした音と蒸気が放たれる。
「何も今すぐに、とは言っていない。そう焦るな。」
今出したまだ湯気の立つコーヒーに口付けながらルイスは楽しそうにそう言った。
「どんな反応するんですかね?」
「さあ……?エリカのことだ。きっと目眩を起こして倒れるのでは?」
それは言い過ぎでしょう!と言おうとしたけど……。
「…… …… ……い、いや……。僕の親に急にそんなこと言われたら倒れるじゃすみませんよ。」
そんなことを話していると、階段を降りるトントン、という音が聞こえてきた。
それから、ガチャっと廊下とリビングを繋ぐドアが開かれる。
「ルイス、ウィル、おはよう。」
袖と裾にレースを施された薄みずいろをベースにしたネグリジェに身を包んだエリカちゃんが降りてきた。
「エリカちゃん、おはよう!」
「おはよう、エリカ。」
3人の生活はまだまだこれから続く。
お互い知りえないことが沢山ある。
そんな中で僕らはさぐり合い生きていかなければならない。
新聞を粗方読み終えたルイスは歯を磨きジャケットを着た。
「ん、もう行くんですか?」
まだいつものルイスの出勤時間より20分ほど早い。
「ああ。今日ははやく家に帰ってきてゆっくりしたい。」
そう言いながらエリカちゃんの頭を撫でるルイスに会社用の皮のバッグを渡す。
「今日なにかありましたっけ?」
「いや、なにも?」
メガネ越しにキョトンとした目で僕を見つめる。
「今日はただ、家族とゆっくりした夜を過ごしたかっただけだ。」
付け足すようにルイスは、明日は有給だしな、と言った。
「そっか、じゃあ今日は早めに夕食の準備をしますね。」
「ああ。そうしてくれると助かる……じゃあ行ってくる。」
「いってらっしゃい、ルイス。」
「いってらっしゃーい!」
木の扉が、バタンと閉まった。
しばらくしてからエリカちゃんはごちそうさま!といってお皿を下げだした。
ちょっとゆっくりしようと、ルイスが読んでいた恋愛物語に手を伸ばす。
それは、幼なじみの男女が大人になり結婚するといった(まあまあ在り来りな)物語だった。
途中でライバルの女が現れたり、女を横取りする男が現れたり、結婚自体を親に反対されたり……と天真爛漫なストーリーの後晴れて彼らは結婚した。
ルイスが真面目にこんな内容の本を読んでいるなんて想像しただけでも……。
「……ふふっ」
「なに笑ってるの?」
エリカちゃんが僕の顔を覗き込むように大きな瞳をぱちぱちさせてそう言った。
「ううん、ちょっと思い出し笑いしちゃって。……ん?あれ?」
「ウィル、どうしたの?」
僕は目の前にちょこんと立つエリカちゃんの全身を何度も見直した。
「……? …… ……??」
エリカちゃんはちょっと不安そうにこちらを見ている。
「エリカちゃん、背ちょっと大きくなったんじゃない?」
「え?そう?」
両手をぱっと前に出して不思議そうに言った。
「うん、絶対伸びたよ!ワンピースの裾、ちょっとつんつるてんじゃん。」
自分の目で確かめるように、エリカちゃん鏡の前に立つとふにゃっとした笑顔で「ほんとだあ」とクスクス笑いだした。
「……そうだ!お買い物行こうよ。服、買いに行かない?」
「え?!新しい服?!」
「うん、要らない?」
僕が冗談っぽくびっくりしたように言うと、エリカちゃんはぴょんぴょんはねながら目を輝かせて、行く!!!と言った。
「よーし!じゃあ行くかあ!出発!」
出かける準備をして、靴を履いたら二人でドアを開けた。
差し込む太陽の恵み。
それを浴びたエリカちゃんの髪や肌はきめ細かく輝いた。
こんな未来、誰が想像していただろうか。
手の届かない存在であったはずのルイスと、平凡な生活を送っている。
それに、男同士で子供は出来ないはずなのに、僕らの間にはエリカちゃんがいる。
握っていた手にぎゅっと力が籠る。
ポタッー
「ウィル……?悲しいの?」
「…… ……え?」
「泣いてるから……。」
「悲しくは、無いよ。」
「??」
「ただ、幸せだなあ、って!」
「笑ってるのに泣いてる!ウィル、変なの~!」
ルイスが死んだと思って、悲しくて哀しくて流した涙が、今ではこんなに幸せで仕方なくて流しているなんて。
あんなに痩せて軽くて、ひとりで歩けなかったエリカちゃんが、今は元気に走り成長している。
「幸せだなぁ……。」
燦々と輝く太陽に向かってそう呟いた。
・・・
ルイスは予告通りいつもより早く帰ってきた。
今晩の夕食はロールキャベツと野菜の付け合せだ。
エリカちゃんもルイスと同様ロールキャベツが大好物らしい。
沢山作って振舞った。
「それにしてもエリカにはやっぱり薄く淡い色が似合うな。」
「そうですよね!僕もそう思いました。」
エリカちゃんと選んで買ったのは、淡い黄色のワンピース。
昼間の太陽のようだ。
朗らかで優しくて、のんびりとしているけど眩しい、そんな色だった。
夕食を食べ終え、お風呂などを済ませたらいつもエリカちゃんは僕らよりも先に寝る。
僕とルイスの2人きりの時間になる。
「んっ… … …はっ … …ぁん…」
キスをする時は、いつもルイスに少し屈んで貰う。僕はルイスの首の後ろに手を回す。
「… … …どうした?ウィル。…なにかあったか?」
僕らの口の間に銀色の糸が張って、すぐ切れる。
ルイスが両手で僕のことを抱き寄せてくれる。
「ルイス… …ありがとうございます。僕と、一緒に生きてくれて。」
平凡でいて、幸せ。
僕の願いを叶えてくれたのは、大好きなエリカちゃんと、
愛しいルイスだった。
✩.*˚【側妻になった男の僕。】【何故か正妻になった男の僕。】共に本編はこれにて終了です!(⌒▽⌒)読んでくれた方、お気に入り登録してくれた方、ありがとうございます!!!✩.*˚
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