5 / 16
title 3
#19
しおりを挟む
アルヴァマー帝国海岸沖ー
「ルスティカーナ軍を確認!」
潮風が張り詰めた空気の中を漂う。
ゼルダが直接、特別な双眼鏡でそれを確認した。
「アルヴァマー海軍、戦闘用意!!!」
最前線の軍艦が大砲を地平線の彼方へ向ける。
その先にはルスティカーナの軍艦が列になってこちらへ向かってきている最中だ。
「海軍は容赦なく蹴散らす……!ルイス国王の夢を、俺達は叶えるんだ……!!」
一発目の大砲が、飛んだ。
アルヴァマー帝国海岸沖上空ー
「こちら8071号機。南西の方向にてルスティカーナ空軍を発見。」
エンジンの音が鳴り響く各戦闘機の中に、ノイズ混じりの無線がそう伝えた。
「レムだ。全機聞こえているか?我々空軍の今回の任務はルイス国王の命令、ルスティカーナ空軍と『生かさず殺さず』の状態を合図が出るまで維持することだ。奴に戦況を悟られぬよう状態を維持しろ。」
ゲルガーがそう言い終えると、各機の操縦者達が次々と「了解」と相槌を打った。
アルヴァマー帝国本土港ー
「ルイス国王の命令だ!!俺達陸軍は国民を守り抜け!一部を除いては敵の侵入を許すなよー!」
ぜリムの掛け声に、他の陸軍人は空に銃を掲げ逞しい雄叫びを上げた。
「……なーんて言っても、あいつが乗った軍艦以外は全部ジジイがどうにかしてくれると思うけどなー。」
・・・
港から、マントのフードを真深く被った何者かが、複数人でアルヴァマーに上陸し城下町を歩く。
前方から銃を掲げ歩いてきた2人組の陸軍人は、彼らのそばを横切った。
「うふっ……うふふふふふふふ!!!」
堪えきれない、と言った様子で先頭に立つ者が肩を震わせながら口元を抑えた。
「……ここがアルヴァマーの城……!」
その右手に位置する者が小声でそう囁く。
「もう少しであの首が飛ぶわ。そしてこの広大な大地は私のモノ……!!」
冷たい風が勢い良く彼女達のフードを取り払った。
アルヴァマー人のような、ブルーベースの白い肌や、落ち着いた髪色とは全く別物の容姿は、明らかに異国人そのものだ。
褐色の肌に艷めく銀髪。マントの下には、派手なビキニとパニエが覗く。
「さあ、行くわよ。」
誰もいない中央棟の正門から彼女達は入っていった。
「ふーん、しかし、中には誰もいないのね。」
エレナが道端にマントを脱ぎ捨てたのを皮切りに、後ろに続く部下達もマントを脱いだ。
「職員も避難したのでしょうか?」
1人の部下が不思議そうにそう言う。
「……そうだと見受けられるわね。きっとアルヴァマーの国民達は私たちと同じく彼の死を今か今かと祈り願っているわ。さあ、最上階まで急ぐわよ!」
部下を含めて10人ほどのルスティカーナ人はエレベーターに乗って一気に最上階を目指す。
少ししてからゴウン、とエレベーターが止まった。
コツコツとピンヒールが床にぶつかる硬い音が廊下にこだまして響く。
「さあ、予告通り、ルイス国王はいるのかしら?!」
エレナはプレゼントを開けるのを我慢できない幼い子供の様に勢い良く王室の扉を開けた。
白と黒で整えられた品のある書斎。
奥にはルイスの使っていた大きな机と高級な椅子。
またその奥には、プール付きのベランダの窓が開け放たれていた。
「…… …… ……いた。」
ルイスは既にこちらへ気づいているようだった。
「……ふん。奇襲を仕掛けた上、身をわきまえずにズカズカと私の城に入ってきやがって。エレナ・ルスティカーナ、何が目的だ。」
「いやだ、もう。そんなに遠くでお話しないで下さらない?私、もっと貴方と近くでお喋りがしたくてよ!!」
狂ったような足取りで、早足でエレナはルイスに吸い付くように近づいていく。
金属も金属が勢い良く擦れ合う音がした。心做しか、火花も散ったように見える。
エレナは、ルイスに刃先を向けた。
真っ赤なゲロスがたっぷりと塗られた唇がニッと釣り上がる。
「私は、あなたを殺しこの国を私のものにするために来ましてよ。」
・・・
体が震える。
隣の王室の扉が勢い良く開いて、それから物騒なセリフが聞こえてきた。
この独特な女性らしい声の持ち主は、間違いない。エレナ・ルスティカーナ女帝だ。
でも、おかしな点がひとつある。
何故ルイスがベランダにいるんだ……?
ルイスは僕をこの隠し部屋に入れてからすぐにここの部屋の扉から出て行ったはずなのに。
緊張でフー、フー、と息が荒くなるのを必死で抑えながら。
僕は彼らの会話を一言も漏らさず聞き取るために、全身の神経を耳に集中させる。
「……こんなところで、こんな私に追い詰められるだなんて、夢にも思っていなかったでしょう。」
「ああ。全くの予想外だ。」
「……チッ……命に関わる緊急事態に見舞われても、そのつまらない仏頂面のままなのね。」
「……何が目的だ?この国か?私の首か?」
「勿論、両方。けど、最重要なのは後者ね。」
「そうか。」
「ああ、早くその仮面を引き剥がしてやりたいわ。……そうだ、どうしてこんな大変な事態に見舞われているか、知っていて?」
「いいや。」
「貴方の専属執事、ノア・ヘルツシュからの密告が引き金となったのよ?……ふふっどう?信頼していた部下に裏切られて失望した?」
「……少し驚いたな。あいつにそんな度胸があったとは。」
「はあ……ほんっとに貴方って面白みが全く無いわね。もういいわ。」
「失礼ですが、エレナ女帝。」
「何よ?」
「彼が、影武者だという可能性は?奴は用心深く執念深い。私はルイス・アードラースヘルムという男が本当にこんなところで死ぬ男なのか、疑問が残ります。」
「うーん……。メル、貴女の考えも一理あるわ。私もなんだか全てが上手く行きすぎている気がしているの。」
「……。」
「でも、よく考えてみてえ!!アードラースヘルム家の血を継ぐ者は代々……オッドアイ、でしょう?」
「ルスティカーナ軍を確認!」
潮風が張り詰めた空気の中を漂う。
ゼルダが直接、特別な双眼鏡でそれを確認した。
「アルヴァマー海軍、戦闘用意!!!」
最前線の軍艦が大砲を地平線の彼方へ向ける。
その先にはルスティカーナの軍艦が列になってこちらへ向かってきている最中だ。
「海軍は容赦なく蹴散らす……!ルイス国王の夢を、俺達は叶えるんだ……!!」
一発目の大砲が、飛んだ。
アルヴァマー帝国海岸沖上空ー
「こちら8071号機。南西の方向にてルスティカーナ空軍を発見。」
エンジンの音が鳴り響く各戦闘機の中に、ノイズ混じりの無線がそう伝えた。
「レムだ。全機聞こえているか?我々空軍の今回の任務はルイス国王の命令、ルスティカーナ空軍と『生かさず殺さず』の状態を合図が出るまで維持することだ。奴に戦況を悟られぬよう状態を維持しろ。」
ゲルガーがそう言い終えると、各機の操縦者達が次々と「了解」と相槌を打った。
アルヴァマー帝国本土港ー
「ルイス国王の命令だ!!俺達陸軍は国民を守り抜け!一部を除いては敵の侵入を許すなよー!」
ぜリムの掛け声に、他の陸軍人は空に銃を掲げ逞しい雄叫びを上げた。
「……なーんて言っても、あいつが乗った軍艦以外は全部ジジイがどうにかしてくれると思うけどなー。」
・・・
港から、マントのフードを真深く被った何者かが、複数人でアルヴァマーに上陸し城下町を歩く。
前方から銃を掲げ歩いてきた2人組の陸軍人は、彼らのそばを横切った。
「うふっ……うふふふふふふふ!!!」
堪えきれない、と言った様子で先頭に立つ者が肩を震わせながら口元を抑えた。
「……ここがアルヴァマーの城……!」
その右手に位置する者が小声でそう囁く。
「もう少しであの首が飛ぶわ。そしてこの広大な大地は私のモノ……!!」
冷たい風が勢い良く彼女達のフードを取り払った。
アルヴァマー人のような、ブルーベースの白い肌や、落ち着いた髪色とは全く別物の容姿は、明らかに異国人そのものだ。
褐色の肌に艷めく銀髪。マントの下には、派手なビキニとパニエが覗く。
「さあ、行くわよ。」
誰もいない中央棟の正門から彼女達は入っていった。
「ふーん、しかし、中には誰もいないのね。」
エレナが道端にマントを脱ぎ捨てたのを皮切りに、後ろに続く部下達もマントを脱いだ。
「職員も避難したのでしょうか?」
1人の部下が不思議そうにそう言う。
「……そうだと見受けられるわね。きっとアルヴァマーの国民達は私たちと同じく彼の死を今か今かと祈り願っているわ。さあ、最上階まで急ぐわよ!」
部下を含めて10人ほどのルスティカーナ人はエレベーターに乗って一気に最上階を目指す。
少ししてからゴウン、とエレベーターが止まった。
コツコツとピンヒールが床にぶつかる硬い音が廊下にこだまして響く。
「さあ、予告通り、ルイス国王はいるのかしら?!」
エレナはプレゼントを開けるのを我慢できない幼い子供の様に勢い良く王室の扉を開けた。
白と黒で整えられた品のある書斎。
奥にはルイスの使っていた大きな机と高級な椅子。
またその奥には、プール付きのベランダの窓が開け放たれていた。
「…… …… ……いた。」
ルイスは既にこちらへ気づいているようだった。
「……ふん。奇襲を仕掛けた上、身をわきまえずにズカズカと私の城に入ってきやがって。エレナ・ルスティカーナ、何が目的だ。」
「いやだ、もう。そんなに遠くでお話しないで下さらない?私、もっと貴方と近くでお喋りがしたくてよ!!」
狂ったような足取りで、早足でエレナはルイスに吸い付くように近づいていく。
金属も金属が勢い良く擦れ合う音がした。心做しか、火花も散ったように見える。
エレナは、ルイスに刃先を向けた。
真っ赤なゲロスがたっぷりと塗られた唇がニッと釣り上がる。
「私は、あなたを殺しこの国を私のものにするために来ましてよ。」
・・・
体が震える。
隣の王室の扉が勢い良く開いて、それから物騒なセリフが聞こえてきた。
この独特な女性らしい声の持ち主は、間違いない。エレナ・ルスティカーナ女帝だ。
でも、おかしな点がひとつある。
何故ルイスがベランダにいるんだ……?
ルイスは僕をこの隠し部屋に入れてからすぐにここの部屋の扉から出て行ったはずなのに。
緊張でフー、フー、と息が荒くなるのを必死で抑えながら。
僕は彼らの会話を一言も漏らさず聞き取るために、全身の神経を耳に集中させる。
「……こんなところで、こんな私に追い詰められるだなんて、夢にも思っていなかったでしょう。」
「ああ。全くの予想外だ。」
「……チッ……命に関わる緊急事態に見舞われても、そのつまらない仏頂面のままなのね。」
「……何が目的だ?この国か?私の首か?」
「勿論、両方。けど、最重要なのは後者ね。」
「そうか。」
「ああ、早くその仮面を引き剥がしてやりたいわ。……そうだ、どうしてこんな大変な事態に見舞われているか、知っていて?」
「いいや。」
「貴方の専属執事、ノア・ヘルツシュからの密告が引き金となったのよ?……ふふっどう?信頼していた部下に裏切られて失望した?」
「……少し驚いたな。あいつにそんな度胸があったとは。」
「はあ……ほんっとに貴方って面白みが全く無いわね。もういいわ。」
「失礼ですが、エレナ女帝。」
「何よ?」
「彼が、影武者だという可能性は?奴は用心深く執念深い。私はルイス・アードラースヘルムという男が本当にこんなところで死ぬ男なのか、疑問が残ります。」
「うーん……。メル、貴女の考えも一理あるわ。私もなんだか全てが上手く行きすぎている気がしているの。」
「……。」
「でも、よく考えてみてえ!!アードラースヘルム家の血を継ぐ者は代々……オッドアイ、でしょう?」
13
お気に入りに追加
252
あなたにおすすめの小説
【側妻になった男の僕。】【何故か正妻になった男の僕。】アナザーストーリー
selen
BL
【側妻になった男の僕。】【何故か正妻になった男の僕。】のアナザーストーリーです。
幸せなルイスとウィル、エリカちゃん。(⌒▽⌒)その他大勢の生活なんかが覗けますよ(⌒▽⌒)(⌒▽⌒)
小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
倫理的恋愛未満
雨水林檎
BL
少し変わった留年生と病弱摂食障害(拒食)の男子高校生の創作一次日常ブロマンス(BL寄り)小説。
体調不良描写を含みます、ご注意ください。
基本各話完結なので単体でお楽しみいただけます。全年齢向け。
告白ゲーム
茉莉花 香乃
BL
自転車にまたがり校門を抜け帰路に着く。最初の交差点で止まった時、教室の自分の机にぶら下がる空の弁当箱のイメージが頭に浮かぶ。「やばい。明日、弁当作ってもらえない」自転車を反転して、もう一度教室をめざす。教室の中には五人の男子がいた。入り辛い。扉の前で中を窺っていると、何やら悪巧みをしているのを聞いてしまった
他サイトにも公開しています
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。
柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。
そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。
すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。
「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」
そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。
魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。
甘々ハピエン。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる